銅貨8枚
兵達が、人でのバリケードを作っている。販売所の前では、参加する貴賓も揃い、新聞発行の式典が始まる。
「本日は新聞発行の式典にお集まりいただき、ありがとうございます。ーーーー。」
この度改めて、厳しい審査を経て任じられた新聞社社長の、ありがたいお言葉が終わると、次は新聞初号の贈呈式である。
「本日は、我が国と友好条約を結んだワイルドウルフ国のブレイブ王様、アルディ王子殿下が、来てくださっています。」
もちろんこの国の王様もいて、王様には社長が新聞を渡す予定だ。
最初は、式典が小さな販売所前ということで、警備の問題もあり、バラン王兄殿下が出席する予定だったが。ブレイブ王が出席する事になり、どうせ厳重な警備をするなら、と王様がノリノリで出てきたのであった。
ちなみに王様は、4コママンガと、あの人にインタビュー、のコーナーがお気に入りである。あと、ついつい読んでしまう、人生相談。人生相談は、竜樹も回答者の一人として参加している。
「それでは、新聞初号の贈呈です!」
社長が王様に。
オランネージュ王子が、ブレイブ王に。
ネクター王子とニリヤ王子が、アルディ王子に。
「第一面に、ブレイブ王様とアルディ王子殿下が掲載されているので、見てみてください!」
「しんぶん、よんでください!」
「カッコよく写ってます!」
「ありがとう。楽しみに読ませていただくよ。テレビや新聞など、この国は面白い試みが沢山ですね。」
「あり、ありがとう。」
ぴる、ぴるる、とアルディの狼耳が震える。
周りから拍手が湧き上がる。
友好条約を結ぶにあたり、ブレイブ王とアルディ王子歓迎の宴はあったが、迎える側の王子達は、子供のうちは通常、宴には出席できないのだった。
諸々のスケジュールの都合で、この式典が、王子達の初対面。
「アルディ、この国の王子殿下達と、仲良くお話ししておいで。私はハルサ王と話してくる。」
竜樹は王子達のすぐ側に立っていた。式典に参加して一言、と頼まれたが、辞退している。テレビを主にするためだ。新聞はこんな記事あるよと実物のデジタル化したものを見せて伝えたが、今後は自由にやっていって欲しい。困ったことがあったら、相談にはのるが。
ギフトの御方様の印のマント、緑の宝石の留め具をした竜樹をチラチラ見て、ブレイブ王はハルサ王に近寄っていく。新聞をそれぞれ見ながら、談笑している。
残された子供達は、まずオランネージュから、アルディ王子に声をかける。
「初めまして、アルディ殿下。私は第一王子、オランネージュです。アルディ殿下のお耳、とっても素敵ですね。」
「第二王子、ネクターです。尻尾もふさふさで、カッコいいです!」
「だいさんおうじ、ニリヤです。おみみとしっぽ、うごくのですか?」
「初めまして、オランネージュ様、ネクター様、ニリヤ様。ワイルドウルフの第二王子、アルディです。耳としっぽ、ほめてくれて、ありがとう。どっちも、うごきますよ。獣人は、考えてることが、耳としっぽで分かります。」
ヘェ〜。
「ぼくのおみみも、うごいたらいいのになぁ。」
頭に手をやり、お帽子の猫耳を両手で、ぴん、とひっぱる。
「動くと考えがバレちゃうから、都合の悪いときはあるよ。嫌だなーとか、好きだなーとか、分かっちゃう。」
「じゃあ、アルディ様たちは、嘘がつけなかったりするの?」
「あんまり嘘つかないけど、時々うそつくよ。」
正直だな、アルディ殿下。
「そうだよね。私も、作ったジャムを食べすぎたときとか、ウソつくことはあるよ。竜樹が、ジャムの直食べは、1日1回だけ!って言う。」
やっぱり、ネクターは、時々ジャムを盗み食いしていたのだな?減りが早いと思っていたよ。
オランネージュは知らん顔してるけど、多分やってるな。
「たつき?って誰?」
王子達が、側に立つ竜樹をぐるーりと顔を振って見た。
「ししょうだよ。」
「自由なんだって。」
「ギフトの御方様だよ。」
ぴこぴこ!
興味津々、といった顔で、アルディ王子殿下が竜樹を見上げる。お口が開いてるけど、そんなに珍しいかなぁ、と竜樹は苦笑した。
「初めまして、アルディ殿下。畠中竜樹と申します。竜樹でいいですよ。ギフトの御方、をやってます。」
胸に手を当て、目礼すると、アルディ殿下は、ピーンと尻尾を立てて、ふさっ、と落とした。
「あの、あの、ギフトの御方様。あまり、その、賢者様のようって、聞いていたけど、ふ、ふつうっぽい?方なのですね!」
ハハハ。どんな想像をしていたのだろうか。いかにも賢者そうな、メガネかけてたりとか?
「私は普通の人間ですよ。アルディ殿下とは、髪と目の色が一緒だから、親近感ありますね。」
「は、はい!あの、私、聞きたいことが•••。」
「みなさま、販売の準備が整いました。これより、新聞とパンとミルクを販売致します。まずは、街のまとめ役、酒屋のビッシュさんに、第一号のお客様となっていただきます。ご来賓の皆様、誘導に従って、来賓席まで願います。」
何か言いかけたアルディ王子だったが、誘導の係から促されて、しょんぼりと来賓席へと下がった。
王子達も、同じく下がったので、竜樹も来賓席の端っこから、販売を見守る事にした。
ジェム達が、販売所内に3人とその外に1列に並んで、緊張した表情で、スタンバイしている。酒屋のビッシュ親父は、何だか目をシパシパさせながら、満面の笑みで、銅貨8枚を握りしめていた。
「ちょっとは太れたみてぇだな、ジェム。」
「うん。腹一杯食わせてもらってるよ。ビッシュ親父、新聞、これからよろしくな。」
「ああ。贔屓にするよ。じゃあ、新聞とあんぱんとミルクをくれ!」
お代だよ、と銅貨8枚を差し出す。
「ありがとうございます!新聞とあんぱん、ミルクですね!」
ジェムが新聞を取り、紙で包んだあんぱんをロシェが、ミルクを注ぐのはアガットがやる。さあどうぞ、と差し出し、ビッシュ親父はゴシゴシ目の辺りを擦ると、大事そうに受け取った。
すぐにベンチに座って、じっと新聞の1面を見る。
先程式典に出ていた、獣人の王様と王子様が、大きく写真で載っている。
「えらくそっくりな絵だな!そのまんまじゃねえか。」
「写真ていうんだぜ、ビッシュ親父。」
ふふん、とジェムがドヤ顔をする。
カランカラン、ハンドベルを鳴らして、司会が販売開始の合図をする。
「それでは本日の新聞、パン、ミルクの販売を始めます。皆様、どうぞ押し合わず、1列にお並びください!」
販売の子供達は、あと一ヶ所の販売所へも行かなければならないから、二手に分かれて動き出す。スムーズに移動できるよう、兵が付いていく。これから半刻遅れで、もう一つの販売所は売り出しするのだ。
貴族の使用人なども、主人のために新聞をと並び、定期購読のチラシとあんぱんを手に、ほくほくと帰っていく。
販売所は盛況で、狙った通り、午前中で売り切る事が出来そうだった。
来賓席では、配られたばかりの新聞を、語り合いながら読み合いしている。
「なかなか詳しく載っているんですね。それに、さまざまな分野の事を載せているのも、面白い。」
「ギフトの御方様によれば、テレビと違って、流れて行ってしまわないで、じっくり何度も読める所が、新聞はいい、そうです。貴族も民も、情報を手に入れる事で、豊かになれる、可能性を広げる、と。読みたいものがあれば、民達も読み書きを覚えやすいでしょう。」
だから子供向けの記事も載っているのですね。
ハルサ王が、ブレイブ王に説明していると、うんうん、とブレイブ王は頷き。
「そのギフトの御方様の事で、お話が•••。」
アルディ王子は、新聞を販売している間、来賓席でもじもじと尻尾をいじっていたが、王子3人に、「お友達になれる?」なんて、親しく話しかけられ、こくんと唾を飲んで、3人に尋ねた。
「私、竜樹殿に、聞いてみたいことが、あるんだけど、聞いても大丈夫かなぁ?」
「大丈夫だと思うよ。」
「竜樹、こわくないよ。」
「ししょう、やさしいよ〜。」
ほんと?
じゃあ、聞いてみるね。
などと、竜樹に丸聞こえな相談の様子を、竜樹は微笑ましく待った。
「あの、あの、竜樹殿。」
「はい、何でしょう、アルディ殿下。」
「私、私、強くなりたいんです!どうしたらいいですか?」
強く。
それは、難しい質問だね!