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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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神託……言っておきます


「……………。」


誰もが何も言えない中。

子犬を抱きしめているシフレの腕の中、雰囲気を分かったのかどうか、ひゅん?ひゅ、くぅ〜ん?と、首を傾げて鳴き声。

シフレの手には、きっと子犬に着けたかった首輪。誰か親切な人から貰ってきたのだろうか、締め皺のある中古の赤い革。


エフォール、ロンを見る。

アルディ王子、ロンを見る。

レザン父ちゃんも、ボンボンテール神様も、ロンを見る。

ピティエは、ゆっくり、シフレへのお茶を淹れている。


ロン、ふぐふぐと人差し指を噛む。

何となく、皆が、ロンさえ一言、子犬を受け入れてくれたなら、如何様にもやりようがあるのでは、と思いついているのだ。

でも、ロン、何だか視線は感じるけれど、なん何?とハテナ。もう、見ないで!とも言えないし。へちゃ、と頭が何だか下がっちゃうのだ。


コクン、とお茶を飲んで、静寂を破ったのは、ボンボンテール神様だった。


「ロン。かっこいいロンなら、シフレの我慢を何とか、上手いこと、何か考えられるんじゃない?ボンボンちゃんは、お菓子、甘いものを司る神さ……お仕事だからね、どうも我慢するだけっていう、辛いのが、苦手なんだ〜。助けてくれない?」


「え〜?う〜ん。……こまったときのの、たつきとーさみたいのに?」


こういう時、竜樹とーさだったら。何だかモヤモヤぐるぐる困ったのとき、竜樹とーさだったら。

竜樹とーさは、ロンや皆がワガママ言うとき、まだ寝ないだの、もっと食べたいだの、遊んでたいだの、もっと働くだの、子犬が飼いたいだの、いう時に。

「そう、竜樹とーさは、こういう時、どうしてるんだっけ?」


「ロン、それじゃあね、ってだっこしてくれてね。それはどうかな?じゃあいっしょかんがえよう、ってゆう。ダメダメ!ってあんまり、ゆわないよ。いいことかんがえたら、うまくいくかなぁ。」


そうだね、ロン。良い事考えたら、上手くいくよ。

ウンウン、と皆が頷く。コギーとキーナンおじいちゃん、シフレも、何か……と期待ならずも何かを、待って、黙っている。


ロンは考えた。一生懸命に。

竜樹とーさだったら、いつだって、いい事考えた!でうまくしてくれる。

ロンは寮にいて、大人になっても小ちゃな子たちをお世話したりして暮らすのだから、竜樹とーさみたいに、ダメ!ってぷんぷん怒ったりしないで、だけど、食べすぎだよ、とか、もう寝ようね、とか、子犬を飼うにはね、とかを教えてあげなきゃなのだ。

だけどロン、考えても、1人じゃ分からない。


「いいこと。わか、ワカンナイ。ワカンナイけどぅ、じゃあ、みんなと、おれと、いっしょかんがえようよ。シフレが、いぬをがまん!しなくて、イイカンジに!」

「いいよー!」

「考えようね、ロン。」

ニコニコ!と皆が笑顔になった。


「子犬、シフレのお家だけで飼うのは、難しいでしょう?」

アルディ王子が、シフレに、ピティエからのお菓子のお皿を手渡ししながら、切り込む。シフレは受け取らず、コギーが貰って、シフレにアーンした。


「そか!はんぶんこだ!」

おなかがいっぱいだのに、食べすぎだのに、もっと食べたいの時、竜樹とーさは、じゃあ半分こしようか?ってゆう。

「いぬも、はんぶんこしたら、いいかなぁ。」


エフォールが、ニコニコしながらロンに。

「半分こ?ってどんな感じに?」


うむむむむ。

「しんぶんはんばいじょに、ごぜんちゅう、いくみたいのに、いぬはんぶんこ。よるは、シフレのおうち。ひるまは、りょう?……りょうでいぬ、ヤダなぁ。ジェムにいちゃ、ヤダってゆうかもだし。」

「ロンも、敵だし?」

コクン、と頷くロンは、だけど、ヤダから半分この案は黙っておく、とかはしないのだ。


「ロン……わんこ、触ってみる?」


シフレ、うりゅ、とした瞳のままだけれど、もしかしたら……を感じて。

「噛まないよ。子供が好きな犬種なんだって。もし噛んでも、遊びだし、まだ子犬だから、ケガしないと思う。ダメな時は、低い声で、それダメ!って教えてあげたらいんだって。よくできたら、褒める。」


ぶったり、高い声で騒いだりしちゃ、ダメなんだよ。

シフレは飼おうとしたぐらいだから、少しはどう躾けるか、周りに聞いていたもののようだ。


うひぇ!?となったロンだったけれど、シフレがトタタと近づいて、腕の子犬を近づければ、顔を背けて手を、ビクッ、ビクッ、と出しては引っ込め。


ペロン。

「ひぇ!なめた!」


指先をピッピ振ったが、シフレは諦めない。

「ゆっくり。耳の後ろを撫でてあげて。」


恐る恐るのロンの手の動きを、ジッと見る子犬の、耳の後ろに。

そ、と触れて。

はっ、はっ、はふ、と子犬は良い子にしている。


「………かまない。」

くちゅ、こちょ、と耳後ろの毛をこにょこにょする。

「うん、噛まないよ。俺が、噛んだら怒ってあげるから、だから、ロン……。」


手を引っ込めて、ふわふわを触った感じを握りしめ。

むー、とロンは、唸る。ヤダ、けど、やじゃない、けど、ヤダ。大丈夫、かも、だけどそんなにすぐに、犬を受け入れられない。でも、シフレは何とかしてあげたい。むむむむ、なのだ。

レザン父ちゃんが、ロン、葛藤しているなぁと、笑いを堪えている。笑っちゃ悪い。


「ロン、王宮のお助け侍従さん侍女さんたちの買えるお菓子やさんを、寮の近くに建てたとしたらさぁ?」

「そこでお店番している時に、子犬を預かって、お世話したんで、半分こだったら、寮じゃないよ。ジェムたちは、子犬が嫌だったら、お菓子やさんに来ても誰かが面倒見て押さえてれば良いじゃない?」

魂の双子同士、エフォール、アルディ王子、お菓子屋さんも重ねてくる。

ボンボンテール神が、ニン!と笑う。


キーナンおじいちゃんが、王宮?寮?お菓子屋さん?とハテナだったので。少年たちと、それからお客さんの注文をこなしながら、ピティエも一緒にツッコミを入れて説明しながら。考えをまとめてゆく。


王宮の新聞寮の隣にお菓子屋さんを造る。

そのお菓子屋さんで、仕入れをして美味しい手頃な、また新しいお菓子を王宮の働き手さんたちに売る。

手作りのお菓子を出しても良いかもしれない。

子犬はお菓子屋さんの防犯犬にする。昼間はお菓子屋さん、夜はシフレの家で番犬する。

犬のご飯は、王宮の厨房からクズ野菜やクズ肉をなるべく貰う。

犬の躾は、竜樹とーさに助けてもらって、人を付ける。シフレと子犬の王宮お菓子屋さんへの往復にも、躾係の男性の人を付けてもらう。それが散歩代わりになる。勿論、シフレや子供たちも、犬の躾について学ぶ。


キーナンおじいちゃんが、ふむふむ。

「王宮のお店、お客さんはそこで働く人ならば、元々身元が確かな方ばかりでしょうな。コギーもそういう所でお店番できれば、安心できて、段々と喋る事ができてくるかも、しれませんなぁ。」

「コギーは、たなおりり、できる?」


たなおりりは、棚卸しである。

コギーは勿論、棚卸しのお手伝いをした事があるし、お店運営の流れを知っている。

棚卸しをすると良い事は、帳簿と実際の在庫の差異をはっきりさせ、盗難紛失があったか、あったならばいつ、どのくらいか。

不良在庫、商品の価値が下がっているものがないか知ったり。(ピティエの喫茶室プラージュで言えば、古くなり味が落ちたお茶や、流行りを過ぎて余り売れない商品など)

どの商品をどのくらい、在庫管理を適切に、その都度流れをみて、お店の戦略を考え、変えてゆく指針になったりもする。


お店を経営していく上で、とても重要なお仕事が、棚卸しなのである。


キーナンおじいちゃんは、コギーとシフレ、2人を王宮のお菓子屋さんで受け入れてもらえるなら、お店の立ち上げから、帳簿つけ、棚卸し、仕入れ、客あしらい、その運営まで。キーナン菓子店が、そしてキーナンおじいちゃんが、付いてアドバイスをと。

すすす、お茶を飲む。


「何、コギーがキーナン菓子店の店番を出来なくなって、王宮のお菓子屋さんに行きっぱなしになってもね。ウチの店は、娘と息子夫婦で何とかやっていけましょうよ。コギーも、シフレと安心できるお店で、しばらくやっても、良かろう?」


お皿の栗餡しぐれをモグモグしながら、コギーはシフレと目線を合わせて、寄り添って2人、コクンコクンと頷くのだ。


「手作りのお菓子、こないだ食べたおやきも良いねぇ。ナス味噌のやつ、美味しかった!」

「おまんじゅうも、おいしいよ!」

「あー、確かに、おやきもおまんじゅうも、美味しかったよねえ。侍従さん侍女さんたちも、余ったやつ、美味しいって喜んでたっけ。商店街の、お手隙のご婦人や、男性でも、集まってそういうの作ってくれたら、ちょっと良いのじゃない?」

ピティエが案を纏める。


「それ、ウチのお母様……母さん、雑貨店やりながら仲間に入れてもらえたら、いいかも。雑貨店は、商品が多すぎて、売れるまで時間がかかって、難しいって言ってたから。商品を、売れるやつだけ半分くらいにして、毎日、その、おやき?おまんじゅう?とかを、作って売ったら、どうかな。王宮のお菓子屋さんと、雑貨店とで、同じのを。そしたら沢山売れるでしょ?」

シフレも、もう涙を溜めてなどいない。


「う〜ん。おかしやさん、おかしやさんだったら、いぬ、いいか……。」

ロンも、子犬をチラッと見ながら、納得できたよう。


パチパチパチン!と拍手が起きて、皆がボンボンテール神を見る。

そこにはニコニコと、お菓子を食べきってお茶も飲み終わったお菓子神。ウンウン、満面、福々しい。

「決まりだな!ロン、カッコいいぞ!竜樹とーさみたいだぞ!アルディ、エフォール、ピティエ。コギー、シフレ、キーナンよ。ボンボンちゃんは、竜樹とーさに神託……ええっと今夜、お菓子屋さんのことをよくよく頼んでおくから、細かい事をよろしく言っておいておくれな?レザンも頼むわよ?」


「ウン、ボンボンちゃんもゆってくれるの?」


「言ってくれる言ってくれるとも。」

ぴょん、とスツールから飛び降りると、トッ、ロンの側に弾んでいって。

「では、祝福を。」


ぷちゅ!


ほっぺにちゅ、と、ツインテールを揺らしながら、ロンに触れた。

ピティエの視界には、ふわわん!と七色の光が、小さなロンのほっぺから伝わる形、ほわほわ広がりキラキラ溢れて染み入るのが分かった。

エフォールたちが見ているロンは、ちょっとほっぺをむく、とさせ、何だか嬉しそうだ。


「ボンボンテール様。お菓子のお持ち帰り、こちらです。」

箱に沢山詰められたそれを、両手に抱え、ピティエにお代を払う。ピティエはお代はいいです!と恐縮して言ったのだが、買ってくるのが宴の余興だから、貰っておいてほしい、と押して楽しそうに言われ、神なるお金はピティエの記念のコインとなって、他のお代やお釣りのお金とは別にして、ひとまず黒ベストのポケットに大事にしまわれた。


「ではな!皆、お祭りを楽しむと良いのだわ!」


ふわっ、と走り去りながら。ぽん、ぽん、ポ〜ン。空に消えてゆくのは、もうどうにも内緒なんてできないだろうにボンボンテール神。

少年たちと大人たちは、あー、とそれを見送った。


「……シフレ、子犬に首輪、つけてあげなよ。」

「名前なんにする?」


ワン!と子犬がひと吠え、した。


夏休みでした。お休みいっぱいで失礼しました。その間も待って下さり、また、見てくださった方々に感謝です。気力のチャージも割とできました。

無理なく、楽しく、休みながらでも低空飛行でも、飛び続けて読んでいただけるように。

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