人は間違う生き物である
いつもの時間の更新じゃなくてごめんなさい。
たまたま連休なのでゆっくり書きました。今週なかなか更新できなかったので、上げちゃいます。
明日も更新できるといいな!
フードゥルに突撃訪問!のエクレとシエルたちが、少し前、エステのお試しモデルをしていた頃。
新聞寮では、ゆっくりお出かけのラフィネ母さんたちチームが、交流室で最終チェックをしていた。
『ラフィネ母さんと一緒に
無理なく街を歩くチーム』
⚪︎セリュー(寮の子、小ちゃい子組):「かーさとおててつなぐ〜。」
⚪︎ジゥ(寮の5歳の女の子):「かーさといっしょでちゅ!おまちゅり、たのしみでちゅ!」
⚪︎ドレ(寮の6歳の男の子、大人しい):「かーさとゆっくり回りたいの。」
⚪︎マレお姉さん(エルフ、寮の子のお世話人、眼鏡っ娘で博識、優しい):「無理なく小ちゃい子達も楽しみましょうね、お祭り!ふふ!」
赤ちゃんではないけれど、特に幼稚園児か小学校1年生か、という年齢の子供たち、セリュー、ジゥ、ドレとのお祭りお出かけである。
人通りも多いだろうし、暑かったり寒かったりもするかもしれないし、お祭りだから出店で飲食に困りはしないだろうけれど、念の為、温かいお茶を入れた水筒も、一つは持っておきたい。
クマちゃんもいくの!と張り切っているセリューとジゥは、エフォールが編んでくれた編みぐるみのクマちゃんを、紐で背中におんぶして、交流室をとてとて走り回っている。既に元気いっぱいスタンバイOKである。ドレは、ちょこんと座って、大人しく絵本をパラリとめくっている。
子供のお出かけというのは、何でも外で間に合わせに調達できて、体力がある大人と違って、気を配って用意しておくべきものがあるのだ。
ラフィネは、眷属白熊レザン父ちゃんや眷属白熊エタニテ母ちゃんみたいに、何かあればさっくり飛んで帰れる訳もなし、オランネージュ王子、ネクター王子、ニリヤ王子や貴族のエフォールたちのお付きの者たちもそうしたように、本人たちの補助として、何かあったら、に備えなければならない。我が子サンはお酒の試飲即売会で屋内、大人がついているのだし、うんうん、皆小ちゃい子たちも、楽しくお祭りお出かけできそう。
「マレお姉さん、子供たちのカーディガン、手分けして持ちましょう。薄いので大丈夫よね。あと、ガーゼ布の大判を1つ、お金を小分けにして持ちました、首から下げるがま口って本当便利ね。服の中に入れておけば、防犯にもなるし。」
「ですねー!もしこれが盗られちゃっても大丈夫なように、リュックと内ポケットに小袋で入れときましょう!私が転移魔法使えたら良かったんですけど、エルフなのに私、ごめんなさいラフィネさん。」
とほ、とマレお姉さん、眉下げる。エルフだからといって、皆転移魔法が使える訳ではなく、やはりその中でも色々と能力に違いがあるのは、人でもエルフでも変わらない。
「ううん、一緒に来てくれて、凄く助かるのよ〜!1人じゃ荷物も持ちきれないし、元気な子供たちにも目を配りきれないだろうし。私なんて何も魔法は使えないわ。マレお姉さんは、便利な浄化や、植物に話を聞くって素敵な魔法が使えるじゃない?ふふ、転移できない者同士、準備をちゃんとして、皆で楽しんできましょうね。」
ニッコリしたラフィネに、マレお姉さんは眼鏡をぴ、と直しつつ、ふにゃ、と笑った。
「はいっ!楽しみましょう!子供たちと私たちのペースで、のんびりまわりましょう〜!」
ラフィネかーさは手を自由にさせておくために、竜樹とーさが用意してくれた(わざわざこの日のために縫ってくれた)ベージュ色のリュックサックに荷物を入れ、ポン!と満足、ぷっくり膨れたリュックを叩いた。マレお姉さんのはオリーブ色である。
リュックの入れ口は金具が使っていなくて、芥子色の紐でキュと絞り、ポケットが幾つも、ベロに木のボタン、糸はポイントカラーの芥子色で留めている。マレお姉さんのポイントカラーはオレンジである。
おしゃれと、背負っていての楽さと、どちらを取るか竜樹とーさは一瞬悩んで、楽さを選んだので肩紐の幅は太め、綿も入れクッション性もあるふかふかさだ。
何度もラフィネとマレお姉さんに背負ってもらって合わせたので、フィット感も抜群である。
留守番組のシャンテさんと赤ちゃんツバメ君、コクリコと生まれたてカンパニュールゥことルゥちゃんは、あぶあぶ、あふーと交流室で日向ぼっこ。
人数の少ない寮は、何だか静かで、秋から冬にという時期だが、お部屋は暖かく。ほんわかのんびりムードである。
さて、行けるかしら、とラフィネが交流室をぐるり、巡らせて、そういえば走り回っていたセリューとジゥは、何だか静かだわね?
部屋の隅っこ、セリューとジゥと、ドレ。3人、こちらに背を向けて、ぺたんこお座り、お背中のクマちゃんがだらんと手足を投げ出している。
「セリュー、ジゥ、ドレ。お出かけできるわ……よ?」
くるり。
振り返ったセリュー、ジゥ、ドレは、お口をもぐもぐしている。
「何食べているの……、……!?」
セリューの手に握られた茶色に樹脂引き、湿気と乾燥を防いだクラフト紙袋には、印刷のラベル。果物のイラストと、子供のマークに大きくバッテン、『マルチビタミン』試作品の、大人用サプリのグミである。
ひぃええええ!
吐き出し…とラフィネとマレお姉さんがダダダ、駆け寄ると同時に、セリューは、うっくん、と飲み込んだ。
えっ、えっ、あっ!?としてる間に、ジゥも、飲み込んじゃって1つ、摘んだグミを、あーん、としそうに。ドレはペロンと唇を舐めて、美味しかったの顔をしている。
どうして悪い事をしている時の子供の顔って、とっても満々、うわぁと嬉しそうなのであろうか。
「あー!ダメダメダメ!これはお薬なのよ、ジゥ、待ちなさい、めっよ!竜樹とーさが、皆に、子供はダメよーのしるし、って、ほら、ね、バッテンよ!?」
「誤食は、絶対にあります。」
竜樹とーさが、サプリグミを右手に。
ビタミンなどの成分が強く入っていない、単なるお菓子のグミを左手に、そう言った。
サプリグミの開発、最終的な商品の仕様を、決めていた時の事である。
寮で、元花街組エステティシャンと、エルフたち、治療師と医師のお偉いさんの1つ下、実務代表と、薬師組合の実務代表、サプリの原料を担う貴族家の実務担当者と。
それから、ラフィネかーさやマレお姉さんたち寮のお世話人、子供たちも集まって。
「元の世界のサプリのグミも、お子様の手の届かない所で保管して下さい、って書いてあるんだけどね。子供と大人では、必要な量も、過剰になる限界値の栄養の量も、違います。子供用のサプリもあるくらいだし、ビタミンとかは自然の食べ物にも入っていて、毒なんかでは勿論ない、身体に必要なものなんだけれど、何でも沢山摂りすぎは良くないものだよね?大人用を子供にあげたら、良くないって事になります。それでもね。」
お菓子の方のグミを、ポイっと口に、モグモグした竜樹とーさは、子供たちに、おかしぃ、いいなー!ボクもオレも!と小ちゃい手が上がるのを、ムフーと見回した。
「美味しいねぇ。はーい、皆、竜樹とーさとお約束。このお菓子は、グミっていうんだけど、お菓子じゃなくてお薬のものもあるの。はーいこれ、子供はダメよマーク。よーく見て下さい。」
商品の紙袋の、子供にバッテンマークを指し示し、子供たちの間を巡って1人1人に見せていく。
ばってんだー!こども、ダメだの。わやわや、きゃいきゃい。紙袋に触って、短いぷっくりした指がマーク辿って、まん丸お目々。
「とーさたち、皆がお菓子と間違って食べちゃわないように、気をつけるけど、皆もダメよマークの、お薬お菓子は食べないで下さいね。竜樹とーさが、お薬じゃない方の、グミのお菓子を、ちゃーんとご飯が食べられたご褒美に、今日から皆に、はいどーぞ、って1つずつあげるから、竜樹とーさがあげたんじゃないのは、もし落っこちてても食べちゃダメですよ?約束できる人ー!」
はーい!
お返事は皆、元気に良い子で。
治療師実務担当は。
「グミは小ちゃいとはいえ、甘くもあるし、甘いのを食べ過ぎも竜樹様は良くないとおっしゃいました。確かに贅沢病と言われる、貴族や豊かな商家によくある病気もございます。1粒で、充分な量のサプリにするのは、どうなんでしょうか。」
薬は多過ぎず、充分な量を、の法則を治療師たちも知っていて。
でも、子供たちに手ずからグミお菓子を1つずつあげながら、わやわやだまだんご竜樹とーさは。
「甘味は摂り過ぎないように、入れる量の調整が出来ます。エルフの森の甘味で、少しの量で甘みだけ強いものもあるしね。そして、誤食は絶対に起こります。気軽な気持ちで子供に与えてしまう人も、いるかもしれません。こういう、病気未満の、健康にいいよ、ってタイプのものの場合、本当に苦しんで飲む薬より気軽に摂取してしまいがちだし、1粒ではっきりした効能を目指すより、1つくらい間違って食べても健康に異常がない、を目指すべき、と思います。皆さん、子供たちを見て下さい。グミのお菓子を、とーっても美味しそうに食べているでしょう。」
ニリヤ王子が、お口をもむもむしながら。
「グミおいしねぇ、ししょう。」
両のほっぺにお手てをあてて、ムフフんである。
子虎幼女エンリちゃんも、ニフ、とグミを摘んだ指先を舐めている。お耳がピクピク、甘酸っぱい粉、美味しい。
グミを全般、食べちゃダメなもの、として教えるやり方もあるが、竜樹はそれを選ばなかった。だってグミって美味しいじゃない。普通の食べ物だって、子供に大丈夫なものもあれば、ダメなものもある。
竜樹とーさが手ずからあげるもの、だけ食べられるよ、大人用は食べちゃダメよ、とまずは意識づけして、と思ったのである。
きゃわきゃわニコニコの子供たちの姿を見て、治療師実務担当は、アー、ウチの子もサプリのグミ、見つけたら食べちゃいそう。だって見かけもキラキラしていて、美味しそうだもの。となるほどした。
薬師実務担当は、グミじゃなくても甘くしたお薬を子供が飲んじゃった!などの報告も耳にするので、うんうん、1粒に濃縮しないが良い、と頷いている。薬とは、毒と表裏一体なものなのであるから、使い方次第で生きも死にもするのだ。
と、いった経緯を思い出して、ラフィネかーさとマレお姉さんは、焦りながらも、竜樹とーさ!誤食はあり得ました!とタハハになった。
ジゥの指からグミを取って、えーとした顔は、めっよ?して。
お口をあーんと開けてみさせれば、3人とも美味しいグミはごっくんしちゃってる。
「幾つ食べたの?セリュー?」
「ちょっとだけなの。ちょっと。おいしいだから、おくすり、ちがうんじゃないー?おくすりは、にがいじゃんね?ラフィネかーさ?」
セリューは胃腸の調子を崩した時に、苦いお薬を飲んだ事があるのだ。
ちょっとだけ、と言いながら、人差し指と親指でちょっとのサイン。ケロッとしてる。
ちょっととは。うーぬ、と唸るラフィネである。摂取量が具体的じゃないのである。
こんにゃろー!と、可愛小憎らしい顔、ほっぺを挟んでニィーとお口をぎにゅぎにゅさせて額を合わせるラフィネである。まったくもう、まったくもう!いたずらっこめ!
サプリのグミは、元花街のお姉さんたちも、子供たちがいる事で凄く気を遣って、自分のお部屋などで食べていた。
今まで誤食などなかったのだが、今日はお祭り、お試し品を持っていくにあたり、荷物の移動に紛れて一袋、交流室に落ちたものだろうか。
「竜樹様は1粒くらい食べても大丈夫なように作った、とおっしゃってましたけど、念の為に、おじいちゃん先生に診てもらいましょう。」
ジゥとドレに、こにゃろめー!とラフィネと同じく、ほっぺにぎゅにぎゅしていたマレお姉さんは、うんうん、とラフィネと頷き合う。
「そうしましょう!おじいちゃん先生なら鑑定も出来るし、分離も使えるから、もしもの時に解毒してもらえますね!すぐどうにかなるものじゃないですし、落ち着いて行きましょう!」
お祭りの前におじいちゃん先生の所に行く事になったチームラフィネ。
王宮の、医務室にいざ、である。




