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水面のうさぎ使い  作者: 柿丸
第一章 夜の街編
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第14話 衝突

 兎が飛び越えて行った塀の向こう。


 あそこは、確か空き家。

 ちょっと見に行ってみようか。


 さすがに誰かのペットだという可能性が高いだろうけど、一応。


 外は夕暮れ時。

 自室の玄関に置いてあった懐中電灯を一応持って行ってにあの兎を探す。


 空き家の敷地を覗くと、そこには白い兎が二匹寄り添っていた。

 その緑色の瞳は僕を捉えている。


 空き家……ってのは、勝手に入るのはだめなはず。

 白い兎も、脱走したペットかもしれない。


 やっぱり、立ち入るのはやめておこうか。

 僕はその葛藤に頭を抱えていた。


『……ラビィ、そうでしょ?』


 心に、声が流れてきた。

 この感覚。

 この世界ではとても不自然。

 けれども、ついこの間まで当たり前だったもの。


 念話。

 二匹のうち右側の兎だと何故だかわかる。


 けど、なにか少し違う。


『こっちに来てよ』


 今度は左側の兎。

 僕が、返事をするということを考える間もなく、二匹の兎は敷地の奥へと入って行った。


 改めて考えると、とてもおかしな話。

 動物と話せているということ。


 これは現実なのだろうか。

 夢?


 駅で頭を打った可能性もある。

 幻聴?


 しかし、外に兎がいると言ったのは大家さんだ。


 僕は徐々にあの世界が実在していたということを理解し、涙があふれてきた。

 再び、あの世界に戻れる可能性が0ではない。


 それを確かめる為にも、兎たちについていくことを決めた。

 僕は、兎の向かった方へと、空き家の敷地へと入っていく。


 敷地内は、外からではわからなかったが植物が生い茂っていた。

 まるで、外側からこの空き家を隠すようなものだった。

 その植物の間を縫って行く。


 空き家の一室から明かりが見えた。


『ニータ? だよね。中に人はいないよね?』


 しかしその兎は何も返事をせず、空き家の空いた窓から中へ入って行ってしまった。


『ニータ?  ニータ?!』


『大丈夫ですよ、人は中にいません』


 人は中にいない?

 空き家には明かりがついていたが。

 

 けれども、もうここまで来てしまっている。

 僕は兎に引き続き、恐る恐るまどから空き家の中へと入る。


 そういえばニータってあんな喋り方だっけ?


 空き家の一室には、たくさんの兎がいた。

 たぶん十二匹ほど。


 小さくて白いもふもふが、わさわさしている。

 驚いたのは、その明かりはろうそくに灯った火だった。


 さっきの兎は、人はいないと言っていたが。

 さすがに、兎が火をつけたなんてことは……。


『改めて、お尋ねしますが、ラビィさんですか?』


『はい……たぶん』


『ニータさんからお聞きしました』


『ニータ? ここにはいないの?』


 やはり念話ができている。

 あの異世界は、夢や幻覚ではなかったのだ。

 

『いないです。ここからは少し離れているところにいるのです』


『そうですか』


 ここから少し離れているところ……。

 異世界のことを指しているのだろうか。

 何かしらの形で交信や行き来ができるのだろうか。


『今は会えないけど、近いうちに会えるよ』


 別の兎が話す。


『そっか。よかった……。ところで、なんで僕はここに呼ばれたんですか? ニータになにか?』


『ボクたちと話せる人がいるって聞いたから』


『そうですか。……それで?』


『で……。なんだっけ、みんな覚えてる?』


 ん?


『私も忘れてしまいました』


『僕は覚えてないよ』


『なんだっけ?』


『もう帰っていいよ』


 兎たちはそう話している。

 なぜ僕はここにいるんだ。


『えー、そういわれても……』


 わざわざ気になって来てみれば、帰れと言われるなんて。

 もうちょっと居ようかな。


 とりあえず一番近くにいた兎を持ち上げて膝の上にのせる。

 この中で唯一敬語で話してくれる兎。


 温かさが伝わる。

 十二羽の兎に満たされているこの部屋。


 いいな、この空間。

 幸せに溢れている。


 この感覚は、夢じゃないよね?


『君たちは、どこから来たの?』


 僕は目の前にいる兎たちに質問した。


『どこからだっけ?』


『……何あの虫』


『そろそろ寝ようかな』


『気がついたらここにいました』


 結局、僕の質問をちゃんと聞いていた兎が一二匹中二匹だけだった。

 ここにいる兎たちは会話が苦手みたい。


 その空き家の敷地は植物が生い茂っていたが、その空き家の中はつい先ほどまで人間が生活していたのではないかと思えるほど整理されていた。特にビンテージものの家具が目立っていた。


 そんな部屋を見渡すと、ちょっと見覚えのあるものがあった。

 それは、片手に収まるほどの植物の束。横には透明なガラス玉のようなものも添えられていた。


 この植物の束は、ルアの家や薬屋でよく見ていた。

 匂いを嗅いでみると、やっぱり懐かしい香りがする。


 まるで、あの世界に戻ったような感覚だった。


『さっき、中に人はいないって言ってたけど、普段はいたりするの?』


『いるらしいけど、私は見たことありません』


『へー……』


 どうしよう、どんなことなら聞き出すことができるのだろうか。


『君たちは普段からこの家に住んでいるの?』


『いいえ、この家に住むようになったのは、一カ月ほど前からです』


『じゃあ、その前はどうしていたの?』


『違う家に住んでいました。でも中はここと同じ感じです』


『違う家って、ここから遠いの?』


『いえ、少し離れているくらいで、近い方だと思いますよ。飛び越えてすぐなんで』


『飛び越えてすぐ?』


『はい』


『飛び越えて、とは?』


『ぴょんってして』


『ぴょん?』


『はい』


 なるほど?

 これじゃあ、異世界から来たのかよくわからないが、念話できているし。


 ……それ以降、兎たちを色々な話をしたが、結局兎たちは何をしたかったのか……。

 それでも、あの世界とのつながりがあることがわかったのは大きい。


 そして、あの兎たちがいることも、何かある。

 それだけでも、僕の人生は大きな転換期を迎えたことを意味するのだろう。


『ごめん、みんな。僕そろそろ帰らないと』


『わかりました。明日も来てくださいね』


『ばいばーい』


『今度、ニータも連れてきてね』


 いや、ニータを連れてきてほしいのは僕の方なのだが。

 そんなことを思いながら、僕はその空き家を出て行った。


 道路に面している部分を通って自宅に帰るとなると、通行人に見られるリスクがあるので、塀を超えて直接アパートの敷地に帰った。


 自室に戻り夕食の準備をした。

 夕食を食べ終えると、お風呂に入り服を着替え、ベッドで横になった。


 異世界はあるんだ。

 そして、兎たちは異世界とこの世界を行き来しているんだ。

 きっと僕も異世界に戻ることができる。


 早く、ルアのいる世界に戻りたい。


 異世界での生活を思い出していると、ふと思いついたことがあった。

 異世界は本当にこの世界とは別々なのか。


 もしかしたら念話というイトはこの世界から備わっていたという可能性もある。

 異世界で聞いた単語をネットで検索してみる。


 アルケジア王国、イートア、フォルタート、アプリスト、イェタン、メガラ・エラフィア……。


 メガラという単語以外がヒットすることがなかった。

 その検索結果もイマイチだった。


 つまり、何もわからなかった。

 この世界とルアのいる世界は、異世界という関係で合っているだろう。


 それが、どこかでつながっている。

 僕があの世界に行ったことと、あの兎たちがこの世界にいること。


 何か共通のきっかけがあるのではないか。

 僕があの世界に行ったのは、駅でのことがきっかけだった。


 これまでは気がつかなかった通路があった。

 そこにはしめ縄があり、照明が暗く、水たまりができていた。


 誰かに押されて、異世界に行った。

 一体いつから異世界だったのか正確には覚えてはいないが、倒れてからの最初に記憶である、目の前に倒れた兎がいた時点で異世界だったのだろう。


 すると、誰かに押されて水たまりに倒れこんだことが、きっかけ?


 次に、異世界からこの世界へと戻ってきたときの事を思い返してみよう。


 あの時は、寝ぼけていたけど、水を取りに行っていた。

 何かにつまづいて、倒れたら、この世界に戻っていた。


 すると、共通点は倒れたこと?

 両者とも前に倒れこんでいた。


 しかし、これまで何度も転んだことはあった。

 倒れたこと以外にもきっかけがあるのかもしれない。


 だとすると、候補となるのは水?


 まず、前提として駅の通路にしめ縄があって、水浸しになっていたことはおかしい。


 この点については、明日改めて確かめに行こう。


 この世界に戻ってくる直前には、水を持っていた。


 転んだ時には、水はどうなったんだっけ?

 覚えてはいないけど、十中八九こぼしていただろう。


 とすると、水があるところに倒れこんだことがきっかけなのだろうか。

 これまでに、水があるところに倒れこんだ経験は……。


 さすがにこれまで転んだ状況まで覚えてはいない。

 けれども、異世界転移した二回の共通点はこのくらいだろう。


 兎たちはどのように来たのだろう。


 さっき聞いてみたけど、全然答えが返ってこなかったんだよな。


 ニータはちゃんと話ができていたけど、他の兎たちは自由奔放すぎる。

 唯一、敬語で話している兎だけはまだ会話が成立しそうだった。


 今度はあの兎と二人きりの状態で聞いてみようか。

 もう少し詳しいことが聞けるかもしれない。


 そして、あの兎たちはニータから僕のことを聞いた、と言っていた。

 ニータは異世界間の移動の事を知っているのだろうか。


 そういえば、以前ニータに違う世界から来たことを話したことがあったが、すんなりと信じてくれた。

 疑ったり、冗談だと思ったりすることはなかった。


 そもそも兎に異世界という概念があるのかはわからないが、とにかく違う世界から来たということで納得してくれたのだ。


 とりあえず、ニータに会いたい。

 そうすればこの謎もわかるかもしれない。


 ルアにも会いたい。

 僕はベッドに倒れこみ、そのまま目を閉じた。



 目を覚ますと、まだ外は真っ暗だった。

 懐かしい感覚だった。


 普通は夜の家とか街は怖いはずなのに、それでも僕にとっては、その暗さが心地よいものにもなっていた。

 辺りを見渡すと、自分の部屋のままだった。


 ただ、夜が来ただけ。

 時計を見ると深夜の二時だった。


 ちょっと試してみようか。

 水に倒れこむことで異世界に転移することができるのかを。


 僕は台所に向かい、コップに水を汲んだ。

 これで、倒れこめば異世界に戻れるかも。


 コップを片手に、僕は突っ立っている。


 そして、中途半端に足を前に出す。

 出した足以上に体を前に体重移動させる。


 すると体が前かがみになって、頭から床に向かってバランスを崩す。


 手に持っているコップは放り出され、そこから水がこぼれて床にまき散らされる。


 その水たまりに吸い寄せられるように、僕の体は倒れこむ。

 水たまりに最も顔が近くなった瞬間、その水に反射する自分の顔を見た。


 ゴンッ!!


 あーーー。


 めちゃくちゃ痛い!


 完全に床に頭をぶつけた。


 最初に異世界転移した時にはなかったはずの感覚だった。


 どうやら、失敗のようだ。


 あたりを見回しても、やはり自宅の台所だった。


 僕が二回、異世界転移した際の共通点を試したが、だめだったみたいだ。

 さっきの兎が言っていた『ぴょん』も、このことを指していると思っていたのだけれど。

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