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Ep.28 チェンバレン男爵邸 前編

 

 春の季節3月目も最終週に入り、俺達はアカデミーの入学を明日に控えていた。

 

 入試の後、屋敷に来るのを渋っていたローワンだったが、10日以上もいればさすがに屋敷に慣れたようだ。

 母様の指令で屋敷の使用人が必要最小限に絞られていたこともあり、人見知りを発動することもなく、今ではアルと一緒に魔法の修行をしたり、みんなで食事をしたり、リラックスした日々を送っている。


 

 入試の日、ローワンの姓がバークレイと知ってすごく驚いた。

 あの転移魔法陣を開発したアリシャ=バークレイの娘だと言うのだから。


 アリシャは”アーサー王の秘宝”に殆ど出てきていなかったので、フルネームは知らなかったが、物語の中で転移魔法陣を使いながら”アリシャに感謝カンシャ!”と言っている奴らがいたので名前は鮮明に覚えていた。

 

 この数か月で得られた情報によると、アリシャ含むバークレイ一家を乗せた馬車は大雨の日に落石事故に遭っている。

 ローワンもその馬車に乗り、一緒に死んだと思われていたが、本人に聞くとその馬車には乗っていないとのことだった。


 アリシャやローワンが、”アーサー王の秘宝”の舞台である王歴2025年まで生きていたのかどうかは、俺が見た範囲では特に描写されていなかった。だが、アカデミーには、確実にバークレイという名の歴史学の教授がいたはずだ。


 フルネームまでは覚えていないが、おそらくあれがローワンの父親のセージ=バークレイだったに違いない。

 モルボーデン王国の歴史はまだ200年と短く、ほぼ全ての資料が現存しているため、歴史学は研究している者も少なく、正直マイナーな科目だった。

 それもあって、ストーリーには殆ど関与することもなく、良い声優なのに勿体ないなと思っていたくらいの記憶しかない。


 転移魔法陣が開発されていないことや、歴史学のバークレイ教授が死亡していることなど、現在俺が知りうる限りで、”アーサー王の秘宝”と異なっているのは、バークレイ一家に関することだけだ。

 これがどういう意味なのかは分からないが、きっと何か理由があるはずだ。


 

 「ケイ坊ちゃん。少しよろしいでしょうか」


 屋敷の内庭で、今日も魔法の修行をするローワンとアルの姿を見ていた俺に、執事長が声をかけた。

 王都の警戒が強まっている可能性を踏まえ、ローワンとアルは屋敷から一歩も出ず、外から見えないこの内庭で多くの時間を過ごしている。

 

 執事長はそんな二人の様子を見ながら、声を落として俺の耳元で話を続けた。


 「屋敷の外に警備隊が来ておりまして。屋敷の中を検めさせてほしいと」


 「警備隊が、、?ローワンのことを気づかれたのか」


 「いえ、おそらくそれはないかと」


 貴族の屋敷に警備隊が来ることなど、通常あるのだろうか。

 警備隊と言えば、街の治安維持部隊で、今でいう警察のようなものだが、令状は持っているのか。などと言えば追い返せるものなんだろうか。


 「中で話そう」


 ここで話を続ければ、きっと勘の良いアルに気付かれてしまう。あ、ほら、既に今ローワンの魔法の様子を気にしながらも、こっちに視線を向けている。

 

 二人に余計な不安を与えたくない。とりあえずこちらを見ているアルに、にっこりと微笑んでおき、俺は執事長と共に屋敷の中に入ることにした。



 「警備隊は中にローワン様が居ることを確信しているわけではない様子でした。おそらく、奥様がアリシャ様と交流があったという理由で目星をつけているのではないかと」


 すたすたと、屋敷の廊下を俺と一緒に歩きながら執事長が言う。


 「追い返せないのか?」


 「それが、屋敷の主人を出せの一点張りで、もう1時間ほど外におりまして。坊ちゃんのお手を煩わせるのは非常に申し訳ないのですが」


 「んー、わかった」


 今この屋敷にいるチェンバレン男爵家の人間は俺だけだ。王都に居るカイ兄さんは騎士団の寮に住んでいるし、ここは自分で対応するしかないだろう。

 アカデミーが始まる日には、必ず屋敷から外に出なければならない。明日まで居座られると面倒だ。とっとと疑いを晴らして追い払わないと。


 「貴族の屋敷に警備隊が入ってくるのって、普通のこと?」


 「とんでもございません。何の疑いもなく屋敷を検めるなど、言語道断にございます。旦那様や奥様がいらっしゃれば絶対にこのようなことはしないと思うのですが、、」


 「なるほど、今は三男坊の俺しかいないから舐めてるってことね」


 王に直結している騎士団とは異なり、警備隊はその地域の貴族や商人などが出資して組織している団体だ。だから本来であれば、貴族には強気には出ないはずだが。ここは王都だ。

 男爵と言う微妙な地位で、しかも三男の俺しか屋敷にいない状況だからこそ、強く出られるのだろう。


 ただの高校生だった俺だが、この数か月のモルボーデン王国生活で、すこしずつ貴族としての振る舞いに慣れてきた。

 ここはひとつ、貴族らしさを見せて、ビシっと追い払ってやりますか。

 

 

 整備されたおしゃれな庭園を抜け、執事長と共に正門の前までやってくると、閉ざされた門の前に立つメイド長と、警備隊の制服を着た3人の男たちが見えた。

 最初が肝心だよな。舐められないようにできる限り高圧的にいかなきゃ。


 「何の騒ぎだ。」


 貴族の威厳を見せつけるように、自分の出せる中でできる限り低い声を出す。

 メイド長に対し騒がしく文句を言っていたらしい警備隊の男たちは、俺の登場に話をやめ、門越しにこちらを見てきた。


 「これはこれは、チェンバレン男爵家のお坊ちゃま。この度はアカデミーへのご入学、まことにおめでとうございます。金にものを言わせた入学でないことを祈りますよ」


 ・・・予想以上になめられているパターンだ。

 先頭に立つ男が、俺に対してニヤリと性格の悪そうな笑みと共に盛大な嫌みを吐くと、左右にいた二人の男がクスクスと笑いだす。


 「しつけのなっていない奴だな。どこのクソ田舎かと思ったぞ」


 「おっしゃる通りでございます。王都の質もずいぶん落ちたようですね」


 「えぇ、もしご希望であれば我がチェンバレン領の警備隊から教育係を派遣するように伝えておきましょう。性根が腐っているようなので手遅れかもしれませんが」


 俺の考える精いっぱいの嫌みに乗っかるように、すました顔の執事長とメイド長が冷静な声のまま警備隊たちに向けて言う。

 チェンバレン男爵家の人って、なんでみんなこんな攻撃的なんだ?やっぱり家訓の影響なのかな。


 「なっ、男爵家風情が偉そうに!」


 思っていたよりも激しい返答が帰ってきたからだろうか、目の前の警備隊の男たちは顔を真っ赤にして口々に非難の声を上げ始めた。

 めちゃめちゃ怒るじゃん。カルシウム足りてないんじゃないのか。


 「で、何?門の前で騒ぐだけなら帰ってほしいんだけど。近所迷惑だし」


 「ゴホン。この家に罪人が逃げ込んでいる可能性がある。屋敷の中を検めさせてもらおう」

 

 「え、嫌だけど」


 「なっ」


 何故断られないと思っていたのか。と言うか、頼みごとをしたいなら開口早々嫌みとか言うな。馬鹿なんじゃないだろうか。


 「何しに来たのこの人たち。普通に考えて入れるわけないじゃん」


 「王都の警備隊は頭が残念なのですよ。何度も申し上げているのに、こうして1時間もここにいるのですから」


 「短気で短絡的な皆様には、この我が家秘伝のカルシウムキャンディを差し上げましょう」


 すました声で暴言を吐くメイド長と、ポケットから飴の包み紙のようなものを出して門の隙間から警備隊に手渡す執事長。

 なんて自由な使用人なんだ。貴族の屋敷、いいのかこれで、、


 「う、うるさい!拒むということは中に罪人を匿っているに違いない!よじ登ってでも侵入する!」


 顔を真っ赤にして再び怒り始めた警備隊は、ガチャガチャと音を鳴らせて門の模様に足をかけ、よじ登り始めた。


 「え、これありなの?」


 「いいえ駄目に決まっています!あなたたち、こんなことをしてどうなるかわかっているのですか」


 「うるせぇ!罪人を見つければ正当化される!屋敷に入ればこっちのもんだ」


 そう言った3人の男たちは、メイド長が声を荒げるのをよそに、どんどんと門に足をかけていく。

 どうする。水の魔法で撃退してもいいが、公務執行妨害とかこの国もあるのかな。不利になると面倒だし、、うーん。

 

 先頭の男が、門のてっぺんから飛び降り、チェンバレン男爵家の敷地内に着地した。

 もう迷っている暇はない。仕方ない、撃退するしか。


 「仕方ない、すいと、、」


 覚悟を決めた俺が男に向けて水遁を放とうとしたその時。


 耳元で轟音が鳴り響いた。



 そして、敷地内にいたはずの男の身体が、まるで逆再生のように、門を飛び越え外へものすごいスピードで飛んでいく。 

 

 「はいはい、そこまで。お前ら、王国刑法130条 邸宅侵入罪で処罰ね」


  聞きなれた声が響き、俺達3人が門の外を覗いてみると。

 

 「カイ兄さん!」


 そこには騎士団の制服を着て、騎士団の紋章を付けた白馬にまたがる、カイ兄さんの姿があった。


 「ケイ、こういう馬鹿には思いっきり攻撃してもいいんだぞ」


 そう言ったカイ兄さんは、門にしがみついていたほかの2人の男も、風の魔法を使って吹っ飛ばしていく。


 ごろりと、閉じられた門の前に3人の男の身体が積み重なるように倒れている。

 助かった。正直、どこまでやっても許されるのかよくわからなかったから、カイ兄さんが来てくれれば安心だ。

  

 「お、お前!俺を誰だと、、、、、な!カ、カイ=チェンバレン!」

 「リーダー、やばいですよ。狂犬カイです!」

 「お、おれ、まだ死にたくない、、!」


 馬に乗るカイ兄さんを、見上げるような姿勢になった3人の男は、カイ兄さんの顔を見た途端にズルズルとしりもちをついたまま後ずさり始めた。


 「お、俺のこと知ってるみたいだな。で、これ以上俺の家と、俺の弟に用ある?」


 「くっ、帰るぞ!お前たち!」


 にっこりと、妖美な笑みをしたカイ兄さんが、這いつくばる男たちに向けて言えば、警備隊の男たちは逃げるように走り出していく。


 そして、


 「まぁ、用がなくても許さないんだけど。」


 そう言ったカイ兄さんが呪文を唱えると。

 今まさに退散しようとしていた3人の男たちの身体が、空高く飛び上がり。

 


 そして鈍い音を立てて、地面に落ちた。

 

 「「「ぐぇ」」」


 ゴツンと、明らかに痛そうな音と共に地面に打ち付けられた男たちは、そのまま気絶してしまったらしい。



 「執事長、メイド長。こいつらその辺の木に括りつけといて」


 「カイ坊ちゃんお帰りなさいませ。承知しました。」


 素早く門を開け、カイ兄さんが降りた馬を受け取った執事長に、どこから出したのかじゃらじゃらとした鎖を手に持っているメイド長。

 

 開いた門から外に出たメイド長は、ついでですわ。と言い、男たちにバチバチと指から出した雷を当てている。


 なんだこの家。なんかここだけ世界観違うくね?



 「ケイ、元気にしてたか」


  門の方でメイド長と執事長が、警備隊たちにぐるぐると鎖を巻き付けているのを見ていた俺に、カイ兄さんが声をかける。


 「あ、うん。カイ兄さん、今日仕事は?」


 「ちょっと気になることがあるから抜けてきた。」

 

 騎士団の上着を脱ぎ、脇に抱えたまますたすたと屋敷の方に歩いていくカイ兄さんを、俺も門から視線を外して追いかける。


 「気になること?」


 「いるんだろ、ここに。ローワン=バークレイ」


 「え、」


 なんでカイ兄さんが知ってるんだろう。まだ母様にも、ローワンのことは知らせてないはずなのに。


 「・・中庭だな」


 諜報の魔法を使ったらしいカイ兄さんが、迷いなく内庭の方へと歩みを進めていく。

 俺よりも10cm以上背が高いカイ兄さんは、歩幅もでかく、そして少し風の魔法を使っているのか、ものすごく歩くのが早い。


 「ちょ、ちょっと待ってよ」



 カイ兄さんは、一体、ローワンに何をするつもりなんだ。

 


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