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1話 西暦2025年4月1日 渋谷


 西暦2025年4月1日


 高校一年の春休み。

 俺、小林こばやし 慶一けいいちは、いつものように友人の雄介ゆうすけと一緒に渋谷を歩いていた。


 

 ブルル、と大量の車やバイクが走りぬける音が聞こえる。

 平日の昼間だというのに、渋谷のスクランブル交差点にはうんざりするほどの人が行き交う。

 

 途中で立ち止まって写真を撮る外国人観光客や、お目当ての場所をスマホのマップを見ながらきょろきょろと探している新社会人らしき男性。

 こんなところで写真撮ってなーにが楽しいんだ。毎日ここ通って通学してみろ?うんざりするだけだぞ。


 巨大な電光掲示板からは、今日も流行りの曲が爆音で流れている。

 モニターには”アーサー王の秘宝” 第5期エンディングテーマ 「月明り」 Now On Saleという文字が大きく表示されている。


 昨日見た5期の最終話。面白かったな。



 「おい、慶一けいいち。お前昨日なろうで更新された"アーサー王の冒険”読んだ?まじでやばかったぞ」


 「おい絶対言うなよ。俺は完全アニメ派なの。ぜーーったいに原作は読まねぇって決めてるから」


 「あぁ。そういや"アーサー王の秘宝"。アニメ5期終わったんだっけ。いまどこ」


 「ノアが重大発見した。って言ってたとこで終わった」


 「あぁ、あの指輪もちの子ね。まさに今”アーサー王の冒険”の方でその指輪の話やってんだけどさ、それがマジで面白くて」


 「だーかーら。ネタバレすんなっつーの。」


 「いやいやアニメ見るって言ってもさ、お前が今見てるのがアーサー王の秘宝で、俺が今読んでるのはその前日談的な立ち位置の"アーサー王の冒険"の方だから。繋がってはいるけど200年も前の話だからネタバレになんないって」


 「うるさい。俺はアニメの世界観が好きなの。その前日談だっていつかアニメになんだからそれまで我慢するんだ」


 隣を歩く雄介ゆうすけは中学時代から同じ、サッカー部の同期だ。

 アニメや漫画、ラノベなどが好きで趣味が合うが、こういうところだけはマジで許せない。


 雄介は考察動画やネタバレ速報などをガンガン見るタイプで、人へのネタバレ意識も甘い。

 一方俺は気に入った作品はアニメで見ると決めているので、アニメが放映されるまでは原作もコミカライズも一切見ないようにしている。



 ”アーサー王の秘宝”とは、2020年に小説家になろうで連載開始されたWeb小説だ。

 アーサー王が残したとされる秘宝の力を使い、アカデミーに通う主人公たち5人が色々な謎を解決しながら、闇に立ち向かっていく話だ。


 まるで本当にその世界が存在しているかのような作りこまれた世界感と、多数の登場人物、細かな設定、歴史、張り巡らされた伏線が話題になり、瞬く間に人気ランキングを駆け上がった。


 同年完結した際には、書籍化、コミカライズ、アニメ化、映画化などが次々と決まり、社会現象を巻き起こす一大ブームになった。

 コミックス1巻が出た時に少し噂になっていたが、たまたま見たアニメ第一期のティザー映像のあまりの作画の綺麗さに、俺はアニメだけを見ることを決めた。


 完結から5年経った今。

 作者が新たに"アーサー王の冒険ーチート能力で気づいたら世界救ってました!?"というタイトルの連載を始めたらしい。タイトルから察するに、今時流行りの俺Tueee系だろう。

 雄介によると、アーサー王の秘宝の舞台である、王歴2025年から200年以上も前の話らしい。



 「あ、慶一けいいち。俺今日から予備校だから、東急で帰るわ」


 「おけ」


 スクランブル交差点を渡り終えたところで、雄介と別れた。


 予備校なぁ、高校生になったしそろそろどっか行った方がいいのかなぁ。でもおとなしくしとけば付属の大学には行けるしな。まぁ、そのうち考えよう。


 まだ昼過ぎだし、せっかくだからTURUYAでも寄っていくか。

 おひさま坂46のサインを見に行こう。我が推しこさかなの卒業センターだからな、記念に写真とろ。


 

 ハチ公あたりで立ち止まり、振り返って元来た道を戻る。

 もう一度スクランブル交差点を横断するのはしゃくだが、サインパネルの撤去まであまり日がないのを忘れていた。


 

 相変わらず人の数が多い交差点の先頭で、信号が青に変わるのを待つ。

 周囲にはスマホをいじっている人、友人とおしゃべりしている人、新作のフラペチーノらしきものを飲んでいる人。


 そして、斜め前の若い20歳くらいの男性は、大きな声で一人で話をしている。

 ヘッドホンをつけているから、電話でもしているのだろうか。

 俺もノイキャンのヘッドホン欲しいんだよな。この人の、ハイエンドモデルだ。


 「だからバークレイ教授の研究を元にするんだよ。」

 「アヴニールのを使えばいいじゃないか」

 「え?記憶が?いや確かにそれは困るけどさ、でもさすがに俺責任感じてるし。てかもう準備できてるから。あと魔力込めるだけだかんね」

 


 前の男性の黒い光沢のあるヘッドホンを羨ましさで眺めていると、つい男性の電話の内容が耳に入ってきてしまう、

 魔力とか、バークレイとか。なんか聞いたことがある単語が聞こえてくる。

 この人もファンタジー好きか?


 バークレイって、なんか聞いたことあるな。

 確か、"アーサー王の秘宝"に出てくる、歴史学の教授にそんな名前のおっさんがいたような。

 モブのわりにいい声優使ってんなーって記憶に残ってたんだよな。



 と、そんなことを考えている間に信号が青に変わった。

 前の男性はせっかちなのか、青に変わるよりも早く、すでに道路に向けて歩き出しているようだ。


 

 ジャカジャカと、周囲の広告からいろんな音が聞こえてくる。


 「お、おい。危ないぞ!」

 「キャー!!」


 歩行者信号が青に変わり、全ての車は止まっているはずなのに、どこかから大きなエンジン音と、クラクションを鳴らす音が聞こえる。

 スクランブル交差点を渡ろうとしている人たちは、異変に気付き、足を止め、音がする方向を向く。


 音がする方からは、猛スピードのトラックがクラクションを鳴らしながらこちらへ向かってきている。なんだ、トラブルか?

 信号待ちのため停車していた車たちが、危機を感じたのか、道を開けていく。


 車が端に寄ったせいで、障害物のなくなったトラックがまっすぐに交差点に突っ込んできている。

 

 「あ、危ない。」

 

 危ない。と、冷静につぶやいた声とは対照的に、反射的に足が前へ踏み出していた。


 くそ重い部活の鞄を放り投げて、ただ一心に、前を歩くヘッドホンの男の人の方へ。



 「お、おい!兄ちゃん!やめろ!」

 「死ぬぞ!」


 周囲の声は、男の人には聞こえていないようだ、

 進学祝いにAimpodsを買ってほしいと母親に言った時、あんなもの周りの音が聞こえなくて危ないからやめときな。と言われたことを思い出す。


 あぁ、母さん、確かに言うとおりだったかも。


 そして持ち前の俊足を生かして、目の前に見えたヘッドホンの男性の背中を思いっきり、前に向かって押す。


 

 暴走トラックは、もう目の前だ。


 

 突然猛スピードで激突してきた俺に背中を押された男性から、ヘッドホンと、何かきらきらした小さなガラスのようなものが飛び出していく。

 



 やばい、間に合わない。




 猛スピードでお兄さんの背中を押したのはいいものの、自分の逃げ道を考えるのを忘れていた。


 馬鹿、本気で馬鹿だ。

 来月はこさかなの卒コンに行かなきゃならないし、明日発売の漫画の新刊だって読まないといけない。


 

 大きく前に倒れたお兄さんがなにかを大声で叫んでいる。

 何を叫んでいるのか全然聞こえないが、無事ならいいか。


 あ、走馬灯ってこんな感じなんだな。と意外と冷静な自分の声が頭に響いたところで、



 ドンっと、鈍い音がして



 意識が途絶えた。


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