表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/57

Ep.12 監視 後編

 

 「さんきゅ!給仕係!まじで助かったよ。執事長に言いつけられた仕事が終わらなくてさ!」


 「これは貸しにしておく。必ず3倍で返せよ」


 門の調査の後、大量の納品物を厨房や備品室に運び終えると、ちょうど見計らっていたように執事見習いの男が現れた。

 魔法を使うこともできず、重い箱を持って門と屋敷を3往復もしたのだ。いつか必ずこいつに復讐してやろう。


 「悪い悪い。お詫びと言っては何だが、お前のベッドの上に雑誌置いといたからさ。今週の”The noble”、お前の好きなキール様の特集だから。」


  そして、昼食当番は変わってやるから、部屋で読んで来いよ。と、執事見習に背中を押され、しぶしぶ給仕係の部屋までやってきた。


  本当は一刻も早く、ローワンの元へ先ほどのことを伝えに行きたかったが、これ以上魔法を使うと変化が解けてしまいそうだ。気配を探ることもできないので、午後に地下室で合流するしかない。



 使用人の部屋があるエリアの一室を開け中に入ると、部屋の中には窓際に二つ机と椅子のセットが並び、左右には小さなクローゼットとベッドが置かれていた。

 どうやら給仕係と執事見習の男は、2人部屋で同室のようだ。

 給仕係の妹を装って手紙を書く際、テーブルの上に出ている手紙を参考にしたため、部屋の様子をしっかり観察したことはなかった。


 ベッドに置かれている”The noble”と表紙に大きく書かれた雑誌を手に取る。

 表紙には、プラチナブロンドにあおい瞳をした少年がバルコニーから手を振っている姿が描かれている。


 ページを捲ると、”今月号は、完璧な貴公子、キール=ロジャース公爵子息を丸裸!?ご趣味から強さの秘訣まで大特集!!”と、大きな字で書かれていた。

 どうやらこの国の貴族についての情報が書かれた書籍のようだ。

 おそらくこの国のはとても平和で、そして国民は貴族に対し悪くないイメージを持っているようだな。

 情報収集になるかもしれない、後でゆっくり読ませてもらおう。


 服の下に隠した手のひら程度の大きさの革袋を取り出し、雑誌を中に入れる。

 すると、革袋の数倍はあるはずの雑誌が、すんなりと中に納まった。


 これはローワンの母親の研究室から拝借してきたものだ。どういう原理かは不明だが、見た目の数十倍の物をしまい込むことができる。

 おそらく、これもローワンの言っていた錬金術研究所で取り扱っている道具なのだろう。



 「少々調査していくか」


 先ほどメイド長は、この男の仕事は監視だと言っていた。何か参考になるようなものなど持っていないだろうか。

 

 ベッド脇の引き出しを開けると、早速そこには無造作に紙の束がしまわれていた。

 ”マニュアル”と書かれている。これはおそらく先ほどメイド長が言っていた、燃やすべきマニュアルだろう。


 「この男が優秀な監視役という線は確実に消えたな」


 燃やしていないどころか、部屋を開けるというのに鍵もかけずに放置していくとは。どこまで間抜けなのだろう。まぁいい、私にとっては好都合だ。



 ぱらぱらとマニュアルを捲り、素早く目を通す。

 中には通常の使用人として覚えるべきことが記述されていた。


 一般的な貴族のテーブルマナーや、カトラリーの並べ方、皿の種類に加え、

 使用人が利用できる通路や休憩室、食堂、シャワー室の地図

 それから、


 マニュアルの最後の方のページには、簡易化された地下室の地図が示されていた。

 昨晩見た通り、やはりローワン以外の人間には、研究室やホール、図書室などがある地下室の右側のエリアは見えない可能性が高そうだ。

 地下室の入口から左側に曲がる道と、ローワンが掃除をしていた食糧庫や倉庫、骨董品の置かれた部屋等のいくつかの鍵のかかっていない部屋が記載されている。


 そして、入口から少し離れた場所にある部屋に、大きく赤いバツ印がされていた。

 おそらく、これがメイド長が言っていた、ローワンを近づけてはいけない部屋に違いない。

 

 ランプの部屋からは少し離れた場所にあり、少なくとも私は近くを通ったことはない。ローワンを探すついでに、後で様子を見てくるか。

 

 先ほどの雑誌と同じように、マニュアルを首に掛けられていた革袋の中にしまい込む。

 特にこれ以上の目新しい情報はないが、燃やしたものとして持って行っても良いだろう。

 


 ほかにも何か情報はないか、引き出しの中に手を突っ込んでいると、

 くねくねと曲がった針金のようなものと、それに巻き付けられた小さな紙を見つけた。


 巻き付けられていた紙を開いてみると、そこには給仕係の男の筆跡らしき文字でこう書いてあった。


 ”この針金を使えば、どんな鍵穴でも開けることができる!俺様はやはり天才だ”


 

 給仕係の男は、探偵ではなく怪盗だったのではないだろうか。しかも猛烈に間抜けな。

 こんなものを引き出しの中に残していく意味が理解できない。

 見つかった時に言い逃れもできないし、こんなことをわざわざ文字に残しておく必要もないだろう。

 


 まぁいい。メイド長が、ローワンを入れてはいけない部屋には大きな南京錠が掛かっていると言っていたから、この針金を使わせてもらおう。

 見たところ魔力の形跡も感じられないし、これはただの針金だ。鍵穴に合わせて曲げたりすることで、運が良ければ鍵が開くということだろう。


 もはやこれは罠なのではないだろうかという気もするが、使えるものは使うしかない。




 給仕係の部屋から出て、地下室へ向かう。

 風の魔法を使えないためローワンの気配を探ることはできないが、午後は地下室の掃除をするはずなので、待っていれば会えるだろう。


 昨日掃除をしていた倉庫をいくつか覗いてみるが、そこにローワンの姿はなく、掃除をしていた形跡も見られない。


 もう昼食の時間も終わっているはずだが、ローワンはどこに行っているのだ。

 先ほど庭を覗いた時には姿が見えなかったが、どこかでまた仕事でも押し付けられているのだろうか。


 「まぁいい。ローワンが来るまで、マニュアルに載っていた部屋の様子でも見てみるか。」



 マニュアルに書かれていた通りに地下室を歩く。

 食糧庫や倉庫を通り過ぎ、しばらくまっすぐ歩いた後、角を6回ほど左右に曲がる。

 

 なかなか入り組んだ場所にあるようだ。

 5分程歩いて、地図の示す場所の前に着くと、そこには普通の扉があった。

 てっきり魔法で隠されていたり、ランプの部屋のように壁しかないものかと思っていたが、大きな南京錠がついている以外は至極普通の扉だ。


 給仕係の部屋で見つけ出した針金を取り出し、南京錠の中に差し込む。

 

 カチャカチャと左右に回したり、上下に振っていたところ、カチャリと音がして、非常に簡単に南京錠が外れた。

 給仕係、なかなか優秀な男だ。



 何がある部屋かわからないため、いざとなれば変化を解いてでも魔法を使えるようにしておかなければ。

 大きく深呼吸をし、少しの変化も見逃さぬよう、慎重に扉を開く。



 中に現れたのは、


 「なんだ。ただの部屋ではないか」


 何が現れるのか警戒していたが、扉を開いた先にあったのは普通の部屋だった。

 赤い壁紙に、緑色の落ち着いたカーペットが敷かれている。ランプの部屋の半分ほどの大きさしかない正方形の小さな部屋だ。

 今のところ、魔法の気配や特に危険そうなものは置かれていなさそうだ。


 ドアを閉め、部屋を見回す。

 家具や置物はなく、壁には数多くの肖像画が飾られていた。

 描かれている人物に見覚えはないが、雰囲気が似ている人間が多い。歳をとった男の絵もあれば、子供の絵、夫婦のような男女が描かれている絵もある。

 

 部屋の正面にある、ひときわ大きな絵に近づく。

 赤い髪をした、優しそうな顔の男性だ。


 壁に掛けられた肖像画の額縁を少し持ち上げ、裏を覗くと、画家のサインらしきものと共に文字が書かれていた。


 ”ダヴィエ=バークレイ

 誕生 王歴1800年 夏の季節1月目第1週

 没年 王歴1860年 冬の季節3月目第4週”


 ローワンから聞くところによると、確か今日は王歴2025年 春の季節2月目 第2週の2日目だ。

 1年は大きく分けると4つの季節に分割され、季節ごとに3つの月がある。

 そして各月ごとに数は異なるが、大体1つの月につき第4週まであり、1つの週は7日で構成されているのだそう。


 おそらくこの肖像画は、200年以上前に生まれたバークレイ伯爵家の人間だろう。


 ほかの肖像画の裏もいくつか確認してみたが、皆バークレイという名を持ち、そして多くの者は赤い髪だ。

 これは歴代のバークレイ伯爵家の人間たちの肖像画と考えて間違いないだろう。


 歴代ということはおそらく、ローワンの両親のものもあるはずだ。

 部屋をぐるりと見渡すと、一番真新しい肖像画は、入口から一番遠いところにひっそりと掛けられていた。

 両親と、小さな少女の3人の絵だ。


 額縁の裏を確認すると、予想通りの名前が書かれていた。

 ”セージ=バークレイ、アリシャ=バークレイ、ローワン=バークレイ”

 ”王歴2014年 秋の季節2月目”


 中心にいる少女は5,6歳だろうか。確かにローワンの面影を感じる。両親が亡くなる前に描いたものなのだろう。

 

 

 だが、メイド長は何故この部屋をローワンに見せないようにしたのだろう。

 両親のことを恋しがるからだろうか。もしくは、伯爵が赤い髪ではないからか。

 しかし、ローワンは6歳以前の記憶がないわけではない。自分や両親の容姿を見ればそれはすぐにわかることだ。



 何か、他に理由があるはずだ。



諸事情により暦の概念を登場させたのですが、管理が大変なので序盤以降はあまり登場しない予定です。ローワンの誕生日は現代で言うと5月1日です。

•1年は冬の季節1月目~秋の季節3月目までで1サイクル

• 春夏秋冬の4季節、1季節につき3か月、1月につき平均4週

 ‐春の季節(1月目Apr,2月目May,3月目June)

 ‐夏の季節(1月目Jul,2月目Aug,3月目Sep)

 ‐秋の季節(1月目Oct,2月目Nov,3月目Dec)

 ‐冬の季節(1月目Jan,2月目Feb,3月目Mar)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ