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政略結婚から始まる公爵夫人  作者: 水瀬
第1章 始まりを告げる鐘
17/82

17.波乱の夜会1

 嵐のように訪れたリカルド様の来訪から数日。気が付けばシルヴェスター様と結婚して一ヵ月経った。

 シルヴェスター様とは相変わらず共に食事をし、良好な関係を築いている。


 そんなシルヴェスター様との食事だが、最近は少し遅い。

 理由はここ最近、シルヴェスター様の仕事が忙しいからだ。


 今、シルヴェスター様は王妃様の祖国で同盟国でもあるソヴュール王国と新たな貿易条約の話に関わっていて、連日忙しそうにしている。

 シルヴェスター様の上司である外務大臣や他の外交官も関わっているけど、やはり建国時から外交を司るランドベル公爵家の当主で現外交官であるシルヴェスター様は責任の重い仕事を担当しているようだ。


「貿易条約、大変ですか?」

「これといったトラブルは起きていないから平気だ。ただ、まだ細かい話が終わっていなくてもう少し時間がかかるだろうな」

「そうですか」


 一応シルヴェスター様から今回の貿易条約のことは少し聞いている。とは言っても外交官でもない部外者の私は聞くことしかないけれど。

 それでも、かつては憧れていた外交官の仕事を本職の人から聞くのは興味深い。


「アリシアは何をしていたんだ?」

「今日はロバートの歴史の授業の日なのでその勉強を。その後はピアノを。知らない楽譜があったのでそちらを少し弾いていました」

「知らない楽譜か。なら母上のだろう。母は音楽が得意でよく色んな楽器を演奏するのが趣味だったからな」

「まぁ、そうなのですね」


 シルヴェスター様と他愛のない話をしていく。毎日食事時に顔を合わせているうちに少しずつこういう話もするようになり、結婚当初と比べると会話の内容も広がったのではないかと思う。


「そういえば、レルツ伯爵の夜会は三日後だったか?」

「そうですが……、どうかしましたか?」


 レルツ伯爵は国王派の貴族で父の友人だ。私も顔見知りで、ランドベル公爵家とも薄くだが関わりがある。

 そのレルツ伯爵から夜会の招待を受け、日付も早かったため、最初に参加しようと思っている。


「しばらく今の仕事で数日泊まり込みになると思う。一人で夜会に参加になるが大丈夫か?」

「レルツ伯爵は父の友人なので大丈夫だと思います。それに、シルヴェスター様はあまり夜会が好きではないのでは?」


 シルヴェスター様に疑問に思っていたことをここで尋ねてみる。

 夜会の中でシルヴェスター様を何回か遠目で見たことはあるけど、頻繁に夜会に参加していないため、あまり好きではないだのだろうと考える。


「そうだな、必要な夜会や知り合いの夜会なら参加するが特別好きというわけではないな」


 やっぱり。私より夜会にたくさん参加しているシャーリーもあまり見ないと言っていたからもしかして、と思っていたけどやはりそうだった。


「何か心配事が?」

「……この結婚は王命と強調されているが全員が全員、納得しているわけではない。上手く対処できるか?」


 まっすぐと私を見ながら問いかける。なるほど、それで心配していたのか。

 確かに王命といえど、全員が納得していないだろう。内心、どうしてという気持ちを持っている人といるだろう。

 しかし、何度もいうがこの結婚は王命だ。


「今回、参加する貴族は国王派と少数の中立派貴族です。確かに内心どう思っているかは知る由もありませんが、(おおやけ)で批判する人はいないでしょう。なぜなら陛下が下した王命ですから。それを公で批判するのは陛下の考えに不満があると公言するようなものですから」


 これがオルデア公爵のように継戦派の貴族なら何かしら突っかかってくる可能性が否めないけど、陛下を支持する国王派が言うとは思いにくい。

 仮に言ったら王家とランドベル公爵家を批判していると思われる可能性がある。そんな命知らずな行為は普通しない。


「それに、仮に遠回しに嫌味を言われても上手く対処するつもりです。一々反応していたらキリがありませんし、反応したら相手は余計つついてくるでしょうから」


 正直、こっちが本音だ。一々反応するのが面倒だ。シャーリーから事前に納得していない令嬢たちがいるのは知っているので警戒はして穏便に終わらせるように尽力しよう。

 考えを述べたらシルヴェスター様が考える素振りを見せていたが納得したのか頷く。


「まぁ、思っていても得策ではないから言わないだろうが……、気を付けるように」

「はい。ご心配、ありがとうございます」


 気に留めてくれたシルヴェスター様にお礼を言う。批判するのは得策ではないから大丈夫だろう。

 そう考えて返事して、頭の隅に置いたのだった。




 ***




 陛下主催の夜会を除いたら公爵夫人になって初めての夜会だ。

 露出の少ないドレスを着て上品な雰囲気を醸し出す真珠のイヤリングを耳に付ける。


「お美しいです、奥様」

「はい! とってもおきれいです!!」

「ありがとう、エスト、ラウラ」


 口許を柔らかくして微笑むエストと元気に褒めてくれるラウラにお礼を言う。

 今日はエストとラウラにメイクと髪結いをしてもらったけど、手先が器用なラウラが上手に髪を結ってくれた。


「御者に確認して参ります、少しお待ちください」

「ええ、分かったわ」


 ソファーに座ったのを確認するとエストが簡潔に述べて退室する。部屋には私とラウラの二人だけになる。


「本当におきれいです! 旦那様にも見せたかったくらいです!」


 ラウラがはしゃいで褒めてくれて嬉しいけど、シルヴェスター様に見せてもと思う。なんたって私たちは恋愛関係で結婚したわけではないから。

 そう思うも指摘するのも、と思い微笑む。


「ありがとう。ラウラは手先が器用ね」

「えへへへ……。実は下に妹がいるんです。それで昔から髪結いをしていて!」

「そうなのね。家族と離れて寂しくない?」


 結婚している使用人は通いで来ている者もいるけど、ラウラは公爵邸の使用人部屋に住んでいる。寂しくないか尋ねてみる。


「家族は王都に住んでいるので休みの日に顔を出しているので寂しくないですよ。それに、エストさんやサマンサさんも優しくて毎日楽しく過ごせているので平気です!」

「そう、それならよかった」

 

 明るく楽しそうに話すラウラに相槌を打ちして時間を過ごす。公爵邸の使用人の一部はエストを始め、公爵領出身だけど、どうやら上手く馴染めているようだ。

 そしてラウラのお話を聞いているとノックする音が聞こえ、エストが名前を告げて入室する。


「奥様、準備が整いました。どうぞ、こちらへ」

「ええ。ラウラ、行ってくるわ」

「はい! 楽しんでくださいね!」


 元気にまるで自分のことのように楽しそうに告げるラウラに笑ってエストと共にエントランスへ向かい、馬車に乗ってレルツ伯爵邸へ向かう。


「誰かご友人はいるのでしょうか?」

「今日の夜会にはいないわね。でも先日の夜会で知り合った人もいるし少しお話ししようと思うわ」

「そうなのですね。では楽しんでくださいませ」

「ありがとう」


 王都にあるレルツ伯爵の屋敷はそう遠くない。窓の外から景色を眺める。

 今日の夜会にはシャーリーはいないけど父の友人のレルツ伯爵からの招待だ。断るのは少し悪いので参加する。

 それに、先日の陛下主催の夜会で知り合った人もいる。世間話をしながら情報収集したいところだ。

 そして時折エストと話をしていると御者から到着したと知らせを受ける。


「それじゃあ行ってくるわ」

「はい、いってらっしゃいませ。私は馬車で待機しておりますので何かあれば連絡を」

「分かったわ」


 エストに一言告げて馬車から降りて会場へと歩いていく。

 入場すると少しざわついたけど気にせずホールの奥にいる本日の夜会の主催者であるレルツ伯爵夫妻の元へと向かう。


「レルツ伯爵、レルツ伯爵夫人。こんばんは」

「おや、これはこれはランドベル公爵夫人。お久しぶりです」

「こんばんは、ランドベル公爵夫人」


 私に気付いたレルツ伯爵と妻の夫人がにこやかに挨拶を返してくれる。伯爵の思惑に気付いてニコリと微笑んでカーテシーをする。


「お久しぶりです。本日はご招待していただきありがとうございます」

「いえいえ。こちらこそ、数ある招待状のうちで最初に応じていただきありがとうございます」

「レルツ伯爵は父と旧知の仲ですから。それに、伯爵には昔かわいがってもらっていたので」


 微笑んだまま伯爵が望む言葉を告げる。

 レルツ伯爵は父と友人なのは事実だ。だけど伯爵がほしがっていたのは私とも面識があるということだろう。だからわざわざ口にした。

 レルツ伯爵は国王派で領地は穀倉地帯で一定の存在感がある。仲良くして損はない。


「昔のことなのに覚えていてくれたとは。嬉しいことです。どうぞ、本日はゆっくり楽しんでください」

「ありがとうございます」


 伯爵夫妻への挨拶を終えると今度は色んな人が近付いてくる。


「ランドベル公爵夫人、こんばんは」

「ごきげんよう、公爵夫人」

「公爵夫人、ご挨拶を。私は──」

「はい、こんばんは」


 ニコリと微笑んで挨拶を返していく。家名を名乗る相手にはこちらも同じように名乗り返す。


「ランドベル公爵夫人。今宵はお一人で?」


 挨拶した参加者の一人である子爵が尋ねてくる。微笑みを維持して返事する。


「はい。夫は今、王妃殿下の祖国であるソヴュール王国との貿易案で忙しくて」

「ほぅ。確か、羊毛に関するものでは?」

「はい。そう言えば子爵は羊毛を取り扱っていましたね」

「おや、ご存じだったのですか。ええ、それで気になりましてな」

「もうすぐでまとまると思うので正式な発表が出るまで待つのがよろしいかと」

「なるほど」


 羊毛業をしている貴族たちが興味深そうに頷く。とはいえ、私は関わっているわけではないので深くは知らないのでそれで話を終わらせる。

 そして先日の夜会で知り合った夫人たちと世間話を交わすために近付く。


「こんばんは、私もよろしいでしょうか?」

「まぁ、ランドベル公爵夫人!」

「ええ、どうぞどうぞ!」


 夫人たちが驚きながらも招待してくれるので私も加わる。


「まさかランドベル公爵夫人が今日の夜会に参加しているなんて」

「本当ですわ、今日は来てよかったですわ」

「私も皆さんと会えてよかったです」


 小さく笑いあってそのまま色んな話をしていく。今の流行りのドレスの型、観劇、書物など話題が変わっていく。

 中には流通や他の貴族の事業の話も出て時折、私も発言して情報収集する。


「そういえば、ご存じで? トリス伯爵が新しい事業をするとか」

「まぁ、本当に?」

「夫の話によりますと、今度は奥方の実家と一緒に投資に手を出すとか」

「投資で思い出しましたけどマシュー男爵は──」


 夫人たちが話す内容に耳を傾ける。社交界は色んな話が流れてくる。

 その中には嘘も混じっているがそれは経験で見破るしかない。

 しばらく夫人たちと会話の花を咲かせているとダンスの時間となり、夫人たちは夫たちと共にホールに行くのでダンスの邪魔にならないように端に寄る。


「ふぅ……」


 冷やされた果実水を飲んで一息つく。

 社交界の話題や情報も入手できた。今のところは特に遠回しの嫌味も言われておらず結果は上々。あとはこのまま平穏に時間が過ぎ去ればいい。

 そう思いながら踊る人たちを眺めるも、世の中、そう上手くいかない。

 

「ごきげんよう、ランドベル公爵夫人」


 それは演奏を聞きながらゆっくりと果実水を飲んでいる最中だった。

 声をかけられた方を見ると三人の令嬢が並んでいて、鋭い目で私を見る中央の令嬢に微笑んだ。

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