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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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それはとろけるチョコレート


愛は炎である。

その人にもし、触れられたら、その手はきっと、燃えるように熱く。触れられた場所から身体の芯まで到達し、メラリと蕩けてしまうだろう。


プレイヤードの、燃えるメラメラとした、囲った蕾のような指が、メラリメラリと開いてゆき。

アミューズが、抱きしめて欲しいと。ほろほろ歌うのに合わせて、ゆるりと腕が、そこにいるはずの、愛する相手を、迎えて、パッと天から。落ちる、あるだろう肩へ、背中へ、確かめるようにぎゅっと胸にかき抱いて。


プレイヤードは少年である。

まだ、恋知らぬ、あどけない。

突然始まったパフォーマンスに、通りがかりの人々は、ヒュウィ♪と口笛を吹いて、「おっ、やるねぇ坊ちゃん!」なんて揶揄い調子な人も。子連れお母さん、「かあちゃ、あれ。」と指さす男児に、あらあら?と膝を折って我が子を抱き込み、観客に。

通りかかった吟遊詩人の兄ちゃんが、カッ!と目を見開いたかと思うとリュートをポロポロつまびき、知らない歌、主旋律の予測ができないながら、微かに彩りを加えて、参加する。


胸に焦がれるそのこころ、プレイヤードは真剣に、どこか激しい気持ちを歌うのに、動きはどこまでもゆったりと、一つ一つの動きを大切に。

どうやっても、この曲を。

大人ではない少年のアミューズの声で。恋知らぬプレイヤードの、大人の半分の身体で踊っても。

愛の深みというよりは、爪先立ち背伸びした表現がどこか微笑ましく、本人たちがどんなに真剣にパフォーマンスしても、観客たちは、ハハ、ふふ、と軽く受け笑うばかり。


竜樹がいたなら。親戚たちが集まってカラオケした時なんかに、子供たちが大人のどっぷりした恋愛の歌をノリノリで歌ってるのを見る、あの雰囲気だと言っただろう。

自分が子供だった時は、流行りの恋愛歌を、違和感もなく、良いなぁと思って心の中、ギャップに気付かず歌ったりしていたものを、大人は容易く忘れてしまう。


だけど、それじゃダメなのだ。

プレイヤードは、アミューズは、本気を伝える。上手にやる、というのではなく、形ではない何かを伝えなければならないのだ。


曲調が変わる所で、緩急をつけて。

立っている場所から、一歩も動いていない。

揺らめく、ゆっくりと片腕が上がり、もう片方の腕は曲線を描きながら脇へ、くるうり、くるうりとその場で。炎の芯、頭も傾きながら回る。

吐息が、すー、ふー、と深く。

腕が、足が、クロスしてゆるゆる、しゃがんで小さくなってゆく。

膝をつく。


愛があれば何も要らないだなんて。

歌でもなければ、アミューズは、ケッ、となっちゃうかもしれない。

だけど、それは真実なのだ。

子供は、竜樹とーさに会う前のアミューズは、その場で果たされない事を、単純に嘘つきだと思っていたけれど。

世界は、人は、歌は、愛は複雑で深いと、いつからその輪郭を、知りはじめたのだろうか。


真剣な、重い愛を、受けては負担に思う事もあるのだろう。何故なら、受け止める側も、その分、力が必要だからだ。

デュデュが、愛についてどう思っているかは、全くアミューズ、プレイヤード、アガット、エクラ王子には分からない。

プレイヤードは膝をついたまま、髪に指を滑らせて、絡ませて、くしゃりつつうと揺らす。


視覚が不自由なプレイヤードは、側から見て、自分の動きがどうであるか、美しいか否か、本当のところは分からない。

光しか見えない、灰を含んだ、視線の合わない瞳が、遠くを夢みているように見えるだなんて、知らない。

ただ、彼が思う、愛は、大切に大切に、心の真ん中を差し出して、だから、指先まで柔らかくも力強く、揺らめいて動き続けるのだ。


炎に照らされてとろけるチョコレートになるのだ、とプレイヤードは思う。

チョコレートは、健康ドリンクとして地方に流通していた、ドロドロの飲み物を、この間、竜樹が発見したやつだ。何だかんだと工夫して、甘い、一口粒の、ボンボン・ショコラを、お試しお配り、食べさせてもらったのは、3日前。お祭りの出店には間に合わなかった。

衝撃の味だった。


とろける、とろける。

甘くて、濃くて、ほろりとろりと僅かに苦味。


蕩けさせるのは、愛。



胸のシャツをくしゃくしゃに、手で掴んで。自らの頬をつうと撫でて止めて。

歌が終わる。


静かな踊りだったのに、プレイヤードは息が荒んで。静かにゆっくりと舞うというのは、思っているよりずっと大変な事なのだ。

アミューズも、胸を上下させて、しきりに息を吸い、吐いている。



見ていた観客は、カッ、と胸に躍る欠片を放り込まれて。


わぁ……!と息を吸い、吐く弾けた音が、声が、アミューズとプレイヤードを包む。

アガットが景気づけに、ピュ〜ウウウィ♪と高く口笛。エクラ王子とベルジュお兄さん、プレイヤードの従者が激しく拍手をする。護衛もプレイヤード坊ちゃんに感激していたが、お仕事上、うるっとしても不動である。

ハンナが、やったね!ゥワフ!と小さく吠えた。


「かあちゃ、おにーちゃたち、ちゅごいねえ!」

「すごいわねぇ!何だか見とれちゃったわ。大道芸のお仕事してる子たちなのかしら?」

ン〜!とプレイヤードの真似っこする、ちみっこ男児に笑った母は、拍手してほわぁと。

若い衆たち、恋人たちも、ピュ〜!やんや!である。

吟遊詩人の兄ちゃんは、フゥゥゥ!と新しい曲を知れた事にも感激である。


アミューズは歌が素敵に上手いが、どう考えてもこの歌を歌うに、成長が足りない。

プレイヤードもそうだし、そして、けっして踊りも美しかった、上手かったばかりではない。拙い、少年たちのパフォーマンスである。


だけど、流れる、本気は、伝わったのだろう。笑われても真剣にやるものだけが到達できる。プレイヤードは、プレイヤード。演じ、踊り、何をかそこでなす、表現する、名前のとおり、プレイヤーなのだ。

それは、駆け出しだけれど、アミューズもである。


デュデュは、はわ、と拍手しようとした手が止まって、思わずジーンとしていた。

圧倒されていたのだ。

視覚障がいのある2人が、いや、欠けのある者がつくりあげてみせた本気を、と讃える、自分の位置を上にした、どこか失礼な見方ではない。

ただ、本気を伝えると言った、それを有言実行した、子供たちの気迫に。


そのデュデュの隣では、カルメンが、はわわわわ。


「あ、アタシ、アタシがこの歌を、躍るの!?」


目をギュッと瞑る。

本気、本気。

デュデュのこと、こんなに深く、アタシは愛しているの?胸が、ツキンと痛む。ドキドキする。


「そうだよ、カルメン。カルメンが踊らなくて、どうするの。」

はふ、はふ、しながら、アミューズ。


「皆さん!次は、踊り子、カルメンが踊ります!同じ歌だけど、歌詞が違うんだよ。どっちの歌詞が良くて、どっちの踊りが素敵か、胸にグッときたか、どうか、見届けて下さい!」

ニカッ!と言い放つプレイヤードに。


カルメンは、唾を飲み込み、ふー、と震える息を吐く。

こころ。おどれ。

準備はできてる。


アタシはあなたを、愛してる。







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― 新着の感想 ―
アミューズとプレイヤードの魂の籠った歌と踊りに盛大な拍手を! チョコレートは衝撃を受けちゃいますよね。5歳ぐらいの時、お家で食べ、その後遊びに行った祖父母の家でも出されて喜んで食べたら食べすぎて鼻血…
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