ロペラの歌
「タカラ、ジェム達に、アンパン残ってたら買ってきてやってくれる?無ければ何か食べやすそうなものを。飲み物•••は、そこにあるか。ジェムと、あと、名前は?」
「アガット。」「ロシェ、です。」
「じゃあ、ジェム、アガット、ロシェ、この求婚♡大作戦大会が終わるまで、付き合ってな。終わったら、ジェム達の仲間を迎えに行こう。それまでアンパンでも食べて、落ち着いて待っててくれ。解説席の後ろでな。」
「わ、わかった。」「うん。」「はい。」
解説席の後ろに、映り込みながら、ジェム達が敷物の上に座った。騎士団の団員が、まだ緊張感を保ったまま、付き添いしてくれている。ギフトの御方に、素性の知れない子供を近づけている事に、警戒しているのだろう。それが職務だから、仕方ない。守られている竜樹達は、リラックスしていた。
ニリヤとネクターとオランネージュが、マルサ達に守られながら、こちらを気にしてトコトコやってきた。
「ししょう〜、て、いたい?」
「痛くないよ。大丈夫だよ。3人の歌、良かったぞ〜。それから、外の世界の事教えてくれる、友達ができるかもだぞ。」
「ともだち?」
「石投げちゃ、ダメだよ!ごめんなさいした?」
「凄くびっくりしたよ•••。相手が竜樹で、ほんと良かったんだぞ。」
テレビでしか見たことのない王子達に叱られて、ジェム達は、肩を竦ませて、「ご、ごめんなさい•••。」と言った。
「ししょうは、みすてないからね。だいじょうぶ。あんぱん、うるから、たべものさわるひとは、きれいにするんだよ。きょうは、まるあらいだ!」
「丸洗いだな!」
ハハハ、と竜樹は笑って、ニリヤは、ジェムの肩を、ぽんぽん、と叩いた。
ジェム達は、目を見開いて、キョロキョロと竜樹と王子を見ていた。
ロペラのリュートが、ポロリロ、と音楽を終わらせて。つ、と竜樹を見た。終わりだろうか?と誰もが思ったのだが。
「この騒動の中、ロペラさん演奏ありがとうございます。繋いでいただいて、本当助かりました。もしよかったら、一曲、得意なものを、何かちゃんと聴かせて下さい!よろしくお願いします!」
パチパチパチ!
竜樹が拍手で促すと、会場からも、パチパチ、パチパチパチパチ!!と拍手がグラデーションで高鳴り、聴衆の準備も出来上がった。
ニコッ とロペラは微笑む。
リュートを、ポロン♪ と弾いて、歌い出した。
子猫が 君に 石投げた
寝床がないよと 石投げた
君はギフト
子猫に あったか寝床を つくったよ
こことは違う 世界の果ての
そのまた向こうから やってきた
ひとりぼっちで やってきた
小鳥に歌を ねだったよ
小鳥は喜び 歌い出す
子猫や 小鳥を 助けてくれる
やさしい君に 歌います
ギフトの君に 助けを求め
どうか 小石を 投げないで
花を 一輪 捧げましょう
そうして君の
足にも 手にも なりましょう
足にも 手にも なりましょう
ポロリロポロン♪
即興で歌いきった。ロペラの歌に、会場は、わーっと歓声を上げ、拍手を贈った。
ロペラは、竜樹のような人が巻き込まれる、助けて助けての引きずり落としを、危惧していた。
孤児のロペラを育てた、リュートの師匠が、そんな優しすぎる浮世離れした人だった。ロペラと師匠は、いつだって金が無く、腹を空かせ、それなのに師匠はお人好しで、助けて欲しい人に取り縋られていた。そして、いつも笑っていた。
ロペラは、助けて欲しい切羽詰まった人が、竜樹にまた石を投げて気を引くのを、許せなかった。ジェムはもういい。だが、真似て、何人も何人もが、石を投げるのは、いただけない。
そして、取り縋られて身動き取れなくなる竜樹を、見たくなかった。
笑った顔の、もうこの世にいない師匠が、遠く見える気がした。
でも、そういう人に、助けの手を切れと言っても、無理なのだ。
だから、貰うばかりでなく、周りが、何か助けて返すべきだと思った。そうやって、周りに助けられ、輪が広がるのが、ギフトの御方の役割かもしれない。
急にこの世界に呼び出された、異世界からの、本当のギフト。人を助けたりする気持ちに、ならないのが普通なんじゃないか。帰りたいだろうに。
俺達もギフトの御方に貰うばかりじゃなく、手助けしようよ、という気持ちを、歌ったつもりだ。
「ロペラさん、素敵な歌を、ありがとうございました!」
竜樹が歩いてきて、ロペラをハグした。ポンポン、背中を叩いて。片手を取って、上に掲げる。
わーっ、と、再び会場が沸いた。
ロペラは、長いこと人とハグなどしてこなかったので、その、人の温かい身体に、びっくりした。そして、ほんのり照れて、笑うと、拍手の中、観客席へ帰った。
師匠の笑い顔が、少し近づいた気がした。
「さて、プロの歌を聴いて温まったところで!」
「はい!カシオンさんと、プティさん贔屓の図書館男子たちによる、演奏ですね!」




