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政略結婚から始まる公爵夫人  作者: 水瀬
第2章 外交と王族

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27.メデェイン王国

 それは公爵家でお茶会を開いた数日後、いつも通りシルヴェスター様と夕食を摂っている時に伝えられた。


「メデェイン王国の使節団がウェステリア王国(こちら)へお越しに?」

「ああ」


 シルヴェスター様から話を聞いてメデェイン王国の国について思い出す。

 隣国・メデェイン王国はウェステリア王国の北東部に位置する国だ。

 北と西を海で囲まれ、国土自体はウェステリア王国より小さいけど文学と高い宝石加工技術を有する国で、()の国でできた装飾品を持つのが王族と高位貴族のステータスとなっている。


 そのメデェイン王国とウェステリア王国は以前から同盟を結んでいて、グロチェスター王国と戦争になった際は西と北東からの二方向からの侵攻を阻止するために早々に軍事同盟を結んで戦争回避を行った国でもある。


「友好関係を近隣諸国に示す外交パーティーで、アリシアにとって初めての外交パーティーだな」

「そうですね」


 シルヴェスター様の発言に頷いて返事をしながら考える。……そろそろあり得ると思っていたのでさほど驚きはない。

 父が宰相補佐官で国王派の中でも一定の存在があったといっても当の私は十代のただの一令嬢なので今まで外交パーティーに参加したことはない。

 なので今回が初めての外交パーティーとなるが、来るのは現在勉強しているメデェイン王国だ。勉強してきた内容が役立つかもしれないと思うと少し安心する。


「友好関係を示すとなると王族がお越しになるのでしょうか」

「まだ公式発表されていないが、王族はメデェイン国王の名代として王太子殿下と王太子妃殿下が来る予定となっている。あとは外務大臣に外交官にその配偶者が来る予定だ」


 予想はしていたけどやはり王族も来るようだ。

 外交で来る人間の多くは王族や大臣、そして語学に通じた外交官だ。父は宰相補佐官なので参加するし、宰相であるフォーネス侯爵はもちろん、陛下と王妃様も参加するだろう。

 問題は継戦派の貴族がどれくらい参加するかだけど、恐らくシルヴェスター様は把握しているだろう。


「夜会には継戦派もいると思いますが、誰が参加するのでしょうか?」

「まずオルデア公爵は必ず参加するだろう。公爵は内政を司る内務大臣だからな。公爵以外だと継戦派に属している財務大臣も参加するだろうが……今回ばかりは継戦派も茶々入れはしてこないだろうな」

「……そうですね」


 シルヴェスター様の言い分に頷く。

 今回の外交は言わば軍事同盟継続がテーマだ。未だグロチェスター王国と終戦を結んでいないため引き続きメデェイン王国と軍事同盟を結ぶ予定だ。

 継戦派もグロチェスター王国との戦争を望んでいるけど別方向にあるメデェイン王国を敵に回すのは得策ではないと把握しているから継戦派も仕掛けてはこないはずだ。

 何より、継戦派に属するオルデア公爵はメデェイン王国に近い場所に領地を持っている。自身の領地が戦火に灯される可能性があるのでオルデア公爵も今回は妨害しないはずだ。


「とは言っても警戒に越したことはない。気を抜かない方がいいだろう」

「それはそうですね」


 妨害はしないだろうけど、継戦派も参加するから警戒した方がいいのは分かる。

 オルデア公爵は前国王陛下の時代から内務大臣を担っていて影響力が大きい。

 政治手腕はあるものの、やや強引な部分もありそのせいで父の上司であるフォーネス侯爵と仲が良くないのは有名な話だ。


 そのオルデア公爵が参加する。ならより一層気を張る必要があるだろう。

 陛下主催の夜会で見た限り、オルデア公爵はランドベル公爵家を政治上厄介に思っている。警戒に越したことはないはずだ。

 オルデア公爵以外の出席予定の継戦派貴族の名前も把握して接触しないように心がけないと必要がある。


「いつお越しになるのですか?」

「使者がこっちに来るのは二週間後で滞在期間は十日ほどだ。王太子妃殿下はアリシアより一つ上の十九歳だから妃殿下と協力して持て成しをしてほしいんだが、やってくれるか?」

「王妃殿下とですね。承知しました」


 シルヴェスター様の頼みに承知する言葉と共に小さく頷く。

 それにしても、王妃様とメデェイン王国の王太子妃殿下の持て成し。……いきなり重要な任務が来たけどやるしかない。


 王妃様は祖国で多少外交パーティーをしているだろうけど、私は今回の外交が初めてとなる。そんな若輩者に全てを委ねないといけないほどこの国は人材不足ではない。

 陛下の両親である先代国王夫妻は既に亡くなっているけど、王太子妃殿下の持て成しの人員は国王派の外交に慣れた夫人たちが配置されるはずだ。

 失敗したら継戦派の糾弾する良い話題になるため経験者が十中八九配置されているだろう。

 王妃様の地位を確立すること、そして外交実績を作ることへの継戦派への牽制と多分色々なことが含まれているのは容易に想像できる。


「特に王妃殿下は嫁いで初めての外交パーティーになる。アリシアも初めてだが、外交に慣れた夫人たちも参加するから安心してくれ」

「それなら安心です」


 予想通りの言葉が出てほっとする。外交に慣れた夫人たちもいるのならフォローもしてくれるだろう。


「ではお話の話題づくりのためにメデェイン王国の文化や流行りのものを調べてみます」

「そうだな。妃殿下や夫人たちの相手をするのはアリシアたちになるから情報収集して無駄にならない。近いうちに参加者一覧の名簿ができるはずだからでき次第渡すからそれを参照にしたらいい」

「はい。お気遣い、ありがとうございます」


 思わぬ提案に内心少し驚きながらも返事をする。

 正直、名簿があるのは助かる。世代ごとに話す内容や流行も変わると思うので臨機応変に対応する必要がある。

 名簿が届くまではメデェイン王国の流行を調べて父に手紙を送ろう。

 父は宰相補佐官として外交パーティーに何度も参加している。なので色々と聞いたらいい。


「それと外交パーティーなので当然ダンスもあるがメデェイン王国のダンスは知っているか?」

「有名な曲を二、三曲知っているくらいです。覚えた方がよろしいですね」

「そうだな。パーティーで歓迎の意を込めてあちらの曲を踊ることになると思う。練習した方がいいな」


 少し考えるようにシルヴェスター様が呟く。確かに練習した方がいいだろう。ならそれも追加だ。


「分かりました。ではダンスも練習しておきます」

「メデェイン王国のダンスを踊れるパートナーがいるか?」

「いえ、おりませんが自分で練習できるので練習します」


 シルヴェスター様は外交官の準備などでこれから忙しくなるはず。手を煩わせるのは申し訳ないので自主練習するしかない。


「そうか。なら付き合おう」

「え。ですが、お忙しいのでは……?」


 ダンスの練習に付き合うと言うシルヴェスター様に問いかける。

 少し前だって陛下と外務大臣に色々と呼び出されて疲れているようだった。仕事もあるのに私のせいで煩わせたくないのが本音だ。


「外交準備は今までもしているので然程難しくない。アリシアが練習するのなら俺も手伝うさ」

「……ありがとう、ございます」


 忙しいはずなのに私に時間を割いてくれるシルヴェスター様の優しさに少しだけ、胸が温かくなる。


「それではすみませんが、よろしくお願いいたします」

「迷惑なんて思ってないから謝る必要ない。週末くらいしかゆっくりと時間は取れないがいいか?」

「大丈夫です。ありがとうございます」


 むしろ、忙しい中で私のダンスに付き合ってくれて感謝している方だ。一人で独学するより週末だけでも練習に付き合ってくれた方が断然身に付くはずだ。


「礼なんていい。夫婦だから助け合えばいい。最初に相談してくれた方が俺にとっても助かるから、頼ってくれ」

「……はい」


 淡々としているけど、そこには呆れや怒りが含まれておらず、本心から話していると読み取れる。やっぱり、シルヴェスター様は優しい人だと思う。


「それとドレスだが今回は時間があるからマダム・フェリスとゆっくりと話し合いをしてドレスの形に色を選んだらいい。明後日、マダム・フェリスがデザインや採寸で来るから時間を空けていてくれ」

「分かりました」


 ドレスの仕立ての予定も頭に入れて微笑みながら返事をした。




 ***




 ドレス選び当日。定刻の時間にその人はやって来た。


「ランドベル公爵夫人、お久しぶりでございます」

「こんにちは、マダム・フェリス。来てくれてありがとう」

「いいえ、とんでもございません」


 微笑むのは社交界に大きな影響力を持つデザイナーのマダム・フェリス。四十代になるキビキビとした凛々しくて美しい女性だ。


「ドレスの形は前回同様、肌の露出は控えめでよろしいでしょうか?」

「はい。私自身、派手なドレスは苦手なので」

「夫人は儚げな容姿をしていますから清楚なドレスを着た方がより魅力的でしょう。こちらは夫人用にいくつかデザインさせていただいたのですが如何でしょう?」


 そう言ってマダム・フェリスが幾つかのドレスのデザインを見せてくる。

 さすが一流デザイナー。観察眼があってどれも私が気に入りそうなドレスをデザインしている。

 装飾品は既に決めているのでそれとバランスを考えながらサマンサとエストと一緒にドレスを選別していく。


「それじゃあこれにするわ」

「かしこまりました。それではこの日に完成品をお持ちいたしますのでご覧くださいませ」

「ええ、分かったわ」


 その後、マダム・フェリスを見送ると部屋に戻り、カティアに手紙を書く。

 カティアの実家であるフェルノン商会を通じてある装飾品を入手するためだ。

 フェルノン商会は国内十指に入る大商会だ。早めに手紙を送れば歓迎会までには届くはずだ。


 カティアに手紙を書くとフェルノート伯爵家に送るように指示をし、図書室に行ってメデェイン王国の歴史を一通り復習する。

 初めての外交で緊張はするけど、失敗は許されない。

 なのでメデェイン王国の歴史に外交の基本マナーをもう一度叩き込んで訪問予定の人物が記載された名簿を見て王太子妃殿下や夫人たちの趣味や情報を集める日々を送り、週末を迎えた。

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