宣誓!
「さてやってまいりました週末の朝、レポーターのスーリールです!ここは騎士団庁舎前、訓練広場に来ています!今日の『求婚♡大作戦、男達の見せ所アピール大会』を見に来ている人たちも、たくさんいます!」
ざあっ、と人波。威勢のいい囃子声まで聞こえる。言うなれば、運動会のグラウンドの朝である。
図書館事件の次の日、放送された郵便のリポートは、勿論好評で、グッと郵便局の知名度は上がった。そして、テストだった王都の郵便業務は、このまま拡大して、地方都市まで広がる事となった。
人気の王様、ギフトの御方竜樹達への手紙は、益々増える勢いで、問い合わせも多数寄せられている。
これから、竜樹の世界では古式ゆかしい『文通』が流行る事になり、文通相手を募る為の雑誌まで出る事になるのだが、(もちろん竜樹がニュースで見てかろうじて知っていた、懐かしい昭和の記憶からの知識である)それには時を待たねばならない。あと、簡単に近況が書ける、素敵な絵が描かれた絵葉書も、流行るようになる。
郵便レポートが終わって、今日の放送は終わりかな、と思ったら、図書館事件である。そこで、パージュさんをナレーションにスカウトした事、男運の悪さ、王兄殿下と副団長の告白、そこまでで女性達はきゃーっ!と湧き立ったが、その後の元彼達の暴言映像に、女性どころか男性達まで、フォオオ!と怒りの声を上げた。図書館には高価な本もあるのだから、もちろん神の目が仕掛けられていたのである。
女性に失礼すぎ教育に悪い言葉には、ピー音で隠しを入れたが、大体何言ってるか見当はつく。王都の民は、江戸っ子みたいに気風がいいのが特徴で、あんな奴ら男の風上にもおけない!と、特にパージュさんくらいの娘を持った親父共が、結託して元彼連合を睨みつけた。
どこに行っても、みんなに顔を知られていて、しかも冷たい目で見られるのは、普通の人でも辛いが、自分達だけは大事に扱われるべき、と勘違いしている甘えた若造には染みたらしい。
叩き出された酒場から、泣き言を言ってぶらついていた所を、王兄殿下や副団長、そして竜樹に頼まれていた兵士にとっ捕まって、豚箱に突っ込まれた後、そしてこの『求婚♡大作戦』会場へお縄を頂戴したまま、連れて来られている。
面白い事が始まると、見物客が押しかける。飲み物や菓子を売る者はいるわ、臨時の椅子を有料で貸し出す者はいるわ。因みに、利に聡いバーニー君が発案して、販売貸出業の者からは、出店料(程よい値段で)をもらっている。
王宮楽団が、パパラパ〜♪ とラッパを吹き出す。
放送本部のテントから、さぁっ、とマントを翻し、王様王妃様、登場。
そして、続いて今日の姫君たち、美しく装った、パージュさん、プティさん、侍女長のクロシェットさんが現れた。
侍女長のクロシェットさんは、ラベンダーのストレートヘアをキュキュ、とまとめ髪にした、中肉中背、キリッとした紫水晶の瞳の女性である。お年は50歳。なんだかんだでニリヤとキャナリ側妃が揉めていた頃、ニリヤが物理的に暴力で虐められなかったのは、この侍女長クロシェットさんの手腕が大きいらしい。何と言っても、ネクターに、頭をペン!とされただけで、うえぇ、と泣いてしまうようなニリヤなのだから、肉体的暴力に晒されている訳はなかった。みんな、限界を感じながら、今いる所で戦っていたんだなあ、と竜樹は思う。ほんのちょっと、見方を変えれば。ほんのちょっと、便利なアイテムがあれば。そしてほんのちょっと、ギフトの御方のもつ、自由があれば。世界は変わると、みんなもう知っている。
設られた台に登り、王様が口を開く。
「ここに現れたる、美しき姫君達に恋焦がれる、熱き男どもよ!入場せよ!」
「「「「はっ!」」」」
それぞれの仕事服に身を包んだ、バラン王兄殿下、エーグル副団長。
そして、ちまっとした、なんとプティさんくらい小さい背の、細い目に四角いメガネ、灰桜色の毛先だけくりんとしたのを片方で縛った髪、文官のカシオンさん21歳。太ってはいない。しかし、ふにっと触りやすそうなほっぺである。
彼は、プティさんが『求婚♡大作戦』に参加すると聞いて、勇気を出して応募したプティ推し図書館男子達の中で、一番くじ運の良かった人である。誰でもって訳にいかないので、抽選にしたのだ。もうこれだけで舞い上がっているのだが、見た目落ち着いて見える、ちぐはぐシャイボーイであった。
それから、最後に、スラリとした細身の侍従長、ミネさんである。借りた本に、ミネってあったな、と竜樹は思い出す。そう、ミネ、とは、猫ちゃん、の意味なのだ。そして侍女長クロシェットさんの名前は、鈴の意味がある。文字通り、猫ちゃんに鈴をつけろ!の諺通りに、いい仲でいながら、なかなか結婚しない二人というのがこの組み合わせであった。今回も、王妃命令で出場している。
ミネさんは、三毛猫ではないが、黒毛をベースに、枯葉色と白のメッシュの入った髪をしていて、頬に掛かる横髪に長い後毛を、紫色の紐で結んでいる。50歳。控えめな大人しい顔に、少しの皺、黒飴の瞳。
好きな相手の色を、ちょこっとつけてる所なんか、かわいいおじ様である。
「そして熱き男達に挑み、姫君と一日中一緒に遊ぶ権利をかけて、特別参加をするのが、王子達3兄弟だ!入場せよ、オランネージュ、ネクター、ニリヤ!」
「「「はいっ!!」」」
真面目な顔で、ふんふんと鼻息荒く。
動きやすいシンプルなシャツにズボン姿で現れた3人である。トコトコトッ、と歩いて王様の前に並ぶと、ピタ、止まって一礼した。
宣誓を!
「わたしたち、おうじ、いちどうは!」
「正々堂々と戦うことをちかい!」
「見事に一日中遊ぶ権利を得ます!」
王兄殿下、エーグル副団長、カシオン文官、ミネ侍従長の順で。
「私達、恋に焦がれた男子一同は!」
「姫君達の意思を尊重し!」
「正々堂々と見せ所を披露し合い!」
「最後に見事プロポーズする権利を得る事を誓います!」
「うむ!皆のもの、力の限りを尽くし、求婚してみせよ!」
わわわわわーっ!!!
ついに大作戦の開幕である!
「あ、あ〜。」
設られた台から降りた王様から、バトンを受け取って、竜樹の口上の番である。
「みんな、ケガなく無事にプロポーズと遊ぶ権利を獲得できるように、頑張ってください!そして•••。」
チラッと、捕縛されている、パージュさんの元彼連中を見遣り。
「不埒に姫君を貶めた、愚か者達との、最終決戦も、用意されていますので、宜しくお願いします!」
ではまず、
「男たるもの、奥さんが具合が悪い時に、朝ごはんの一皿でも作れなければ、愛想尽かされちゃいます!疲れて病気で寝たい時に、俺のご飯は?なんていう夫は、妻に見放されちゃうんだぞ。」
ワハハハハ!
違いねえ!
観客がどっと笑う。
「簡単なもので構いません!愛しい人に、お目覚めの一皿を。材料、用具、魔石コンロ、流し台はあちらです!それぞれ工夫して作ってみてください!時間は1刻きっかり。分からない事は、お助け竜樹がお教えします。全部は教えませんよ?では。」
はじめ!!
わーっ!
ワタワタワタ!
男達の早足に、トコトコトッと王子達の駆け足。
テレビクルーは、ニュース隊に加え、これもミランが育成した、侍従発カメラマン達3人が、また早足で撮影しながら男達と王子を追いかける。
ミランは今日は、竜樹と解説席でお話ししつつ情報局ミラン開設である。
何と、今日は、初めての生放送なのだ!
広場前大画面の前にも、観客がいっぱい集まっている。吟遊詩人達は、仕事にはならないが、こんな面白い仕事のネタはないので、楽器片手に、ゴクリと固唾を飲んで見守っている。
なんだかんだで人生を楽しんでいる、吟遊詩人達である。
「ぼく、めだまやきつくる。べーこんも、やく。」
「パンにジャムつけたらいいかな?バターとジャム、いっぱいつけちゃおう!」
「ミルクは絶対、必要!!温かくする!」
王子達も、時々、竜樹が料理するのを手伝ってくれたりするので、少し、できるのだ。が、火を使う時は、御付きの者が1人ずつ、ついている。安全には配慮しております。
そして男達は。