11月4日
私はここ最近、契約が取れない。毎日毎日、外回り営業を行っているが断られてしまうことが多い。会社全体の売り上げとは裏腹に数字が落ち込んでいる。「明日は31日かぁそろそろ成果報告だな。」成果報告は月末に行われ報告会までの売り上げによっては、給料にも影響する。来月も下がると予想される。以前は私もそれなりに数字を伸ばしていた。しかし、ここ最近伸び悩んでいる。報告書を作成する時前回より下がった理由を考えているが、先月もその前の月も下がった理由を書いていたため、「今月も同じような事を書かなくてはいけないのか」と少し憂鬱になっていた。
外回りが終わり、成果報告の取りまとめを会社で行っていると私はがっかりした。前回よりも成績がかなり下がっていた。「あぁ、もう明日部長に言われるじゃん。」っと思いながら、私は報告書を作成していた。定時までに報告書作成が終わらなかったため、残業することになった。「かつては、僕もエースと呼ばれていたのにどうしちゃったんだろう?」と考えながらパソコンで操作していた。3時間程かけて報告書を作成し、部長に成果報告書をメールに添付して送信した。「あぁ、もう9時か今夜はコンビニで夕食を済ませよう」そう独り言をいいながら、途中コンビニの惣菜を買って帰宅した。
家に帰ってシャワーを浴びテレビを見ながらコンビニで買ったトンカツ弁当を食べていた。ニュースで明日はハロウィンって事を知り、もうそんな時期になるのかと時の流れを感じながら食べていた。明日は成果報告会。また部長に嫌味を言われるのかと憂鬱になりながら布団に入った。(かつては自分も会社で1番になったことはないが、毎月表彰されるほど契約取れていた時期があったなー)そう、過去の栄光に浸りながら眠りについた。
翌朝、時計を見るといつもより、20分程遅れて起床した。「はぁ?もうこんな時間?やばっ」と思いながら急いで身支度を整えて出勤しようとした時、インターホンが鳴った。「こんな急いでいるときに誰だよ」と言いドアを開けると、魔女の仮装をした小学校低学年くらいの女の子が「トリックオアトリートお菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ!」といって籠を差し出してきた。急いでおり、すぐに用意できるお菓子もなかったため、「ごめんねお嬢ちゃん今急いでいるからお菓子用意できないの」って返事したら女の子は下を向きさっきよりも低い声で「本当にイタズラするよ?いいの?」と言い、小枝で出来た杖を取り出し私に向かって振りかざした。その瞬間、頭、両手、両足から何かに打たれたような激痛が走り意識を失ってしまった。
「カイト君どうしたの?ぼーっとして」と部長に声を掛けられて意識が戻ったと思ったら職場で成果報告が行われていた。花束を持っており、何もかも状況が理解できずにいた。部長に「あのーこれはいったいどういう状況ですか?」と部長に問いかけると「何言っているんだカイト君今月の売り上げ1位は君じゃないか。最近調子悪そうだったし心配していたけど、見直したよ。」と部長に言われた。現実なのか?はたまた幻想か?それとも夢なのか?どちらにせよ部長から褒められたのはとても久しぶりのことであった。「悔しいけどすごいわ。カイトさん。やっぱりカイトさんのやり方が一番なんだわ。」と前回1位であった鈴木さんが言った。正直、苦手なタイプの鈴木さんを抜かせるなんて夢にも思っていなかった。
その後、昼食を取ろうと食堂に向かおうとするとかつての上司が「カイト君おめでとう。営業で1位になったんだって?」と声をかけられた。「は、はい。ありがとうございます。」と言い、かつての上司は「今日は祝いだ。好きなものを買いなさい。」と言って来たので私は遠慮なくラーメンセットを頼んだ。社内食堂のラーメンセットは特徴的で醬油ラーメンとローストビーフ丼が出てくる。特徴的な組み合わせだが、濃いめの醬油ラーメンとさっぱりしたローストビーフ丼が意外に合う。こんなに褒められたのはいつぶりだろうか?昔を思い出しながら昼休みを過ごした。今思うとあの時はとても幸せだった。
午後は外回り、4回ほど訪問している自宅に向かう。今回こそは契約が取れるようにと意気込んでいた。訪問先の自宅に入ると相手方はいつもとは違い機嫌が良さそうであった。前回の時のように契約内容の説明をしていると突然「あなたは丁寧な説明をしてくれますね。いつもありがと。」と相手方から褒められた。(こんな風に相手方から褒められるのは初めてだな。)私は就職以来初めていわれた言葉に嬉しくなっていた。
その後、私は会社に戻ると「カイト君今日空いてる?良かったら飲みにいかない?」と部長から誘いを受けた。飲み会の誘いはこれまでもあったが、ここ最近乗り気ではなかった。それもそのはず、仕事ができないので退勤後は出来る限り会社の同僚とは関わりたくなかったからだった。しかし、営業成績1位となって機嫌が良かったので飲み会に参加することにした。
飲み会では次々に私を褒める会話が飛び交った。酔いが回ったころ。同期が「あの時から新しい彼女はできたか?」と聞かれ私は「いや、まだできていない。」と返事した。すると「1年前、あんなことがあったからな仕方ないよ思い返せばお前、あの時から元気なくなって成績落ちたもんな。でも、ようやく立ち直って良かったよ。週末にでも彼女さんに挨拶にいきな。」正直彼女の事は思い出したくもなかった。でも、彼女の支えがあったから、仕事が上手く行ってた一面もあった。「うん、そうだね。挨拶しにいくよ。」と伝えた。
2次会に行く社員もいたが、私はだいぶ酔ったので1次会で帰宅することにした。アパートの駐車場に着いた時、思わぬ光景に私は目を疑った。母が泣き崩れていていて父が母を慰めていた。「父さん、母さんどうしたの?」と声をかけても反応しない。母さんは何か言おうとしていた。でも何も聞こえない。玄関から警察官が現れ、父と母に何かを伝えている。警察官の話し声も聞き取れない。なぜだ?警察の説明後、父も泣き崩れてしまった。「なんだよ、ふざけんなよ!」と意味不明な出来事に怒りを感じて私は叫んでいた。しばらくすると朝訪ねてきた魔女の仮装した女の子が現れて「私はあなたに献花させない。私はあなたを絶対に許さない。」と言いはなった。イライラしていた私は「お前、もう俺をからかうのやめろよ。お菓子ならあとでやるから。」と女の子に向かって怒鳴ると「私の姿を見ても何も思わないわけ?もう見損なったよ」と言われた。その瞬間、私は彼女だと感じて「もしかして、美代?美代なのか?」と言うと「もう、遅いよ」と女の子は言いながら、杖を振りかざした。その途端に私は頭に激痛が走り再び気を失ってしまった。
目が覚めると朝になっていた。頭に濡れた感覚があり、違和感を感じていた。今朝はとても寒い。日付を確認すると11月1日であった。11月に入ったばかりなのに今日は特別寒いのかと感じながらも年に2,3回しか着ないダウンジャケットを箪笥から引き出し出勤した。周りの人は秋らしい格好をしており、かなり視線を感じた。職場に入った途端、皆から「そんなに厚着してどうした?風邪でも引いたのか?」と心配された。しばらくすると部長が「お前大丈夫か?白いぞ?無理せんといて今日は帰ってゆっくりやすめ。」と言われたので「私はお言葉に甘えて失礼します。」と言って私は早退した。こんな厚着をしているのに凍える。帰宅後、軽くシャワーを浴びて布団に入り休んだ。どんなに重ね布団しても寒い。どうしたら暖かくして寝られるだろう?そう思いながら私は眠りについた。
しばらくすると私はどこかに運ばれているようだった。何が起きているのか確認しようと体を動かしても狭い空間にいるせいか体が思うように動かない。私はなにが起きているのか気持ちの整理がつかないままだった。この封鎖的な空間から早く抜け出したいと思っていた。どのくらい時間が経ったのだろう?気づくと私は実家にいた。一体何が起きているのか知りたかったので起き上がろうとしたが、体が重くて動かない。最初は金縛りかと考えていたが、時間が経っても動けなかった。体が重く話すことも目を開けることもできない。ただ、私は微かに聞こえる父と母そして親戚たちの声が聞こえてほのかに白檀の香りがする空間にいた。その瞬間に初めて「私は死んだのか?」と思うようになった。でも、死因に心当たりがない。これは悪夢でありしばらくすると目が覚めてまたいつかいつも通りの生活が出来ると信じていた。
しばらくすると部長や同期そしてかつての上司の3人の声が聞こえた。それぞれ三人はそれぞれ線香をあげて部長は「カイト君お前が...なんで、こんなことに」と、同期は「カイトお前ともっと遊びたかったし、一緒に仕事したかったよ。」と、かつての上司は「ごめんな。カイト君もっと早く俺が気づいていれば....」とそれぞれ声を掛けて私がいる部屋を去って言った。その後隣の部屋で両親と話しながら家を出て行った。その後、学生時代の友人達や親戚たちがそれぞれ線香をあげて私に一言声をかけていた。信じたくないが私は死んでしまったのだと思う。夜になったのか周りは静かになっていた。白檀の香りのみが残る空間はとても寂しい。そう思っていると魔女の仮装をした女の子が再び現れてこう言ってきた。「明日は仮装パーティーの前日だから、いっぱい楽しませてあげる。」私はその時、恐怖を感じた。(いや、もう死んでいるからもう恐怖とは言わないのか?)
そのあと、体が急速に軽くなり自由に動けるようになった。目も開けられるようになってきた。会話も出来るようになった。魔女の仮装をした女の子が「ついてきて」と言われたので彼女の後を追い実家の玄関を出ると黒い高級車が止まっていた。運転手が「お待たせいたしましたカイト様こちらに乗ってください」と案内された。魔女の仮装した女の子は助手席に座り、私は後部座席に座った。後部座席の隣には見知らぬ女性が座っていた。私は隣の女性に声を掛けて「あなたは誰ですか?」と尋ねると女性は「わたくしは、あなたと同じ境遇にあったものです。会場までご一緒させていただきます。」と返事した。隣の女性とは驚くほど話が合った。よく見ると色白の美人であった。理想の相手そのもので、できる事ならこのような人と結婚したいと車内で思っていた。運転手が「お待たせしました。こちらが会場になります。」とアナウンスがあり私と仮装している女の子で車を降りた。私はもう少し話がしたかったので後部座席の女性に「あなたもご一緒にどうですか?」と誘ったがやんわりと断られてしまった。
会場には職場の人間や学生時代の友人達、そして家族、親戚一同が集まっていた。みんなで楽しみながら、お酒や食事を楽しんだ。しかしいくらお酒を飲んでも酔っ払わないし、いくら食べてもお腹いっぱいにならない。周りの人たちはアルコールの力で盛り上がっているのに私はノリについていけなかった。しばらくすると小学校来の友人が突然「皆さん注目、ここでカイト君による仮装をお披露目したいとおもいます。カイト君控室へどうぞ。」私は友人に案内されて用意された服に着替えた。用意された服は白装束であった。んじゃ着替え終わるまで待ってるからと言われた。私は正直、これって仮装って言えるのかと疑問に思っていた。着替えが終わった後、友人と魔女仮装をしている女の子がいた。2人揃って「似合ってるじゃん。それじゃお披露目だね」と言っていた。会場に戻る最中に女の子が「車で移動している時カイト君の隣に座る女性私だったら」と意味深な事を言っていた。会場に行くと舞台の真ん中に小さい扉が用意されていた。私は合図があるまで舞台裏で待てと指示があり待っていた。友人が「お待たせしました。カイト君の登場です。」とアナウンスし私は舞台に出た。会場の人たちの反応は薄かった。突然父が「行ってらっしゃい」と叫ぶと周りのみんなも「行ってらっしゃい」と叫び小学校の友人が扉あけろとジェスチャーしていたので私は扉を開けた。
扉を開けた瞬間辺りは橙色に包まれて熱く感じた。熱で足の指先から肉が溶けていくように感じた。どこからか、美代の声が聞こえて来て「あなたの一番の罪は私の命を奪ったことです。なので、地獄に行きなさい。」と告げられた。私は「いや、君は自殺したはずだ。殺していない。」と弁明したが、「死人は弁明と白状をする事を許されていない。だが、一つだけ教えよう。あなたは生前、私と交際している時に私の人間関係を仕事に利用した。そして私に利用価値がなくなった瞬間。私を自殺に見せかけて殺した。あなた言ってたわね。11月4日は語呂でいい の日ってね。私の命日にあなたが来るなんてもう最高だよ」と半笑いしながら言った。私はもう肉がかなり溶けて来ており、何も反抗できずにいた。
無になるまで考えていたことが2つあった。
私はいつ死んでいつから幻想世界で過ごしたのか?
そして、魔女の仮装した女の子の正体は誰だったのか。
私は答えを見つけられず無になった。
完
次回の短編小説は「不滅のクリスマスプレゼント」(12月23日公開予定)です。




