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サンテ!みんなの健康

「何だ、新聞、ニリヤ様もやりたいのかよ。青2点〜!」

「やりたいよぅ。いろんなこと、しりたいの。おやくに、たちたいの!」


ニリヤは、遊び着に気に入っている、新聞販売の制服で、猫耳のキャスケット帽を被って、アルディ王子に、ピトッと引っ付いた。

「アルディ、いっしょやろ?しんぶん、つくるところ、てれびでばんぐみにする!」

「うん、やってみたい!」

「まぁ、ニリヤ様がやるなら、テレビになるよな。でも、新聞ができるまで、って、どうなってるんだろ?青3点〜!青のチームの勝ち!休憩だぞー。」

はーい、と声があちこちからして、タタタと青チームも赤チームも駆けてくる。

ピッチャーに用意してあった、はちみつレモン水を、木のコップでこく、こく、とみんなで飲む。

「んく。竜樹に聞いたら教えてくれるかな。」

これも庭で遊ぶようになってから用意された、木のベンチに座って、話を続ける。

「つくってるとこ、みにいきたい!」

「新聞社か?見せてくれるかな、子供に•••。」

「紙に刷るところも見たいね!あんなにいっぱい、同じ紙ができるしくみ、知りたいよ。」

うーん、竜樹に聞いてみてだな。

ジェムが、ふっ、と息を吐いた時、後ろから。

「何の話してるの?」

「混ぜて混ぜて〜!」

オランネージュと、ネクターがやってきた。

猫耳帽子と、ふさふさ尻尾で。

みんなのめんどり、可愛いオーブが、ジェムの横に来てコココと笑った。



ブレイブ王は、ワイルドウルフ国の王宮に帰ってきた。

お帰りなさいませ、と迎えてくれた豪華な赤巻毛に、狼耳の先っちょが金毛のラーヴ王妃は、きょろ、と金の目を動かして、小さな弱い自分の子供、アルディを、恐る恐る探した。

だが、どこにも居ない。

ホッとすると同時に不安にもなり、夫であるブレイブ王に問う。


「あなた、アルディは•••。」

「アルディは、置いてきた。」


なっ!

絶句して、ラーヴ王妃は、ブレイブ王をまじまじと見つめる。


「父上、アルディが、何か。かの国との間で、問題でも?」

母王妃と似た毛色の、耳の金毛が若干多いファング王太子が、金黒の目を見張り、王を伺う。やはり赤毛の、先が金の尻尾を、一瞬、ボワっとさせて、ピーンと張った。


「問題は何もない。むしろ、良い事があった。ああ、詳しい話は勿論するが、これからちょうど、アルディの出るテレビの番組をやるのだ。帰るのが番組に間に合って良かった。落ち着いて皆で見られる部屋へ。」


てれび?

良い事?


大きなハテナを頭に浮かべ、ラーヴ王妃とファング王太子は、ただただ、何故か機嫌の良さそうなブレイブ王の後を付いていった。



『サンテ!みんなの健康、の時間です。今日は、ワイルドウルフ国からいらした、アルディ王子殿下をお招きしています。こんにちは、アルディ殿下。』

『こんにちは。今日は、よろしくおねがいします。』

司会の女性と、アルディ王子が、目礼をし合う。

『こちらこそ、よろしくおねがい致します。』


「あなた、アルディが、この板に映って!」

「これがテレビというものなのだ。まぁ、見ていなさい。これは、収録だよ。前もって撮影したものを、編集して流しているんだとか。私はこの撮影に、立ち会ったのだ。」


横長の額縁に入った、大人の片腕程の長さの画面に、アルディが映って喋っている。咳き込まずに、訥々と、だが、しっかりした口調で。


「アルディ•••。」

「アルディ、大丈夫なのか?」


ラーヴ王妃とファング王太子は、口を開けたまま、画面にじっと見入っている。


緑色も艶やかな植物のある、爽やかな淡い水色の壁板のセットで、花を小さく飾られたテーブルを前に、2人が喋っていく。

『それでは、アルディ殿下は、ずっと咳に悩まされておられたんですね。』

『はい、そうなんです。何でなのか、分からなくて、発作が起きると、とても苦しかったです。』


『それが、ギフトの御方様のお国で言う、ぜんそく、なのではないか?と、こちらに来てお話して分かってきたのですね?』

『はい。ぜんそく、に、当てはまる事が、たくさんあったんです。』


『ここで、ぜんそく、とはどんな病気か、簡単に説明を致します。ルルー魔法療法師、よろしくお願いします。』

『はい、ぜんそくとはーーーー。』

絵も描かれて、わかりやすくしたボードを出して、ルルーが説明していく。


「体質、喉の炎症、原因、ほこり、緊張、気温差、あなた、あなた、これはーーー。」


『炎症を、癒しの魔法で治すと、発作が収まり、咳が止まったんですね?』

『はい。すっと、喉が開いたんです。苦しくなくなって、本当にびっくりしました。』


「癒しの魔法ーーー。」


『癒しの魔法は、身体の中の、過剰に反応しているところを正常に整えますから、炎症を治し、発作を抑える事ができるのだと考えます。』


『反応する刺激を避ける必要があります。カビやホコリは、浄化する事で、避ける事ができます。温度差は、部屋の温度などを工夫する必要があるでしょう。緊張は、全てを避ける事はできませんが、癒しの魔法を使いながら、なるべくリラックス、緊張をといて、物事に臨めるよう、刺激にはならない、穏やかな良い匂いの香油を用いてマッサージや、暖かい飲み物を飲んだり、手を温めるなど、工夫をするといいですね。また乾燥も良くないです。』


『癒しの魔法が、いつでもどこでも発作の時使えるように、魔道具にする案が出ているそうですね?』

『はい。お試しの魔道具を、お見せしますね。これがあると、本当に、ホッとします。』

丸い手のひらに収まるほどの魔石を、装飾したペンダントにした、綺麗な魔道具を手にとってアップで見せる。

喉に当てて、ちょっとだけやってみて。


『運動も、出来なかったのを、出来るようになったとか。』

『はい。遊んでるところ、撮影してもらったので、見てください。』


準備運動をして、バドミントンを、楽しそうにするアルディ王子。

アハハ、ハハ!と笑って、猫耳帽子の王子達と楽しく遊ぶ。


「なんてことーーー。」

ラーヴ王妃が、目を見開いたまま、ぽろ、ぽろ、涙を溢す。

「アルディ。こんなに遊べるんだな。」

ファング王太子も、涙の滲んだ目だ。


『生活していくにあたって、注意点はあるけれども、癒しの魔法を使う事で、できる事が増えるのですね。』

司会の女性が、ルルーに振る。


『はい。しかし、この病気については、すぐ治るというものではなくて、様子をみながら、長期的にいかなくては。また、従来の、お薬を使った療法とも、上手に合わせていければ、と思っています。』


『そこで、アルディ殿下が、この国に留まって下さって、お試しの治療を受けてくださる訳ですね?』

『はい。どこまで、ぜんそく、と同じか、お試しです。でも、良くなるきっかけになって、同じ症状の人の、助けになればと思います。』


『そこで、ぜんそく治療チームからの、お願いです。同じような症状の方や、癒しの魔法を使っての治療に、何らかの心当たりがある方、特に癒しの魔法を長期に受けた記録など、詳しい情報を募集しています。まだ癒しの魔法を長期に受けた場合の、副作用などが分かっていません。ぜひ、癒しの魔道具を、安心して、正しい使用法で、使っていただくため。また、咳の病の方に、心やすく生活してもらうため。皆様のご協力をお待ちしております。宛先は、こちら、王宮内テレビ局ぜんそく係、まで、お寄せください。』


『もし、ぜんそくであれば、大人になれば、症状が落ち着く場合もあるとか。そんな例も、お待ちしております。』

『よろしくおねがいします!』


『それでは、また、この募集のご報告や、アルディ殿下の様子など、サンテ!みんなの健康、でお伝えします。アルディ殿下、ルルー魔法療法師、ありがとうございました。』


『『ありがとうございました!』』


『みなさん、ごきげんようーーー。』


「アルディ。アルディ。あんなに元気に走り回って。ああ、あなた!」

「驚くのはまだ早いぞ。電話をここに。」


タブレット型の電話が運ばれてくる。

立てられるようになっているので、ブレイブ王とラーヴ王妃、ファング王太子の並んで座るソファの前、テーブルに、置かれて。


プルルルル!


アルディ、と書かれた文字の上、丸いデザインをポチッと押す。


「はい、私だ、お父様だよ。」


『お父様!テレビ、みてくれましたか?私は、ハルサ王様に、王妃様、竜樹殿や王子殿下達、ルルーと一緒に、みました!』

ニコニコしているアルディ王子が、パシフィスト国の面々と映っている。


「みたとも、みたとも。お母様と、兄様とも、一緒にみたよ。お母様など、びっくりして、泣いてしまったよ。」


えっ!とアルディ王子。

眉を寄せて。

『驚かせてごめんなさい、お母様。でも、私、だいぶ楽になったんです。こちらで、お試しの治療をして、病気との付き合い方を学びます。』


「アルディ、苦しくないのね?発作が、抑えられるのね!」

『はい!』

良かった、良かったわ。

ラーヴ王妃の涙は、枯れる事なく、次々にこぼれる。


『それで、私、私、ワイルドウルフの国に戻ったら、兄様の助けに、なりたくて。』

「! アルディ、本当に?」

ファング王太子も、唇を噛んで、手をギュッと膝の上でにぎって、堪えて。


『はい、それで、何ができるか、まだ分からないけど。今は、新聞を販売しているジェムに誘われて、竜樹殿にも教わって、子供新聞を作ってみたいと思ってるんです。ワイルドウルフの国について、みんなどう思ってるか、聞いた記事を書きたいです。』


「アルディ。私、私を、助けてくれるのかい?」


『はい!』


ファング王太子は、ふーっ、と息を吐いて、俯いて、目をこする。

「いつも、みんな、私なら出来る、って言って、何でも出来なきゃいけないみたいになって。正直、疲れて、重くて、辛かった。」

いつも、気を張って凛々しくいるファング王太子が、何か憑き物が、抜け落ちた顔をして。


『兄様•••。』


「でも、アルディが助けてくれるなら、頑張ろうと思う。何だか、ホッとしたよ。ありがとう、アルディ。」

ぱち、ぱち、目を瞬かせる。

照れくさそうに笑うファング王太子に、アルディ王子は、ふおっ、と興奮して、

『私もがんばります!待っていてください、兄様!』と言った。


「ハルサ王様、ギフトの御方様、ありがとうございます。癒しの魔法が、アルディの、お咳にいいなんて、私達では、決して思いつく事ができませんでした。」

ラーヴ王妃が、ハンカチで目を押さえながら礼を言う。

ハルサ王は、いやいや、ギフトの御方様のおかげだよ。と言い、竜樹は。

『俺も、癒しの魔法があって、それが効くとは、みんなに聞くまで思ってなかったですよー。でもあれですよね、癒しの魔法、細胞を正常に整えてくれるんだったら、癌、悪性腫瘍なんかにも効きそうですよねー。』


『がんとは、なんですか!癒しの魔法が、他の病気にも効くと!?』

ルルーが突っ込む。


『いや、もしかしてだよ、もしかして。あれだ、癒しの魔法は、治癒の魔法で悪くなる人にかけたら、落ち着くんだろ?』

『そうです、そうです。』

『それって、治癒力を活発化させると、一緒に活発になっちゃう、悪性の腫瘍、つまり正常じゃなくなった細胞なんかも、整えたりしてないかなって。』

『しかし、一時は良くなっても、また悪くなっていきますよ。』

『うーん、癌とかって、取り切らないと転移したりするくらいだから、癒しきって消えてなかった、って事はない?身体の中が見られれば良いんだけどね。俺のいた国では、白黒の断面図で見られたけど、そういう魔道具ってつくれーーー。』

『た、竜樹様。やっぱり竜樹様といると、面白い!それは私に作れって事ですね!ルルーが、魔法を使って患部が分かるみたいなのを汎用にーーー。』

チリ魔法院長が、画面の向こうから突如として現れて(電話とテレビの繋がりを確認していたのである)竜樹に絡んだ。

ルルーは、キラキラっとした瞳で、竜樹を見ている。


わちゃわちゃ、としたところで、ブレイブ王はクスクス笑うと、「そちらの国では、医療がだいぶん進歩しそうだな。我が国にも是非、ご教授願いたい。」と言った。


『お父様、お母様、兄様。アルディは、元気になって、色々な事を学んで、戻って参ります。』


「待っているよ、アルディ。」


私達は、ずっと、アルディを待っているよ。

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