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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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花に毒、トロットサンダッツの失敗


「あ〜あ〜うるさいうるさい!邪魔をするなお前たち!私はどうしてもそこの、その、ううう、女を•••!」


若様、こと貴族の青年、ラサン子爵家のトロットサンダッツは。

ショワの母を守らんとする占い通りのお姉さんおばさんおばあさん達の、「女難を引き受ける事になる!」「恨みが花咲き実となって全てを焼き尽くす!」「呪い師に呪ってもらう!」「股間よ腐ってしまえぇぇえ!」などの口撃に、モゴモゴと口ごもり、それでも自分の無理無体を強引に貫き通そうと。


占い通りのそれぞれの占いブース、テント屋台に出勤する所だった女達、ジャラジャラと輝石のブレスレットを付けた老女が、薄衣のベールをたっふたっふと揺らして頭を上下、勢い込んで。

「腐って2度と使い物にならないよ!」


妙齢の、赤紫の口紅に流れるような銀糸の髪がくるり。端に星ビーズを飾ったたっぷりの袖が黒のお姉様は、キッと強い視線で。

「そうよ!何をしても勃たないかも!」


細かく虎目石の色の髪を編み込んで、あちこちに下カーブを描き、たっふりと水晶で纏めた、目尻と頬に占い化粧をしたおばさまは。

「どんな美人が相手でもフニャって!」


「不能!」「不能になる!」「役立たずになるわ!」


むぐぐぐくく。

トロットサンダッツは、青年ながら眉のまろい、幼なげでちょっと弱々しさもある甘い顔を、ぐしゃ、と歪ませた。割と若い女性達に人気があるその顔だが、今はとても、情けない。ぐにゅぐにゅの下がり眉である。



「何でお前たち! 知っているのか!?」



何を?


と言われなくても、その一言で分かることがある。


ニヤァ、と笑う占い女達。

そして、クワ、とやってられんな顔をする、占い少女ショワの母、ハピである。娘は只今助けを求めてアルディ王子やエフォール、ロンにレザン父ちゃんとこちらに向かい中。ポロポロと悪事の原因は紐解かれ。

父、ティザンは、若様トロットサンダッツの護衛達に引っ張られた、妻の手を毟り取って、ぶるぶるる、と振った。


ハピ、ビッと指差す。

「何ですか!私は普通の主婦ですよ!花街の美姫でもあるまいに、若様の、その、不具合なんて治せませんよ!」

その言い分も、尤もであろう。


「ハピは可愛いけど!若様がうっとりなって夢みられるような、一発で不能が治るほどの女じゃねえよ!」

「何ですって!?」


いやいやハピ母さん、ティザン父さんにくってかかっている場合じゃない。


「男の役が立たないとな!」

「お遊びが過ぎたのでは?」

「病気?」

占い3女は、ズバリニヤリ。

「「「どうしたら治るか、占ってやろうか?若様?」」」


トロットサンダッツは目をギュッと瞑って顔を覆った。

恥ずかしい。何で大勢にそんな事を知られなきゃならない。

それっていうのも、この護衛達が私をあんな場所へ•••。


護衛達は自分らの失態、それもあって、必死に蝶々の女を引っ張り出そうとしていたのだが。いかんせん彼らもトロットサンダッツが口撃、呪われでもしたらどうにもならない。だから、手を出しかねて、己の主人をチラチラと見ている。


「•••だから、蝶々の痣の。」

顔を覆ったトロットサンダッツが、ぽそり。


んん?と女達はそれぞれ腰に拳を当てて、むん、と仁王立ちでこぼこ前屈み、呟く若様を阻んで、家の玄関、入り口で一歩前へ出た。



「•••占ってもらったんだ!蝶々の痣の女と、一度だけでも寝れば、不能が治るって!占い女が言ったから来たんだ!!」


そしてそこに走り込んできた、ショワとアルディ王子達である。

!?なんなんなん!?と、お目々がクリクリしてしまうのだ。


「ねえちゃ、あし、あ、足がいたいよぅ•••。」


足を痛めた弟。エトのこと、忘れないで。とばかり、呻いて転がって足を押さえていた彼は、鼻を鳴らし悲鳴を含んだ訴えを、堪らず漏らした。





とりあえず、弟エトの足を何とかしよう、とアルディ王子が狼お耳をワッピワッピお尻尾ブンブンしながら、治癒師のルルーに電話。

『すぐ行きます!』それっと承知。

アルディ王子の報告だけではなく、鍛えている都合上怪我にも詳しい、狐獣人護衛のクルーが、途中で話し手を変わってちゃんと容態を診て、場所の説明も、目印の待ち合わせ第二騎士団の配置も、ピッと済ませた。


「••••••••••••••••••。」


自分の息子を怪我させた若様、トロットサンダッツに、母ハピがお茶でもたとえ水だけでも、出すものではない。だから、無言で俯くトロットサンダッツは、飲み物で空気を誤魔化す事も出来ずに、もじもじと指を触っている。


占い少女ショワの家の食卓には、若様トロットサンダッツと、その相対にショワ、父ティザン、母ハピ、足を痛めた、骨折しているとクルーに判断された弟エトが一塊に。傍にはアルディ王子、エフォール、ロンにレザン父ちゃんが。

占い3女も、面白そうに。


その内、椅子に座っているのは、仮にも貴族の若様トロットサンダッツ、足を痛めた弟エト、アルディ王子、占い老女である。

エフォールは車椅子を出してもらって座ったし、ロンはレザン父ちゃんに抱っこだ。

それぞれの護衛達が、ぐるりと狭っ苦しい。4人家族の家の食卓に、1、2、3、一体何人居るっていうんだ。


「ねえ、トロットサンダッツ。ふのうになったのは、何か原因があるの?」


アルディ王子は、不能とは何かを分かるのである!だって、お勉強したもの。テレビでも、子供ができるには、男の子と女の子のからだ、ってやったし、他にも知れる事があったから。


「ふのうって、なに?」


うん、ロン、えーとね。

エフォールがゴニョゴニョ、結婚して赤ちゃんをつくる時にね、男の人は〜、え〜っと、グニャグニャだと赤ちゃんをつくる袋に、半分このタネが入れにくくてー、だからー、と真っ赤になりながら説明をしている。レザン父ちゃんは、ウンウンと腕組み頷きである。ちゃんと皆、お勉強デキテルネ。


俯いたトロットサンダッツの顔は死んでいる。

近隣国、ワイルドウルフのアルディ王子だなんて、はっきり自分より身分が上の方に聞かれたら、答えない訳にはいかない。言いたくない。

アルディ王子達はまだ子供で、トロットサンダッツの苦悩なんて、分かる訳がないとも思う。

それでも言わない選択肢はない。


神の眷属、白熊レザン父ちゃんも、ムムンと睨みを効かせているし。エフォール様だって、子爵家の自分より一個上の伯爵家の子だ。


「•••護衛に誘われて。一回だけ、花街に。そこで。」


フラフラと遊びに行ったはいいが、よろしくない興奮剤を使われてしまったのだそうだ。トロットサンダッツは、その時、初めての女性との一夜であった。

筆下ろしの青年は、緊張して、うまく首尾を遂げられない事は良くある。そう言って、花街の花が、薬を飲ませたものだという。


「あやしい薬、なんで飲んじゃったの?」


口移しで、色っぽく。だから拒めなかった、と、言えないトロットサンダッツは、むぐぐと黙ったので。

ふーす、仕方ないなぁ、と子供達はため息を吐いた。占い少女ショワなどは、ちろーんとけーべつの眼である。


筆下ろしの初心者の気持ちを、少しだけ補助するだけの薬だったはずなのに、粗悪品、トロットサンダッツはその時を限りに。


「あ、朝も兆さなくて。もう、どうしたら良いのか、って、家に良くくる治癒師にも聞けないし。その店に苦情を言ったら、そんなの知らない、って。でも、そこの店に通った奴らが、軒並み、その、ふ、不能になっていて、大騒ぎで、店はすぐ立ち行かなくなってしまって、潰れて花の女の子も経営者も夜逃げしたから当然持って行き場もなくなって。」


「治癒師のひとに、なんで聞けないの?」


それは、親や妹にバレるからだ。情けない事になった情けない原因が。

だけど、トロットサンダッツにしてみれば、ほんのちょっとした、年頃の男子に良くある好奇心だったのだ。まあ、良い事ではないが、それがダメなら、何で花街が存在してるんだ、って話にもなる。


初めての一回でこんな事になって、ダメージも大きく、それだけでも今後の先行きは不安である。

男性もデリケートなのであるから、仮に治療が出来たとしたって、精神的に大丈夫かは分からない。


別に、好きな人と、お互いに安心して睦み合うのは悪い事でもなんでもないのに。遊んでしまったがゆえに、本来なら満たされるはずだった、普通のことが出来なくなった。


「そ、それで。よく当たる占い師に、どうしたらいいか、って•••。恥ずかしかったけど、母や妹に知られずに治すには、って聞いたんだ。」


トロットサンダッツの母と妹は、え〜と、その、かなり。


「潔癖なほうだから、きっと、虫以下くらいに軽蔑される•••。」

じんわり涙を流すくらいなら、止めといたら良かったのに、って。後からなら、誰でも言えるのだ。


「新聞にも載っていたね。その花街の店のこと。」

「ウンウン、載ってた。お母様が、まぁ!ってお姉様とわやわや言ってたもの。お父様は、花街に行ってないのに、なんか居心地悪そうだったなー。」

「ふ〜ん、そうなの?おれ、おとなになったら、はなまちにいくのは、よしとこ!」

アルディ王子とエフォールは新聞を読んでいるし、ロンは今日、花街に危機感を持った!


「それで、ハピお母様と無理やりってなったんだぁ。だけどさぁ。」


アルディ王子が、狼耳を片方だけ、パタ、と倒して、頬に手を当てる。


「その占い師は、当たったかもね。ハピお母様とその、ゴニョゴニョはしなくても治るけど、ここに来なければ、治る方法、知らないままだったもの。」


ん!?

な、な、な。

「治る方法、ですか!?」

ガタン!と立ったはいいが、ショワ、股間を見るのはやめてあげて。


アルディ王子は知っているのだ。

癒しの魔法が、人体にどんな影響を齎すか、ルルー治療師達と鑑定師が一丸となって、研究を続けてきて分かったこと。その結果を、彼はちゃんと、お勉強して、お国に持ち帰って、役立てるのだもの。


「その粗悪品の興奮剤、使っても治るんだよ。癒しの魔法が本来の身体の働きを取り戻すようにさせるなら、って、やってみてるんだ。長く薬が蓄積して不具合が出たり、その粗悪品みたいに、いっぱつでからだが変になった、悪い薬を飲んじゃった身体の患者さんに、根気良く癒しをかけてくと。」


薬が作用して変質した細胞が、薬のない元の健康な状態になろうとして、薬ならぬ毒を尿に排出し始める。


「浄化も使うといいんだよ。たしか、石化のときみたく、身体の中の、狙ったお薬だけ、浄化で。」


日々癒し、利尿作用のあるお茶を飲んで、水分をしっかりとって、浄化して、を繰り返せば。


「お薬の中毒患者や、その新聞に載ったお店の患者さんも、確か治ってきてるひとがいたはずだよ。ルルーが来るけど、聞けば分かる。ルルーのとこの治療院に、かかれば良いのじゃない?」

「アルディでんか、すごーい!」


ロンが、ばんざーい!したので、レザン父ちゃんは、ニコニコと撫でてあげた。

一件落着、万事オッケー、には。


ならないのだ。

エフォールは、何だか、モニャ、とした顔である。

「アルディ殿下、そのじょうほう、きっと、待ってたら、新聞に載ったですよね?占い師の言うとおりにしなくても、別に新聞を読んでたら何とかなったのじゃない?」

「あ、そうか。そうだね。事件になってたから、もう少ししたら、きゅうさいそち、って発表するってなったはず。」


だから。


その占い師は。当たってるかもだけど、当たってないかもで。ワザワザショワの母ハピの、特徴ある痣の事を言ってくるだなんて、この、占い師達が集まる占い通りで。


それって。

悪意。


占い少女ショワが、眠たげな目を、もっと半目にして、ヒヤリとした声で言うのだ。



「その占い師は、一体だれ?」


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