みんなであそぼ
「強くなりたい、ってことは、アルディ殿下は、弱いの?」
しゅん、とお耳と尻尾を下げて、アルディ王子はしおたれた。こくん、と頷いて、モミモミ尻尾をもみながら、竜樹に言う。
「みんな、私が弱すぎて、傷つけてしまいそうで怖いから、一緒に遊べない、って言う。」
「そうなの?会ってお話していると、そんな感じはしないけれどな?」
「強そうに見えるよ?」
「うんうん。」
「おおかみ、かっこいい!」
「それについては、私から話をさせてくれまいか。」
ブレイブ王が、ハルサ王と一緒に、お祝いの花輪から抜いた白い花を、一輪差し出し、近づいてきた。
「竜樹殿。もし良かったらなんだが、ブレイブ王の話を聞いてみてくれないかね?彼にも訳のある事だから。」
「是非ともお願いしたい。ギフトの御方に、無理強いしてはいけないのは、分かっているが、アルディの事で、きっかけだけでも掴めたらと•••。」
花を受け取る。
「お花、いただきます。後で押し花にしよう。」と、側にいたタカラに渡す。ミランは普段通りカメラを回しているが、「撮影していても、大丈夫ですか?」と聞くと、秘密にしている話ではないから、と了承された。
ブレイブ王は、アルディ王子を撫でながら、ため息をつく。
「アルディは、まだずっと小さな頃から、咳の出る病気で•••。発作が出ると、とても苦しそうで、出てない時も、喉がぜいぜい、息がヒュウヒュウして。医師も何人にも診てもらったし、薬も沢山取っ替え引っ替えして飲んではみたが、完全には治らず。」
ある時、温暖な別荘地に連れて行ったら、よくなった事があったのだが、そこに長く居ると、また発作が出るようになる。
3ヶ所程別荘地を巡りながら、なんとかここまで大きくなったのだ。
「食も細いし、肉があまり好きではなくて、身体も大きくならなくて。同い年の獣人の子達と比べると、細くて小さいから、同じ遊びが出来なくて。何とか、発作だけでもなくしてやりたい。この国は、我が国より温暖だからか、今は咳が出ないのだ。」
この状況が続いてくれればと思うが。
「なるほど。でも、俺は医者じゃないから、治療法は、分からないですよ。知らずに変なこと言って、悪化したら目も当てられないし。」
「それはわかっているが、何か、そう、ギフトの御方様のいたお国で、似たような病気などなかったか、だけでも。」
う〜ん。
「咳っていうと、喘息っていうのが有名でしたね。ちょっと待って下さいな。」
スマホを出して、検索する。
「おお、何だね、それは。文字が、見られる板?」
「スマホっていいます。元いた国にあったものを、神様が使えるようにしてくれたんですよ。」
んー。
「喘息は、気道や気管支が炎症で狭くなって起こる。発作の原因は、アレルギー反応で、カビやホコリやストレスに気温の変化とか、色々あるみたいです。」
うーむ、と狼耳を左右にハタハタと倒して、ブレイブ王が唸る。
「気温は確かに、昼夜の差が激しいと咳き込んでいるように思う。ホコリか•••部屋は綺麗に掃除しているし。あ。」
思いついて、手を顎に寄せて。
「私達には、巣作りの習性があって。」
ふむふむ?
「子供の頃は特に、自分の匂いの寝床が安心するから、掃除はするんだが、あまり頻繁にシーツを取り替えなかったりする事がある。敷布団も、干したりしないし。」
あら〜。
「大人になれば違うのだが、特にアルディは、夜、咳で眠れなかったりしたから、あまり寝具をいじらないようにしていたんだ。」
ホコリ、ホコリか。
むむん。
「寝床を掃除するくらいなら、やってみても悪い事にはならなそうだし、良いかもですね。あと、あれだ。浄化って、どうなのかな。」
「浄化の魔法か!獣人は、魔法が使える者が少ないから、思いつかなかったな!ふむ、ふむ。それなら匂いは消えずに、ホコリが綺麗になるかもしれぬ。」
「気道の、炎症を抑える、って、向こうの薬は使えないから、何か手立てはないのかなぁ。ポーション的なものはあったりしないんですか、この世界。」
ポーション?
みんなが首を傾げている、ということは、ポーションはこの世界には無いらしい。
「いや、そもそも薬は色々飲んだのか。魔法ではなんかないんですか?」
「あるな。地味な魔法なんだが、炎症を抑える、ちょっとした癒やしの魔法があるよ。」
「病気を治す魔法は、かけてもらった事があるのだが、余計に悪くなってしまって。ただ、炎症を抑える魔法ではなかったな。」
「試しに、ちょっとだけ、塩梅みながら魔法かけてもらったり、できますかね?悪化したら困るから。」
「チリに聞けば、適任者を派遣してくれるだろう。」
ハルサ王が、うんうん、頷いて言う。
「良くなるといいですね。あとは、お肉か。」
獣人は肉好きで、大きな体格をつくる為にも、毎食肉は欠かせないのだという。
「アルディ殿下は、肉、どんな所が嫌なの?」
「お肉は、なんか肉くさい匂いがするの。国では、分厚く切ったのを焼いて食べるんだけど、それだとちょっとしか食べられないの。」
肉の匂いか〜。
「肉の匂い消しね。お酒につけたり、色々あるみたいだけど、それをやって、細かくしたりしたら、食べられないかなぁ。今日、試しに、お酒に漬けた肉で、生姜焼きとか食べてみる?」
醤油の作り方を検索して、魔法で時間を進めて作ったので、生姜焼きが食べられる。
「もし肉が食べられなくても、筋肉をつくるタンパク質だったら、たまごの白身とか、お豆とかあるから、試してみよう。」
「わ、私達は、肉が好きなものだから、肉でないといけないと思っていた!他のものでも、いいのだな!」
ブレイブ王が、ふんっと意気込んで。
「やっぱりギフトの御方様に聞いてみてよかった!もしこれで、うまくいかなくても、貴方を責めたりは、決してしないから、安心しておくれ。食べ物の事だけでも、ありがたい。」
アルディ王子は、ポカンとして口を開けていた。
浄化?臭みをとったお肉?
我慢する事で何とかなってきた、この身体だが、我慢しなくても良くなるのだろうか?
「私、強くなれますか?」
「約束はできないけれど、やってみようよね。食事だけでも。」
それで、もし良くなったら、みんなで外で遊ぼうよ。
「あそぼ、あそぼう〜!」
「竜樹、あれ、作ったやつ、やろうよ!」
「バドミントン!ラケット貸してあげるからね!」
午後には、きっとジェム達も帰ってくる。
ご飯を食べて、お昼寝して、遊ぼう、みんなで。