幸せになりたい
ちょっと更新お待ちいただき、すみませんでした。
お知らせ2つ。
◎帯状疱疹になってました。まだ痛いけど、大分良いです。
薬を早く飲んだ方がいい、怖い病気なので、知識があれば重篤になりにくいかも、良かったら皆さん検索して帯状疱疹について知ってみてね。私は家族2がなった事あったので、知識があって、早く薬飲めて、重くならずにすみました。
◎前のエピソードの更新、結構痛かった時に書いて、上手くないなーと、直したくなったので、後半けっこう修正してあります。
1こ前のお話、グランドとメイユの出会いの雰囲気とか結構違うので、もし良かったら再読してみて下さいませ。
メイユは1人自習をするグランドに。学園の庭で焼いた芋を、ヒョイっと持ってきたり、頼んでないのにちょくちょく勉強を教えてくれたりした。
グランドは、何で楽しくなさそうに勉強をするのか、の答えを、メイユ少年には、何も言えなかったけれど。
どう応えたらいいか、言葉を探している風なグランドに。メイユは、ニコニコして。
「グランド様は、真面目なんだよね。でも、庶子だからって俺を見下したりしないし、勉強を教えて欲しい、ってすり寄って、何か得をしようともしない。別に得をするのは悪い事じゃない。俺だって別に、無理にじゃなくてこっちにも良い事があれば、嫌じゃないよ。でも、俺を利用して得しようなんて、思いつきもしない所が、きっとズルくなくて、誠実なんだね。そして、俺を、側に居させてくれる。自由にね。領主として狡くないのはどうかな、って思うけど、俺は、そういう誠実さに応えてくれる人も、きっといると思う。それで、ちゃんと、やらなきゃならない勉強を、楽しくなくても、こつこつとやってる。いつも勉強してる事の内容を見れば分かるよ。領地の皆が苦しんだり、困る事のない、良い領主になりたいんだな、って。グランド様みたいに、ちゃんと背負える人がいてくれるなら、ロマンチカ子爵家の領地の皆は、すごく頼もしいと思う。きっとグランド様は、裏切らないんだな、って。」
そ、そ。
グランドの胸の中で、何かが暴れた。
そんなに偉くない。
ただ、ただ。
「わ、私は。ただ、お祖父様に、立派な領主になれる、って、言って欲しくて。」
褒めて、ほしくて。
ルイユは、目を細めて、金蒼の瞳をキラキラとさせて。いつもみたいにグランドの机の前の席に、後ろ前にドカリと座って。
「それでも、きっかけは良いじゃん。愛されたいで、良いじゃん。グランド様は頑張ってるじゃん。見かけだけ立派な領主じゃなくて、威張ってるだけじゃなくて、中身を学ぼうとしてるじゃん。だったら、楽しく学べば良いのに、って思っただけ。俺、そういうの気になるみたい。」
俺はさ、小さい頃、平民の母ちゃんとじいちゃんばあちゃんと、食堂にいたんだ。
母ちゃんは看板娘。じいちゃんは料理人。ばあちゃんは家の事と、店と半々で。
「毎日、きつい体力仕事だったけど、母ちゃんとばあちゃんは、いつも楽しそうだったんだよ。客商売が合ってたんだな。じいちゃんはいつも、ムスッとしてたけど、とにかく手抜きをしなかった。どんなに面倒な下拵えも、お客さんに美味しい料理を出すためなら、手抜きしちゃいかん、ってこつこつやるんだ。」
楽しくなくても勉強する、グランド様と似てるかもね。
「俺は、楽しくない事でも、他人の為に、コツコツ努力できるやつの事、好きなんだと思う。信用できるって思ってる。だから、少しだけでも、楽しくない事が、楽しくなったら良いな、って思う。グランド様に勉強教えるの、楽しいんだわ。」
メイユは食堂にいる時、楽しく話をしながら下拵えを手伝ったり、賑やかに店を盛り上げていた。じいちゃんは、メイユと話をしながら下拵えする時は、時々、ニッと笑って、お前は面白えなあ、と楽しそうにしてくれた。
「ただ、俺、すごく勉強できたから。お客さんに習うだけで、読み書き計算、すぐできた。一度しか来た事のないお客さんの顔、覚えてた。その時注文した料理も忘れてなかった。勉強させなきゃもったいないね、ってお客さんたちにさんざん言われて、じいちゃんたちは、俺の事で、男爵家に頼ったんだ。」
それまで、ソリッド男爵家の奥方はメイユの事を知らなかったらしい。
「男爵家に預けられて、そうしたらね。すぐに何でか、じいちゃんもばあちゃんも、母ちゃんも、流行り風邪で死んじゃってね。本当のとこ、怪しいなって思うけど、証拠はなくて。」
ル・メイユール少年は、周り中が敵の男爵家で、こう思ったのだという。
「俺、絶対に幸せになってやろう、って。身分とか金とか、そんな事はどうでも良い。ただ、奥方様たちが絶対に俺を幸福にさせないように押さえつけているけど、すり抜けて、自由に、楽しく生きてやろう、って。」
メイユが学園に通わせられているのは、それが奥方様と、じいちゃんたちとの最後の約束で。
「奥方様も、きっと、影に片足を突っ込んでるんだな。いつも、楽しくなさそうだからね。」
学園には通わせる。
平民に落とす。
グランドは、それを聞いて、モヤモヤとした気持ちを隠しきれずに。
「メイユールは、幸せになれるのか。」
と聞いた。
「うん。グランド様のおかげかもね。俺、勉強、苦手な子に、楽しいんだよ、って教えるの、なんかすごく幸せなんだ。やり甲斐あるんだ。勉強を続けたいけど、それは学者の人に自分で質問しに行ったり、図書館で勉強したり、自分でできるだろ。だから、平民になったら、そこら辺の平民の子たちに、読み書きを教える流れの先生になれないかな、って思ってるんだ。」
メイユとグランドは、控えめながら、周りも認める親友となって。グランドは変わらずこつこつと勉強を、メイユは飛び回ってその余波をグランドに、振り回されながらも、彼らは充実した学園生活を送って。
メイユは、学園の首席で。最後まで首席で卒業して。
そうして、彼は。
「メイユは、やっぱり男爵家を放逐されて。今も、市井でその辺の子供に読み書きを教えて、食べ物やなんか微々たるものを貰いながら、自由にやってる。彼が言うには、私は、それに、もったいないだとか、こうするべきだとか、色々言ってこない所が信用できるのだと。それで、この間、ロマンチカ子爵家にやってきて、嬉しそうに言ったんだ。」
『グランド様!竜樹様が、教科書をつくるんだって!学校ってやつ、つくるらしい!俺、先生になりたいよ!ううん、もしなれなかったとしても、教科書づくりに参加したい!グランド様、協力して教科書づくりに応募しないか!?グランド様みたいな奴が分かる教科書が、楽しく学べる教科書が、必要なんじゃないか!?』
手のひら絵本作家のルリユールは、話を聞いてきながら、ウンウン、と頷く。
「そうだよな。その、メイユさん?みたいに、やりたい事をやれて、生き甲斐があったら、身分も金も、そんなになくたって、幸せっていうんだ。」
「そうだ、メイユは、ちゃんと幸せになった。これからも幸せにやっていくと思う。私は……メイユの、教科書の夢を、手助けしてやりたいと思う。男爵家の横やりも、竜樹様が関係するとあれば、防げるのじゃないかな。かの方は、そういうのを好まないと思うし、そもそも教科書づくりに応募の身分を設けていないから。平民も応募出来るんだ。……その、自分で言うのも何だが、私は、学才のあるメイユを、自由にさせておける、狡さのない、つまり領主としては不足があるが、自由の欲しい作家には居心地悪くはない取引先になると思うんだ。」
グランドは、『ことりのあ』の見本を手に取って、ゆっくり捲る。堪能する。
絵本作家ルリユールは、それを、うん、とした顔で、腕組み、見ている。
ペラリ、ペラリ、とページを捲る。
読み終わって、グランドは、ため息を吐く。
「『ことりのあ』これは、子供たちも、それは食いつくだろうな、と思う。魅力的だ。教科書に、こんな素晴らしい工夫があったら。それがもしダメでも、君をメイユに会わせてやりたい。才能がある奴を遊ばせておく、と良く言うけど、遊ばせてやらないとダメなんだ。君のような。メイユのような、自由なやつは。」
そうして、息子のキャフが。
勉強を、楽しい、って、クフクフ笑って出来るようになったとしたら。
「欲はある。私にだって。厳しくして、構いもしないのに、キャフを泣かせるばかりなのに、私を好きだと言ってくれた。キャフは、私を、好きだと。何かしてやりたいって、ルリユール殿、貴方の本を楽しそうに読むキャフを見ていて、欲が出てしまったんだ。」
妻のルシオールも、きっと微笑む。
弟のクーラントは、ルリユールの手のひら絵本出版事業を始めるとあれば、笑って、手伝ってくれるかもしれない。
「私は、幸せになりたいんだ。幸せに、なりたいんだ。」
どうか、自由を阻みはしないから。
「私の手を取ってくれまいか。ルリユール殿。」
ぶっちゃけ過ぎて、周りがニヤニヤしている。ラフィネも、マレお姉さんも、アマンおばあちゃま看護師も、フレーズおじいちゃん先生も。
グランドは、お酒がほんのちょっとでも入れば言えるのだ。
仕方ないなあ、って男、グランドに、従者のピコは、絵本をバリバリと販売しながら、ニヒリと片方の口角を上げて笑った。
そうそう、素直になれば良いんです。グランド様。
学園の時みたいに、楽しくやりましょう。
グランドにも青春はあったのだ。
それは、ツンと切なく、そしてほんわりと温かく、賑やかで、エネルギーに満ち溢れた輝かしい時代。
絵本作家、ルリユールは、ジッと待つグランドに。
「ちゃんと幸せになりたいって人間は、良いな、って、俺、思います。俺は俺のやりたい事を、言っていくと思う。それが誰かの幸せに関わるのは、嬉しい事だな。グランド様は、話を聞いてくれそうだ。お互いに、話し合っていく、譲れない所は、ちゃんと伝え合う。それでも良いなら、どうぞよろしくお願いします。」
片手を差し出して、慌ててそれに手を合わせて握り合うグランドと、グッ、グッと思いを込めて笑い合い。
竜樹様に絵本を見せてあげなきゃね、と笑って。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか。」
とフレーズおじいちゃん先生が言い。ラフィネたちも。
「そうですね。キャフ様じゃないけれど、セリューも、ジゥも、ドレも、お昼寝する時間だもの。お祭りが長引くと、疲れておんぶで帰ることになっちゃうわ。」
腰を皆で上げた時に。
ビクン!と頭を揺らしたネムネムのキャフが。
「かえりゃ……にゃい!おまちゅり、だの!あちょぶ!あちょぶの!」
と叫んだ。
「キャフ。お昼寝だよ。ヨーヨーもあるし、お母様が待ってるよ?」
「チェリュと、ジゥと、ドレと。いっちょに、ぼくのおうちかえりゅ?」
セリューたちは寮に帰るんだよー。
ふえ。
別々に帰ると知ったキャフのお目々は、ネムネムで二重が厚くなりながらもまん丸で。クシャ、と目を瞑ったかと思うと、その次の瞬間。
「ふわぁぁあーん!うええええ!や!チェリュと、みんなと、いっちょかえゆの!あちょぶの!やー!」
フレーズおじいちゃん先生に抱っこされたまま、甲高い声で、悲痛に泣き出したキャフなのであった。
ありゃ〜、と皆大人がタハハとなり、グランドがアワアワと焦って頭を撫でて、そんなわちゃわちゃ。
セリューも、コシコシと瞼を擦り始めていたのだが。ラフィネのお膝で、欠伸を一つ、ふわぁ〜あ。
ツンツン、とキャフの上着の袖を引っ張って、ラフィネの胸から乗り出し、その頭を抱えてやる。
トントン、するのは、お兄ちゃんたちや竜樹とーさ、ラフィネかーさの真似っこ。
「キャフさま、おじいちゃんせんせいのとこに、あした、いっしょにあそびにきなよ。りょうと、ちかいからさぁ。あした、あそぼ。」
グス、ひっく、と涙をお手てで拭くキャフは、ぐずぐずしながらセリューの言葉に。
「あちた、あちょぶ?ほんちょ?おじいちゃまと、りょう、いく?」
「うん、いーだろ?ラフィネかーさ。りょうには、サンとか、ロンとか、ちっちゃいこぐみのきょうだいも、いるからさぁ。ヨーヨーしようぜ、いっしょに!」
ニッ、とお目々を合わせて笑ってやる、ちょっとだけお兄ちゃんのセリューは、何だかんだやっぱり面倒見が良いのだ。
おじいちゃん先生のお孫のキャフは、きっと、めんどりセキュリティーのオーブの警戒も通るであろう。
明日はお祭りの最終日だけれど、小ちゃい子たちはお出かけせずに、夕方テレビを見ながら、お祭りの踊りの輪に入ったつもりで。寮で踊って楽しむ程度の予定である。
ラフィネは、ウンウン、と頷いて。
「おじいちゃ……フレーズ先生が連れていらっしゃるなら、キャフ様、どうぞ遊びにいらしてね。」
「そうかい?もし、可能ならばだけれど、キャフの母様のルシオールに連れてもらってもいいだろうか。彼女にも良く言っておくが、寮で竜樹様と近く、何か得をしようなどとは、決してさせないから。元々そんな女性ではないけれど、性格の良いお嫁さんだからね。私は仕事があるから、子供たちの親として、話が出来るラフィネさんたちと会えたら、子育てで家にいるばかりのルシオールも、きっと悩みや迷いを話せて、気持ちが和らぐ事があるんじゃないかと思うんだ。」
話の感じ、ルシオール様も、きっと大丈夫な、めんどりセキュリティーや、貴族家のややこしい得したりなんだりで関わってくる人ではないだろう、とラフィネは思う。
キャフは、涙を煌めかせながら、ラフィネを見つめて、お返事待っている。
「竜樹様に聞いてみますわ。きっと大丈夫よ。もしルシオール様の事がお時間かかるようでしたら、従者の方をお一人、明日は間に合わせに、キャフ様といらしたらよいですわ!ルシオール様の事、私たち、お話できる事を楽しみにしております!ママズクラブって子供たちを支援する団体のご婦人方とも交流がありますし、そんなお話も出来たら嬉しいです!」
そう、ラフィネたちは、貴族の女性たちとの話し合いは、段々と慣れつつあるのだ。
ルシオールともきっと、上手くゆくだろう。
「チェリュと、あちょべる?」
グチュン、となりつつも、セリューに寄り添ったキャフは。
「遊べますわ。明日、楽しみにいらして?」
ラフィネのお返事に、ズッ、と鼻を啜って、ニコッとした。
「チェリュ、あちょべる!」
「うん、あそぼーな!キャフさま!だからきょうは、いいこで、ばいばいまたね、だぜ!」
目を合わせて、セリューに頭を撫でられて、キャフはコックリ頷いた。
「また、あちた。バイバイ、またね。」
「うん、またねー。」
コトン、とフレーズおじいちゃん先生のお胸に、満足気な顔をして頭を落としたキャフは、す ふー、と息をしたと思ったらたちまち、眠ってしまった。
絵本作家ルリユールが、それを見てニカ!と笑って。
「キャフ様、待っててくれよな。皆が楽しくなるような、そんな絵本、もしかしたら教科書も、頑張ってつくるからな!」
と、その強面に似合わない囁き声。
皆がホワホワと、お祭り、気持ち温かく2日目。チームラフィネは満喫して帰り支度となったのだった。




