閑話 パージュの元彼達は
『求婚♡大作戦』会場に、連れて来られていた、パージュの元彼達はどうなったであろうか。
元彼達は、王兄殿下と結ばれたパージュを見ていて、面白くなさそうに舌打ちをした。
元は自分の女だったパージュである。自分の女は自分のもの、自分の自由にできる。そんな認識で付き合いをしてきた男達は、あっという間に幸運を身に纏った元カノが気に入らない。上がるなら自分コミで上がれよ、と、もう関係ない間柄なのに思うのである。
王様が、伴侶を得て天晴れ、王子達も良くやりました、の挨拶をして退出すると、竜樹はバラン王兄殿下とパージュさんの所へカメラ込みで行った。
「バラン王兄殿下、パージュさん、おめでとうございます。めでたい所でなんですが、さて、パージュさんを脅してた、元彼達はどうしますか?」
え、今言う?
たらり、元彼達は冷や汗をかく。
ここで取り沙汰されて、どう考えても良い事になりっこない。
神の目カメラで撮影されていた、パージュを貶める行動をテレビで放送された事で、街中での扱いも最低になっている。この上何かあったら、王都で生きていけないんじゃないか。
「脅して良い目をみようとするような輩は、もう2度とそれで得する事はなく、代わりにダメージがあるばかりだと認識させねば、何度も搾取しようと寄ってくると聞く。甘いものにたかる虫のようだな。」
「今後は、何かあれば王兄殿下の婚約者に手を出したという事で、捕縛断罪の対象となりますかね?」
それはある。
「書類上はまだだが、テレビの放送で求婚が成立した事で、今後正式に婚約者として認められるからね。書類上も早く手続きしたいものだ。そうなれば、より強固な護りがつくようになる。何かあれば、切り捨てても構わないくらいの。」
切り捨て。
ぞっ、と背筋が凍る。
そもそも王族に楯突くとは、そう言う事である。そこから甘い汁を吸おうなんて、元彼達の考え自体が、甘々だったのだ。何なら秘密裏に消されるくらい、あるかもしれない。
元彼達は、バラン王兄とパージュの元へ引っ張って連れて来られると、がくがく、と膝折れて倒れた。
「君たち、まだパージュ君から、何か美味しい思いを貰おうと思っているのかね?」
いつも甘い笑顔のバラン王兄殿下、こういう時は、ばっちり王族の威厳を醸し出す。
「いいえ!いいえ!思ってません!今後は絶対、パージュには近づきません!誓います!」
「お、俺も誓います!」
「わ、わたしも!」
パージュ?
呼び捨てを気にした、バラン王兄が唸る。
「いえいえ、パージュさん、いえパージュ様とお呼びします!とにかくもう関わりません!どうかお見逃しを!」
「お願いします!」
「ではね。君たちの言葉だけでは信じられないから、取り外しできない、魔石の刺青をさせてもらうよ。」
その刺青は、魔法陣になっていて、位置も把握できるものなのだけど、パージュに一定以上の悪意を持って行動した瞬間、悪意に反応して、弾けるように作ろうか。
「場所はどこが良いかな。やっぱり、心の臓がある、胸の真ん中あたりかな。」
え、と口を開けた元彼達は知る。
これからは、パージュに羨ましいと舌打ちする事さえ、出来なくなるのだ。
思いは自然と湧き出ずるものだが、それを死によって制限されるということだ。
「なに、パージュに悪意さえ抱かず、遠くで生活する分には、何も支障はないよ。悪意を感知した時には、まず痛みが生じるから、そこで思い直せば、何の不自由もなく、生き延びる事はできるだろう。」
私はあまり殺生は好かないし、自分でやり返す武力もなければ、不審な人物に、人手をずっとつけるのも勿体無い。
「このくらいが、王兄の婚約者を脅した者に与える、精一杯の温情なんだが、どうかね?」
「えげつないですね。でも、いいと思います。要は、よそで勝手に平和にやってろよ、という事ですね。」
「始末してしまう方がよほど簡単だがね。今後もずっと位置を確認しなければならないし•••。でも、パージュ君に、怖がられたくないから•••。」
ある意味怖いお仕置きだ。
だが、パージュも、王兄殿下の婚約者となる覚悟を、この事でしっかりと持てた。親しまれるのはいい。だが、国をまとめる王族の一員となるには、侮られては、いけないのだ。
わあわあ叫ぶ元彼達は、兵士に引きずっていかれて退場した。
処置をされて、解き放たれた元彼達は、王都にいてはパージュを恨む気持ちを改める事が出来ず、痛みに耐えかねて、仕方なく地方に散っていった。
実は、魔石が弾ける程の悪意を持つには、よほど強く思わねばならないのだが、それまでに与えられる痛みは、思いの強さに反応して強くなるので、恨めば恨むほど自分が痛いのだった。
そして元彼達は、痛みに弱かった。
その後、パージュと元彼達の人生が交差する事は、一切なかった。
パージュは、喜びとやり甲斐をもって、王兄殿下の妻業と、王子達の番組のナレーションをすることができた。
王子成分が少ないので、次は頑張ります