いいお付き合い
「さて、王子達。秋の競演会に歌う、3王家のお歌ができました!」
わー!パチパチパチ!
バラン王兄はご機嫌である。
何たって今日は、図書館のお仕事がお休みのパージュさんが、一緒なのだ。
バラン王兄とエーグル副団長は、隔週で交代してパージュさんと親交を深めている。
エーグル副団長はグッと庶民的に、一緒に街歩きなどを。本屋巡りをして、広場で屋台の食べ物を食べたり、お茶所で読んだ本の感想やオススメを話しあったりして、なかなか良い関係が築けているよう。
我らがバラン王兄殿下は、気軽に繁華街歩きはできないので(やろうとすればできるが、周りが大変)、家に呼んで弾き語り、一緒に歌を歌ったり、お茶したり、音楽会に誘ったり、音楽の文献について議論を戦わせたりと、音楽一択なデートを重ねている。
大丈夫か、それ。王兄殿下は楽しいけどパージュさんが楽しいかはわからない。けれども今日だって、パージュさんが休みで、王兄殿下が王子達の練習をするけど見にくる?と言ったら、喜んで!とニコニコ来てくれたのだ。
「おうた、できた!どんなおうた?おじさま!」
「私、ラプタの練習毎日してるよ!早く吹きたいな!」
「楽しみだね!腕がなるね!おじ様!」
ではでは。
バラン王兄殿下が、弾き語りで披露する、初お目見えの3王家の歌は。
温かく 日差しを浴びて
道をゆく 我らが祖国
夜なれば 星を頼りに
輝ける 月に誓いて
目指そう 調和を
豊穣なる 大地を 海を
受け継ごう 永遠の希望を
ポロリン♪
流石の王兄殿下である。なんとも響く甘い声なんである。そして、分かりやすく作られた、子供にも歌いやすい詞と曲であった。
パチパチパチ!
パージュさんも、王子達も、そして竜樹達も、おおーと拍手である。
「割合短い曲なんですね。」
「そうですね、覚えやすくていいですよね。」
うんうん。頷きあう大人に、王子達は、うけつーごおぉう〜♪とか、所々歌い始めている。
はい、これ歌詞と楽譜ね。と紙が配られて、ネクターは、ドとかレとか、書いて覚えたほうがいいよー、とバラン王兄は言った。
「まずは、うろ覚えでもいいから、歌ってみよう。最初は、歌詞と曲を覚えるために何度も歌うこと。ネクターも、まずは覚えるために歌ってね。その後、聴かせるところと、抑えるところと、覚えていこうね。」
ストレートな歌だから、あまり難しい部分はないけれど、美しく元気に歌う事で、みんなにも、楽しい、この国を好きで誇りに思う気分に、なってもらいたいよね。
「3人の歌と笛のお役目は、重要なんだぞ?」
王兄殿下のウインクに、ふおっ、と3王子が顔見合わせて、鼻息荒く意気込んだ。
あたたぁかぁく〜 ひざしをあびて♪
王兄殿下と3王子が歌い始めて、竜樹は、つつつとパージュさんの側に寄って、そっと聞いてみた。
「パージュさん。エーグル副団長や王兄殿下とのお付き合い、大丈夫そうですか?無理してたり辛い事ないですか?」
うん? と王子達を微笑ましい顔で見守っていた表情のまま、パージュさんは竜樹に向いた。
「それが、今までの事が嘘みたいに、楽しいんですよね。」
「ほうほう。そこんとこ詳しく。」
「エーグル副団長は、紳士で、本のお話も合うし、食事も合うし、生活の質も合ってる感じで、気を使わずにお話できるのがとても楽しいです。バラン王兄殿下は、音楽の事でお話したり歌ったりがほとんどですけど、人を貶す事が全くなくて、音楽がとても楽しそうで、好きな事を純粋に好きで、演奏したり歌ったり話している人と一緒にいるのって、凄く楽しいんですね。勉強になる事も沢山あるし、この人といたら、音楽に満ち溢れた家庭をもてるんだなぁ、なんて思ってしまいます。」
とにかく、大人の男の人と付き合うって、すごく、ちょうど良く、優しくしてもらえるんですね。
そして、そんなに自慢話しないんですね!
パージュさんは、驚いたんですよ!というふうに竜樹に話を振ってくる。
「仕事で疲れてて、たまに話を聞いてなくてぼーっとしてても、怒られたりもしないし、疲れた?のんびりしようか、なんてお菓子をくれたりして、その後気まずくなく、静かに一緒にいられたりもします。」
お二人とも、程よく一緒にいて、帰りは送ってくれるし、可愛い花束や、豪華すぎない、ちょっとした髪飾りみたいなものを、良くくれたりもするし、くれたものを大袈裟にありがたがらなくても、お礼を少し言っただけで、凄く嬉しそうにしてくれるし、お金貸してって言わないし、ご飯作ってって言わないし、たまに気が向いてお菓子作ったりすると、お二人とも、まずいとか好みじゃないとか一切言わないで、ものすごく喜んでくれます!
「本当、今までの私、何だったんだ、って思います!」
「本当に今までの彼氏、クズだったんだと思います!」
竜樹は、だはぁ、と息を吐いた。
そうかそうか。
「パージュさんは、今がとても楽しいんですね。」
微笑ましい気分になって、うんうん頷きあう。そうか。パージュさんの、長い男運の悪さを、心の傷を、今彼女は、2人の大人の男性に癒してもらっているのだろう。それは必要な時間で、この先どうなろうとも、付き合わなければ良かった事にはならない。いい時間を過ごしているんだね、と竜樹が言うと、躊躇いながらパージュさんは頬に手を当てた。
「本当、私、罰でも当たるんじゃないか、ってほど楽しいです。だから余計、お二人を待たせている事が、心苦しいのです。それに、後々、どちらかをお断りしなければならない事も。」
「どちらかを選ぶのは、決定なんですね?無理してではなく?」
「はい。どちらも好ましいなんて、私、悪女ですよね?でも、どちらかに、応えたいと思っています。そうしたいんです。私だって、幸せになりたいし、お二方のどちらかとだったら、辛い事があっても、きっと、協力してやって行ける、そう思います。」
だから、大事にされるだけじゃなくて、私も大事にしたいです。
なるほど。分かりました。
と、竜樹は了承し、この件は時間が解決してくれるでしょう、と思ったのだが。
「竜樹様。パージュさんの事で、と、プティさんが面会に来ています。お会いになりますか?」
タカラが、お茶を出しつつ竜樹に尋ねてきた。
何だろ?と思うも、見当はつかない。
会ってみんべ、と、庭園の四阿で、お茶をする事にした。さっき淹れてもらったお茶は、グビリと飲んでおいた。
「お、王妃様。」
「まるぐりっとさまぁ。いっしょ、おちゃね?」
「王妃様。ごきげん、うるわしゅう!」
「母上、なぜここに?」
ふふ。ネクターも、どうぞマルグリットと呼んで頂戴ね、お母様のお役目の代わりにできる事でしたら、どうぞ言ってね、と王妃は静かに笑って。
「バラン王兄殿下と図書館司書のパージュさん、エーグル副団長の件でしたら、報告を聞いていましてよ。付き合いたての、今が一番楽しい時よね!ちょっともどかしいけれど。」
ときめいちゃうわ!と拳を握る。
「図書館司書の同僚の、プティさん?がお話だっていうじゃない?何か進展があるのかも?ちょっと仕事に疲れたし、一緒にお茶させてくれないかしら?」
オホホホ。
うむ。女子の恋愛トークに戸は立てられない。
プティさんが侍女さんに案内されて来たが、王妃様を見て、ヒェッとなって、低い低いお辞儀をした。そして無言。立場が低い者が、許可もなく、あまり貴人に自分からなんやかや言えないのである。
自由がトレードマークのギフトの御方は、その流儀から外れているが。
「プティさん?私、王妃のマルグリットです。突然、ご一緒してごめんなさいね。ただちょっと、息抜きに、恋話をしたくなったのよ。私に気を使わず、是非、ざっくばらんにお話して欲しいわ。」
「はいイィ!プティと申します!図書館司書です!お話させていただきます!」
かちこちになって、促されて下座に座った。
そして、チラリと王子達を見る。
んむ?子供には良くない話?
「オランネージュ、ネクター、ニリヤ、お耳をちょっと塞いで下さい。」
ええーっ!と抗議の声が上がるが、後で教えてあげるからさ、プティさんがお話少し恥ずかしいんだって、と言うと、良い子に、は〜い、と了承した。
王妃様がオランネージュの耳を塞ぎ、オランネージュはネクターの耳を塞ぎ、ネクターがニリヤの耳を塞いで、列になって準備万端である。
「それが、ですね。あの、王妃様、王兄殿下や副団長と結ばれる為には、その、処女性といったものは、どういう扱いで•••。」
ピクン、と眉を動かして、王妃様は言った。
「処女性ね。社交界デビューしたての娘との恋愛じゃあるまいし、そこのところは大人の対応よ。王兄殿下だっていい歳なんだし、来てくれるだけで嬉しいわ。副団長などは2度目なのだし、勿論大丈夫でしょう。報告では、パージュさんは、今タチの悪いヒモなどとの付き合いがある娘じゃないようだし、性格もいいし真面目だし、恋愛遍歴は多少難ありだけど、おおらかに見てるわよ。」
何か問題でも?
「それが、元彼連中が3人ほど束になって、図書館に難癖つけにくるようになったんです!王兄殿下や副団長と穴兄弟だ、とか言って、便宜を図れとか•••言って来やがって!何様のつもりなんだかアイツら!」
「んなっ!」
もちろんパージュは相手になんかしないですよ!
でも、汚らわしい使い古しが王兄殿下と一緒になれると思うな、とか、副団長へ推薦しなければ寝屋のお前の癖とか呟きたくなっちゃうかも、とか大声で言い出して!
「最終的には館長が叩き出しましたけど!」
でも、そのせいで、パージュ、お二人に迷惑かかる、って諦めてしまいそうなんです。
「何とかして下さい、竜樹様!」
「な、な、な。」
何で女ばっかり処女じゃなきゃいけないのよ!
「そうよそうよ!」
何で男だったら経験豊富でいい感じに言われて!女だと、使い古しなのよ!男も童貞じゃなきゃ汚らわしい、はしたないって言われやがれ!
「そうだ!」
童貞処女の組み合わせなんて、初夜最悪にもなりかねんですわよ!2人で勉強していくならいいとして、女子の方に経験があるくらい、なんぞ!!
それに、寝屋の事を別れた後に持ち出すなんて、すっごく非常識!失礼だし、女を馬鹿にしてる!
「そうよそうよ!」
王妃様とプティがヒートアップする。
「「何とかして下さい!竜樹様!!」」
王子達は、耳を塞いだまま、んむ?と3人首を傾げている。
お前たち、女を泣かさない、いい男になれよ。
竜樹は遠い目になった。