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水面のうさぎ使い  作者: 柿丸
第二章 黄金の都編
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第29話 旅先の絵

レストランで昼食を取り終わると、宿を見つけることになった。

 今日一日はグラシィで過ごして明日の日の出と共に黄金の都に向けて出発する。

 馬は旅人用の馬置き場があったからそこに居てもらう。


 この街は人が多く訪れており、宿の多くが満室だった。

 やっと見つけられたのが酒場の二階にあるちょっとした宿泊スペースだった。


「ラビィ、アフティ、私とオリトスはここでこれからの旅について計画しているから、今のうちに観光でもして行きな」


「計画なら僕たちもいた方がいいんじゃないの?」


「いや、申し訳ないがオルダと二人でしたい。俺たちは旅慣れしているが、お前たちは初めてだろう? 初めてなら下手に計画に関わらない方が話が進みやすいし無駄や危険を避けれるのだ」


「そっか……」


 オリトスにははっきり言われてしまったが、言っていることは理解できる。

 前の世界でも話し合いでは話を分かっている少人数の方が進みやすい。

 ある程度、基盤を固めてから他の意見の取入れを行えばいい。


「それに、お前たちはすぐにどっかに行ってしまうだろう? 深夜になって帰ってこなくなったりされるより、今のうちに観光してもらった方がな」


「う……確かに」


 僕は興味がある方にすぐ動いてしまう。

 以前にルアに怒られたこともあった。

 先ほどの出来事もニータを追いかけて行ったわけだが、オルダから見れば僕が急にいなくなったものだ。


「あはは! ラビィは子供だなぁ」


「アフティ、お前もだぞ」


「げ……」


 僕とアフティは酒場を抜けて再びグラシィの観光をすることになった。


 まずはクシリカ王国の伝統スイーツを食べに行った。

 持ち歩きできるもので、前の世界でいうクレープに近いものだった。

 薄い生地を丸めたもので、その中に甘いクリームや果物がたくさん入っている。


 これが伝統的な物という感覚は変な感じがしたが、アフティから聞くと有名らしい。

 その次もスイーツを食べに行った。


 そのスイーツは双六のような立方体が八つ組み合わさって大きな立方体を構成しているものだった。

 緑色でナタデココとわらび餅の間のような硬さだった。


 八つのうち半分の中には先ほどと同じクリームが入っていた。

 残り半分はベリー系のソースが入っていた。


 少しパチパチする感覚もあった。

 不思議な食べ物だ。


「これもクシリカ王国の伝統的な食べ物なの?」


「これは最近のスイーツだね。おいしいよねぇー!」


「うん! おいしい。このパチパチするのは何なの?」


「魔石を細かく砕いたものだね」


「魔石?!」


「あ、大丈夫だよ! 魔石と言っても人工的なものだから、食べても安全な量。お酒と同じだよ。ちょっとなら問題ない」


「へー!」


 このスイーツを食べ終わった後もアフティはさらに食べようとしていた。

 けれどもこれから旅だというのにお金を使いすぎてはいけないと思って、これ以上はやめるように言った。


 アフティは少し残念そうな顔をしていたけれども納得してくれた。

 それからはゆっくりと街を歩いて行った。


 石畳の道の上にある建物は暖色系の素材が使われている。

 空や運河の青さとのコントラストが綺麗だ。


 少し大通りを外れると建物間のいびつな階段も見ることができる。


「グラシィっていいねー」


「ここはカジアでも旅行先として有名だったよ」


 さらに歩くと運河のそばに来た。

 レンガ造りの橋と運河と向こう側の建物が見られる場所だ。


 アフティは塀の上に昇り、カバンから何かを取り出した。

 ノートとペン?


「アフティ、何しているの?」


 そのノートをのぞき込むと運河と街並みが描かれていた。


「絵を描いているんだよ! 私は旅行に行ったらよく絵を描くんだ! 故郷に戻った時にいつでも思い出せるようにね」


「へぇ~」


 僕は高校生の頃は美術部だった。

 卒業以来は全然絵を描いていなかったけれども、こういうのも良いかも。


「僕もやってみようかな」


「ほんと! 一緒に描こ!!」


 アフティはうれしそうな様子でノートとペンを渡してくれた。

 ノートは革表紙だった。


 僕は塀によじ登ってアフティの隣で絵を描き始めた。

 これから夜の街に帰ってくるまでにたくさんの絵を描こう。

 それをルアやサキア達に見せよう。


 色々な話をしよう。

 そのためにも、早く仕事を終わらせて帰らないと。

 久しぶりの絵でも、それなりにうまく描くことができた。


「アフティは良く絵を描くの?」


「うん! 何か気になったりしたものはすぐに絵を描くんだ。仕事中にも描くこともあって、上官に怒られたりしたなぁ」


 アフティは笑いながら話してくれた。


「ラビィも絵が上手だね」


「昔から描いていたんだ」


「へ~。面白いよね。同じ風景を描いていてもこんなに違った絵になるなんて」


 アフティとお互いに描いた絵を見せあった。

 僕は建物や運河、植物を特に描きこんで、陰影や色を白と黒で表現することを意識していた。


 一方でアフティは歩く人々の服装や顔などをよく描きこんでいた。

 その絵を見て改めて街中を覗くと、一人ひとり異なった服装で会ったことに気がついた。


 ここグラシィはクシリカ王国の玄関口ということで様々な地域や国の人々が訪れる土地だからだろう。

 それぞれの地域色が見受けられる。


 確かに、この視点で街中を見るのも面白いなと思った。

 これからはこの世界の人々についても詳しく観察してみようか。

 アフティとの仲が深まり、日が沈みそうになっていた。


「ラビィ、そろそろ宿に戻ろうか」


「そうだね、オルダとオリトスに怒られないうちに」


 グラシィの街は暗くなっても多くの人が行き交っていた。

 道沿いの街頭の光はイートアの街のそれとは少し違って白みの強い光だった。

 宿に着くとオルダとオリトスから明日以降の旅の予定について説明された。


 馬だと一週間ほどかかるらしいが、やはり王都までは多くの人が行き来するため道が整備されていて、道中に宿もあるらしい。

 距離を見てもフォルタート領からここまでよりもずっと短いようで、大変ではないだろう。


 他にもちょっとした注意事項、例えばクシリカ王国特有の魔物についてや慣習、マナーについて聞いた。


「まあ、こんなところだろう。ここから王都クリュスにかけては治安もいいし、私たちといれば問題はないだろう。あとはアフティとラビィがぼったくりに会わないように俺とオルダで見張れば大丈夫だ」


 そんな冗談交じりで作戦会議は終わった、と思われたのだが。


「ところでオリトス、クシリカ王国に魔術の規制ってあったりするの?」


「禁止されているのはアルケジア王国とそんなに変わらないかな。絶対的に禁止とされている魔術はユス・コーゲンス(いかなる逸脱も許されざるもの)として国を超えて設定されているからな。それ以外にも各国内で禁止しているものもあるが、一つ一つ上げていくときりがないし、第一アフティが使えるようなものではないだろう。つまり、常識の範囲内で行動していれば問題はないさ」


「へ~、そっか」


 アフティとオリトスがそのように話していることを聞いて、僕はふと疑問に思ったことがあった。


「そういえば人間は魔術を使えますが、魔物って魔術を使ったりするんですか? イトとか魔術って詠唱や手順とかっているんですか?」


「ほう?」


 オリトスに首をかしげられた。

 ここまで魔術のことを知らないことは怪しまれてしまったかな?


「まあ、その話をするなら人間と魔力の関係から話さないとな。なぁ、オルダ」


「ああ、そうだな、オリトス。いい機会だ」


 オルダとオリトスは目を合わせてそういうとオリトスはカバンから白く細長い石を、オルダは椅子を持ってきた。

 ちょっと嫌な予感がしてきた。

 椅子は僕とアフティがオルダとオリトスに向かい合うように設置されている。


「え? なになに?!」


 アフティは驚いているようだが、僕は彼らが何をしようとしているのかを察知してしまった。


「あ、ごめんなさい、なんか頭が痛くなってきて、僕は部屋で休ませてもらいますね」


「待ちたまえラテニア君。すぐ終わるから」


 逃げることができなかった。

 理解できていないアフティと理解してしまった僕を前に、オルダは話し始めた。


「改めて、私はクシリカ王国立大学大学園で魔術系の教授をしているオルダだ。今回は人間が魔力を行使するにあたって直接関係してくる魔術、魔法、イトについて解説する。外部講師として、アスト大学園で魔力系の教授をしているオリトスにも解説していただく……」


 それから数十分、それとも一、二時間はたっただろうか。


 オルダとオリトスの話から解放された僕とアフティは彼らとは別の部屋へと向かった。

 今日はオルダとオリトス、僕とアフティのペアで別々の部屋で休むことになった。


 そういえばアフティとオリトスは僕の性別を知っているのだろうか。

 だがその日はお風呂も別々だったし、特に教える必要もなさそうだった。


 大きなベッドでアフティと横になり、その日はそのまま眠りについた。


 朝、日の光で目が覚めた。

 体を起こそうとしたが動かすことができなかった。

 それにちょっと暑い。


 よく見ると、僕の体は抱き枕のようにアフティに拘束されていた。

 背後からアフティの寝息が聞こえる。


 何とか抜け出せないか体を揺らしたり腕を話そうとしたが駄目だった。

 仕方なく、アフティが目を覚ますまでそのままの体勢ですごした。


「……うー、はぁ、おはようラビィ」


「アフティ、おはよう」


 アフティが目を覚ましたならそろそろ抜け出せるかな。

 体を動かしたが、なんならアフティが目を覚ます前よりも力が強くなっている気がする。


「アフティ、ちょっと苦しい……」


「へえ? もうちょっといいでしょ? だってフォーリャを出発してからここまでずっとおじさんと一緒だったんだよ? こんな若い子と一緒に居れることなかったんだからさぁ~」


 アフティはあごで僕の頭頂部をぐりぐりしてきた。


「痛いよ……」


 そこにニータがやって来た。


『ほら、もう太陽が昇るころだよ』


 ニータはアフティの上にのった。


「やめて、くすぐったいよー」


 僕はアフティの力が弱まった瞬間に脱出した。


「あー、ラビィともっと寝てたかったのにぃ……」


 アフティから布団を引っぺがして朝の準備をするように促した。

 朝ご飯はアフティと二人で調理して食べた。

 そして歯磨きをしている時に、ふと思った。


 魔術についてだ。

 昨日、寝る前にオルダとオリトスから長い説明を聞いていた。

 魔力、人、ドラゴン、魔術……。


 僕のイトは兎と話すことができる、という能力だ。

 一方でルアは薬や薬草に関わる能力を持ち、アイク様は強大な力を持っている。


 オルダは魔術に長けていて、アフティは故郷の為に旅をし、オリトスは僕を救ってくれた。

 僕は、一体ここで何をしているのだろうか。


 何を成そうとしているのか。

 それがわからない。

 ルアが助けを求めたとき、僕にできることがあるのだろうか。


 無力感というか、焦燥感というか。

 決めた。

 オルダに魔術について教わろう。


 この前、オルダのイトで僕の魔力量について見てもらった時、魔力はあると言っていた。

 ということは魔術を使える可能性があるということ。

 僕も魔術を使えるようになりたい。


 そして、この世界で僕にできることを見つけたい。

 僕は口をすすぎ、てきぱきと旅の準備を始めた。

 準備が終わるとアフティと部屋を出て、オルダとオリトスと合流した。


「オルダ、相談があるんだ」


 僕は極めて真剣な顔で話した。

 自分にできることを見つけるために、魔術を習いたいと。


「まあ、別に問題はないが」


「だったら、俺も手伝える範囲で手伝おう」


「ありがとう」


「ところで、どんな魔術を習いたい?」


「どんな……」


「ああ、魔術と言ってもその種類は様々だ」


 そこまで考えてはいなかった。

 そもそも魔術にはどんなものがあるかもわからない。


「うーん、これからの旅でオルダやオリトスが使う魔術を教えて欲しいかな」


「私たちが使うものは応用型が多いが、大丈夫か?」


「だったらその基礎になるものを」


「……そうか」


「なになに? 魔術? じゃあ、私も一緒にならいたい!」


「アフティは魔術を使えるだろ」


「それだけじゃあダメなんだよ、オリトス。私ももっと強くならなくちゃ」


「……しょうがないな」

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