ふつーの恋文
「ラブレター対決?」
「はい、ラブレター対決。この求婚♡大作戦では、それぞれの恋する男子達に合わせて、1人につき1回は、良いところをアピールできるよう、イベントを組んでおります。良いとこ、見てほしいでしょ?カシオンさんは文官だから、文を書くのは得意かなと思って。」
事前に、構想と下書きはしてもらってます。ラブレター、夜なべして書いたりするものですもんね。そうして、郵便局の営業を記念して、郵便局員さんが書いたものを手ずから運んでくれます。
「はーい、スーリールです!こちら、スタンバイしている郵便局員さんです!配達員さんになりたてほやほや、ピカピカの緑の制服に赤い腕章も素敵ですね!」
わら色の長い髪を、紐でくくって。ガッシリした厳つい、そして職人ぽく頑固そうな、男性郵便配達員さんが、ピッと帽子に手をやり、脱帽し礼をする。
「はい、私達、郵便局員は、この制服を誇りを持って着ております!これを纏うと言う事は、お客様の手紙の秘密を守るということ。そしてなるべく迅速に、確実にお届けする事をモットーに、日々頑張っております!皆さん、郵便、使ってみてください!」
解説席にお返ししまーす、と声があり、竜樹はスッと立って、片手を上げた。
「それでは、ラブレター対決を始めます!制限時間は、半刻きっかり。事前に書いた下書きを、清書する時間です。それ以上時間のかかる長編恋文は、後でプライベートで送って下さい!では、はじめ!」
わっ、と設置された各テーブルに、下書きの紙を持って、男子達が走っていく。椅子をガタタッと引いて、慌ただしく座り、みんな、一度、二度、と深呼吸をする。ドキドキしたままだと、字が震えるのだ。
スーリールが、まずは王子達のテーブルへ行き、声をかける。
「ニリヤ王子様、今日は、どなたにラブレターを書いてるのですか?」
ふん、ふん、と鼻歌に、背の高い椅子で地につかない足を、プラ、プラ、させつつ、紙に字を書く、ニリヤは上機嫌である。
「うーんとねー、ないしょだけど、ししょうに、らぶれたかいてるの。だいすきよって、かくのね。らぶれたって。」
そうですねえ〜。
ホワホワと、笑顔のスーリールである。
「ぼく、ししょうといると、たのしいのいっぱいなの。しょくじも、おなかいっぱいだし、いっぱいあそぶし、ねるのもみんなといっしょで、たのしいの。ねんねしちゃった、かあさまとも、あえたの。うれしいなぁ〜って、かくの。」
「竜樹様、喜ぶと思いますよ〜。頑張ってください!」
「はぁい!」
元気にお手手を上げて、お返事した。
「ネクター王子様は、どなたに?」
「私は、サンセール先生に書いてるの。ずっと小さい頃から一緒にいて、教えてくれた先生なんだ。オランネージュ兄様や、ニリヤとも仲良くした方がいいよって、3人で争ってたら、お国が上手くいかないよって、それで、仲良く出来た方が、幸せになれるよって、教えてくれたの。今、3人仲良しで、1人ぼっちじゃなくて、幸せな気持ちなの。だから、そんけい、してるんだ。」
「なるほど〜。サンセール先生、公平な方だと聞いています。喜ぶと思いますよ、ネクター王子様には、良い先生がついていて下さったんですね!」
「そうなの!」
ネクターも、ニコニコとスーリールに返事をしながら、紙に向き合っている。観客席にいる、サンセール先生に画面がパンすると、彼は赤い顔をしていた。つつっとメガネを持ち上げ、嬉しそうに、むぐむぐと口の端を持ち上げて、微笑んでいる。
「オランネージュ王子様は、どなたに?」
オランネージュは、羽ペンをちょいちょい、とインクにつけながら。
「私は、父上に。いつも頑張ってるから、ありがとうって書く。それに、父上達が争わずに兄弟仲良かったから、私達も仲良くするのが良い事だって思えたと思う。そんな父上達で、良かったなって思ってるんだ。」
ふふふ、と微笑む王様が映る。
「なるほど〜。確かに、王様ご兄弟、仲良しですものね。今までの歴史の中では、3王家が反目しあって国が荒れた事もあったとか。私達は、幸せな時代に生きていると言えましょう。オランネージュ王子様、頑張ってください!」
「スーリールさん、次は是非カシオンさんに、今回のラブレターの工夫した点を聞いてみて下さい!」
「はいはーい!ではでは、カシオンさん、このラブレターで、工夫した点とは?」
カリカリ、と猫背で文字を書きながら、カシオン文官は、フィニッシュ!「出来た!」と言った。
「ええ!?出来たんですか?早いですね!」
「はい。」
ふう、と息を吐いて、便箋を折ると、封筒に入れ、封蝋をした。
「工夫した所は、分かりやすく、普通に書く、ですかね。」
「普通に、ですか?」
「私、色々と有名な恋文集、本を読んでみたんですけど、素晴らしい文章の素晴らしい恋文は、存在しますよ。しますけど、それを、凡才な私がやろうとしても、絶対やり過ぎて、鼻につく、くどい文章になると思うんですよ。煌びやかで雅、洒脱で粋な文章は、特別な才能のある人でないと書けない。そして、書けたとしても、うますぎる恋文は、さらっと読んで、上手いなで終わっちゃうんです。」
あんまり長くても、やっぱり濃すぎるし、恋文って好感を持って欲しい訳だから、実直なのがいいと思いました。
「な、なるほど〜!!」
それを聞いて、エーグル副団長が、ビクッとして、今まで書いていた手紙を焦って読み直し始めた。うん、濃かったらしい。
バラン王兄殿下は、フンフン歌いながら書いているし、ミネ侍従長は、うんうん、とカシオン文官に同意しながら?サラサラと下書きも見ずに書いている。
「郵便配達、お願いします!」
はい!
配達員が、とととっと小走りで、カシオン文官の所へ向かう。
うやうやしく、受け取ると、タタタと姫君達が丸く集ったテーブルへ、手紙を持っていった。
プティに、「恋文、お届けします!」と手渡すと、すすっと下がって、一礼した。
「では、プティさんに、読み上げてもらいましょう。どうぞ。」
「は、はい。」
『プティさんへ
図書館でお見かけして、声もかけずにいた私が、貴女を好きだと言うのは、突然に思われるかもしれません。
竜樹様に声を掛けて頂いて、この大会に参加するクジにも当たり、やっと勇気が出ました。貴女に好きだと言う事ができます。
いつも元気に、明るく声をかけてくれる、貴女は、図書館の中でぱっと咲く、日向の花のようです。
いつも、素敵だなぁと思って、見惚れていました。
どうか私に、貴女と知り合うチャンスを与えて下さい。
よろしくお願いします。
カシオンより』
ふ、ふつー!
「プティさん、いかがですか?」
「普通だけど、誠実で、恋文って嬉しいものですね。ありがとうございます。」
ニコリとした。