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朝食しょうぶ

「ぼくたち、できた〜!」

「お運び、します!」

「是非たべて〜!」


目玉焼き、サニーサイドアップ。端っこが焦げてカリカリの。ベーコンが白身にまぶされて、じくじく油の泡を吹いている。

全粒粉の丸いパンは、2つに割られて、たっぷりのイチゴジャムと、よく削って柔らかくしたバター。

ミルクは、沸騰直前まで温めて、熱々の。タンパク質の膜は、くしで取ってからカップに注いである。


プティの所へ、ネクターがトレイを持って、3人王子がトットコトコやってくる。こぼさないか、おっとと、とゆっくり運ぶ様子に、みんな息を飲む。

ようやく辿り着いて、かたん、とテーブルにトレイごと置き、ずず、とプティのまん前にずらして移動させる。


「「「どうぞ!」」」


「ありがとうございます!とっても美味しそうです!」

プティが、笑顔で、パチン!両手を合わせ。食べるぞー、とおしぼりで拭き拭きっと手を拭う。

ナイフとフォークで、まずは目玉焼き。塩と胡椒を、ちょっとふりふり。


ふー、ふー。パクん!

モグ モグ モグ。


「お、おいし。」


パンをひとちぎり。甘酸っぱい、しょっぱい。きゅーっと酸っぱさが来て、甘さに脳がガツンとくる。

ミルクに手を伸ばし、そっと啜ると、温かくまろやかな味が、口全体に広がって解ける。

「か、完璧!私、これくらい甘いの朝食べた方が、頭働くし、元気出るんですよね。たまごもちょうど良い焼き加減だし、ミルクも熱々!嬉しいです!」


やったー!!

ぴょんぴょこ、王子達が跳ねてバンザイする。パチン!パチン!と手を打ち合って。王子達のアップ映像が画面に映り、その後ろに、ニッコニコのプティ。

観客達も、ホッとしてニッコリである。


そんな中、ミネ侍従長は。

お皿にビスケット3枚を出し。フルーツを少し切って、ヨーグルト。お匙をセットした後は、ゆっくりお湯を沸かしている。 スッ とした立ち姿が、控えめで美しく、そこだけ王の執務室で主人を待っているかのような空間だった。


ティーポットに匙で慎重にしかし、ささっと、お茶っ葉を入れた。

ふつふつ、お湯が沸騰して、パチンと火を止める。

ととととと、沸騰したお湯を注ぐと、ティーコゼーを被せて、砂時計を懐からすっと取り出した。くるり、砂が落ちて計り出す。


「ミネ侍従長は、本当に簡単朝食なんですね。お茶は流石に本格的です。クロシェットさんの好みなのかな?スーリールさん、聞いてみてください!」

「はいはーい!ミネ侍従長、この朝食は、クロシェットさんのお好みですか?ずいぶん軽い食事ですが?」


「そうですね。彼女の好みでもあるし、多分、既に少し朝食べてきているでしょう。今まで朝食を待たせる訳にもいきませんですし、もちませんからね。だから、追加で食べるには、このくらいがいいかな、と。」


「ほうほう!気遣いの賜物という訳ですね!他に工夫している点は何か?」


ビスケットは、彼女が好きなものなんですよ。私もこれ、好きです。

ニコリ、と微笑。


「あとは、お茶を淹れるのは、仕事で慣れておりますので、美味しくできるでしょうか。今日は、テレビ放送にも映るということですので、緊張が和らぐように、リラックスするものを選んでいます。お花の香りがするお茶でございます。」

さて、できました。


ササッとトレイに一式を乗せて、クロシェット侍女長に差し出す。ティーポットからティーコゼーを取ると、コポポ、とカップにお茶を注いで。


「どうぞ、姫君。」

「まあ、私が姫君?くすぐったいわ。」クスッと笑って、「ああ、量がこのくらいで丁度良いわ。歳とると、そんなに食べられなくなるわねえ。」

「私もそうだよ。」

お茶、美味しいわ、流石ね。私も負けていられないわ。

なごやか〜。


「私スーリール、おしどり夫婦の日常にお邪魔したような気持ちです!こちらは、長くお付き合いされているという事ですので、こなれているんでしょうね。何故、もっと早くに、結婚なさらなかったのですか?」

そうだ、それを聞くのだ!うんうん、と会場一致の視線。


「仕事が忙しくて、何となく。」

「仕事を頑張っていたら、何となくです。」


「理由も一緒!何だか落ち着く空気感です。さて、それでは、カシオン文官は?」


カシオン文官は、つきっきりでゆで卵を作っている。プティに王子達が朝食を運んで、カシオンは超焦っているのだが、顔には出ない。朝ごはんなんて、買い置きのパンにバターを塗って、冷たいミルクとパクパク食べたら、仕事に出かけているカシオンである。実家にいた時どういう風だっけ、と思い出し捻り出し、なんとかゆで卵を作っているのだ。

出来ないなりに何かしているカシオンと、本当に簡単朝食のミネ侍従長。簡単なのは一緒だが、かけられている気遣いは全然違う。


「はい!はい!お助け竜樹君を召還したい!」


未だ何もできていない、バラン王兄殿下が、必死な顔で竜樹を呼んだ。


「はいはーい!どうしましたか?」

解説席から立って、竜樹はバラン王兄殿下の元へ行く。カシオン文官からも、縋るような眼差しと、パクパクした口で「助けて」が発せられるが、とりあえず早い者勝ちである。若者、ちょっとだけお待ちなさい。


「全く、微塵も、何していいのか、分からない!!」


だはぁ。

ギュッと目をつむり、バラン王兄殿下が両手を上げて叫んだ。

「魔石コンロに火だけでもつけようとしたけど、どうやったら着くんだい?」

「まず何をしようか決めた方がいいですよ。コンロは、ツマミを回せば着きますよ。」

「右?左?爆発したりしない!?」

しないしない。

会場の心がまた一つになった。


「とにかく、何かしたいけど、全くわからない!」

「あー落ち着いて。事前に朝食勝負ってお知らせしといたのに。何か考えてはなかったのですか?」

「この後の演奏に心が奪われて全然他のこと気にしてなかった!」


うん。バラン王兄殿下は、音楽に全振りなんだ、ね。

いっそ潔く。


「今朝、何を食べましたか?」

「スクランブルエッグにオートミール、ドライフルーツにお茶だね!えっ、あっそうか、朝食べたものを作れば良いのか!しかし、どうやって!?」

「オートミールをまず鍋に入れて。ミルク注いで下さい。ひたひたくらい。」

わたわたと鍋を取り出す。両手鍋のでっかいのを。


うん、失敗した方がテレビ的には面白いけど、食べる方が可哀想だから、ツッコミ入れるよ。


「片手鍋の小さいのを。食べる分だけ作りますよ。オートミールお玉に1杯。ミルクを•••。」「ひたひたって、どのくらい!?」


オートミールが、ちょっと隠れるくらいダ、ヨ。


「くるくるっと掻き回して、5〜6分煮ます。弱火ですよ。ちっちゃい火ね。」

「うむ、うむ。わかった。」

「目を離さないでね。焦がさない。焦がすくらいなら、まだ煮えてなくても火を止めておいて。その間カシオンさんを見てますからね。」


うわわ〜ん!御方様!!とカシオン文官が、泣きついてきた。

「私、私朝食べるの、そのままのパンに冷たいミルクくらいなんです!朝食勝負って聞いて、料理本見たけど、ちんぷんかんぷんで!こんな事聞ける女性の知り合いも、料理の上手い男友達もいないし!」

たまごは煮たけど、どうしましょう、到底王子様方ほどの朝食作れません!


焦らない、焦らない。


「はいはい、まず、たまごは水につけときます。殻を剥きますからね。パン、フライパンで焼いてみたらどうかな?焦げないように、中火で焼いて、時々フライ返しで見ながら焼けば、大丈夫。あとハムとか、チーズとか。チーズに蜂蜜とか美味しいよ。」

「はっ、はい!ありがとうございます!」情けないです、朝ごはん、準備もできずに、作れないなんて。

ショボ、とするカシオン文官に。


「言えば作れるんだから、マシな方、大丈夫大丈夫!食べられれば何でも良いの、豪華なディナーが欲しいんじゃないの。努力する姿勢を、姫君に見せてるんだよ。」

頑張って!


竜樹は親指をグッと出した。


ぐー?

ぐー!!

王子達も、一緒に親指を出していた。



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