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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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不幸をあなたに


トロットサンダッツが、モゴモゴと。誰に『蝶々の痣のある女といたせば不能が治る』と悪意満々に占ってもらったか、をなかなか白状しないので。


その内に、ルルー治療師と、骨折怪我の治療ができる、再生を使える同僚の治療師、引っ詰め髪の真面目そうな女性ルイーユが、占い通りのショワの家までやってきて、ただいま弟エトの具合を見ている所だ。

ルルーは、エトの足にそっと触れて。触れられただけなのに、エトは、ひゃっ!と肩を飛び上がらせて痛がった。


いたいの、かわいそ。ロンが、自分も痛いかのように、ビクッとして、ひゅ〜ん。鼻を鳴らす。神の眷属白熊レザン父ちゃんが、ポム、と小さな頭に手を置いた。


「あぁ〜痛くて動かせない。まぁ骨折でしょうが、携帯タイプの身体すきゃなを持ってきましたからね。中の状態もよく見て、ルイーユに治療してもらいましょう。すきゃなのおかげで、痛みや引き攣れ、後遺症なんかは殆ど出ないように、繊細に丈夫に治せますから、安心してね。」

「エト君、すぐ痛くなくなるからね。少しだけ我慢してね。」


「は、はい。」

エトは、脂汗をかきながら、口をキュムキュムと結んで、呻くように返事をする。母ハピが、背中を抱えるように、椅子に座ったエトを支えて、心配そうにしている。

父ティザンも、邪魔にならないように、けれど側に、姉の占い少女ショワの肩を抑えるように手のひらで包んで、見守っている。


治療チームのお仕事中、誰も口が挟めない。

原因であるトロットサンダッツは、後ろめたいのだろう、時折、すーふ、すー、とため息になりかけの息を吐いて、あちこちに目を逸らしていた。


「トロットサンダッツ。酷いじゃない、エト、こんなに痛くして。」

ムン、とアルディ王子が狼耳をガルっと立てて、文句を言う。彼は喘息で弱いことがあるから、痛む様子に怯みはしなかったけれど、だからこそ痛みに共感した。

でも、トロットサンダッツだって、言ってもらって助かった位なのだ。何も言われない雰囲気こそが、辛い。


「う、う、だって、邪魔をするから•••。」

平民なのに、という気持ちが、無いとは言えない。

でも、新聞寮で子供達の仲間になって遊ぶアルディ王子にとっては、それがなんなの!ってことだ。


「エトにとったら大事なお母様だもの!邪魔するに決まっているじゃない。トロットサンダッツは、結局、ハピお母様にゴニョゴニョしなくたって治るんだし、やなことしただけじゃないか。」

ムー、とお口をへの字にして、腰に手を当てて、人差し指を立てフリフリ。アルディ王子はまるで弟がいたらこんな風に怒るだろうか、説教、説教。


「ですです!歩けないって、本当に大変なんだよ!トロットサンダッツ様、エトの治療ひを、もちろん払うんだよね?治りそうで良かったけど•••。」

足がまだ弱い、リハビリ中のエフォールだって、車椅子をショワ家族に寄せて、そこからムプン!と眉顰めて本気怒りだ。


身体スキャナはタブレットにコードが繋がって、震えるエトの足を診ていく。複雑骨折はしていなくて、神経も傷ついていない。綺麗にポキッと折れているから、治療師ルイーユとルルーが、ホッとした様子。

「これなら難しいことなしに元通り、くっつきやすいですよ。痛いから心配でしょうが、腫れも癒しで治せますしね。」

と、それでも細部までちゃんとくまなくスキャンした足の内部画像をあっちからもこっちからも診て。

打撲を治癒、癒しの治療をして炎症を鎮めつつ、ズレた骨をククッと合わせて固定させる、微妙な物質移動の魔法の後、くっつける為に微量の再生。ルルーとルイーユ、同時の治療はまだ始めて新しい治癒の仕方だ。


ふっ、ふ〜ぅ、とエトが息を吐いて、段々と楽になってゆく様子に、皆も同じく、堅く力が入っていた肩を、ゆるゆるっと緩ませた。

ルルー、ルイーユが、もう大丈夫ですよ、と治って、ぴょんぴょん飛んで見せるまでしたエトに、笑顔も出た。


「良かった、エト!ルルー治癒師様、ルイーユ治療師様!アルディ殿下、エフォール様、ロンくん、レザン父ちゃんさん、本当にありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

「本当に助かりました!ありがとうございます!」

ショワ、母ハピ、父ティザンの頭下げ心からのお礼に、アルディ王子達はムフフ、とほっぺをふくふくさせてほころんだ。


さて。

「トロットサンダッツ。エトにごめんねでしょ。それで、誰に占いしてもらったか、言わないとダメ!」

アルディ王子が、自分が言わないとだぞ、と分かっていてまず始めた時に。


コンコン、トトン。


ショワの家の玄関扉が、またもやノックされたのだった。




「•••どちら様•••?」


ショワが扉を、ソロソロと開ける。


先ほどまでいた、先輩占い師3人。ジャラジャラと輝石のブレスレットを付けた老女。

妙齢の、赤紫の口紅に銀糸の髪がくるり。黒のお衣装のお姉様。

虎目石の色の髪を編み込み、目尻と頬に占い化粧をしたおばさま。


いつの間にか、扉の外で、俯く1人の少女の背中を押して、促していた。


「トラジェ?どうしたの?」


トラジェと呼ばれた少女は、ショワより頭一つ分大きい12歳。まだ幼いけれどほっそりした頬に、銀花の占い化粧、丸い爪を銀に染めて、衣装は紺色に。

アルディ王子達は、一体お客様だぁれ?と警戒して、トコトコ車椅子ガタコン寄ってすぐ側にいるから、ショワは、「占い師のすぐ上の、お姉ちゃん先輩です。トラジェっていうの。」と振り返って言った。


「さあ、トラジェ。言う事があるだろう?」

老女占い師先輩が、芯の通った声で促す。


痩せ気味なトラジェは、目が大きくて、愛らしく魅力的だけれど若干ギョロッとして不気味さ鬱さも含んだ翳り、顔色悪く伏せたまま、ポツリ。

「•••ふこ•••。」


「ふこ?」


ふこ?とアルディ王子もエフォールもロンも、3つ頭を並べて扉の隙間から斜めに顔をんん?と傾けた。


バッ パタン!

ぞろりの衣装の袖を、腿に打ち付けて、顔をぱっと上げてトラジェは尖った声。キュとまなじりつり上げて。

「不幸に、ちゃんとなったか、って言ってんのよ!ったぁ!!」


耳を引っ張って、先輩お姉様占い師がグイグイ、咎め叱った。

「ちゃんと謝りなさい!トラジェ、なんだってトロットサンダッツ若様に、変な占いをしたんだか!ショワの家を引っ掻き回そうとしたんだか!言うのよ!」


うんうん、とおばさん占い師も、眉をピクリとさせて腕組み頷いた。


ショワは、眠たそうに見える目を、精一杯に見開いて、扉を開けて立っていた。




「•••変な占いじゃないもの。最後は上手くいく、ちゃんと通じる、って分かってたもの。」

耳を引っ張られ、ごチン、と頭にゲンコツももらったトラジェは、呆然としているショワの後ろ。ショワの母ハピが、先輩占い師3人と共に家の中に招き入れて。

結局今は食卓の前で憮然と立っている。


ショワとトラジェは、ベッタリでもないけれど、一番下の年齢で先輩後輩の仲、おばおねえさま達に可愛がられてちゃんと仲間で、割と仲良くやってたはずだ。

トラジェは孤児上がり、占いのお師匠と2人暮らし。ショワは家族があって通い、と違いはあったけれど、その分トラジェは生活の中でも占いに触れ、ショワより一歩先に。

そして妹分として、ショワを目にかけて。


くれていたんじゃ、なかったのか。


アルディ王子達は、黙ってしまったショワの代わりに、そんな事を母のハピから、ゆっくりと聞いた。

少女2人は、黙って相対。


「トラジェちゃん、おばさん何かしたかしら。トラジェちゃんが占ったなら、何か、理由があったのよね?不幸になったか、って、どういう事だか、教えてくれない?」


おばさんというのは、ふくよかで温かく、包容力を持つものである。

自分がトロットサンダッツに汚されるかもしれなかった原因の、トラジェの占いであったとて、ついさっきまで娘の姉のように、仲良くキャイキャイしていた少女を、すぐに断罪などできようはずもない。

信じたくない、何かの間違いでは、とも思い、柔らかく、尖った少女の心を宥める声で聞くのだった。



「•••占いを、するには。」


トラジェは、不幸な生い立ちだった。

親に捨てられた。

養い親に、虐められた。

占いの花の痣が、生まれた時は無かったのに、7歳の頃、現れた。

そうして、働き手をやるやらない、だったら身柄の分、金を支払え、と随分意地悪されて、なんとかやっとお師匠の所へ引き取られた。


「悲しみを知っているお前は、同じく悲しみをもつ人を、理解して占いでできる事があるよ、ってお師匠は言ったわ。不幸を知っていれば、不幸を深く占える。知っていれば、アンタみたいに能天気な初恋の占い、とかばっかりしかお客さんが来ない、なんてないのよ。」


私たちは悲しみを、不幸を知るべき。

壊される日常、当たり前の日はとても脆いということ、それがどんなにか幸せな奇跡であるかという事。


ショワが一人前の占い師になるには。


「不幸が必要だと思った。お師匠達は、アンタが可愛いから、そこまでやんないわ。だから、私がやらなきゃ、って思ったの。•••ハピおばさんには、悪いと思ったけど、ちゃんと不幸で、だけど上手くいく、可能性が高いって占いに出たもの。」


私は私の占いを信じる。

悪かったのは、分かってる。

「分かっててしたの。」


だから、謝らない!


ぷっ、と口を少しだけ尖らせて、でもやっぱり目を伏せて、居心地悪そうに逆ギレした、そんな頑なな少女に。一体何を言えるだろうか。


アルディ王子は、お目々がくりくり、と見張ってしまったし。

エフォールは、ハラハラ。ショワの顔色を心配し。

ロンは悲しくヒュ〜ンと鼻鳴らし。


レザン父ちゃんは、ふ、と笑って泰然として、子供達を見守るのだった。


トロットサンダッツは、えーっと、と折角黙っていたのに。3人占い師先輩おばお姉様に連れられてきたトラジェに、そーっと気まずく、気配を消すのである。

元気になってきました!

5月中は様子を見ながら、6月から更新を徐々に増やしたいなって思っています。

のんびり更新でも読んで下さり、ありがとうございます。



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