夜明けのひよこ
「ししょう〜!ひよこなの!」
「兄ちゃんに貰った!」
んん?
竜樹とオランネージュが、交流室の隅のテーブルで、新聞記者の募集要項をメモっていると。
ネクターとニリヤとジェム達が、手のひらにふわふわのひよこを乗せて、そうっと、そうっと、戻ってきた。
「遊びに行ったんじゃなかったのか?ひよこ?」
「ランセ神様からの、たまわりものです!」
ミランがカメラを回しつつ、補足する。
「そだててね、って。よわいこなの。だいじにする。」
「助けて欲しいって、貰ったんだよ。仕事で育てられないんだって。」
「たまご産むそうです。食べても増やしてもいい、とおっしゃってました。」
わぁわぁ、と興奮して喋ってくる子供達とミラン。
ピヨ。
それから、片足が、くの字に折れた、ひよこ。
「•••うん、うん、そうだ。子供って、生き物拾ってくるもんだった。みんな〜、生き物育てるには、ちょこっと覚悟が必要です。」
かくご?
ニリヤの手のひらから、竜樹は、ひよこを受け取って、腿の間に乗っけて、そっと撫でた。あったかい、生命の鼓動を感じる。ピヨ。
「たとえば飽きちゃっても、毎日の餌やりや、面倒みるのをやめたら、ダメなんだぞ。死んじゃうから。」
俺達も手伝うけど、ちゃんと、みんなで、分担決めて、育てられるか?ひよこ。
子供達は、みんな口を開けて、大人しく竜樹の言葉を聞いていた。
「俺たちみたいに、捨てられたら、生きられない?ってこと?」
「そうだ。」
「すてないよ!だいじする!」
「うん、捨てない!」
約束できるか?
「やくそく、する!」
うんうん、と子供達みんな、真剣に頷く。
「じゃあ、育ててみようか。ひよこってどう育てるのかな?検索したら、わかるかな•••。」
今、調べてみるから、ひよこの名前をつけてあげて。
腿の間が温かいからか、ひよこは、ピヨとも鳴かなくなり、蹲ってふくふくになった。
「名前、何にしようか。」
「ふわふわだから、ふわふわちゃん!」
「えー。カッコいい名前がいいよ。」
「どんなの?」
「アレキサンダーII世とか。」
おいおい、初めてのひよこでⅡ世かよ。
竜樹はプフッと笑ったら、笑うな〜!と怒られた。ごめんごめん。
「何か、温度が大事みたいだな。あったかくしないとだ。あとは、空気を新鮮に。うーん、あと、エサの事とか、ランセ神様に聞いてみようか。」
それがいいです、いいですよ!
ミランが激しく同意した。
竜樹
「ランセ神様。
もしよかったら、教えてください。
いただいた、ひよこ、エサや水など、
気をつける事ありますか?
今はみんなで、名前をつけてます。」
ぶるるん。
ランセ
『やあ。ひよこについて 教えるよ。
そのひよこは 温かくしてあげること
人の体温が とても必要な
寂しがりやの 鳥だよ。
いっぱい 抱っこしてあげて。
夜は ひよこの間は 湯たんぽでね。
新鮮な水と エサ
エサは 何でも食べるけど
乾いた穀物や 青い菜葉を食べるよ。
自分でも 草や 虫
砂や 大きくなったら
砕いた貝の殻なんかも 食べる。
人の 愛情が たっぷりあるほど
じょうぶに育つから
可愛がって あげてね。』
竜樹
「ありがとうございます!
大事に育てます。」
ランセ
『子供達を 守る 加護のある
ひよこだから みんなで飼うといい。
新聞の お店に 付いて行きたがったら
連れていくと いいよ。
トイレのしつけも 覚えるよ
朝と 夜 決まった場所に
トイレします』
竜樹
「わかりました!
子供達を見守ってくださり、
ありがとうございます。」
ランセ
『たくさん 頑張って
くれてるから これくらいはね。
では またね。』
やりとりを読み上げると、子供達は、ふおおお、と声上げて、驚いていた。
神様が、くれたんだ!とか、加護があるって!などと、顔を見合わせて。
「それで、名前は決まった?」
「オーブは、どう?夜明けの意味だよ。」
オランネージュが言うと、
「おーぶ。」
「オーブ。いいじゃん。」
「お日様色だもんね。」
「オーブに決まり!」
ひよこは、オーブ。
デカい巣箱をギコギコ木っ端を切って作ってやり、毛布の端切れを敷いてやり。
お水と餌とを準備してやると、そこでヒョコヒョコ、確かめるように動いて、水を飲み、エサを食べ、またふくふくになって寝た。
エサやりと、水換えの係を、交代で作って、ボードに書いて、カレンダーに丸をつけてチェックすることにした。
オーブは人肌が好きなようで、ほっとくとピヨピヨ寄ってくる。抱っこの順番も作り、遊びの合間にあたためてやることになった。
ジェム達は、新しい生活への変化で、不安に思っていたが、オーブを抱っこすることで、癒された。段々と落ち着いてくるだろう。
「かえりたくないの。おーぶとじぇむたちと、いっしょいるの。」
「温めてあげたいよ。今日も、寮に泊まろうよ。」
「私も、寮に泊まりたい。それで、募集要項の事とか、みんなで話しようよ。」
王子達は、ぐずぐず、寮にいたがった。
うーん。
落ち着くまでは、仕方ない。




