第33話 夜は恋バナ
今、僕たちはクシリカ王国の城にいる。
アルケジア王国で甚大な被害を生んでいるドラゴンに対処するためだ。
王への謁見、兵団、調査団への挨拶を済ませた。
そしてたった今、夕食を終える。
その次はお風呂に入った。
大きな浴室だった。
以前、フォルタート邸であったようなトラブルはなかった。
オルダとオリトスから、これまで2人が体験してきた楽しい話を聞かせてもらった。
カタルと久しぶりに再会し、夕食までの時間にも話をしていたらしい。
オリトスも居合わせ、三人で話をしていたんだと。
それを機に、2人は昔のことを思い出して、それを楽しそうに話してくれた。
この世界には、僕の知らないことがまだまだたくさんあると感じた。
お風呂を上がると、自室に戻る。
そして、今日も日記を書く。
今度ルアに会った時に、僕が体験してきたことを話すために、書いているものだ。
わざわざ高そうな羽ペンやインクもランプの下に準備されていた。
さすがクシリカ王国のお城だ。
今日書く内容は、クシリカ王国の城に来たこと、その大きさ、綺麗な兵長さんがいたこと、いや、これは書かなくていいかな。
あとオルダさんとカタルさんの話も。
お風呂でオルダさんとオリトスさんから聞いた話。
ここで食べた料理。
ルア。
早く会いたいな。
日記を閉じて、ベッドに入る。
やわらかくサラサラした生地が僕を包む。
今日はこのまま寝よ——っう!!
衝撃が僕を襲った。
目を開けると、アフティがいた。
乗っかっていた。
「何してるの?」
「ラビィ、1人で寝るの寂しくて泣いてたでしょ?」
「え? 寝てないよ。まったく何を言っているのか」
「ほら、私がよしよししてあげる」
アフティが僕を抱きしめてくれた。
「……もしかして、アフティが寂しいくて来たんじゃないの?」
「うげ……そんなわけないじゃないですか」
「図星ですか」
『図星だね』
「ちょっとー、ニータまで……!」
「まあ、アフティが寂しいって言うなら一緒に寝てあげてもいいけどね」
「ええーー!」
結局、アフティは僕の部屋で寝ることになった。
アフティ、身長は僕より少し高いくらいだけれども、何歳なんだろう。
「ラビィ、アニアさんのこと気になってるでしょ」
「え?!」
アフティが小声で聞いてくる。
「私に任せなさい! これまで百戦錬磨の恋をしてきたアフティお姉さんが、ラビィに恋のアドバイスをしてあげる」
「うーん、大丈夫かなぁ、というか、まだ会ったばかりだから、そこまでじゃないよ」
「大丈夫だって。恋の可能性があるならば、それを無視することなんてできないの」
アフティがぐいぐいと距離を詰めてくる。
楽しそうに耳をピクピクさせて。
「ラビィは年上系が好きなんだね」
「う、否定できない」
『……ルア』
ニータが口を出してきた。
『いや、ルアはちょっと違うから』
「誰? ルアって」
『ルアは、ボクたちがイートアの街で暮らしていた時に一緒に暮らしていた人だよ』
「じゃあもう、恋人がいるってこと?」
「違うよ。ルアとはそんなんじゃないの。暮らす所がないからかくまってもらってたの」
『一緒に寝てるけどね。くっついて』
またニータが口を出す。
「ええーー!!」
「だから、そんなんじゃないって! 好きだからとかじゃなくて、流れで?」
「それ、もうそういうコトでしょ」
「間違えた! 違う。流れじゃなくて、その。とにかく、恋人じゃない!」
「うーん、私的にはそのルアさん?のことが気になるけど。でもラビィがそこまで言うなら」
「うん」
「じゃあやっぱりアニアさん?」
「……うーん、どうだろう」
「否定しないってことは、やっぱり気になっているんだねー」
「……そう、かも」
「なるほどねー。年上、しかもかっこいい系かぁー。これは厳しい戦いになるだろうね。あの人は人気者タイプだ。私の分析では、あの兵団の8割は惚れてるね」
「まじですか」
「まじです」
「普段は兵長として厳しさとカッコよさを併せ持っていて、その役職も相まって兵士たちは彼女を意識せざるを得ない。そして、ふとした時に見せる優しい一面、笑顔。それを見てしまったら、惚れない人間はいないよ。男も女も」
「どっちからも好かれると」
「そう!」
「一体どうすれば!」
「ふふん、それはね。まずは君のことを意識させるんだ。さっきの様子だと、アニアさんはラビィのことを少し意識したみたいだけど、あれだけじゃあ、ただ若い子がいるとしか思っていないでしょう。もっとラビィの存在を意識させる。これがSTEP1だよ!」
「はい!」
「そしてSTEP2。ラビィには私がいないと、と思わせること。アニアさんのようなタイプは、自分の力で自分の面倒をしっかり見れる人。そんな人に頑張って気を使っても、アニアさんと考えている事と合わずに逆効果だったり、かえって気を使わせてしまうことがある。だから、ラビィには私がいなきゃ、と思わせる。そうすることで、ラビィのことを常に思うようになる」
「なるほど」
「最後にSTEP3。ラビィ自身が、アニアさんが必要だって伝えること。アニアさんのどんなところが好きで、どんなところが必要か。思うだけじゃなくて、言葉にして直接伝えること。そして、その代わりにラビィがアニアさんに何をあげられるか、それまでにきちんと理解しておくこと。これまでいったら、後は運だね」
「めっちゃいい感じだったのに、最後は運?」
「うん」
「ばか」
2人で笑った。
なんだろう、この楽しい感じはとても久しぶりだ。
「ところでアフティは、これまでどんな恋をしてきたの?」
「私は3人と付き合ってきたね」
「すごい」
「そうでしょ」
「どんな人だったの?」
「1人目はね、鳥の獣人の男の子だったよ。家が近所で、昔から仲良くしてた子だったんだ。よく一緒に遊んでて、よく笑う子だった。私、小さい頃はよく泣いてばかりで、わがままも言う子供だったんだけど、その子と一緒に居るようになってから、今みたいに私もよく笑うようになったの。それが一人目」
アフティは耳をピクピクさせながら話している。
今でも彼女にとって大切な思い出なのかな。
「でも、彼は本来の故郷に帰っちゃった。それっきり、会ってないよ」
「故郷は遠いところなの?」
「うん。きっと彼は故郷でもうまくやってるよ」
「そっかー。今のアフティがいるのは、その人と過ごした時間があるからこそなんだね」
「そうだね」
「2人目は?」
「2人目は、人間だったよ。私より年上で、身長が高い人だった。だから、ラビィの気持ちもわかるよ」
アフティは少し笑って見せた。
「でも、そんなには続かなかったかな。お互い、ちょっとずれたものを見ていた感じだった」
アフティは少し間をおいて、話を続ける。
「3人目は、フォーリャの治安維持部隊、ストアの後輩の女の子だよ。もともと入ってきたときは私が教育係で、そこからえらく気に入られちゃってね。可愛い子だったし、本気で私のことを好きみたいだったから、付き合ってたんだけど……」
「けど?」
「けど、愛が重すぎてね。私としてはハッキリ先輩と後輩の中に戻りたいって言ったんだけど、彼女は相変わらずって感じで」
「……うん、なんか心配になってきた」
「なんで?」
「アフティ、百戦錬磨の恋をしてきたって言ってたでしょ?」
「ああ、付き合ったのは3人だけど、その他にも、ほら、色々あったから」
「そう?」
「そう」
「だから大丈夫」
「わかった」
「いい子いい子」
アフティに頭を撫でられた。
その後もアフティとしばらく話をして、気がついたら眠っていた。
ニータは大分早いうちに既に眠っていた。
目を覚ましてからは、調査団との打ち合わせばかりだった。
ゆっくりできると思っていなのに、疲れる日々だった。
一方でオルダとオリトスは生き生きとしていた。
こういう環境は何度も経験しているようで、会議ではカタルも2人の意見を否定することはなかった。
僕も途中まで真面目に話を聞いていたが、この世界の土地勘は全くないし、魔術も簡単なのが扱えるようになったばかり。
段々と話が難しくなり、話を終えなくなっていた。
アフティと並んで暇そうな顔をしていたら、オリトスに「城と街の散歩でもしてきなさい。それだけでも君たちにとっての学びを得られるだろう」と、言われた。
お城を見て回ると、装飾の細かさやその広さに驚くばかりだった。
そして、この世界でもお城には絵が飾ってあった。
僕は前の世界にいた時からも絵は好きだし、書くこともあった。
アフティも絵が好きだ。
この前に一緒に描いたこともあった。
だから、2人で色々おしゃべりしながら絵を見ていた。
その絵の中に、とある人の肖像画があった。
アフティとその絵の話をして、後ろを振り向いたら、その絵の人物が立っていた。
その人は苦笑いしていた。
僕とアフティは軽くお辞儀をして、逃げるようにその場から逃げ、クリュスの街並みを散歩することにした。
クリュスの街並みは、中心部ほど位の高い人たち、クリュスの街を囲む壁によるほど位の低い人たちの住居となっている。
もちろん、外側に行くにつれて、建物の数が増え、上に積み重なるようになっている。
かと言って、ボロボロな家というわけではない。
街の外壁は常に補修されているらしいし、住民の建物もどれも綺麗な状態だ。
いくら離れている場所でも、国王が見ているということ、そして住民も国王を見ているということを表しているらしい。
街の衛兵と住民の中も良いようで、話をしている様子もよく見ていた。
この国は、あくまでクリュス内ではあるが、国王と住民の信頼関係は十分なようだった。
街をある程度、散策したら城に戻る。
「ねぇ、兵舎に行こうよ」
「兵舎?」
「そう、昨日言ったこと、もう忘れたの?」
「……あ、STEP1ね」
アフティがめっちゃ頷いている。
今の時間は城の中庭で訓練をしているそうだ。
廊下の陰から顔をのぞかせる。
何十人の兵士が訓練をしており、アニアさんは兵士たちの間を縫って指導している。
かっこいいなぁ。
兵士の鎧を着ているせいで、見える部分はとても少ない。
首から上の一部だけ。
そんなアニアさんの顔を見ていると、目が合ってしまった。
顔が熱くなるのを感じた。
時間が止まったように体を動かせなかった。
一方で、アニアさんはこちらに歩いて向かってきている。
「行っちゃえ!」
アフティに小声で囁かれ、ドンと背中を押された。
いきなりの事で、何歩か前に出るも、バランスをとれずに倒れそうになる。
「おっと、危ない、大丈夫ですか? お嬢さん」
アニアさんはとっさに体を支えてくれて、僕の体を気にしてくれた。
いや、お嬢さんではないんだけれども。
でも、アニアさんの声とか、不安そうに覗いてくる顔とか、めっちゃ好き。
イケメンすぎる。
もう絶対顔が赤くなってる。
体も思うほど力が入らない。
アニアさんにつかまろうとしたけれど、鎧はつかめなかった。
「あ、ごめんなさい! ありがとうございます」
「いえいえ、大事なお客様ですから。それにしても、可愛らしいお嬢さんですね。ここは城ですから、筋骨隆々とした男性が多いもので、あなたのような方を見るのは珍しいですね。まあ、筋骨隆々なものが悪いわけではありません。鍛えている体は強さと努力の証。その美しさは見た目だけには収まらないものなのです。もちろん、私も常に上を目指して鍛えておりますよ」
アニアさんは、僕の顔を撫でながら話している。
鎧のせいでどのくらいなのかはわからないが、兵長という役職でもあるから、きっと十分に鍛えられた体なのだろう。
あ、というか。
「あの、褒めていただけるのは大変うれしいんですが、実は僕、男なんですよ」
「それはそれは、大変失礼いたしました」
「いえ、よく間違えられるので」
「それも納得ですね」
アニアさんはそう言いつつも、少し距離をとってしまった。
僕が女の子の方が良かっただろうか。
「ラビィさん、でしたよね? 夕食が終わったころ、私の部屋に来ていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
何の用事だろう。
戦いのすべでも教えてくれるのかもしれない。
これでも一応、アイク様から使命を受けた使者なのだから。
自分の力で守れるようになりたい。
それを実現するために、旅の間は魔法を使う練習をしていた。
武術についても、身につけておくに越したことはないだろう。
「では、また」
そう言い、アニアさんは兵士のもとへ戻ってしまった。
ああー、無理かなぁ。
やっぱりアニアさんは良すぎて、自分には合っていないかもしれない。
どうすれば意識させられるだろうか。
ここにいる人たちは、アニアさんの言った通り、筋骨隆々で鍛え上げられた人たち。
数日の間で、肩を並べられるようになれるはずがない。
違うベクトルで攻めなければ。
廊下に戻ると、アフティは変な顔でガッツポーズをしていた。
会話はアフティまでは聞こえていなかったようで、アフティから見れば大接近だったらしい。
アフティにさっき話した内容を伝えた。
アフティは驚いた様子だった。
「え? もうそこまで?」




