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Ep.11 お客様

 

 「ま、まぶしい、、、」


 寝不足のローワンは、焼けつくような太陽の日差しの元にさらされていた。


 じりじりと、まだ高い位置にある太陽が、容赦なく全身に降りかかる。

 あまりにも暗すぎる地下室はどうかと思うが、明るすぎるのもそれはそれで辛いものがあるのだな。と、ローワンは思った。

 


 昨晩、地下室のホールでアクルが給仕係に変化した。

 その後、夜が明ける前に急いで自分のベッドへ帰ろうとしていたローワンは、地下室の出口を出たすぐのところでメイド長に出くわしてしまった。


 誕生日以降、メイド長と会うことがなかったというのもあるが、

 夜中の廊下に、幽霊のようにメイド長が立っていたので、ローワンは思わず悲鳴を上げてしまった。


 窓から入る月明りのみが照らしている薄暗い廊下で、ランプを持った寝巻のメイド長が立っていたのだ。

 こんな時間にどこに行っていたのか、地下で何をしていたのか、としつこく問い詰められ、ごまかすのにかなりの時間を要した。


 適当な嘘を延々と並べ、不満そうなメイド長からようやく解放されたころには、もうあたりが明るくなっていた。


 

 それから2時間だけ仮眠をとり、眠い目をこすりながら何とか朝食当番をこなした。

 そして、自分の分の朝食も済ませ、地下室で庭倉庫の掃除を再開しようとしていたところ、昨日仕事を頼まれた庭師に呼び止められたのだ。



 「明日、伯爵様がお客様と一緒にご帰宅されるらしい。準備があるから手伝っておくれ」


 ”伯爵様”という単語に、身体が少しこわばるのが分かった。

 用心しろ、と言っていたアクルの言葉を思い出す。ついに伯爵様が帰ってきてしまうのね。


 それにしても、お客様とは誰だろうか。

 この10年、使いもしない客室の掃除を延々と担当してきたのだ。バークレイ伯爵家にお客様がいらっしゃったことなど一度もないはずだ。

 

 あとでアクルにも教えてあげよう。と、ローワンは使用人食堂を見渡す。


 使用人用の食堂には、屋敷中の使用人が朝食を食べに訪れるが、見渡す限りアクルもとい給仕係の姿は見えない。

 どこに行ったのだろうか。と考えているうちに、早くしろと庭師に腕を引っ張られ、あれよあれよという間に庭に連れてこられていた。



 

 というわけで、2時間ほどしか寝ていないローワンは、焼け着く日差しの下で泥だらけになりながら草むしりをしていた。


 

 バークレイ領は1年を通して温暖な気候のため、作物がよく育つ。

 それは雑草も例外ではないようで、数日で庭中のいたるところから雑草が伸びてきてしまうのだ。


 広い庭園のすべてを庭師だけで管理することはできないため、よく下っ端のメイドが草むしりに駆り出される。

 ローワンはメイド歴10年のかなりの古株なはずなのだが、周りの使用人に押し付けられていつもこの損な役回りが回ってくるのだ。


 大抵は邸宅の裏手にある、一番雑草の数が多く、一番大変な場所をあてがわれることが多い。

 この場所はほとんどの使用人がやりたがらない場所なので、これは確実にメイド長の嫌がらせだろう。と、ローワンは思っている。

 

 

 屋敷の裏手には巨大な森が広がっている。

 森と屋敷の間には背の高い柵があるため、野生の動物に襲われることはないのだが、いかんせん虫が多いのだ。


 もしここに本物の給仕係がいれば、地下室の時より遥かに鬱陶しいことになっていたに違いない。

 ローワンは汚れた手袋で顔を汚さないように注意しながら、袖で額の汗をぬぐった。

 

 「お腹すいた。そろそろお昼の時間よね」


 それにしてもアクルはどこに行ったのだろうか。

 給仕係の姿をしているので、ローワンのように突然の来客に備え、忙しく仕事をしているのだろうか。


 あたりをきょろきょろと見回していると、ふと、森の方に小さな生き物のようなものが居るのが遠目に見えた。柵からかなり離れたところにいるようで、ローワンのいる位置からは良く見えない。


 ローワンは少しずつ、柵の方へ近づいていく。

 白い、四足歩行の生き物のようだ。ウサギだろうか。

 

 先ほどまで森の中を歩いていた小さな白い動物は、脚を止めてその場で座り込んだ。

 長く伸びた尻尾をくねくねと動かして、なぜかローワンの方をじっと見ているような気がする。



 「猫だわ。なんで森の中なんかに」


 柵のぎりぎりまで近づいて見たところ、森の中にいるのは、白い毛並みの美しい猫だった。

 金色の瞳をしていて、なんだか高貴な顔立ちをしているような気がする。


 猫の白い毛は、森の中にいるというのに全く汚れていないようだ。

 身体が小さいようだが、飼い猫なのだろうか。でも、このあたりには民家はないはず。


 「あなたはどこから来たの?」


 久しぶりに見る猫に、ローワンの心は躍った。

 屋敷に動物がいないので、その猫はたまに見かけるイノシシや野鳥以外で久しぶりに見る生き物だった。


 

 柵から手を出せば、こちらに来てくれたりしないだろうか。

 ローワンは先ほどまで抜いていた雑草の中に、ねこじゃらしがあるのを思い出した。

 

 そうだ、あれを使えばいいんだわ。

 雑草の山からねこじゃらしを発掘し、柵の方へもっと近づこうとしたところ、


 

 「あなた!!何をしているの!!!」



 背後から聞こえてきた声に、柵に近づこうとしていたローワンは飛び上がった。

 

 それは、本日二度目のメイド長の怒号だった。



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