占い通りの女の子
ショワ・リーブルは占い師である。
茜色のツインテールを可愛く濃紺のリボンで結んで、その先の毛はくるくるしている。二重が厚く眠そうな目は生まれつき、まだ8歳、幼い少女だ。
だが、なかなかもって稼ぎ手の、プロの占い師なのである。
そしてそのくるくる毛は、今、一生懸命に揺れている。普段あまり運動をしないように見せている(占い師が活発だと雰囲気出ないでしょう!とお師匠に言われて、衣装を着ている時は大人しくしているのだ)彼女の、見かけによらず本来のなかなかすばしこい足でもって、お祭りで書き入れ時な占い通りを、必死で、カッ走っていた。
走ると左右に激しく、髪が頬を打つ。目が痛い。肺に鉄の匂い。胸も痛い。
でも、構わない。
彼女は今日、運命のはしっこを、捕まえなければいけないのだ。
エフォール達は、新聞寮から出て王宮の門から街へ。感謝祭2日目の自由行動、ワクワクに弾みながら道を歩いていた。
メンバーは以下、喘息仲良し組に、お茶屋さんでお菓子食べたい、そしてお世話したいの少人数である。
『街を遊び歩く
出店を冷やかしたり、買い食いしたり、ピティエのお茶屋お祭り路面出店にお邪魔したいチーム』
⚪︎アルディ王子(ワイルドウルフの第2王子、狼獣人で喘息もち):「休みながら歩いたり、エフォール車椅子時々したりして、楽しんでみよ!」
⚪︎エフォール(足がまだ治り中、伯爵家貴族の養子、喘息もちで編み物好き):「歩行車で、歩けるかな?歩いてみたいな!ゆっくりでも、良いですか?アルディ殿下!」
⚪︎ロン(寮の子、ちいちゃい子組の1人):「ピティエのお店で、わがし食べた〜い!」
⚪︎レザン(寮の子、デュランの父ちゃん。シロクマ獣人。父神ペール様の眷属):「街歩きの子のお世話なら、俺に任せておくれ。」
勿論4人だけじゃない、護衛もいる。神の眷属、レザン父ちゃんがいれば、もしもの事もないだろうけれど。
ワイルドウルフの王子となれば、また貴族のパンセ伯爵家からすれば、だからといって野放しなんてありえない訳である。職務怠慢だし、もっとスムーズに、彼らの主人にお世話を焼きたい訳だ。
だからレザン父ちゃんは、浮浪児出身で寮の平民の子、ゆえに護衛なんてつかないがお世話は要る、小ちゃいロンの手を握って、穏やかな慈しみの笑顔でエフォールとアルディ王子の後ろを歩いている。
アルディ王子の護衛には、狐獣人のクルー。
トースト色の耳尻尾に毛先が白、ぱっちり黒目に目尻のほくろがチャラそうだけど。お兄さんの足をアルディ王子のお陰あって治療してもらえて、中身は真面目に改心した、心からアルディ王子に仕えるなかなか腕の良い護衛剣士。
パンセ伯爵家、エフォールのお付きは、従者、アルブルである。
20代の青年で、歩くの練習中なエフォールの、車椅子や歩行車のこまごまお世話。華やかな通りになったら歩行車で歩いてみたい、と希望のある小さな主人に、よしきたと車椅子を押しながら、歩行車を背負って出番まで荷物持ちである。
エフォールが小さな頃からお世話しているので、身分上出過ぎはしないが、心はもう、親しみ気にかかる弟を見守る気分である。
他にも護衛達が何人か。パシフィスト側から万が一を考えて付いている、王都の街の治安を担う第二騎士団の連中。彼らは街中に溶け込みながらも、近くを守っている。
ニコニコとウキウキと。
ぴょんぴょんと跳ねるほど楽しげな子供達に、大人だって嬉しい。
街は出店も出て、その飾り付けも花やリボン、果物や木の実や葉などで賑やかに。
占い通り、と呼ばれる通りと交差する手前で、賑やかになってきたからと、歩く人々の邪魔にならない端っこで、エフォールは車椅子から歩行車に移行した。
道はお祭りのために多少整備されているから、一角馬車の車輪跡の溝なども埋められ整えられている。エフォールのギッギッ、身体を支える歩行車の車輪、よっこらどっこい、の歩行でも、小石や溝に当たり引っかかる事もない。
「アルディ殿下、ふふ、えへへ。街歩き楽しいですね!」
「ん!ん!楽しいねぇエフォール!」
へへへ、と笑う2人の親友の後ろで、ロンが、果物にクリームとふわふわのパンを四角くごろごろカットのグラスに綺麗に、トライフルを元にしたデザート屋台を指さしている。お目々はワクワクのキラキラ、レザン父ちゃんが、まだまだ買い食いには時間が早いよ、とロンの頭を撫でる。
栗を炒る甘い匂い。
行き交う、恋人同士、友達同士、家族。
あーうー、とお喋りも活発に、周りを見てお手てを振る、お父さんが抱っこした赤ちゃん。涎を拭いてあげるお母さん。お祭り晴れ着、精一杯に。
「占い通り、って占いのやかたばっかりあるのかなぁ。当たると思う?アルディ殿下。」
「どうかなぁ?なんか、すっごく、すっごい、雰囲気があるね!みんな布を張ってテントで、入るのゆうきいるかんじ!」
ね!
ねー?
顔を見合わせて、くふくふ、アルディ王子は狼お尻尾をぶんぶん。エフォールは、ぎこちない足だけど、でもやっぱり勢いよくしっかりとした蹴り出しは、なかなか調子が良い。
「占い通りは、やめとこう。」
「そうですね!何か怪しい感じするから、やめときましょう!」
ロンもそれでいーい?レザン父ちゃんも?と聞く2人に、キョロキョロしていたロンは、大っきく、ウン!と言った。
未来輝かしい子供達は、不安に思う将来を占ってみよう、などと気持ちを細く、ましてや興味本位でなど、まだまだまったく選択肢の分かれ目を誰かに聞く気持ちがなかった。
「お待ち、く、下さい!!」
はぁ、はぁ、と息を荒く吐くツインテールの少女は、紺の夜衣に星の銀がキラリ、ローブの縁に光っている。夜が燃えるような茜色の髪が、はっと目を惹く。
瞳は眠そうだけれど、それでも、上下する胸に、ゲホゲホと咳き込む様子は、何だか異様な感じを醸し出していた。
アルディ王子の護衛のクルーが、す、と前に出て阻んでいる。少女に何を出来ようはずもない、魔道具での護りで毒魔法物理攻撃は効かない。
占い師見習い、かなぁ?
と、買い食いお茶屋街中うろうろチームは、立ち止まったけれども、そのまま、また歩き出そうとした。
テレビの撮影していても、待ってええこっち向いてえ、なんてキャアと言われることがあったもの。そういう時って、大人に任せて、ニッコリして、バイバイ、って手を振ればよいのだ。
だけど、剣に手をかけたクルーに、女の子はグイグイ寄ってくるのだ。
「お願いです!た、たすけて、助けて下さい!あの、あの、テレビの、『アンファン!お仕事検証中!』の、アルディ殿下とエフォール様ですよね!?わ、私、私!」
「無礼だぞ!娘、殿下は親しみのある方だが、縁もゆかりもない、怪しい平民の子供を助ける理由は全くない!身分を越えて馴れ馴れしくして良いお方じゃない!」
クルーが女の子の肩を掴んで止めるが、必死な彼女は地に伏して、髪がローブが、土埃に汚れるのも構わず請い願い始めた。
「お願いします!•••お願いします!私でできる事なら何でもしますから、今この時、お力を貸していただきたく!お貴族の方に無体を願われております!もし、もし、お近くに寄られないのでしたら、そちらの車椅子だけでもお借りしたく•••!」
「娘•••!いい加減に!」
クルーが苛立たしく肩に手をかけ起こそうと。第二騎士団員達も、集まって力づく。
「待って、クルー。」
「待って、第二騎士団のみんな。」
アルディ王子とエフォールが、歩行車に手を、お互い寄り添って立って、戸惑いながらも。
後ろを振り向いて、レザン父ちゃんを見れば。
見上げて困り顔のロンの頭を撫でながら、ニッコリ、と頷いて見せるのだった。
「その女の子の言ってることは、嘘じゃないよ。助けてあげたら、きっと良い。無理がなくなり、道理が通る。子供も大人も、安心する。俺には分かる。」
神の眷属が言うなら、それは確かだ。
「車椅子を貸して、なんだもんね。」
「誰か、足の悪いこでも、いるの?」
お話してごらん、えーと、きみ、お名前は?
「ありがとうございます。お話だけでも、聞いてくださって、本当にすごいことだって分かっています。私の名前はーーー。」
ショワ・リーブル。
「ショワ・リーブルと申します。子供ですけど、占い師をやっております。いいえ、それは今はかんけいないのですけど、弟と母の事で、困りごとがあるのですーーーー。」




