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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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占い勝負、進行中


占い少女、ショワとトラジェの占い勝負シール貼りアンケートは、順調。なのだろうか?テントの中で、話し声はくぐもって、外のお客さんや、アルディ王子、エフォール、ロンに弟エト、それからモントレお師匠様にも微妙に、分からない。


占い時間が短いショワ。料金は、ロンの人差し指よりも短い、コーン型の匂いが柔らかなお香を焚いて、その時間内で、と決めている。およそ10分だろうか。

中には、時間超過するほど熱心に、角度を変えて何度も占って欲しがる人もいる。途中で、ハイッここまで!ってのも中々難しいので、(ショワはキリがつかないお客さんには、ハイッとやってしまう事もあるが)その時は、お香を新たに一つ、燃えきらなくても足しただけで料金は2倍になる。


トラジェはそもそも、ショワより1人1人にかける時間が長い。25分から30分が基本で、悩みがあればあるほど、迷えば迷うほど、延長し話を聞くというスタイルだ。

その代わりショワより、基本の占い料金は高くて、その聞き取りの中で何回占いをしたか、で計算は変わる。

トラジェは時間を気にかけず思いの通り話してほしい、と思っているので、時間では料金を足さない。その代わり、30分より長かった時は、計算した占い料金に足して、「貴方のお心に適うほど。少なからずお時間を占いで共有できたお印を、下さいませ」としている。

相手の都合に合わせての、長時間の仕事に対する支払いだが、安く見積もる者もいれば、思いの外高く見積もってくれる者もいて、トントンらしい。


ロンとショワの弟エト組は、占いの間飽きちゃうかなぁ、とエフォールとアルディ王子が危惧して、待ち時間が短そうなショワ側にした。

木箱を持って来てテントの前に座り、仲良くお喋りしている。時には待っているお客さんの少女と話をしたりして、ニコニコ、今の所、ツマンナイ、飽きた!にはなってないようだ。オヤツ貰ったりして。


エフォール達も木箱に座って。こちらは長丁場なので、手持ち無沙汰に歩行車の中からかぎ針編みの道具と途中の作品を取り出したエフォールである。そして彼に習って、アルディ王子も、初めてのかぎ針編みに挑戦である。


「小さい花のモチーフを編みましょう。簡単だけど、沢山編んで、繋げて、凝ってる!って見える色々な物が作れます。ショールなんかにも出来るけど、そこまで数がいかないだろうから、どうしようかなぁ。」

「どういうのが、作れるの?お母様にあげられる?」


あげられますよ!

じゃあねえ、小物用の、キュッと紐で絞る袋にしましょうか。

女性って、何かしら細々と、小物の荷物があったりするものだし、整理して持つのに、バッグにも入れられるようなやつ。


エフォールが自宅で沢山お姉様とお母様に作ってあげている、作り慣れた巾着袋を、花のモチーフで。

お客さんも、悩み憂いありつつも待ちながら。何だかゆるりとした、えしょ、んしょ、という、力が入り気味の初心者アルディ王子(一目一目編みながら、狼耳が左右片方ずつ、ヘタ、ピン!と立ったり伏せたり交互にリズムを刻むのはご愛嬌)と一緒に力が入ったり。

エフォールの流れるような編み姿に、ゆん、ゆん、と心の中で拍子をとったりである。


「ごきょうりょく、くださーい。」

「良かったら、ショワの占い、満足したなってのに見合う感じに、ここにシール貼って下さい!」


お客さんがテントから出て来て、あれこれ言っていく。


「うーん、私は告白してみたい、ってのに、上手くいく可能性は充分あります、挑戦する価値はあります!って言ってもらえて、勇気出たな!」


「悪かった所、何か、ハイッハイッ、ってどんどん言ってしまわれるから、気持ちが追いつかない所かなぁ。何か後から考えちゃう。」


「未来はまだ決まってないけど、俺は話をするのが上手、歳上に可愛がられる、だから、商家やお屋敷の使い走りの見習いとかいい、って。間を繋げられるんだって俺。そんな才能があるって、知らなかったから、大満足!」


「もっと•••頑張らないとダメって•••思い込みで人を傷つけるかも、って。そんな事、言わなくても良いのに!」


「何であんな小ちゃい子に、偉そうな事言われなきゃなんないの?」


概ね満足しているが、中にはムスッとしている少女などもいたりする。

ひょえー、と思いながらも、聞き込みを続ける弟エトとロンである。


「姉ちゃん、何かスゲー事してんだなぁ。」

こんなにいっぱいの人と話すだけでも、弟エトは疲れてきた。占いで、少なからず良い事ばかりではなく喋り、上手く導くのは、相当気持ちが入る事だろう。


午前中、様々な意見を聞いて、シールを貼って貰いながら、男の子達は2人のテント周りを中心に、屋台などもチョコっと巡って占い通りを満喫した。

お昼になろうか、という頃、トラジェのテントに入ったのは、何だか顔色が悪い、ふらふらとした痩せぎすの、けれど剽軽な顔をした男性である。


「ようこそトラジェの占いテントへ•••って、お客様、またいらしたんですか?」

トラジェが大きな目を、ふっと伏せて、はふ、と息を吐いた。

「本日はどのような占いを?同じ占いは、多少なりと時間をおいてもらい、状況が変わりませんと、占えないですよ?」


「う、う〜ん。」

男性の名は、トール。2日前もトラジェに占ってもらったばかりだ。

「状況は変わらないけれど•••君に話を聞いてもらうと、ほんの、ほんの少しだけ、気が楽になるんだ。だからって何も現実は進まないって、分かっているけど、頭が一杯で、何か心から出さなければ破裂してしまいそう。•••頼むよ、お代はちゃんと払うから。」

クシャん、と。困った笑顔で、辛そうにトールは、よろふらガタンと椅子に腰掛けた。

頭を抱えて伏せて、くくく、と言葉が溢れる。

「どうして父さんは私に商売をやれって言うんだろう。見ていれば誰でも分かる、店の者達は裏で何と言っているか、不安そうでさ。どうすれば向いてないって、分かってくれるんだろう?」

「それをまた、占ってみますか?」


トラジェのお客さんの中でも、このトールはかなりしつこい部類だ。というか、本当に他に相談相手がいないらしく、困りきって弱っているので、トラジェに縋っている。


「ううん、占う度に状況が悪くなっていくから•••よしとくよ。」


トールの家は商家である。

長男だから、と商売を継ぐ事を望まれているのだが、本人は他に志望がある。

「幼馴染で作った劇団も、崩壊しちゃったのですよね。」

「うん•••。皆、本職の仕事もあるし、トールのお遊びに、これ以上付き合えない、って。しかも恋愛いざこざがあったりして、回復は全くの不可能だぁ。」

しょんぼり。


本人は劇団の脚本家志望なのだ。

演劇が好きで好きで、観て観まくって、それだけに飽き足らず、何かを創りたいと思ってしまった。

勉強した訳でもなく、誰かに師事も出来ない。表向きは、実家の商家を手伝うのが仕事だからだ。

お遊びに幼馴染同士でやるくらいが、許された範囲だったのだ。

でも、それさえも、上手くいかなくて。


「素敵な劇をやるならまだいいけど、って。こんなくだらない脚本、出来るか!って、皆に却下されちゃった。」

「皆に喜ばれるような脚本を書いてみる、っていうのはどうなんですか?素敵な、素晴らしいものが。」


それが出来たら、苦労はないのである。

皆が素敵だと思うような、シリアスで、物語が重かったり、恋愛濃厚だったりと、お綺麗に迎合すれば、トールのやる気が出ない。

面白く何とか自分の書きたいものと、劇団として良きものを組み込んで、と頑張っても、中途半端だとウケが悪く拒否もされ、なかなか現実は報われない。


「私には、脚本家として、何かを創っていく才能もないのかな•••。手相ってのも、占ってもらったんだけど、創作、芸術線てやつが、なんか、段々と、途切れて離れてくように思えて•••。」

ジイッ、と手を眺めて、何度もそこを擦る。

「ダメなのかな•••ダメ、私、ダメなのか、あぁ、ほんとに途切れて、る?」


運命は変わるし、手相は変わる、と言われて。不安定な心のまま、目が離せなく、占い通りをあちこちフラフラ、占ってもらっては確かめて、確かめてはしょんぼりして、現実は対処できず置き去りに、ジッと手を見るばかり。

諦めるとも、家を捨てても脚本家になるとも決断できず、力無く、弱っているのだ。


こんなに弱っている人を、どうしたら良いだろう、とトラジェはずっと困っていた。

(本当なら、こんなお客さん、ショワに頼んだら勇気を持たせてくれるんだけど•••。)


トラジェのテントには、鈴がブドウの房、吊るされて。繋がったリボンで鳴らせるようになっている。


ショワのテントにもあるのだが、2人はお互い、困ったお客さんが来た時に、柔らかな密室のテントの中で危険にならないように。トラジェが困ればショワが来て、ショワが困ればトラジェが来て。大人を呼んだりもするし。

長引いて困って、あぁ、自分よりトラジェが、ショワが向いてるな、打開できるなって時に顔を出し合って助け合い、引き継ぎし合って上手くやっていたのだ。


でも、もう、ショワには頼めない。

あんな風に、仲の良い家族に悪い事をして、どうして助けてだなんて。

瞬く瞼は、悲しい色。しっとりとする。


目の前のトールは、そんなに嫌な事をするお客さんじゃないけれど。とにかく弱っていて、頻繁に来るし、あまりに変わらない状況は、トラジェでさえも気持ちがダダっと落ちる。気持ちが落ちている人には、ただでさえ引っ張られるのに、加減もなく親身になって話を聞いていればそうもなる。


そのストッパーがショワであったのに。


「•••ごめんね。ごめんね、こんな話ばかり、幾らお仕事だって、聞いているの、嫌だよね。」

ぼーっとしているトラジェの様子を、チラッと見て情けない泣きそうな笑顔のトール。

トラジェはハッと、そして自分を奮い立たせて。ふるふる、と頭を振った。

「いいんですよ。占いが、トールさんに、上手い方へ向くキッカケをあげられなくて、こちらこそ、ごめんなさい。」


その言葉を聞いて、キュ、とトールは目を力込めてクシャクシャに瞑った。


「そうだよね。幾ら占いだって•••もう、見放されちゃったかな。」

悲しい悲しい呟き。


ハワッ!トラジェは慌てて、いえいえ!したのだけど。


「ありがとうね、トラジェちゃん。今まで話を聞いてくれて。」

ゆらり、と立ち上がったのを、どんなに止めても。

「それじゃあね•••。」


ポケットに剥き出しのコイン、お代を払おうとして、そのままトールは。

ゆーらり、ふわーっと、


バタン!


ひゅ、と驚きに息が止まる。次の瞬間、思いっきり吐いて叫ぶ。


「キャーッ!!ショワ!助けて!!」


シャンシャン、リンリリンシャン!!!

鈴が慌てて鳴らされて、前のめりに倒れたトールに駆け寄るトラジェは、もう占い勝負なんて、どうでも良かった。




誤字報告、ありがとうございます。

×老たけた→◯臈たけた なのですねぇ。

勉強になるなあ。

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