リルケ男爵家ファフニールの婚活 12
リルケ男爵家に馬車が着いた。
ファフニールとレッキスは、馬車の中で、ファフ姉様〜!と叫び駆けてくる次男ニーズ、3男ヘッグが近づいてくるのを知った。
顔を見合わせて笑い合い、レッキスは手を貸してドレス姿のファフニールを、馬車から外へ。
「ファフ姉様………!」
「ふわぁぁぁあ!」
リルケ男爵家の皆も、今日は目一杯おしゃれをして、写真を撮る予定である。だから、次男ニーズと3男ヘッグも、12歳ながら。ちょっとよそ行きなシャツと上着に、胸のリボンは濃い赤と青空のブルーで双子の違いを出しつつ、小さな紳士である。オールバックにさせられた髪が、左右1ヶ所、2人ともピンっと立っているのが腕白だ。
その2人が、お口をあんぐり開けて、綺麗になった、いつもと違うファフニール姉様を見て、側にも寄らず突っ立っている。
「どうだい?ニーズ君、ヘッグ君。君たちのお姉様は、とっても綺麗な人だろう?」
「見違えたでしょう?」
レッキスとファフニールに話しかけられても、てん、てん、てん、なのである。
次男ニーズと3男ヘッグを追いかけて。姉の長女リヴァイア、記念になるしということで、嫁に出た先から一緒に写真に写るべくやってきたのだ。まぁ、まぁ!と言いながら近づいてきた。
「見違えたなんてもんじゃないわ!ニーズとヘッグも言葉も出ないじゃない!アンタたちのファフニール姉様があんまり綺麗になっているもんだから!素敵ねぇ、レッキス様、ファフニールをこんなに大事にして下さって、ありがとうございます。」
挨拶を交わすリヴァイアとレッキス、ファフニールは、いつもみたいにグワシ!じゃなく、そっと優しい手つきで、次男ニーズと3男ヘッグの頭を撫でた。
途端に。ムク、と次男ニーズの頬がぷっくり、不本意そうに膨らむ。
「……何だい!へんなの!ファフ姉様、なんか、へん!」
「あらー、何が変だったかしら……。」
キュ、と眉を下げるファフニールに、3男ヘッグが次男ニーズをベチ!と打つ。
「いて!」
「ファフ姉様きれいだろ!何言ってんだよニーズ!」
ぶー。ぶちぶち、と次男ニーズは文句たらたら。
「だって……いつもみたいじゃないじゃん。いつもの、俺たちにわぁわぁ笑わせてくれるファフ姉様じゃないみたい……なんか、知らない人みたい……。」
ショボン。
「うん…それはそう。なんか、やかも。」
3男ヘッグまで。
ふー、と姉リヴァイアが、口を笑ませて困った顔でため息。
「アンタたちったら、全く子供ねえ。知らない人みたいにファフニールが綺麗になっちゃったから、拗ねてんのね。大丈夫よ、どんなに綺麗になったって、ファフニールはアンタたちの楽しいお姉様よ。ねえ?ファフニール?」
「まぁ、そうだったの?ニーズ、ヘッグ。そうよ、姉様はいつだって、2人の姉様で、アッハッハって、笑わせてあげるわよ?」
ファフニールが、いつもよりお淑やかながら、ニン、と笑えば。ニヘ、と双子も口を緩ませた。
「それならいいんだけどぉ。」
「ちぇっ、ナンカ、ナンカだよー!早くこっちきてー!皆だってキレイにして待ってるんだからぁー!」
待てずに駆け出し、家族たちの方へピューンと立った髪を揺らしながら戻る少年たち。
クックック、と姉リヴァイアは、それを見送って笑う。
レッキスに目配せして。
「ちょっと恥ずかしくなってるのよね、男の子って仕方ないわねぇ。」
「やー、いやー、私もドキドキしてますから。」
男の子の気持ち、姉はいなかったけれど何となく分かる気がして、レッキスもくす、と笑ってしまう。
大人たちは、ドレスなどを汚さないよう、エスコートしてされて、ゆっくりと歓談しながらリルケ男爵家邸へ向かう。
執事のオークルが、出迎えの仕事をとられてしまって、苦笑しながらも丁寧にレッキスたちに礼をした。
黙って付いてきた写真館のカメラマンとスタッフが、リルケ男爵家の皆、使用人まで含めた全員が集まっている庭先で、帽子をとって頭を下げて、声がかかるのを待っている。
家長のセイグリフが、次女娘の花咲き育った姿に、ちょっとうるっとなってるのを。妻サラにツンツンされて。
やっとレッキスに挨拶した。
「レッキス様。今日はありがとうございます。ファフニールをエスコートして下さる事もそうですが、家族の記念になる、写真館のカメラマンの撮影を家に呼んで下さって。」
がしり、と手を取ってグッグッと振る。血の繋がった父の、セティークからの接触がほとんどなかったレッキスは、こういうセイグリフの熱い所が、何だかくすぐったくて嬉しい。
「いえいえ、私の記念にもなりますから。今日は、リルケ男爵家に、私も、もし良かったら、縁のできる者として、お仲間に加えていただいて、一緒に記念の写真を撮らせて下さいね。」
「もちろん!位は違っても貴方様は私の息子にもなります。これからも、いいご縁にしていきましょう。」
「さあ、堅苦しいご挨拶はこのくらいにして。写真館のカメラマンさんとスタッフさん、今日はお願いいたしますわね。」
妻サラが、笑顔で促す。
本日はよろしくお願いいたします、とカメラマン、スタッフも挨拶を許されて、さあ、家族写真の撮影である。
「お邸を背景に、皆さま並びましょうか。まず本日の主役の、レッキス様とファフニールお嬢様、そしてリルケ男爵様と奥様が真ん中にくるように。ええ、ええ、そのようでようございます。お椅子などあるとよろしいですね。あ、そうそう、素敵なお椅子に、ドレスを整えていただいて。そう、そう、少し斜めにお足を流していただくと美しゅうございます。……お子様方が前に、顔が映るように、背の高い方は後ろに、互い違いに顔を出されて。スタッフが、失礼ながらお身体に触れまして、位置を調整させていただきますね。そう、そう。」
使用人も全員端に並んで、盛りだくさんなリルケ男爵家とレッキスの、記念の家族の。
「はーい、撮りますよ、ヨル様、猫ちゃんですよー笑って笑って、はい!」
パシャン!
「もう一枚、ニッコリ笑って下さい、ずっと残りますよ、笑顔笑顔、はい!」
パシフィストの第一王子、オランネージュがフリーマーケットでやった、写真館での猫ちゃんぬいぐるみで笑顔、はい!は受け継がれているのだ。
女性陣は、それにしてもファフニール、素敵ねえ、きれいよ、ファフ姉様すてき〜、ねえたまおひめたまみたい!とわきゃわきゃしつつ、色々なペアで写真を撮られまくった。
途中で、4男ヨルムンガンド、ヨルちゃんが、ファフニールのオレンジの小花の髪飾りゆらゆらにお目々をジッと、あはぁ、ねーね、ねーね、と掴もうとしたりしてひと騒動あったが、何とか無事にファフニールは綺麗なまま。
「ヨルちゃんも、ファフニール姉様がキレイで触りたくなっちゃったのねぇ。」
母のサラが、ねー、と抱っこして顔を合わせると、ヨルちゃんはきゃっきゃっと嬉しそうに笑ったり。
最初に家族写真、そしてレッキスとファフニールの2人の記念写真を撮影してからは、段々と貴族にしては市井に慣れすぎているリルケ男爵家の人々が。
いつもの、ピヨコのおもちゃで遊ぶヨルちゃん、だの。
芝生の上で、お気に入りのご本を読む5女ティアマトだの、肖像画代わりになる当主セイグリフと嫡男ジャバウォックのバストアップ写真、双子2組の手繋ぎどっちがどっち写真など、とにかく緩んであれこれと。
「……いいですね!普通、貴族のお家の方は、決まりきった、格好のついた写真ばかりを撮りたがるのですけれど、これ、こういう日常も含んだ、新聞の記事の写真みたいに、いつもの日常が、このお家の歴史で、事件なのですよね。いいなぁ、こういうの、他のお家でも提案したいなぁ。」
カメラマンとスタッフが、うんうんと頷きつつ、リルケ男爵家の撮って撮ってのリクエストに応えていく。
3女ムシュ、4女フシュが、撮影の後ろから確認作業を覗き込みながら。
「これ、写真が沢山貼ってある本とかできたら良いわねえ。今日の記念に、沢山撮った写真本1冊。その下に、私たちで、写っている人の名前だとか、お気に入りのご本でご満悦のティアマト、とか書けば、後ですっごく思い出に残ると思うの。」
「家族写真は、大きいフレームに入ったのと、本のと、両方あると良いわね!」
カメラマンとスタッフはそれを聞いて、うん!力強く頷く。
アルバム、の発想である。
「お嬢様、私どもで、それをお作りして、お待ちしましょう。それで、もし良ければ、同じ形式で、写真を撮ってみられませんか?ってウチで宣伝する事は、もし叶うならば、お許し願えたりなど……。」
3女ムシュ、4女フシュ。ふぬぬ?と考えて。
「そうしたら、私たちの写真本を、同じものを2冊作りましょう。どちらにも同じく写っている人の名前や、その時のコメントを入れて、楽しく出来上がったものを。1冊はウチへ。」
「もう1冊は、そちらの写真館で、見本にしたらどうかしら!もちろん、それを提供するにあたって、ウチの家族それぞれがお気に入りの写真を1枚ずつ、余分にもらえたりするので手を打たない?」
ちゃっかりしているムシュフシュなのである。
当主セイグリフも、写真本の案をリルケ男爵家が出したとなれば、話のネタにもなると許可をしたので、それは願ってもないカメラマンたちに受け入れられて、ここにパシフィスト初のアルバム事業が始まるのであった。
あとスナップ写真というジャンルの始まりも。
散々撮影して、お茶も飲まず。
ちょっとしたお化粧直しをして、レッキスとファフニールは、パーティへ向かう。
残された父、セイグリフは、カメラマンたちも去って、よそ行きも脱いで、寛ぎながらテーブルで脱力、しみじみ。
コツン。
ワインとコップを片手に器用に持ってきた長男ジャバウォックに、タハッと笑って。
「リルケ男爵家ご当主様は、長女のリヴァイアをお嫁に出した時みたいに、しゅんとしてますかね。」
面白メガネジャバウォック、2度目だから、父のダメージ……というか何というか、娘を嫁に出す喜びと寂しさを、よくっと分かっているのである。
「大丈夫かな。結婚式には号泣しちゃうんじゃないの。」
「泣かないよ。喜びごとじゃないか。……飲まずには、いられないけどな!」
「だと思いました。」
夕食前なんだから、ほどほどにするんですよ!…と、遠くから妻サラの声が聞こえてくる。
まだまだ娘も息子もいる。
賑やかなその声の中、父と兄はしみじみと、酒を飲み、あの時のファフニールはなぁ、と思い出話を始めるのだった。




