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水面のうさぎ使い  作者: 柿丸
第一章 夜の街編
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第15話 2つの世界

 僕はルアやニータのいた世界から、元の世界へと転移してしまった。


 僕は、異世界へ転移した状況と、逆に異世界から元の世界へと転移した状況の共通点を探し出そうとした。


 それは、水が張っている所に倒れこむ、ということ。

 しかし、それを試してみても、異世界に戻ることは叶わなかった。


 そのまま僕は、再びベッドに入り、次の朝を迎えた。

 数カ月ぶりの朝日を浴びた。


 今日は、火曜日。

 火曜日……。

 つまり、学校がある。


 かなり久しぶりだけど、大丈夫かな。

 何をやっていたのか全然覚えていない。


 なんとか準備されていた朝食を食べ、必要そうなものをリュックに詰め、家を出た。

 途中で、例の空き家を覗いてみたが、兎たちを見ることはなかった。


 電車に乗り、着いた駅から歩いて大学へと向かう。

 これまでは意識せずに改札を抜け、乗るべきホームへと向かうことが日常であった。


 けれども、体感としては数カ月ぶりのため、道を間違えそうになった。

 駅を出るときに、声を掛けられた。


「よ、旭」


「あ……」


 ああ、和真か。

 僕の大学の友達。

 高校の頃から一緒にいる。


「おはよう」


「会社法の課題やった?」


「会社法?」


「おん」


 はて、会社法の課題……。

 そんなものがあったような、なかったような。


「まだだね」


「ま、俺もなんだけど」


 そんな話をしていると、大学に着いた。

 今日は二コマと三コマだけなので、いつもよりは遅く起きた今日も余裕をもって学校に着いた。


 まだ二年である僕たちは、講義の授業が中心で、演習の授業は二つ三つほど。

 今日ある授業は二つとも講義だった。


 授業中の教室には、メモを取りながら真面目に授業を受ける人もいるが、みんな後ろの席から座っていったり、ノートpcに隠れて寝ているような人もたまにいたりする。


「そういえば来年からのゼミの申し込み今日までですよね?」


「はい、私は先生のゼミにしましたよ!」


 授業の終わり際に、他の生徒と先生が話していたのを聞いた。

 そういえば、もうゼミを決めないと。


 このまま大学を卒業して、社会人となっていいのかという不安を急に思い出した。


 そういえば異世界転移をする前までは、この不安に押しつぶされそうになっていた。

 異世界にいる間はそんな不安すっかり忘れて過ごせていた。


 この不安というのは、このまま何も成せずに大学を過ごしていいのかという不安。

 思い返してみると、中学校の頃とかは普通に過ごせるようになることが将来の夢、とか何も面白みのないことを言っていたっけ。


 その普通に過ごす、ということが、成長するにつれて単純な夢とは程遠いものとなっていった。

 その、いわゆる普通の生活には、様々な問題要素が常に付きまとっている。


 仕事、お金の管理、人付き合い、税金、物価、これからの政治、世界の情勢……。

 考えれば考えるほど、明るい未来よりも暗い未来のイメージが大きく、普通の生活も暗いイメージが染みついてしまった。


 義務と責任が付きまとうようになる社会人になったら、間違いなく自分の行動幅が制限されてしまうだろう。

 そしてそれは時間的制約だけではないだろう。


 だから、この自分に時間も機会も残されているのは、この大学生の間だけではないかと考えるようになった。

 それでも、もう二年生も終わりが近づいている。


 大学生活の半分が終わろうとしているのだ。

 しかし、何も果たせていない。


 もはや、それは恐怖と言っても過言ではないほどの不安として、僕にのしかかっている。

 そんなことを思い出してしまった。


 あーあ。



 二コマ目が終わると、和真と学食を食べる。

 学食のメニューは日替わりだけれど、和真は固定メニューのカレーを週4で食べている。


 僕はちゃんと日替わりのメニューを食べている。

 特に、アジのマリネが好き。


 学食を食べている間は、最近二人の間でハマっているゲームやらの話をした。

 とはいっても、僕はあんまり内容を覚えていなかったので、和真が一方的に話す感じだった。


 三コマ目も終えて、帰りの支度をしている時に、異世界で聞いた言葉について和真に聞いてみた。


「ねえ、イートアって言葉、聞いたことある?」


「なにそれ。なんか聞いたことあるような、ないような」


 和真が大体こう言っている時は知らないかさっぱり忘れていることだ。

 多分聞いたことないなこれ。


「そういえば、昨日兎を見たんだよ! 外で兎って見たことある?」


「え? こんなところに兎なんているの? いやー、見たことないな」


「そっかぁ」


「写真とか撮らなかったの?」


「あ、確かに、撮ればよかった」


 これは不覚。

 帰路に着きながらも話し続ける。

 うーん。回りくどい聞き方はめんどくさいから、もうハッキリ聞いてみようか。


「異世界に行く方法って知ってる?」


「え……。え?」


「異世界に行く方法」


「……なんか、あった?」


「そういうのじゃなくて、なんていうか……趣味?」


 とっさに言い訳を考えたけれど、さらに引かれたかもしれない。


「なるほど、うん。俺はそんなお前でも友達だと思っているぜ」


「そこまで引くものなのか……?」


「まあ、で、異世界に行く方法? だっけ。そういうオカルト系はあんまり詳しくないんだよ。アニメとかだと死んで異世界に行っていっているイメージなんだけど」


「殺さないでください」


 その後も色々話してみたけど、特に重要そうなことはわからなかった。

 そもそも僕自身も都市伝説とか詳しくない。


 やっぱり空き家の兎たちが、頼みの綱って感じ。


「大学の図書館とかにないの?」


「大学の図書館?」


 そういえば思いつかなかった。

 というか、あるのか?


 大学の図書館に、都市伝説に関係する本なんて。

 絶対になさそう。


 文学部があるところなら取り扱っていたりするかな?

 まあ、物は試し。


 和真と別れた後、大学の図書館HPから検索してみる。

 異世界で検索。


 世界という単語に関連した書籍など出てくるが、ない。

 その代わり、面白そうな本を見つけた。


 生者と死者の世界分けの内容を持つ本だった。


 考え方によっては、生きる者の世界と死後の世界は異世界ともなるのかな。


 日本で代表的なものは黄泉比良坂が二つの世界の境界とされている。


 でも、この世界の分け方はどちらかといえば縦の関係というか、一元的なものだと感じる。

 ラノベとかで取り扱われる異世界は、どちらかと言えばパラレルワールドみたいなもので横の関係で、二元的な関係じゃないか?


 そんなことを考えていると、自宅の最寄り駅に着いていた。

 日もだいぶ傾いている。


 帰り際に例の空き家を覗いてみると、今日もロウソクの光が見えるような、見えないような。

 昨日は兎に集中していたからあまり外見は気にしていなかったけど、この家の外見は異世界にあったたてものと同じようにレンガ造りだった。

 けれど、僕が異世界転移する前からこの家はあって、レンガ造りという点では共通だけど構造自体は異世界のそれと違っている。


 異世界の建物は3、4階ほどの高さで縦長のものであったが、この建物は二階建てで、この世界の住宅地によくあるものだった。


 外から覗いていると、中から白い兎が一匹出てきた。

 こっちの方まで跳ねてきた。


『ラビィさん!』


『あ、えーっと、そういえば君のことはなんて呼べばいいかな』


『アンです!』


『アン、君がどこから来たのか、もう少し詳しく聞きたいんだけど』


『わかりました。では、来てください!』


 そう言って、アンは空き家へと戻って行った。

 他の兎たちがいると話が進みずらいから、二人で話したかったのだけれど。

 けれども、行ってしまったのならしょうがない。


 僕は空き家の中へと入って行った。

 昨日は窓から入って行ったが、それではまるで不法侵入しているみたいになる。

 実際、不法侵入であろうが、一応入り口から入っておこう。


 そう思い、正面玄関へと向かう。

 そこには、レンガ造りのその家によく似合っている、重厚な木製の扉があった。


 扉についているドアノブは金色で、より一層この家の魅力を引き立てている。

 そのドアノブに手をかけまわすと、さびついているのか砂が入り込んでいるのか、じょりじょりとした感覚がした。


 回るには回るのだが、押しても引いてもびくともしない。

 よくよく扉を見てみると、扉の下の方がまるで木の根のようにいびつに膨張しており、さらに地面に食い込んでいた。


 これじゃあ玄関からは入れない。

 結局、昨日と同じように窓から入り込んだ。


 中には相変わらず部屋いっぱいの兎たちがいた。


『げ! 人間だ!』


 部屋に入ると、一羽の兎がそう言っていた。


『あの人はラビィだよ』


『あー、そっか』


 やっぱり動物にとって人間ってのは恐ろしいものなのかな。

 かつて野生の動物にライオンの鳴き声を聞かせた場合と、人間の声を聞かせた場合の違いについての実験があったのを覚えている。


 その実験では、ライオンの声を聞いた場合よりも人間の声を聞いた方が野生動物が早く逃げていた。

 それほどまでに人間は他の動物に恐れられている。


『それで、私がどこから来たのかという話でしたよね』


『うん。昨日よりも詳しい話が聞きたかったんだけど』


 はたして、ちゃんとした話を聞くことはできるのだろうか。


『私たちは、ここより太陽の沈む方角にあるお社のところから、この家まで来ました』


 一体何のことだろう。

 太陽の沈む方角は西だよね。

 お社……そんなもの近くにあっただろうか。

 あ、神社か。

 あったあった。


『その、お社が君たちが住んでいた場所なの?』


『いいえ、お社のところにある大きな木の根を抜けてきました。その向こう側が、私たちの故郷です!』


 兎が木の根から出入りしている、イギリスにもそんな小説があるけれども。


『その故郷へは、僕でも行けるのかな?』


『行けると思いますよ!』


『それじゃあ、連れて行ってくれる?』


『良いですよ』


 すんなりと答えが見つかってしまった。

 ネットなり本なりで色々調べていたけど、結局この兎……アンに聞くのが一番早かったみたい。


 これでルアとニータの元へ帰ることができるのか……。

 いや、これは早とちりしてしまっている。

 ちゃんと確認しないと。


『その故郷には、ニータもいるのかな?』


『そうですよ。ついこの前、ニータさんが猫さんと犬さんの仲介をしていたのですが、その際に私も同行していました。最後にあったのはそのときですね』


『そっか、ぜひ連れて行って!』


 よし!

 これはほぼ確実だろう。


 神社にある木の根を超えれば、異世界。

 まだ実際に戻れるか試したわけではないが、すごくうれしい。


『連れて行きます! でも、帰るには月がない夜でないといけません』


『そっかそっか』


 新月まで待てってことか。

 ところで太陽がないのはイートアの街という異世界の中でも限定的なものだけど、転移には関係しているのだろうか。


 そういえば、異世界でアプリストが出るっていうのも新月だっけ。

 新月はそのように違った世界とのつながりができやすいのだろうか。


 ネットで次の新月を調べてみると、4日後だった。

 じゃあ、それまで準備をしよう。


 もしかしたら、これからしばらく異世界で過ごすかもしれないし。

 戻ってこない可能性すらある。


 ちゃんと心残りはないかを確認する。

 なければ、これから異世界でずっと過ごせばいいし、あったらまだ戻ってこられるはず。

 希望ができると、ふっと不安が消えて行った。


 兎たちしかいないはずのこの部屋には何故か暖炉がついているのだが、その暖かさと部屋にある家具と兎たちに囲まれ、くつろげるようになった。


 年季の入っていそうなソファに腰を掛けると、薬草と花のような匂いがした。


 深呼吸をしてぐったりしていると、兎たちが集まってきた。


 中には僕のお腹の上に乗ってくる兎もいた。

 みんなで身を寄せ合っている。

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