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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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ファニーさんなファフニール


占い先輩少女トラジェが、お客さんトールの失神に驚いて鈴を鳴らすより少し前。


占い後輩少女ショワは、お昼を前にして、これが午前中最後のお客様、と並ぶ列に断りを入れて、また午後から並んで下さい、と順番通りに数字を焼いた木札を配った。

これがあれば、お昼を食べに列を離れても、同じ順番で観てもらえるから。ショワも待たせていなくて気楽だし、お客さんにも良い。最近の治療院の待合のやり方を真似したのだ。

もちろんそれは、竜樹から齎された、銀行での順番待ちや病院、飲食店での整理券のシステムである。


午前中最後のお客様は、若い、もう少女ではない女性だが、どこか少女めいたーーーだけど、美しい、というのとは違う。

ニコニコした糸目に、ふくっとした頬。ニン、と大きな口に小さい鼻。そばかすに赤い頬。えくぼ。

ファニーな顔立ち、といったら良いのか。人を笑ませる、フニャッとした魅力満載な、愛嬌。可愛らしさがあるのだ。

くりくりふわふわっとした、自由奔放な髪も、頬の周りで踊って明るい雰囲気だ。


ショワは席に着いて、コホ、と空咳。

落ち着いて一声。

「ようこそ、お客様。ショワの占いテントへ。さて、どういった事をーー。」

言い終わるより前に。


ファニーなお客さんは、ニヒッ、と肩を上げて、さも面白そうに笑い。キョロキョロしてテント内を見回していたのに、あはは〜、と手を招いて、待って待って、した。

「ねえねえ、よろしいかしら。占い師ってこんな小さな女の子もやってらっしゃるのね!驚いたわ!ううん、ごめんなさい、馬鹿にしてなんかいないのよ?貴女は立派な占い師だわ!だって、雰囲気あるもの、立派よ!」


えーと。

「はい、あの、私はちゃんとした占い師ですよ。モントレお師匠様って、ゆうめいな占い師に習ってますし、まだ修行中ですけど、それはお客さまに、ちゃんと了解をとってます。」


ウンウンうん、と動作を大きく、頷くファニーさんは、ニッコリしたまま、身を乗り出して。

「お師匠様は大人?こう、占ってるぅ!って感じに雰囲気あるかしら、ふんにゃらふんにゃかフニャッ!•••とか唸ったりして!」


ふんにゃらふんにゃかフニャッ!

の所で、いかにも怪しい占い師らしく、途端に雰囲気を出して手をエア水晶玉を抱え、くわくわふにふに翳して演じ。目をピッと閉じていかにも宣託を受け取った瞬間を、うぅ〜ぬ、と大袈裟に。チロッと片目がショワを見て。何故か動きの一つ一つが、滑稽。

そして、ニパッと、また全開で笑う。


「お師匠様は大人ですよ。そんなに大げさじゃないけど。もっと静かにやるわよ。それに、モントレお師匠様は、カードで占うのよ。えーっと、モントレお師匠様に占ってほしいの?」

それならばショワの所に来ても何ともならない。


しかしファニーさんは、パッと身を引いて、いやいやいや!違う違う、と両手のひらを広げて、わちゃちゃと突き出して振って。次の瞬間には、ムフッ!と占い卓に肘をつけてまた身を乗り出した。

何だかその動き。つい見ちゃう。


「あのね、私、占いをしてもらいにも来たんだけど、目的はちょっと違うの。だから、最初に貴女が、修行中ですよ、って了解をとるみたいに、私も貴女に、いいかしら?って許可をいただきたいの。」

あはー、と大きな口がニッカリ開く。

その様子は、ダメだなんて言われるとは、全く考えてなさそうな、ワクワクとした愉快さがある。


「許可?何でしょう。聞いてみないといいか悪いか、分からないけど。」


うん、あのね。

「私、真似をするのが、だーいすき!なの!ちょっと雰囲気ある変わった人を見ると、真似したくてしたくて、たまらないの!黙って真面目にしてられなくってね、貴女がいると、真剣な話が一つも進まない、ってお母様もいつもプンスカしてるんだけど、それがまた、おっかしくって真似したくなっちゃって!」


「はあ。」

沢山喋る人だなあ、とショワは思った。お仕事柄自分が沢山喋る立場なのだけれど、そのリズム、勢い、身振り手振り、お母様の真似の実演まで、ポケッと見ちゃうのだ。


「いやいやお母様の真似はおいといて。アハ!それでね、私、今度ちょっとした集まりを催す事になってね、それって真面目なものなんだけど、面白くないなーって思ってね。」


この話、どこに行き着くのだろう。

相槌を打つ暇もないほど。キャラキャラとファニーさんは笑う。

あは、は、と何故かショワも笑っちゃうのだ。婚活中に滑稽な失敗をする娘を叱るお父様の真似とかで。


「•••ええと何だっけ、そうそう、それでその会でね、私、占い師の面白い真似っこをやってみたいかな!って思いついたの。それで、いわば、取材に来たって訳なのよ、ここに。」


もちろん占いもして頂くわ、私が面白く生きていけそうかな?って。どう?

まあ、その占いをしてる所を見ながら、占い師に良くある、仕草や、言い回しなんかを聞いたり。


「取材、ダメかしら?うふふ、私、とっても上手くできると思うの!占い師の真似っこ!」

うっふっふっふ!

ふんにゃらふんにゃかフニャッ!

今度は眉を八の字にしながら、カードを混ぜる真似である。


笑う、笑う、笑う。

ファニーさんといると、ショワも何だか、くすす、くふんと笑っちゃうのだ。

さっきまで、占い勝負、先輩占い師トラジェのやった悪いけど良かれと思っての勝手なやり方に、ショワはショックを受けていた。

信用していたから。

自分に、家族に、悪い事をするだなんて、全然思っていなかったのに、考えてもなかった理由で。

ピッタリと凸凹を埋め合わせるように仲良くしていたのを、揺らがせるトラジェのやり方は、ショワを沢山傷つけていた。


でも今、ファニーさんが、笑いでその事から気持ちを離させて、ふっと心が緩くなっている。


「ふふ、良いですよ。取材お受けします。どんな事が知りたいですか?お名前を聞いても良いですか?」


「私の名前はファフニール。リルケ男爵家の次女よ。貴女はショワちゃんね。よろしくお願いしますわ、ショワちゃん。いや、占い師って、様付けの方が良かったりするのかしら!うふ、その方が、えらーい占い師っぽいわね!ショワ様、私、困ってしまって、うっ、うっ、うっ。」

今度は悩んでいるお客さんの真似である。

うふふふふ、と笑い合って2人、取材兼占いを始めた。




「それでね、それでね、ファフニール様、聞いて!トラジェったら、私に良かれと思って!て言うのよ!そんなのある?勝手じゃない!私、どうして私とトラジェが同じやり方しないといけないの!って言っちゃったわよ!」


まあー、とファフニールはニコニコ聞いている。何でかショワの、トラジェへの愚痴を聞いてもらっちゃっているのだ。


「トラジェちゃん、どうしてそんな事したのかねえ。ショワちゃんだって困っちゃうわよねえ。今まで仲良くやってきたのに。どういう顔したらいいか、分かんなくなっちゃうわ。でも、ショワちゃんを嫌いではないのねえ。」


そうかもしれないけどー。

ブスッとぶすくれて、ぶちぶち愚痴る。

「トラジェったら、何であんな事したのかしら。そういえば、やたらと馬鹿にされるのを嫌がるのよ。私たちが修行中なのは、当たり前の事なのに、『占い通りカンペキ!紹介図』の紹介文を読んだら、馬鹿にしてる!私たち、ちゃんとやってるわよ!って、怒りまくって怒鳴り込んだのよ。紹介文を書いたおばちゃんに。」


あらあら、とファフニールは爪をよじよじ触りながら、怒ってる真似をして、バカにするなぁ!と少女らしく滑稽にポカポカ殴りを可愛くやった。

うふふふふ!とショワはそれを見て笑う。

「そうそう、ううん、もっともっとすごかったんだから!おばちゃんは、あらあらごめんねー、って軽い感じだったけど、プンスカしてたの。」

「へー、どんな紹介文なの?どれどれ?」


ショワは、占い通りカンペキ!紹介図をファフニールへ渡した。


・・・・・・


水盤占い:トラジェ・リーブル

駆け出し少女占い師。

水盤に指を浸し、その波紋が描く運命の姿を読み取り占います。

悩み、苦しんでいる人に、共感して寄り添って良く聞いてくれるので、話をするだけでスッキリすることも。占いの結果云々より、まずは誰にも言えない思いを、秘密厳守のトラジェに打ち明けてみては。

話が長いから待たされるのは覚悟で。時に占いを忘れるほど感情移入してくれます。

修行中だからこそ、占い結果が良くなるかどうかは、あなたの正直な打ち明け具合、心掛け次第です。


・・・・・・


輝石占い:ショワ・リーブル

占い師トラジェの妹分、まだまだ発展途上中な駆け出し占い少女。

手の温度で色が変わる輝石を放って、位置や色味から運命を読み解きます。

元気になりたいなら、初恋の相談がしたいなら、ちょっと勇気を出したいなら。

少し耳に痛い事も、良き未来を見据えての観点から、正直に言ってくれます。まだまだ人生経験が足りないので、大人で繊細な事情を占うのは勉強中。誰の中にもある少年や少女の気持ちを奮い立たせるなら、きっとお眼鏡に叶います。

割とさっくり観てくれます。お香を焚いて時間を限って観てくれるので、待ち時間の見通しが立ちます。


・・・・・


「あー。占いの結果云々より、とか、話が長い、とか、怒っちゃったのかなあ。ちゃんと良い事も、沢山書いてるのにね。プライド高いのかしら。真面目なのねぇ。あは、そうなんですー、で良いと思うけど、きっと占いを大事にしてるのね。•••にしたって、ショワちゃんも馬鹿にされてる!って思っちゃったのかしら。不思議。なんでかしら?」


そういえば。

とショワは思い当たる。

「トラジェはね、生まれてから貰われた子なのね。それで、貰われた家でも、ひどいかんじに、いじめられてたみたいなの。そこでの事を、きっと忘れられないのかなぁ。ちょっと敏感で、割とすぐに、馬鹿にした!って感じに思うみたいなのよ。馬鹿にされると、ひどい目にあうから、2度とあんな風にならない、って言ってた事あった。」

思い出す。固い顔をして、2度と、と言ったトラジェの、あの伏せた、けれど鋭い目を。


ふぅ〜ん。

ファフニールは、俯いて、少し沈んだショワに、優しい目を向ける。

「そうなのねぇ。ねぇ、ウチの飼い猫、ミルちゃんってコがいるんだけど、冬にね、魔道具ストーブにくっついて、ピャ!って火傷しちゃったのね。相当痛かったみたいで。」


夏でも冬でも、魔道具ストーブの側にいかないのよ。

あれは痛いものだ、って覚えちゃったみたい。全然熱くも何ともないのにね、夏のストーブなんて。


ショワは聞きながら、眠たげな生まれつきの目を、キュ、とファフニールに。


「平気なんだよ、って。痛くないよ、って。ショワちゃん言ってあげる気持ち、ある?きっと、トラジェちゃんは、ショワちゃんも馬鹿にされた!紹介文で!って思ってる、何とかしなきゃ、って焦ったのね。馬鹿にされた時の、いじめられた痛みを、ショワちゃんにやりたくなくってなのかしら。•••それにしたって、やり過ぎなんだわ!随分と思い詰めちゃったのねえ。幸せになるためにやる事ではないじゃない?痛くない、から良い、じゃないわよね?」


そっか。

トラジェは、夏のストーブで怖がる猫なんだ。


ほかり、とショワは、心に一つ、納得がいったのだ。


「でもねえ。」

ファフニールは続ける。


「ミルちゃんに、夏のストーブ熱くないよ、って無理に近づけるのは、違うかも。だって、怖くて、痛くて、嫌なんだもの。触れるのに勇気が必要よ。もう痛いって覚えちゃったのを、新しく、大丈夫よ、って言うのは、とっても時間のかかる事だと思わない?」


ファフニールの、ニコニコとした優しい目を見ながら、ショワが何かを言おうと口を開いた時に。


『キャーッ!!ショワ!助けて!!』


シャンシャン、リンリリンシャン!!!

トラジェの鈴が慌てて鳴らされて、微かに悲鳴が、テント越しに聞こえたのだった。




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