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水面のうさぎ使い  作者: 柿丸
第二章 黄金の都編
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第36話 また裏側へ

強い光に包まれ、瞳を閉じた。


しばらくすると、体の感覚が少しずつ戻ってきた。


僕は今、横になっている。

涼しい風を感じる。


ゆっくりと目を開けると、懐かしい景色だった。


ここは、僕の部屋だ。


前の世界の部屋。

転移する前の世界。


どうやら、また戻ってきてしまったようだ。

以前、この世界に戻ってきてしまった時ほどの絶望はない。


あちらの世界に帰れることを知っているからだ。


体をゆっくりと起こす。

全身にはダルさが残っている。


ずっと長い間、寝ていた時のようなダルさ。


今日は、何日だ?


スマホを見る。


十一月二十五日、月曜日、午後三時八分。


あれ、前にこの世界から戻った日は、いつだっけ。

全然覚えていない。


階段を降り、台所に向かう。


両親は仕事だろうか。


コップに水を注ぎ、のどを潤す。


いや、待て。


前回は新月の夜に、神社の木の根から転移したはず。


つまり正子に。


でも、今の時刻は午後三時十三分。


時間が、変わっている。


おかしい。


以前、この世界に戻ってきたときは、時間も、場所も、服装もそのままだった。


それなのに今回は、時間も、場所も、服装――はわからないが、変わっている……。


スマホで新月の日を調べてみる。

十一月二二日。


今日から三日前。

時間が、進んでいる。


一体僕はどうして自宅にいる。


それまでの時間に何があった。

何とも言えない不安が押し寄せてきた。


家を出て周囲を確認する。


記憶と変わらない風景だ。

ただ、道を除いて。


道には、うっすらと黒い染みのようなものが見える。

タイヤ痕程度の黒さだ。


他の人なら、それほど気にならないだろうけど。

僕にとっては違う。


この染みは、アプリストの跡ではないか。


家を出て、その跡を追うと、例の神社にたどり着く。

転移に通った木の根のところまで。


その場所を終点に、黒い跡は破裂したような模様になっていた。


何とも言えない気持ちになりながら、自宅に戻る。


なんとなく、テレビのニュースを見る。


テレビでは、何の変哲もないニュースばかり流れている。


ミーニに似た、「記憶の涙」のニュースももう取り扱われてはいない。


これ以上、変なことが起きなければいいのだが。


それから数時間、「記憶の涙」についての情報や、アプリストの目撃情報がないかを調べていた。


「記憶の涙」については、世界の一部(日本とヨーロッパの一部)で同様の現象があった、という程度の情報しかない。


アプリストに関しては、一切見つけられなかった。


一応、クシリカ王国についても調べてみたが、もちろん分かるわけもない。


気がつくと、日が沈みかけていた。


「ただいまー」


お母さんの声だ。


「おかえり」


恐る恐る顔を出す。

が、特におかしなリアクションはなかった。


一応、聞いてみる。


「ここ二日間、変なことなかった?」


「変なこと? 一昨日は旭の様子が少し変だったけど、それくらいじゃない」


「変って?」


「ほら、ここはどこだって、急に。その後は何も言わずに外に行ったきり、昨日になって帰ってきたじゃない」


「そう、そうだったね」


「結局、どこに行っていたの?」


「あー、ほら、大学の友達の家」


「そうならそうと言ってくれればよかったのに」


この二日間、僕は勝手に出歩いていたのか。


でも、その記憶は一切ない。


変なことをしていなかったのは良いが、そうなると、今度あちらの世界に戻るのが怖い。


転移し、あちらの世界に行っている間は、時間は進まないはずだったのに。


二日進んでいたなんて。


けれども、あちらの世界で過ごした時間は二日なんてものじゃない。


かなりゆっくり時間が進んでいるのか。


どうしようか。


これまで体験したことのない問題に向き合うと、時間はあっという間に過ぎて行った。



久しぶりに食べる母の料理はおいしかった。


日は沈み、お風呂に入り、自室に戻る。


その時、机の上に置いてある紙が気になった。


丁寧に、机の真ん中に置いてある。

真っ白な紙だ。


僕はそれを持ち上げる。

白紙ではなかった。


裏側に何か書いてあった。

これを見た時、みんなは落書きと呼ぶだろう。


不思議な線がたくさん書いてある。

日本語でも、英語でもない。


けれども、僕は読むことができる。


なぜなら、この文字はあちらの世界で用いられていたものだから。


このことに気付いた時、心臓の音がとても大きくなっていたのがわかった。


その紙には、こう書いてあった。



—―この世界は、私が元いた世界とは別だ。

魔力の量が著しく少ない。

そして書いてある言葉がわからない。

しかし、この世界の住人が言っていることは理解できるし、それに答えることもできる。

そして、外にはアプリストの跡があった。

魔力量の少ないこの世界にアプリストが自然にいるとは考えづらい。

私がここに居ることと何か関係があるかもしれない。

少し外を見て歩いたが、そこで見たものはここに書かない方が良いだろう。

とりあえず、この体の持ち主の為にこの手紙を残す。

お前は誰だ。

私は誰だ。——



うーん。


少なくとも、僕があちらに転移すると同じようなことを体験している人がいるということはわかった。


書いてある言葉はわからずとも、会話はできるということも。


ただ、どんな人が転移してきたのか。


なぜ僕があちらの世界で過ごした時間の長さと、こちらの世界の時間の長さが違うのかはわからない。


それに、ルアやニータの話を聞くに、僕があちらの世界からこの世界に転移した時は、体も一緒に消えているようだった。


僕自身の転移の問題に加え、この世界にアプリストがなぜいるのか、「記憶の涙」があるのかもわからない。


わからないことが多すぎる。

僕も書き手紙を残しておくか。



—―この体の持ち主です。

私も、世界を移動しているようです。

これまでに四回、転移してきました。

転移先は、アルケジア王国フォルタート領です。

ですが、こちらの世界とあちらの世界では時間の流れが異なっているようです。

あちらの世界では、ラテニア・ビーラトルと名乗っています。

私もわからないことが多すぎて困惑しています。

もし、わかったことがあれば、書き手紙を残してください。

私も残すようにします。

私が体験した、時間の差を記します。


こちらの世界が、この手紙がある世界、あちらの世界が、アルケジア王国の世界とします。


こちらの世界で十一月十八日、あちらの世界に転移しました。

これが初めての転移です。

あちらの世界では数日過ごしました。

そして、ふとしたきっかけでこちらの世界に戻ってきました。

二回目の転移です。

戻ってきたとき、こちらの世界の時間は一切進んでいませんでした。

始めて転移した日と同じ日、同じ時間に戻ってきました。

それから四日後の十一月二十二日、神社にある木の根から、あちらの世界に転移しました。

三回目の転移です。

あちらの世界に戻った時、こちらの世界で過ごした時間と同じ時間が進んでいました。

これらの結果から、私があちらの世界で過ごしている場合はこちらの世界の時間は止まり、私がこちらの世界で過ごしている場合であってもあちらの世界の時間は動いている、そのような認識でした。

しかし、今回の、四回目の転移でこちらの世界に戻ってきたとき、時間は進んでいました。

あちらの世界では三回目の転移から数週間は過ぎていましたが、こちらの世界では二日間と差はありますが。

これが、私が体感した時間の差です。


鳴宮旭――



もしかしたら、この人が『ラテニア・ビーラトル』の元の体の持ち主だろうか。


だが、繰り返しになるが、あちらの世界からこの世界に転移した時、ルアやニータ目線では僕の姿が消えていた。


その後、あちらの世界に戻った時の転移先がフォルタート邸だったのはわからないが。


それに、その時に一緒に転移していた兎たち。

日本の街中に、野生の白い兎があんなにいるとは考えづらい。


そして、転移先は同じフォルタート邸だった。


ぐぬぬ。


法則性が全く見つけられない。


他に何を書くかは、ゆっくり考えるとしよう。

なにせ、この世界では前回転移してから3日しか経っていない。


次の新月まで、ひと月近くもある。


一応スマホで調べてみる。


次は十二月二十八日。


クリスマス過ぎかぁ。


お正月も近いし。

お正月は家族と過ごしたいから、一月の新月に転移しようかな。


いや、あちらの世界ではこの世界と同じ時間が過ぎているんだっけ?


今は大事な派兵が始まったばかり。


それに、前回のようにどこに転移するかもわからない。


参ったな。


となると、いち早くあちらの世界に戻るのが賢明な判断か。

新月じゃないけど、例の神社の木の根のところまで行ってみようか。

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