そうなるの?
「さて、次で最後の競技です。色々な障害物のある競走となっております。」
解説席の竜樹とミランが、準備が着々と進みつつある訓練広場を前に、説明を行なっている。
「これは、身体能力に優れた、エーグル副団長の見せ所ですね!ゴールした順に、姫君に、リボンを差し出して、求婚していく事になります!」
「はたしてリボン、求婚を受け入れてもらえるのか!そして王子達は、それぞれ遊んで欲しい姫君に、リボンを渡す事になります。」
侍従さん達が、障害物を次々と運び入れていく。王子達は、解説席後ろで、ジェム達と飲み物を飲みながら、ご飯どうしてたのか、とか、何で稼いでたのか、とか、なんだかんだとお話ししていたが。
今は準備、腕にふわっとした、シフォンのリボンを結んで、フンフンと鼻息荒く、意気込んでいる。
「準備できたようですね。では、王子達も、出発の位置について下さい。頑張ってな〜。」
「は〜い!」
「頑張ります!」
「こういうの、初めて!楽しみだよ!」
バラン王兄殿下、エーグル副団長、カシオン文官、ミネ侍従長、オランネージュ王子、ネクター王子、ニリヤ王子。
合わせて7人が、パラパラとスタート位置についた。みんな、色とりどりのシフォンリボンを腕に結び、ヒラリ、長くたなびかせている。
よーい
どん!
ばさぁ、合図の旗が振り下ろされた!
ひらひら ひら リボンが踊る。
赤いリボンのエーグル副団長が、一番先頭を走る。
平均台をトトトッと走り、この競技の為に、急遽作られた跳び箱を、ぴょんと飛び越え、邪魔な三角コーンをジグザグ避けて。
次は、何と年齢も一番高い、ミネ侍従長。パワーは劣るが、身のこなしは、スッスッと滑らかだ。
3番は、オランネージュ王子。すばしっこく、前の2人を追う。
トトトッと小走りなカシオン文官、一生懸命走り顎があがっているネクター王子、平均台で、おたおたしているバラン王兄殿下ときて、最後が、ゆらゆら揺れながら慎重に平均台を歩く、ニリヤ王子。
「バラン王兄殿下は、ネクター王子より遅いですね。歌の為に心肺を鍛えてはいるそうですが、基本運動は、得意ではないとの事。本当に、音楽全振りです。」
「いっそ潔いですね。あっ、もうエーグル副団長が、姫君に辿り着きます!」
エーグル副団長は、パージュを目指して、ずっと見ていた。
だから分かった。
もたもたと、最後の方を走っている、バラン王兄殿下を。パージュは、ハラハラと見守っている事を。
そうして、もうすぐ辿り着く、エーグル副団長に、チラッと目をやると、ふるふる、と首を振って、そしてまたバラン王兄を、ソワソワ待っている事を。
ああ、決めてしまったんだな。
エーグル副団長は、思ったけれど。
自分の思いに決着をつける為に、パージュに言った。
膝を折り。
腕のリボンを、シュルリと解いて、差し出して。
「パージュさん、私と、結婚して下さい!」
「ご、ごめんなさい!」
タハァ
はあ、はあ、はあ。
息がきれる。エーグル副団長は、膝を折ったまま、俯いて息が戻るのを待った。そうして、立ち上がり、一礼すると、
「パージュさん、幸せに。」
とだけ言って、振られた場所から、はけようとして。
「ハイハイハイッ!エーグル副団長、私と、結婚を前提にお付き合いして下さい!」
ぶちっと、胸についていた飾りのリボンをむしって差し出し。
プティが、求婚をした。
「は? え?」
「えっ!?」
カシオン文官も、走っていたが驚いて、ぱたた、と止まった。
「何で男性の方からばっかり、求婚なんですか!女性からしてもいいでしょ!」
確かに、と観客のみんなも、プティの勢いに呑まれた。
「こういう事で自分に嘘ついても仕方ないから、正直に言います!エーグル副団長、振られたばっかりで申し訳ないけど、私はあなたが、好きなんです!パージュの為に、守ろうとする所、そして無理強いしないで意志を尊重する所、好きな人の為に恥をかいても思いを伝えようとする所、奥様に先立たれていい感じにショボくれてる所、とってもキュートだと思うの。どうか私と、お付き合いしてください!」
エーグル副団長は、プティとカシオン文官を、はたはた、と見比べていたが。
「私は、そんなにすぐに、思ってた人を忘れて次の女の人には、いけないよ?」
何とか、言葉を捻り出したが。
「分かってます。あなたがパージュを本当に好きなんだという事は。パージュがあなたを選んだなら、諦めたと思う。でもあなたは、パージュの幸せを思って諦めた。そういう押しが一歩弱い所も、好きなのよ。私と、お試しでもいいから、付き合ってみて下さい!どうか、お願いします!」
ふるふる、サテンのリボンを差し出す、プティの腕は震えている。
誰だって、思いを伝えるのは、必死だ。
断られたらどうしよう、という不安と闘い、勇気を持って一歩踏み出す。
「エーグル副団長、私の事はいいから、プティさんと、良かったらお付き合いしてみて下さい。とても素敵な女の人なんですから。」
タハっとなったカシオン文官が、ゴール前、トボトボ歩きながら、エーグル副団長に言った。
「カシオン君•••。」
「告白するのって、勇気いるから。彼女も勇気いったと思う。男ばっかりが自分の気持ちを押し付けるんじゃなくて、そりゃ女の人だって、自分の気持ちがあるよね。私は、もう告白できたから、いいんだ。」
「そういう、君のこと、私は嫌いじゃないよ。」
ブランシュ図書館館長が。
さらりと髪を靡かせて、観客席から、スッと出て。
「君だって一生懸命想いを伝えたのに、まるっきり当て馬で、可哀想だ。」
カシオン文官は、微笑みながらも俯く。
その腕のリボンを、シュルリと取って、ブランシュ図書館館長は、自分の手に巻いた。
「ところで当て馬で可哀想なのは、私もなんだよ。最初は素敵だと思ったけど、やっぱり可愛い女性の方がいいです、なんて、私はよく言われる。なんだかんだで、付き合ってくれる男性がいないんだよね。君みたいに、可愛くて、想いを必死に伝えてくれる真面目な男性と、是非付き合いたい。」
どうかね?年上女性が嫌じゃなければ、私と、お試しお付き合い、してみないかね?
にやっと、豪華美人が笑うのは、なかなか魅力的だった。
ぱち、ぱち、と目を瞬いていたカシオン文官は。
ふはっ、と笑うと、
「よろしくお願いします。」
手を差し出した。
ギュッと握手して。
「エーグル副団長も、お試し、どうですか?」
「え、あ、え?そうなるの?え?」
「お願いします!」
必死に手を差し出す、プティに。
エーグル副団長は、ふー、と息を吐いて、ふ、と笑った。
「私は器用じゃないから、すぐに切り替えできないかもしれないけど、もし、それでもよければ。」
お試し、よろしくお願いします。
プティのサテンリボンを取って、震えてる小さい手と、握手をした。
トコトコ歩いてきた、ニリヤが、リボンをパージュに差し出した。
「ぼくたちとあそんでください!それと、ぼくたちのてれびばんぐみに、なれーしょ、してください!」
「喜んで。」
パージュは屈んで、リボンを受け取った。
「私と、け、結婚、して下さい!」
やっと辿り着いた、バラン王兄殿下が、パージュに、息を吐き吐き、言った。
「喜んで!」
パージュが、涙ぐんで、バラン王兄の手を取った。
オランネージュは、クロシェット侍女長に。
ネクターは、キョロキョロと見回して、マルグリット王妃に。
「私達と、あそんでください!」
と申し入れ、それぞれ了承された。
ミネ侍従長は、
「何だか落ち着く所に、みんな落ち着いたようですね。」
クロシェット侍女長に。
「そうね。良かったわ。」
「私達も、落ち着く所に、そろそろ落ち着きませんか?いいえ、私の所で、落ち着いてもらえませんか?」
すすっ と、リボンを差し出した。
「これからも一緒にいましょう。喜んで。よろしくお願いします。」
クロシェット侍女長は、リボンを受け取り、チョン、とお辞儀をした。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
猫の首に鈴がついた瞬間だった。