告白
パージュさんは、ニコニコしていたのをサッと曇らせて、ちょっと俯いた。
「ああ、元気をなくさせようとして言っているのではないよ!」
バラン王兄殿下は、焦って、わちゃちゃと、自分の前で手を振った。
「失礼な輩?」
ブランシュ館長が、不思議そうな表情をする。が、図書館員達は、あぁ〜っ、と、何だかお察しな顔をした。
「また、勤務中に、振られてしまったんです。」
気を取り直して、またニコッとすると、パージュさんは、王兄殿下に謝った。
「お見苦しい所をお見せしましたね、王兄殿下。私の不徳の致すところです。どうか、お許し下さい。」
「イヤイヤイヤ、何を言うかね。君は一つたりとも悪い所はない。とても、とても、君は魅力的な女性だよ。勉強熱心だし、博識だし、声も素敵だが、それだけではない。私はとても美しいと思っているし、家事など私の嫁になれば、周りの者がやってくれるのだから、不得意だって問題ない。勿論やりたかったら、やってもいい。むしろ君の作った料理が食べたい。仕事だって続けていられるし。あんな輩の言った事は忘れて、どうか私と付き合ってはくれまいか。」
怒涛のど直球。
ポカン、とパージュさんは、驚きの余り料理にも手をつけず、王兄殿下を見た。
図書館員達は、ヤッタネ!て顔で、ニヤニヤとパージュさんを見ている。
う、うん!とエーグル副団長が咳払いをして。
「パージュさん。私も、僭越ながら恋人候補に名乗りを上げさせてもらおう。いつも熱心に仕事をする、優しい貴女を見ていて、募る心を逸らせていました。私は妻を亡くしたけれど、結婚経験がある分、女性には優しくしてあげられると思う。王兄殿下ほど、贅沢はさせてあげられないが、騎士団の副団長も捨てたものではないと思っている。あんな失礼な輩どもに、これ以上貴女を傷つけさせたくない。貴女を守りたい、守らせて欲しい。どうか、一考願いたい。」
おー。
エーグル副団長も、男気を見せた。
周りでモグモグしながら見ていた、図書館男子達は、告白、してぇ〜、玉砕してもいいから、気持ちを伝えたかった、とか、パージュさん、俺も守りたい、とか呟いていた。
「あの、•••あの、急なお話で、私、私。」
カーッと顔を真っ赤にさせて、パージュさんは言い淀んだ。
「勿論すぐに返事をなどと言わないよ!ただ、ゆっくり考えて欲しい。」
「そうです。いつまでも待ちますから、どうか未来の伴侶として、王兄殿下も私も考えに加えて欲しい。」
「すきってこと?はんりょ?」
「好きって事だよ!」
「夫婦になりたいよ、って言ってるんだよ。」
生の告白、見ちゃった!
王子達3人も、毒味待ちしながら、クスクスと楽しそうである。
すうっ、と息を吸い込んで、パージュさんは、覚悟を決めかねる顔をしていたが、真面目に王兄殿下とエーグル副団長に向き合った。
「お二人とも、私にそこまで言っていただいて、ありがとうございます。何だか、さっき振られたのとか、どうでも良くなっちゃいました。嬉しいです。」
グッと、出されていたお茶を飲んで。
「私、声が気に入られて、自分は好きじゃないのに、押されまくって付き合う事が多くて。自分の気持ちが伴ってないから、対応もおざなりになって、振られても仕方なかったな、と思ったりもします。だから、そういう中途半端な気持ちでお二人にお返事したくないです。今度は、今度こそは、私が好きになった人と付き合いたい。お二人に、待っていただくのは、申し訳ないけれど、どうか時間を下さい。」
真剣な答えに、王兄殿下もエーグル副団長も、うむうむ、勿論、良いよと頷いた。
「待ってる間、2人はパージュさんを、焦らず口説けばいいですよね。だって接触がないと、好きになるも何も、育ちませんもんね。」
竜樹は、お見合いの仲人おばちゃんのようにツッコミを入れた。
うむうむ、と王兄殿下とエーグル副団長は嬉しそうである。パージュさんは、また真っ赤になった。
「くどく?ちゅうする?」
「まだしないよ!」
「好きになってね、ってアピールするんだよ。」
王子達は、料理のお皿をやっともらえて、モグつきながら現状把握中である。
「さて、パージュへの告白も済んだ所で、図書館の話をしようじゃないか?時間は有限だ。実りある会話を楽しもう。」
館長の一声に、みんな和やかな気分になって、それからはだいぶ会話が弾んだ。
「俺のいた国の図書館では、十進分類法って言って、本の背表紙に、数字で分類された番号がついていました。その番号を見るだけで、内容のある程度が仕分けられています。例えば、ええと、914だったら、9が文学、1が日本という俺の国の文学って事で、4がその中でも評論、エッセイ、随筆、って事です。それに、作者の頭文字が書かれて、文字順に並べられています。この人の料理の本、などといった時にも探しやすいです。」
十進分類法をスマホで表示させながら説明すれば、
「へえ!なかなか細かく分類されてるんだな。」
「私達の図書館では、大まかには分かれていますが、結構図書館員の記憶頼り、と言った所もあります。」
「分類するのも、大変そうだが、やる意味は大いにあるな。竜樹君、その表もらう事はできないかね。」
「後で魔石に込めて、映す画面と一緒にお渡ししますよ。」
それと、パソコン、っていうスマホのおっきいみたいな機械があって、それからキーワードで読みたい本が検索できたりもしました。本のタイトル、作者、分類の数字、そして簡単な内容が書かれたカードを、いっぺんに見たいものだけリストアップしてくれます。
「一度全部本のデータを入手する手間はあるけど、便利でしたよ。その機械で貸し出しの手続きも出来たし。」
はい!はい!とチリが挙手して、「その機械、作りたいです!ぱそこん!」
熱烈にアピールした。
あとは、絵本の読み聞かせとかあったよー、とか、あるテーマの本をピックアップして、イベントスペースを作って貸し出しに寄与していたよー、とか。新聞紙や雑誌が無料で読めたから、定年したおじさん達が憩いの場としてたむろしてたよ、とか。
「新聞紙?」
「ニュース、事件や事故、時事や文化などを載せた、毎日発行される情報誌ですね。新聞各社で、書く人の立つ位置が違って、色々読むと多角的に情報が得られたと思います。まあ、テレビやスマホのニュースに即時性では負けちゃってるけど、視点が違ったり、書く人の名前が記名されてる記事があったりして、良さも充分あります。」
「私達の国では、大抵即時性のある情報は、人伝だね。新聞紙、いいねえ。沢山作られていたの?」
「はい、お金払って毎朝家に届けてもらう人も大勢いましたよ。最初、印刷が難しいなら、小部数刷って掲示板でもいいですよね。」
など、など。
そして、ナレーションの見本には。
猫の撮影で有名なカメラマンが、猫に寄り添う視点で、ゆっくりと猫だけを追う、静かな番組を見せてみた。
「ナレーションとは、画面にない情報や視点、そして画面の情報を、声で分かりやすく、ユーモラスに、お伝えする仕事なのですね!」
パージュさんが興奮して、なんだかやる気である。
「これを私に?ちょっと考えさせて下さい!面白そうだけど、なんだか情報が一杯で、落ち着いて判断できません!」
もちろん、もちろん。
「ねこ、ちゃん!」
「か、かわいい〜!」
「猫、猫ちゃん、すごく、素敵、触りたい!」
猫は人類を和ませるのである。