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水面のうさぎ使い  作者: 柿丸
第一章 夜の街編
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第18話 フォルタート邸

「……ラビィさん? そろそろ起きてください」


 目を覚ますと、メイド姿の女性が僕をのぞき込んでいる。


「ん……おはようございます……」


 あれ、なんか、服の肌触りがいつもと違うような。

 体を起こすと、これまで身に着けたことのない様な服を着ていた。


 デジャブ?

 いや、実際にあったな、これ。


 それにしても、朝になっても夜のまま、変わるのは月の数だけというこの空を見ると、やっと異世界に戻ってきた感覚がする。


「今日からラビィさんはサーバントとして、このお屋敷で働いてもらいます。アイク様とその奥様、お子様方の担当です」


「今日から?」


「はい。まずはその服を着てください」


 サキアが目でベッドの上を指している。

 そこを見ると、メイド服がきれいに折りたたまれていた。


「これ、ですか?」


「そうです」


 もう、拒否権はなさそうだ。

 ルアとニータに会いたいのに。


 あっちに戻れるのだろうか。


「ん? サキアさん、今ラビィって言いました?」


 サキアの顔が一瞬ハッとしたようだったが、すぐにこう伝えてきた。


「昨日、アイク様がそのようにおっしゃっていたので、私も同じようにします」


「アイク様?」


「はい、イカノスティア様のことです。……それより、早く着替えてください」


「あ、はい」


 そのメイド服はなぜか僕の体格にぴったりだった。

 鏡でその姿を見てみると、まあ悪くはない。


 この世界での僕の姿は、元の世界の姿とほんの少しだけ異なっている。

 だけれども、自分の姿と納得できる。


 この姿もすぐに好きになれる。


「着替えたようですね。お似合いですよ……」


 そう言ってサキアは僕の肩を撫でる。


「……今度は髪を結んでみましょうか」


「え?」



 身支度がもろもろ終わると、サキアはメイドとしての仕事を一から説明してくれた。


「さて、本日は配膳と倉庫の整理を通して、このお屋敷の構造と全体的なルールを覚えてもらいます」


「は、はい」


 確かにここの屋敷は広すぎて、どこに何があるのか覚えられそうにない。

 一日目は地理感をつかみながら仕事をするのが理想的だろう。


 って、なんで僕もここで働く気になっているのだろうか。


「ちなみに、ここから出ることはできないんですか? 僕については事故なり逃げたなりしたことにして」


「無理ですね」


「どうしても?」


「はい。あなたは私のものなので」


「え?」


 なんだか空気が変わった。


「忘れていないですよね。あなたはフォルタート邸の侵入者で、本当なら地下牢行き、その後裁判を受けるはずだったんですよ」


「そういえばそうだった……」


「やっぱり侵入者だったんですね」


「……あ、そういうことね。はめられた……」


 サキアは僕が侵入者という確証はなかったが、僕がサキアの言葉を肯定してしまったがために、自分自身を侵入者と認めたことになる。


 これは、僕にとって大きな弱みだろう。

 イカノスティア・フォルタートとは昨日会ったが、容姿端麗でありながらも冷酷な側面を持っているように感じた。


 僕が侵入者とバレてしまえば、厳格に処罰される可能性は十分にある。


「だから、あなたは私のものなのです。あなたは私の言うことに逆らうことはできません」


「……はい」


「よろしいです」


 この流れは良くないのでは。


「では、さっそく調理場に行きましょう」


「わかりました」


 サキアについて行って調理場に行く。


 サキアは口ではあんなことを言っていたが、別に怖い顔をしていたわけではなかったので、なるべく問題がないように平穏に過ごすことを目指す。


 階段を下りて、また長い廊下を歩いて行った。

 サキアが木製の大きな扉を開けると、その先には大きな厨房があった。


 ぱっとみたところ料理人は十人ほど。

 大きな鍋や中華鍋のようなものを使っている。


 今朝もフォルタート邸メイド部屋通りを通ってきたが、だいぶ部屋数は多かった。


 あのように使用人が大勢いるのなら、その分食料も相当な量必要になるのだろう。


 もちろん、フォルタート家の人々の食事と使用人の食事の内容は相当違うだろう。

 明らかに貴族がお召し上がるような立派な料理が一部に見える。


「ラビィ、ここにいる人たちが料理を作ってくれるシェフの方々です。私たち使用人の仕事の一つは、ここで作られた料理を運ぶことです」


「運ぶ? どこへ?」


「それは私が案内しますよ」


「はい」


 サキアは僕の背中を撫でながらそう言った。

 この服、生地が薄い気がする。


 色は黒だからパッと見たところはそんな感じがしないが、実際に触れてみると薄いことがわかる。

 それにしてもこの世界に来てからはボディタッチが多すぎないか?


 まだ女性だからうれしいところがあるけれど、男性もボディタッチが多かったりするのだろうか。

 あの厳格そうなイカノスティア・フォルタートがたくさん触ってきたりすると考えると怖い。


「まずはできた料理は、その配膳先にあわせてことなったところに持っていきます。しかし、ここの料理はフォルタート家の方々のために作られるため、送り先は決まっております」


 まさか、ここの調理場はフォルタート家専用のものだったのか。

 ということは、使用人のための料理はまた別のところで?


 フォルタート家が何人いるのかわからないけれど、十人のシェフとはかなり豪華。


「フォルタート家の方は常時九人おられます。このちょうど真下の階にある大食堂でお召し上がりになられるので、この部屋には下の大食堂へとつながる料理用の昇降機があります。シェフの方がここに料理を持ってきて、このベルを鳴らします」


 そう言ってサキアはベルをならした。

 そのベルは昇降機に備え付けられているものだ。


 ベルの音が響くと、昇降機が動いて料理が下に運ばれていった。


「今日はすでに下にメイドが準備しておりますので、彼女が昇降機を操作しています。ラビィにはそのような仕事をしていただきます。では、実際に下に行ってみましょう」


 サキアについて行き、大食堂についた。

 大食堂にはまだフォルタート家の人は来てないようであった。


 ただ、その大食堂内の様子はとても豪華であった。

 大きなシャンデリアが中央にあり、その下には縦長の大きなテーブルがある。


 そのテーブルも、備え付けられた椅子も、明らかに高級そうなものである。


 その部屋では一人のメイドがせっせと料理を運んでいる。

 身長は僕と同じくらいで、年齢もこの世界での僕の見た目と同じくらいだろう。


 元の世界では二十歳を迎えている僕であるが、(元の世界でもそうだったが)この異世界ではより若く見えるようである。


 彼女の年齢は十六~十八歳と言ったところだろうか。


「あ、サキアさん! と、どなたか」


「シラ、ご苦労様」


「サキアさん! 聞いてくださいよ! この前アイク様の書斎にお茶をお持ちしたら、いつもありがとうって頭を撫でてくれたんですよ! そのあと、エクスさまの書斎にお茶をお持ちしたら、お菓子をくださいました!」


 シラと呼ばれた彼女は明るい笑顔でサキアにそう話している。

 その身振りといい、かわいらしい。


「そういう話は休みの時にゆっくりしましょう。今は仕事中ですので」


「すみません!」


「あと、こちらはラビィ、これから新しくサーバントとして働きます。シラもそろそろ仕事に慣れた頃でしょうし、仕事を教えてあげてください」


 その言葉を耳にしたシラは少し興奮気味に話した。


「本当ですか! 私が教えてもよろしいのですか?!」


「ええ、あなたにお手伝いをお願いしたいです」


 シラが小声で、やったーとささやくのが聞こえた。


「こんにちは! ラビィさん。私はシラ。フォルタート邸八番メイドです。私がメイドの仕事について色々教えますので、よろしくお願いします」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


「私がここは教えるので、サキアさんは他の仕事に移っていただいても大丈夫ですよ」


「いえ、私もここにいます」


「そうですか」


「じゃあ、ラビィさん、ここでの仕事はまず昇降機から料理を取り出して机まで運んで並べます。私と同じようにしてください!」


 シラは昇降機で届いた料理を台車にのせて、机まで引いて行き器用に並べている。


 台車はもう一台あったので、僕はシラの後に続いて料理を台車にのせて引いていく。

 その台車の上には銀の食器が大半である。


 フルーツやスープ、メインディッシュなどは蓋の下にあるのだろう。

 ルアの家に住んでいたころには、お肉なんてものはごちそう品だった。


「ラビィさん。その食器は裏返してこんな風においてくださいね」


「あ、ごめんなさい。こうですね」


「そうです!」


 僕の慣れてない様子を見て、シラはうれしそうにサポートしてくれる。

 それを見て、僕もわからないことは積極的にシラに聞くようにした。


 どんなことも笑顔で教えてくれるシラは、僕にとってとてもいい上司だ。

 彼女を見習って僕も笑顔を大切にしよう。



「料理を並べ終えたようですね。それでは、フォルタート家のうち、アイク様とその奥様、お子様方を起こしてまわります」


 サキアについていくと、他の部屋よりも一段と大きく立派な扉を持つ部屋に次々と入っていき、フォルタート家の人々を起こして回っている。


「そういえばラビィは昨日アイク様に……イカノスティア・フォルタート様にお会いしていましたよね。あなたのことを気に入っていたようなので、起こしに行ってもらいましょうか」


 そういって言われるがままにサキアに連れて行かれる。

 どうやら使用人はイカノスティア・フォルタートのことをアイクと呼んでいるようだ。


 この世界の言語は英語などのように母音と子音で分かれていたから、そのような感じで通称などがあるのだろう。


 とある大きな扉の前で立ち止まる。


「それでは、私が先ほどやっていたように」


 そうサキアに背中を押される。


「わかりました」


 僕は大きな扉をノックする。


「おはようございます。イカノスティアさま。朝食の時間でございます。入らせていただきますよ」


 数十秒待っても返事がなかった。

 サキアに目配せをすると、入っても構わないという様子だったので、扉を開けることにした。


 扉を開けると、その部屋はとても広く、まさに貴族の部屋という感じの装飾品やら家具などが、細かなところまで高級品に囲まれた部屋であった。


 奥にある大きなベッドの上で寝ている人がいる。

 イカノスティア・フォルタートだ。


 顔をのぞき込むと、改めてその顔の綺麗さを知ることになった。


「イカノスティアさま? 朝でございますよ」


 彼の気分が悪くならないように、少し小さめの声で語りかける。


「……誰だ」


 イカノスティアはしゃべり始めたが、目は開けていない。

 体も起こしていない。


「ラテニアでございます。昨晩お会いした新しい使用人となったものです」


「……そうか、そういえばそんな奴がいたな。……ところでお前、寒くないのか?」


「……え? まあ、確かに寒いですね」


 なぜわかったのだろうか。


「そうか」


 イカノスティアがそのように言った瞬間、急に動き出しガバッと布団を高く持ち上げて僕を布団の中へ引きずり込んだ。


「え!? なんですか……?!」


「寒いって言っていただろう、これで温かくなるではないか」


 イカノスティアは僕を抱き枕のようにして布団の中でそのようにしている。

 確かに温かいけれどもわざわざこんなことをして欲しいなんて頼んでいない。


 まあ、ここはすごくいい匂いがするから、居心地が悪いわけではないけれど。

 だれか助けてー。


「アイク様、おやめください、その子は私のですよ」


「何を言っているんだいサキア。君も含めここフォルタート邸にあるすべてのものは私たちのものだよ」


 サキアが部屋に入ってきたようだ。

 サキアはこうなることを知っていたのだろうか。


「あーあ、サキアが入ってこなかったらもっと君を温められたのにな」


 もはやセクハラやパワハラの領域ではないのか、これは。


 イカノスティアは容姿が良いことを自分でも自覚しているのだろう。

 なんとかサキアに救済された僕は、ベッドから出てきてサキアのそばに駆け寄っていく。


「それと、ラテニアだっけ? ああ、ラビィか。私のことはアイクと呼んでくれ」


「……わかりました。アイク様」


「うん」


 アイクはすでに着替えを始めていた。


 ルアに色々されるのはうれしい時もあるが、アイク様までこんな事をしてくるのはやめてほしい。

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