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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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初恋はクロスする


アマンおばあちゃま看護師が若かりし頃。確かに初恋は、フレーズおじいちゃん先生だった。そして、後から知ったのだが、フレーズおじいちゃん先生の初恋の相手も、アマンおばあちゃま看護師で。

それは2人が、14歳と12歳の頃だった。アマンおばあちゃま看護師の方が歳上なのである。

何となく、いいな、あのこ素敵だな、っていう、淡くて甘い。すっと溶けるラムネ菓子みたいなものですね、と竜樹なら言うだろう。


「初恋って、美しいものよ。だけど現実を切り開く、醜い感情や割り切れない思い、矛盾した気持ちも包んだ、強かな大人の関係じゃないわ。私たちはお互いに、初恋同士だなんて分からなくて、だから、誰にも言わずに、親の勧める相手と婚約したわ。そして、それが、私の夫と、貴方のお母様。幼馴染みで……うふふ、これまた初恋の相手同士な2人でした。」


私たち4人、初恋連盟って会合をつくって、一つ月に一度。

「会っていたのよ。大人になっても、歳をとっても、長らく4人で。」

「バカな!そんな……。」


お口あんぐりこなグランドに、アマンおばあちゃま看護師は、おほほほほ、と口元に手、上品に笑う。

「親だって子供に言わない個人的な事はあるわよ。幼い日の初恋話なんて、気恥ずかしいじゃない?」


アマンおばあちゃま看護師と、夫のロジックは、婚約者として出会って、お互いに打ち解けて話をする内に、初恋相手が別にいる事が分かった。

ロジックは、本当にフレーズ(その時はおじいちゃんじゃなかった)が好きなのなら、何とかならないか考えようと言った。


「何かと実際家でしたからね、主人は。そして、自分も気になっている女性がいて、それが、フレーズ先生と婚約しているのだ、私たち4人で、まずは現実的な事を話し合おうじゃないか、って。それで、4人の初恋関係がクロスしている、って分かったのよ。そう、貴方のお母様も、ロジックが初恋だったの。」

ふふふ、と笑うアマンおばあちゃま看護師は、懐かしい事を語るその頃の少女のような、キラキラした目で。


後ろで控えているグランドの従者は、何々?と聞き耳、だけど口を挟まずにジッと、いや、微妙に良く聞こえるようにおばあちゃまと主人グランドにジリジリ近づいた。

型抜きをやっているお客さんたちも、ラフィネも、マレお姉さんも、素知らぬ顔で耳が大きくなっている。集中してカリカリ型抜きしているのは、子供たちばかりである。


「主人は、私の実家のレアリテ伯爵家に婿入りする事になっていたのだけど、領地運営に、とっても興味があって、やりたい事だったみたい。縁ある子爵家の、次男坊で、子爵家ではご嫡男より領地の運営向き。兄弟間の複雑な感情も出来始めていたし、親御さんも兄のサポートをするより、よそで頭にさせた方が良いだろう、って。彼は、私に、レアリテ伯爵家で挑戦できる事、をね、とにかく物凄く調べて4人の会議にのせてきたわ。」


「……それは、初恋より、実利をとったという事でしょう。」

グランドが、つまらなそうに応えると、おばあちゃまは、うふふふふ!と笑うのだ。

「私も最初は、そう思ったわ。恋する感情と、そういう実利とを、引き比べて、実をとるのだわ、冷たい、そういう人だと。だけどね。………すっごく、レアリテ伯爵家の領地で挑戦できる事、を話す主人は、ワクワクしてピカピカにほっぺを光らせて、とっても嬉しそうだったの。それが、邪な思いであると、簡単に断じた、少女の憧れに現実を知らず賭けてしまうような、私とはちょっと違ったのよ。」


『アマン様。私は貴女と結婚して、これだけのやり甲斐をもって人生を進んでいけると言える。領地の皆と、苦労を幸せに変えるための努力を、ある種、楽しんでやっていけるだろう。勿論当主の仕事が厳しい事は知ってる。いいや、本当には知らないのかもしれない。責任も重い。沢山の人の人生に関わる。そしてそれが、面白い。……軽蔑の目で見ないで。確かに、純愛は美しいよ。だけど、これは、これからどうやって生きていくか、人生の問題だろう?私が、ソリッド嬢と、ロマンチカ子爵家でできる事と比べてみて、それが可能か、本当にそれで良いのか。初恋を成就させる道を選ぶのと、良い点と良くない点、そしてどちらになるとしても、納得して、結婚したなら相手を愛しんで暮らしていけるように、私たちはそれぞれの未来を議論しなければならない。対策も。現実って、恋愛が上手くいけば全て上手くいく、他には何も考えなくていい、なんて単純なものじゃないんだから。』


「ロジックは、熱い人だったわ。そして、私より大人だったわね。歳上でもあったし。私、面白くなかったのだけど、まあ、ぶつぶつ言いながら4人で何度も会って話をしている内に、そのう。」


ロジックは、論破をしてこなかった。

アマンの幼い話を、ちゃんと一旦聞いてくれて、広げてくれて。


「その時、もうフレーズ先生は、治療師になりたいと心に将来を決めていたから、私が領地をみるので本当にやっていけるか、その場合に助けになる人やもの、勉強は何か、ロジックと結婚した場合との違いはどうか。貴女のお母様、ソリッド様が、実は領地運営をやってみたいって……本当、主人ロジックとソリッド様は、似ている2人だったのよね。だから、ぶつかる時は喧嘩腰だし、気が合う時はポンポン意見を言い合って。私は、私も、治療師になりたいのを、向いてる魔法を持っていないから断念して、そしたらロジックに、看護師になれば良い、なんて目から鱗、細かく、細かく、人生のこれからについて、私たち、夢を、4人で。沢山たくさん、話し合ったの。」


それは、4人の、青春だった。


そして、惚れたのだ。


アマンおばあちゃまは、頼り甲斐のある、現実と夢を擦り合わせできる、熱い男ロジックに。


フレーズおじいちゃん先生は、しっかりした、時に古くて頭の固い父親を切り裂いて、それだけじゃなく包み込む大胆、鮮やか戦う乙女。魅力的なソリッド嬢に。


ロジックは、優しくて、だけど苦難の道へ夢をもつしなやかな少女、どこか癒し手、アマンに。


ソリッド嬢は、柔らかくて穏やかで、調子が良いところもあるけれど、面倒見のいい、努力家のフレーズ少年に。


結局、婚約者同士の組み合わせで、上手い事いっちゃったのだ。


ボキ!

「あ〜!われちゃった!おじいちゃま……。」

泣きそうなキャフに、フレーズおじいちゃん先生は、もう1回やるかい?なんて孫に甘々である。

そしてキャフは、不器用だけれど、やっぱり粘り強いらしく、フンス!と強い決意を、おじいちゃまから新しく銅貨1枚をもらって再挑戦。


落雁は、「シールが欲しくて捨てられるウェハースみたいになったら嫌だから。」と竜樹がハテナな事を言っていて。

ホーンオジさんが、削るのに夢中な子供たちから受け取って、新聞紙で作った簡単な紙袋に入れてやる。すぐ食べなくても、持ち帰ってね、ってやつだ。

キャフは一欠片、新聞紙の袋の中から割れた落雁をパクんと食べると、残念賞の鈴と袋をおじいちゃまに預けて、モゴモゴしながら真剣にまた削り始めた。

セリューと木箱の椅子を半分こして。


アマンおばあちゃまは、頬に手を当てて、それを温かい目で見て、満足そうにフッと息を漏らす。

キャフがこの世にいるのも、自分たちが選んで進んできた人生の結果で、それは、とても良きものだと思えるのだ。


「私たち、4人で話すのが楽しすぎてね。初恋連盟での話し合いは、次第に子育て相談や、領地の困った事の打開策なんかになっていって……、きっと4人がそれぞれ、初恋相手より実際の伴侶と、恋人や夫婦になるには相性が良かったし、仕事の話をするならそれがクロスしていたのね。上手くいっていたの。私が愛したのはロジックで、主人と過ごした、夫婦として試練を乗り越え、苦楽を共にした時間は、誰に何を言われても、侵されない真実として、今もあるわ。」


人として、夫婦として、男女として、愛しているということ。

それを教えてくれたのは、お互いの伴侶。初恋の相手じゃない。


「私とフレーズ先生は、伴侶に先立たれたでしょう。初恋連盟の残された者同士、誰にも遠慮せずに、お互いの伴侶との思い出話がしたいのよね。そういう、これから先の時間の共有をしたいの。結婚は、一応、フレーズ先生は申し込んでくれたけれど、私もフレーズ先生も、お墓はお互いの伴侶の側が良いなって思っているから。話し合って、結婚はしないで、事実婚みたいにして、週に2、3日、小さな家で同居できればなぁ、って。私の娘たちは、良いじゃない!お母様の人生よ!って言ってくれてるのだけど、そういう、男女のものとは言い切れない、寄り添う私たちの関係って、グランド様に分かって頂けるかしら?」


う、う……。

呻いたグランドは、急なぶっ込み話に、頭の中がグルグルだった。

「母が……、母は……。」


「私とソリッド様は、親友よ。だから、愛する夫の先の時間を、彼女は私に託したわ。自分が亡くなった後、一緒にいてあげてちょうだい、私が先に逝くと知ってとても落ち込んでいるの、どんな形でもいいから、と。ロジックと一緒に、あちらの世界で来るのを待っているから、って。私の主人は、ソリッド様の1年前に亡くなりましたからね。」


「そうですか。……俄には、し、信じられない、が。そ、それで、母が、貴女に、私たちの事……を?」


しょん、としたグランドは、やっと素直にアマンおばあちゃまの話を聞く気になった。大きな背中が丸くなって、それをおばあちゃまが、さすさす、と摩る。

「グランド様は、領地の事で忙しい母親ソリッド様と、治療師として家にずっといる訳じゃない父親、フレーズ先生の代わりに、お祖父様とお祖母様に面倒をみてもらっていたのよね。だからこそ、女性が当主代理として領地を回す、そんな娘が認められなかったお祖父様のお気持ちに沿って、昔気質に周りを信用しきらない、頼らない1人立つ、立派な強い当主を、何でも決めて頼れる当主を、是として育ったのでしょう。」


グランドの思い出の中で、祖父はいつも不機嫌だった。けれど、いつだって自分に目をかけてくれて、自分は、苦しいけれどそれに、応えなければと。

次男のクーラントの方が、対人能力が上で、不器用なグランドより、何でも上手くできて、それでも慕ってくれて、祖父はそんな兄弟を、明確に嫡男と次男とで、かける言葉を違えて……。

それが、暗く嬉しかった。


思い出は甘く苦い。全てを否定は出来ない。良い事もあったし、もやもやする事もあった。気持ちがぐるんと掻き回される。

自分の今までを否定するようで……。

胸が、苦しい。


「私は、弟、クーラントには、当主を譲ってやれなかった。本当はその方が、上手くいくって分かっていたのに、私にはそれしか無かったから、だから、だから、クーラントには、クーラントには、自由を。」


自由を、あげたかったんだ。


言い訳だと、誰よりも自分がそれを、知っている。


パキン!

キャフが、また型抜きの落雁を欠いてしまった。

あっ、あ〜あ、となるが、バッとおじいちゃまを見て。

「もういっちょ、おじいちゃま!ぼく、がんばゆ!」

クフフ、とおじいちゃまは、何度でもやらせてやる。


「ソリッド様も、フレーズ先生も、グランド様のお祖父様やお祖母様の悪口を、絶対に子供の前で言わない、と決めてらしたようよ。それは感謝があるからね。グランド様も、ご次男のクーラント様も、ご両親がお忙しくて、さぞかし寂しかったでしょう。家族って不思議ね。私は、もっと打ち解けて言っても良かったのじゃない?って思った。だけど、うふふ、グランド様ご兄弟の事、言えないわねえソリッド様も。肝心な所を、なかなか家族には近すぎて言えないのよね。」


『グランドは、当主の仕事を、責任感でやろうとしている。楽しさなんて一つも知らないで。我慢強いのは良いけど、イライラして余裕がないわ。こんなに面白い仕事はないのに。人と関わって、発展の種を掬い上げて、損を切り、損得だけじゃなく、護る事に特化してもいい。責任は勿論必要だけれど、やり甲斐を知らずに、苦労にだけ思って。クーラントは、目の付け所が良くて、何につけても器用だけど、上に立ちたくない、小さな責任を持ちたいタイプなの。サポート向きなのよ。2人が協力したら、こんなに良い事はないのに。』



お祭り2日目、ニリヤ王子と子虎幼女のエンリちゃん2人、サーカスから連れ去られた事件のその先で。

お友達が欲しかったクラフティ少年の、叔父様、カスケード子爵家当主代理ムラングが、思い人のクルヴェット伯爵家キュイエを嫁にもらって、当主代理を手助けしてもらう心決めの何やかやをしているとは。

ムラングもグランドも、お互い思っていないが。


当主仕事を望まずとやらざるを得ない男子というものは、背負いすぎて何かと孤独に自分から陥りがち、人を信用するには自信が足りず、独りよがりになりがち、なのかもしれなかった。


10月になりましたね。

更新、間があいても2日休み以上にはならないように心掛けつつ、隙あればもっと頻繁に、だけど焦らず。

図書館の本なども沢山読んで、面白くお話が書けるようにがんばります。

秋の味覚を、体調に響かない程度に楽しみつつ!

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― 新着の感想 ―
初恋が結びつけた二組の男女の愛情と友情って感じですね。素敵だ。 稀有な関係だと思いますが、この四人が巡り合って良かったなあ。 グランドさんはお祖父様に跡取りとして厳しく育てられて、弟のクーラントさん…
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