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水面のうさぎ使い  作者: 柿丸
第二章 黄金の都編
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第38話 水渡り

クシリカ王国にいる僕たちは、50人の兵士、20人の調査団とともに、アルケジア王国へ戻るはずだった。


しかし、僕の(恐らく二つ目の)イトのせいで、5時間ほど遅れてしまい、兵士や調査団たちはすでに行ってしまっていた。

改めて出国しようとすると、今度はクシリカ国王に止められた。


「お前たちに話がある。来い」


国王の唐突な話に混乱した。


いつの間にかこちらの様子を見ていたようだ。

オルダはオリトスに何かを話し、僕たちにもついてくるように言った。

国王の命令に背くことはできないため、まあついていくしかないのだが。


「これから、クシリカ王国立図書館へと向かう」


結局、また城に入ることとなった。


そのクシリカ王国立図書館とやらに向かう途中、オルダが可能性を教えてくれた。


「先ほど、お前たちにラビィのイトについて研究するか、カタルたちを追うべきかについて確認しただろう? この城の中にあるクシリカ王国立図書館には、様々な文献が収められているのだが。その中には、これまで確認されているイトについて記録した文献もあるんだ」


「もしかしてその中に、イトを二つ持っている人の記録もあるかもしれないってこと?」


「そう、アフティの言うことも確認できるだろう。だが、イトはまさに千差万別。その記録を調べるには、何人にも手分けして、時間をかけてやるものだ。その労力に見合うほど、記録されているイトの詳細を調べる必要性なんてないから、普段ならわざわざ個人の為にイトを調べることはないんだがな」


「だが、ラビィに二つのイトがあると知ったのはついさっきだ。その場に国王はいなかった。俺たちを連れて行くには、何か他の理由がありそうだな、オルダ」


「ああ、オリトス。国王は、二つ目のイトである、水に入るイトについて注目しているのかもしれん」


水に入るイト……。


恐らく、僕がこの世界にいるきっかけとなったイト。

どうしてあちらの世界から、この世界に来ることができたのは、僕もよく分からない。


が、きっとこのイトのせいだろう。

それまでは、魔力やイトなんて一切ない世界だったのに。

それどころか、創作物の中だけの話だったのに。


考え事をしている間に、大きな扉の前に着き、国王が足を止める。


「このクシリカ王国立図書館には、貴重な文献が数多く集められている。その中に、個人のイトについて記録したものがある。ラテニアと言ったか。お主が水に入るのを見た。その時、気になったことがあってな。ここ数時間、従者に調べてもらっていた。そして見つけた」


オルダの言っていた、情報を探す労力の心配はなくなった。

すでに国王は従者を用いて調べていたのだ。


そして、その対象は僕のイト。


「これだ」


国王は机に広げられた一冊の巨大な本を指さした。

巨大で、かつページ数も多い。


逆に、よく5時間で該当するページを見つけられたものだ。

そのページを見てみる。


所々読めない。

この世界の言葉には、大分慣れてきたはずなのだけれども。


「ごめんなさい。僕には書いてある内容が読めません」


「ああ、それも仕方がないな。これは昔の言葉が多く使われている。私が読み上げよう」


オルダがサポートしてくれた。


「これは、水の世界に入るイトである。前例はイトの中でも少ない方である。初めての事例として確認できるのは、古代の書物『エイゾルの書』内である。この文献では、詳細については書かれていない。初めてイトが観測されたときの能力を示す。一つ、これは水面から水の世界に入る能力である。水面であれば、本人が望むときに入ることができる。二つ、この水の世界に、他の物・生物を同行させることができる」


ここでオルダが読むのを止めた。


「ここで、他者を同行するには本人の力量に左右される、と書き直されている」


確かに本を見てみると、本文には矢印や線など、後から書き足されているようだ。


「では、続きだ。三つ、水の世界から地上の世界に戻る際、出現場所を操作することができる。……この文も、同じように『本人の力量に左右される』と書き足されているな。では、続きだ……。四つ、このイトを持つものは、もう一つ他のイトを所有している。……イトについての説明は以上だ。この他には、イトを所有していたらしき人物の名が残されている。この文献では、4人のようだ」


「オルダ、ありがとう」


おお!

この収穫は大きい。


僕のイトでは、水の世界を介した移動が可能で、それは他者も同行できると。


ただ、本人の力量に左右される、か。


それともう一つ、このイトを所有している者は、もう一つのイトを所有している、という文だ。

でも、欲を言うともっと情報が欲しいけど。


「その通りだ。ラテニア、お主、どうだ。水の世界を介した移動はできるのか?」


僕は、ニータを除いて異世界からこの世界に来たと直接言ったことはない。

やはり、それを話した時にどうなるかわからず、怖いから。


それに、水面があったとしても転移できるときとできないときがあった。

誤ってここの世界の人を前の世界まで連れて行ってしまう可能性もある。


「水の世界に入ることはできますが、出現場所の操作ということは、できたことはないです」


「そうか……さすがに他者も同行するのは危険か。このイトが可能であれば、長い時間がかかる移動も楽になるのだがな」


「でも、挑戦してみます。豊富な文献がここにあることも重要ですし。他の三人には先にアルケジア王国へ向かってもらい、僕はここに残り、移動ができるように試してみます」


「ラビィはそれでいいの?」


アフティに不安そうに聞かれた。


僕だって、三人には一緒に居てもらいたい。

でも、フォルタート領に一刻も早く戻ってもらいたいという思いもある。


僕が早く移動を身に着けられるようになればいい話。


「一緒に居てもらいたいとは思っているけど、フォルタート領が不安なんだ。すぐに身に着けられるように頑張るから、三人には先に行っててもらいたい」


「ラビィ……」


「わかった。オリトス、アフティ、私たちは、アイク様のためにも、ラビィのためにも、いち早く戻るように努めよう」


アフティは最後まで不安そうな顔をしていた。

けれども、ここで時間を使いすぎても兵団に遅れをとってしまう。


やがて、三人はクシリカを出発した。


僕は一人残り、イトを用いた移動に挑戦する。

いや、一人じゃない。

ニータも一緒だ。


『ラビィ、ほんとに独りで大丈夫?』


『もしもの時はニータが何とかしてくれるでしょ?』


『なんとかって……ボクはただの兎だよ?』


『それにしても、ラビィにイトが二つもあったなんてね』


『うん』


ニータも事情は理解しているようだった。

イトの練習をすることを話した。


水の世界に入った移動、ということで、()()()と呼ぶようにした。


城には噴水がある。

つまり、水面だ。


周りから見れば、随分とおかしな人だろう。

けれども、そんなことを気にしている場合ではない。


『ニータはどうする? 一緒に飛び込む?』


『うん、行ってみる』


『でも、水の世界に入れない可能性もあるよ。ただびしょびしょになるだけかも』


『それでも、挑戦してみないと。何事にも最初はあるんだから』


『そっか、ありがとう。僕もできる限り水の世界に入れるように頑張るよ』


そんな話をして、ニータと水に飛び込むことになった。

ニータを前の方で抱きしめておく。


『行くよ』


『うん』


思い切って、水面に飛び込んだ。


水の感触が全身を包む。

ひんやりとしていて、くらい。


目を開けると、そこは水の世界だった。


息苦しさはない。


『ニータ、大丈夫?』


『うん、大丈夫』


『息、苦しくない?』


『苦しくないよ』


水の世界には、相変わらず何もない。


後ろを見ると、大きな泡があった。


その向こうには、先ほどまで見ていた城周辺の景色が映っている。


周りを見渡すと、とても遠いところに赤い何かが見える。

以前と同じだ。


あれは何だろう。


赤い何かに向かって泳ぐ。


がんばって腕を動かし、足を動かす。

音はほとんど聞こえず、周りの景色は何もない。


赤い何かは一向に近くならない。

本当に前に進めているのか不安になる。


このまま戻れなくなってしまったらどうしよう。

そういう不安はまだある。


ぽちゃん。


水滴が水面に落ちる音がした。

ここは水の世界なのに、音がした。


その方向を見てみると、泡があった。


これは、出口かな。


泡に向かって泳ぐと、ちゃんと近づくことができた。

やっぱり、赤い何かには近づけないだけで、泳ぐことはできているみたい。


その泡の大きさは、やはり二メートルほど。


その泡には、草原のように何もない土地が映っていた。


『行ってみよう。地上の世界に戻れるかもしれない』


『ラビィ、これ顔出してるときに魔力切れがあったら首から上だけ地上の世界に行っちゃうのかな』


『ニータ! 怖いこと言わないでよ!』


何でうちのうさぎは怖いことをそんなに平気で話すのか。


でも、確かにその不安もある。できるだけ水渡りには時間をかけないようにしよう。

泡に頭を入れてみる。


どうやらここは、クリュスの道のようだ。


えーっと、ここは確か、馬車で城に向かう途中の道だったような。

どのくらい遠くまで来れたんだろう。


ガンッ!!


そんなことを考えていると、後頭部に衝撃があった。


痛い!!


「ぎゃっ!!」


悲鳴も聞こえた。


突如目の前に人が倒れこんだ。

見覚えのある足が目の前にある。


「な、なに!」


「おいおい、アフティ大丈夫か?」


聞き覚えのある声だ。

背後から聞こえる。


「一体何につまずいたんだ?」


また、聞き覚えのある声。


「わかんない、何もなかったよね? あ」


後ろを振り向いたその人と目が合った。


「やっほー。 ……あー、さっきぶり」


「ラビィ?!」


アフティだ。


ちょうど三人が歩いている所にある、水たまりに出てきたようだ。

僕はニータを連れて、水面から出た。


「ラビィ?! 成功したのか?」


「うん、一応かな」


「早すぎだろ」


オリトスが驚いている様子を見るのは新鮮だった。


「もう一つ、みんなに報告があります。ニータと一緒に水渡りできたよ」


「水渡り?」


「そう。水の世界を介した移動のことをそう呼んでる」


「なるほどね!」


アフティは嬉しそうに耳をピクピクさせながら、話を続ける。


「ということは、私たちも一緒に移動できるの?」


「ニータはできたけれども、人ができるのかはわからない。それに、出口の水面を僕は選べないんだ。今回も、前回も、たまたま泡が出てきただけで」


「泡?」


「そう、泡。水の世界から地上の世界に戻るためには、泡に入る必要があるんだ。その泡には、出口となる水面に映る向こう側が見えるんだ」


「へぇー、私行ってみたい!」


「大丈夫かな? どう思う、オルダ、オリトス」


「私は興味がある。だが、ラビィの魔力量は大分少なくなっているな。回復するまではやめておいた方がいいだろう」


オルダはほかの生き物の魔力量を見ることができるイトの持ち主だ。

依然聞いた話だと、もやのように見えて、その形状や循環速度などでわかるらしい。


「オルダがそういうなら、そうなんだろうな。ラビィも来たことだし、さっさと馬を引き取って、カタルたちを追いかけよう」


「えー……」


アフティは残念そうにしているけど、オルダのイトは対象の魔力量の詳細を知るイト。


アフティもオリトスからその話を聞き、最後には納得してくれた。

大都市クリュス、今回は三日間しかいられなかったが、次回はルアと一緒に来て、ゆっくり楽しみたいな。


それにしても、二つ目のイトか……。


早死にする、か……。


あまり良い気分ではないけど。


でも、周りにアフティたちがいるおかげで少しは安心できる。


これからは、ルアやアイク様、サキアたちをこの力で救うことができたのなら……。


いや、これからでもできる。


これから、この力を使って、何か……はわからないが、何かする。

この力があって良かったと、そう思うことができたなら。


みんなに囲まれた平和な生活ができたなら。


二つ目のイト、というのも、悪くないかもしれない。


ニータと、三人の顔を見てると、そう想えてきた。

四人と一匹は、アルケジア王国フォルタート領に向かい、歩き始めた。



————

ここは、暗い世界だ。

真っ暗だ。


常に静けさに包まれている。

ここには、世界のしわ寄せが集まっている。


誰もが、同情したはずのもの。

誰もが、憐れんだはずのもの。

誰もが、思ったことのあるもの。


しかし、認められなかった。


そんなものが集められている。


そんな真っ暗で、冷たくて、けれども、みんなのすぐ隣にある。

暗い世界。


「マスター、報告です。フォルタート領の襲撃を終えました。フォルタート邸は崩壊し、趙巨魔石は確保しました。……しかし、霧は消えておりません」


「そうか、消えない……か。くそ。つまり霧は——」


その男は頭を抱える。


「そうですね、良いのか、悪いのか」


「ただ、フォルタート邸の破壊と趙巨魔石の確保、それを満たせた。最低限の目標は達成できたわけだ」


「はい、少なくとも計画は予定通りです」


「ならば、次の計画に移ろう」


「承知しました。では、クリュスにドラゴンを向かわせます」


「いよいよだな。大都市に仕掛けるのは」


マスター……。


あなたの行動は、私たちの行動は、正しいのでしょうか。


いや、正しいと信じなければ。


私たちが行動を起こさなければ。


それが、世界には必要だから。


この世で最も残酷な存在、それは、人間なのだから。

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