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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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フードゥルチャンネルにて、カルネ王太子ご一家

エステ実演前に1話はさんでしまいました。すみませぬ。


カルネ・フードゥルは、フードゥル国の第一王子、王太子である。

新聞寮でごやっかいになっている元王女、そして本日、エステ実演のモデルをやるエクレとシエルの、ちゃんと叱れるやる時はやる、しっかりした兄である。


健康診断の身体スキャナで、竜樹のお誘いで出来始めの腫瘍が見つかり、命に別状もなく治癒魔法で、知らないでいればあわやを助かり。竜樹に多大に恩を感じている。

髪は蜂蜜で瞳は黒、胸板も張った、堂々とした美丈夫である。


カルネ王太子は、寛いだ私服姿で、妻のリアン妃と。城に設られた、寛ぎの部屋にいた。

絨毯はふかふかのナッツ色、大小色鮮やかなクッションがぽこぽこと置いてあり、靴を脱いでそこに埋もれるようにして座った2人は、目の前の木目が美しいベビーベッドを覗き込んでいる。

ベッドの中、ふわふわのお布団に寝て、ふわぁう、と欠伸をした、男の子の赤ちゃん。ギュッと握った拳が、瑞々しくもぷくりと小ちゃい。白のロンパースに、クマちゃんのラインの刺繍が胸元、ちょこん、と入っている。

お目々は父、カルネ王太子と同じ、黒く、ぴかぴかと生まれたて。顔立ちは可憐で優しい、お母さんのリアン妃似だ。


「オニキス、眠い眠い、あ〜ふ、なの。まぁ、良い子ちゃんねぇ、かわいいおくちねぇ。」


息子、オニキスに人差し指を差し出すリアン妃は、産後のやつれもある。城でケアが充分とはいえ、何とも言えない産後の女性に共通の、身体の一部が破れ産み出した、壊れを含む雰囲気があるのだ。産後の母体は傷ついているもの。そしてそれが、ありありと生の染み出す実感が、何ともキューっとカルネ王太子の心を掴む。母としてのやりきった顔、かわいかわいそうたのもしいかわいい。

産後の女性に、可哀想などとは失礼なのだが、男の身として、代わってやれない大仕事を済ませた妻は、心震えるほど愛おしい。


「コハク、ハクちゃん。お手てがそんなに美味しいのかい?おいしいねぇ、ねぇ〜。」


娘にも甘々のカルネである。

オニキスの隣に寝て、あーむ、とぷっくり拳を入れる勢いで、口に手、女の子の赤ちゃん。ロンパースの胸元には、ウサギのライン刺繍。お母さんであるリアン妃と、髪と瞳の色が一緒で、顔立ちは父親カルネに似て凛々しい。ちなみに金髪に琥珀色の、やっぱりぴかぴかな瞳だ。


双子ちゃん、コハクの名も、オニキスの名も、その目の色から、竜樹が頼まれてウンウン迷って、これだ!とつけた。

カルネもリアンも、とても気に入っている名前だ。


「素敵でございます、カルネ王太子殿下、リアン妃殿下!そのまま、仲良しのあったかい様子を、テレビでお届けしましょう!オニキス殿下も、コハク殿下も、起きてらしてとっても幸運です、幸先良いですよ!生放送本番まであと1分です。よろしゅうございますか?」


フードゥルチャンネルのカメラマンとディレクターが、位置を合わせて、スタンバイ。カルネ王太子親子に合図を送ってきた。


竜樹が、プロデューサー巻きって言ってね、とカーディガンを背中に羽織って前で結ぶスタイルの雑学、現場での体温調節にちょいお役立ちをたまたま話したら、それがテレビ関係者にウケて。ここフードゥルチャンネルでも、メガネの貴族出身ディレクターはアースカラーのカーディガンを羽織っている。


カルネ王太子も、リアン妃も、カメラに向かって顔を向ける。ニッコリ、とほんの少し恥ずかしげに、ふは、うふふ、と笑って、そして。

「うむ、よいぞ。頼むぞ、皆!」


フードゥルチャンネル、王太子殿下ご一家のご挨拶、放送まで30秒。

20秒、…10秒、5、4、3、・、・!

サッと無言で2、1、ゴー!の合図をして、カメラがご一家、ニコニコしているカルネ王太子とリアン妃を全身が入る構図で撮る。

フードゥル全土で、この放送は今、流れている。


『フードゥルチャンネル記念放送・王太子殿下ご一家のご挨拶』

タイトルが一家の絵づらの下に小さく出る。


カルネ王太子が、口を開く。

「感謝祭を楽しみ中の我が国、フードゥル国民のみんな、ご機嫌よう。私はカルネ、この国の王太子である。こちらは妻、リアン。このように、顔の分かる近さで皆に挨拶が出来ること、本日はとても嬉しく思う。」


リアン妃が、紹介されて、手をフリフリ、とする。目を合わせて、うふふ、とした若夫婦は、幸せの匂いがする小花が舞っている空気だ。

カルネ王太子は、カメラに視線を戻して続ける。


「今日は、特別に前倒しで、来春から放送開始となるフードゥルチャンネルの、お試し記念放送として、私たちのお祭り日の様子を少し流してもらえることになった。今、テレビは、パシフィストの国営チャンネルだけが放送され、各国がそれを学んでいる最中なのは、パシフィストテレビのニュースでも、知っていると思う。ラジオも新聞も、郵便事業も、学び中であるよな。せっかくのお祭り日、パシフィストの様子ばかりを、羨ましいと見ているばかりではなく、お試しで我が国ならではの放送も、1日ほどであるがやってみよう、となった。ソルセルリー大陸のどの国も、ウチもウチも!とこの機会に試し放送をしているから、今、異国にいて、テレビを持つ者は、それぞれ故郷のテレビチャンネルが見られたりするのかもしれない。」


リアン妃が、うんうん、と頷いて。

「お試しですから、多少は上手くいかない部分があっても、大らかに見てほしいのですわ。そして、ああだったこうだった、と、良いところと、こうしたらどうか?なんて所を、話し合ってみてほしいのです。フードゥルでは、今冬から郵便事業が始まります。準備中のテレビ局宛に、誰でも意見が送れますよ。ワクワクしませんかしら?」


ね、とまた顔を合わせる2人である。

「そして、まあ、その、お披露目といっては何なのだが、妻リアン妃が、先だって、双子の赤ちゃんを無事出産したのだよな。魔法祝砲があがって、国民の皆が我が事のように祝ってくれた。街もその日は、かなり盛り上がったと聞く。本当に嬉しい、ありがとう。」


「お祝い、ありがとう、皆さん。」


「その双子が、今、ここで、ちょうど起きているので、ちょっと顔を見てやってもらえるかな。」


ほらほら、ご機嫌、みんなにご挨拶よ。とカメラが寄って、あっく、うぶ、とやわやわの生まれたて王子と王女、オニキスとコハクを映した。コハクのお手てが、オニキスのほっぺに、ことんとぶつかっている。

乳臭い匂いでさえも、画面から伝わるような、ギュッと胸を突く弱々しくも強烈な、赤ちゃんの可愛さである。

大人の指先が映る。夫婦2人、ツンツン、と柔らかで繊細な赤ちゃん肌のほっぺをつつく。


うふふふ、ふふ、と笑い声がテレビに。


「男の子を、オニキス。女の子は、コハクと名付けました。パシフィストのギフト、竜樹様が名付け親となって下さったのよ。」


「フードゥルの父王も名付けたかったらしいのだが、この度は竜樹様に、是非にとお願いした。それというのも、親として、また次代のフードゥルを担う王太子と王太子妃として、私たちに願いがあったからだ。」


口元は微笑みながらも、2人は、キリッとした眼差しになる。


「私たちの最初の子供は双子で、男の子と女の子だ。父王もその周りもそうであったが、男の子に国を継いでもらい、女の子は幸せに守られて、国のためになる所に嫁げば良い……と。勿論、国を担う子供たちとして、その責務はきちんと教えてゆきたい。だが、生まれてすぐで、育ってゆくうちに学ぶ、その子の向いている事も分かっていないのに、男の子だから女の子だから、と将来が決まってしまうのは、私たち夫婦は、ちょっと待ってほしいと思ったのだ。」


「それには、私の我儘もあるのです。私は、女性です。ですが、お国のために、嫁いでいわゆる女性の仕事、と言われる社交や、夫の後ろに一歩下がっていつでも控えめに、サポートをする役割、というものから。もう一歩、踏み込んでお仕事をしたいな、と思っておりました。サポートが嫌なのではないのです。それをするのにも、お国の仕事は男性のもの、と、考えを聞いてもらえない事も、いいえ、そもそも意見を言うその機会すらも、女性には、ない事が多いのです。話が通っていれば、もっと良くできるのに、と思うことが多くて。」


「リアンは学園を良い成績で卒業したし、いわゆる勉強頭だけが良い訳ではない。融通もきくし、視野も知識も広くて、私の仕事に意見をもらう事も良くある。女性の視点も、とても有益なものだと理解している。今までのやり方を否定するのではないが、私たちは私たちなりの、新しいやり方をできまいか、とパシフィストの竜樹様に愚痴ったのだ、つい。」


そう、カルネ王太子が、竜樹とだべっていた時に。

ウチの奥さん賢いんだけど、なぁんか女性だからって実力を発揮させてもらえなくって。

双子が生まれて、道筋が2つ、男女でパッキリ分かれていると周りが思い込んでいるのを何とかしたくて。

などと、相談ならぬ、愚痴ったのだ。


竜樹は、じゃあ、と。スマホをクリクリと弄って。

「王と女王の夫婦で2人体制、ってのがあったらしいんだけどさ。双子で王と女王ってどうなんだろうね。お互いに得意な所、不得意な所を補助し合って、共同統治する。担当する土地を分けて考えても良い。不安があるとすれば、国が割れたりしないか、あと、その次代をどうするか、だね。」


次代の問題は解決策がある。

先もずっと、2人体制で治めてゆく、王と女王の血筋の子供2人で、ということにすれば良いのだ。

「どちらかは女性とする、ってしても良いよね。」


国が割れないか、という不安には。

「俺、1000年くらい生きるらしいから。俺をめぐって戦争できないし、他国の干渉で引き裂かれないように、エルフたちと一緒に、もしも2人の王と女王が喧嘩したら、最終的に面倒みようか。俺って調停者エルフの、ロテュス王子の伴侶に将来なる訳だからね。ちょっとは、平和のためになんかできるかな?」


と、竜樹が申し出て。


1000年もあれば、国の治め方が変わる事もあろう。永遠の安心などないのであるし、神々によしみのあるギフトの竜樹が、いざとなったら面倒みてくれる、というのは、何とも心強い。


であれば。

名付け親として、後見を得た実績、証としたい、と竜樹と、公式にパシフィスト側にも申し入れた。

それは、抜け駆けにならないよう、各国にも情報として予め知らされ、最終的には各国協議の結果。


ギフトの竜樹は取り合う訳にはいかないが、そのように調停をしてくれるというのであれば、ソルセルリー大陸のどの国にあっても、後継者争いや国が割れそうで揉めた場合、民に平和により良い結果になるよう、竜樹とエルフが相談にのってくれる、ということになった。

勿論、そこまでいく前に、各国各自で努力もし、必要であればソルセルリー大陸の関係する国々と連絡を取り合って。


竜樹とエルフは大変そうだが、最後に話がいく所として、国とっちゃお、とか、どっかを貶めて得しちゃえ、に抑止の楔を打ち込み、どーんとかまえていてもらうだけで、安心感は大分違うのである。

何なら、どっかを貶めて得したくなるくらい困窮した場合、竜樹ならば、じゃあお互いに良いようにこうしない?と第3の案を出してくれる可能性まである。




「オニキスは、竜樹様がおっしゃるに、黒い宝石との事だ。魔除けや邪気払い、精神の安定、意志力強化、集中力向上、悪縁を断ち切り良縁を引き寄せる、自己を成長させ目標を達成させる力を持つ。」


オニキスの黒いぴかぴかした瞳が、画面につぶらである。


「コハクは、アンブルの竜樹様のお国の呼び方なのですって。やっぱり宝石、心身を浄化し、活力を与え、癒します。それに、安定した金運・財運、仕事運、人気運の向上ですって。とっても縁起が良いと思わない?長寿や健康をも、サポートする石なのだわ。この2人が治める国は、何だかとっても盛りだくさんで、良さそうだと思わないかしら?」


コハクの透き通った飴みたいな、キラキラした瞳が、パチンと瞬き。


カルネ王太子とリアン妃は、手を握り合って、ふふ、と健やかに笑った。

「2つの宝石が国を守り、より良く民を守る。双子たちは、男だからといって、重責を1人で背負う孤独に押しつぶされず、女だからといって実力を無碍にされず、助け合う事ができる。無論、これから育つ子供たちが、どう成長していくかは分からない。今の案である、と言うしかできないけれど。親として、愛情と責任をもって、2人を育てていく。」


「私たちで、一緒に、周りの皆に助けてもらいながら。」


どうか、フードゥルの国のみんな。


「「私たち夫婦と、2人の子供を、これから先も温かく、見守っていてください。」」

胸に手、王族として頭は下げないが、精一杯の目礼をした2人に。画面はバストアップになり、暫く静寂、真摯な一時が流れた。


ふやぁ…ふゃ!

オニキスが泣き出して、そうしたら、ビクビクン!としたコハクも、ふぎゃ、ふにゃ!と泣き出して。

あらあら、あららら、抱っこしてお背中すりすり、トントン、おしめかな、おっぱいかな、と慌てる若夫婦に。ベテランの乳母がソワソワ画面外から近寄ってきて、ご指導しながら後ろ向き、ちょっと失礼と赤ちゃんのお世話をするカルネ王太子とリアン妃である。


そう、まさか王太子と王太子妃が、つきっきりで赤ちゃんのお世話ではないが。それでも、できる事はしたいと、お世話を分担してやっているのだ。

少しでも世の中のお父さんと、お母さんと、同じように。

少しでも赤ちゃんと、同じ時間を過ごせるように。


カルネ王太子は、晴れてパパ仲間となり、竜樹に一歩近づけて子供話ができ、何となく嬉しいのだった。


背中を向けているリアン妃が授乳を始めると、カルネ王太子だけ振り返って、まとめ。


「オニキスとコハクも、みんなに一声挨拶したかったようだ。後ろ向きで失礼するが、私たちの挨拶は、ひとまずこれでおしまい。今日はお祭り、みな楽しんでくれ。……とシメたいところだが、まだまだお楽しみはあるのだよ。」


ではね、リアン、後を頼んでも良いかい?と妻に断ったカルネ王太子は、大丈夫ですよ、いってらっしゃいませ!私も楽しみにテレビを見てますわ!とニコニコされつつ、双子の頭をそっと撫でて、立ち上がった。


「さあ、懐かしい顔に会いに行こう。今、パシフィストでは、エステなるものの、実演会を行っている。その開会挨拶が行われていると思うんだが……画面の切り替え、大丈夫か?大丈夫か、うん、よし、では、私はこれから、パシフィストへ向かう事とする。心配ご無用なエルフ転移便だ。」


上着を手渡し着せ掛ける侍従。

するりと袖を通し。

その腕が、近寄ってきたエルフの魔法大得意、ニンニンニコニコのファマローに掴まる。


「それでは皆、次はパシフィストのエステ会場で。」

ふりふり、と手を振り瞬間、転移でファマローとカルネ王太子は消えた。






カルネ王太子は、今は平民扱いの妹たちとは没交渉だ。

勿論、報告はちゃんと受けている。


カルネ王太子の国、フードゥル国でも、パシフィストと同じ日に感謝祭、お祭りをやっているのは、先ほどのフードゥルの特別放送からでもお分かりだろうか。

いわば神事のようなものであるから、この大陸、ソルセルリー大陸の国々、元々のエルフの森がある友好国マルミット、マルグリット王妃の出身で険しい山岳地帯を含む小さな国ヴェリテ、明るく広い草原と森の国エタップ。

エルフたちを呪って呪い返された、土地が痩せて何もかも大変なジュヴール国でさえも、仕事を休んでお祈りを捧げるということはやっている。それぞれの国のやり方で、お祭りを楽しんで。


国を挙げて発情期中の獣人国ワイルドウルフはどうかというと、発情期とならなかったものたちでお供えなどをしていたりするのだ。


このお祭りの中、フードゥル国にも大画面広場があるから、家にテレビがなく、またお祭りで出かけている民たちも、カルネ王太子ご一家の挨拶を見て、ふぅおおおお!と未来の展望に、お祭りらしく盛り上がって。


懐かしい人って。

あの2人だよね。

パシフィストで平民扱いで、大人になるべく学んでいる、元王女。


画面では、パシフィストからの中継が、切り替わって流れる。フードゥルチャンネルのカメラマンが、現地で撮影しているのだろう映像だ。

ナレーションも、こちらはパシフィストです。エステの実演会が、さあ、始まります!とタイミング良く差し挟む。



『『美の街、その名は。テール・ド・ブーテ』』



パシフィストのマルグリット王妃と、エルフのヴェルテュー妃が宣言をし、司会のエルフ、アルデシュが繋いだその先、エステティシャンたちが入場し。


そしてモデルの。







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― 新着の感想 ―
カルネ王太子ご夫妻、お子さんが無事に産まれてたんですね! おめでとうございます。 双子ちゃんたち、竜樹がゴッドファーザー(名付け親)になるとは。 オニキスくんとコハクちゃんが、将来どんな大人になるか…
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