お布団の中で、明日の約束
竜樹が帰ってきた、秋の感謝祭2日目の夜、寮の交流室。
小ちゃな子は、もうスヤリ。竜樹がお風呂の間、大きな子達が、今日あった事を整理して話すために、布団をダバダと敷いて、お風呂も入ってさっぱりしたまま濡れた髪。寝転がって、上半身をはみ出させて床、大きな紙に、あれこれわやわや、このチームはこんな事がー、など纏めている。
クリニエは、そこからちょっと離れた床に。エフォールとお布団の秘密基地で、クフクフしながら、今日あった事を話していた。
「リィアルがね、私に作ってくれた人形が、これなの。エフォール様にもらった、猫ちゃんと、なかよしかなぁ。ふふふ、2つとも、宝ものだよ!」
なでなでこ。
くくく、ふふふ、と、お布団をもっこり膨らませて、同じ敷布団に並んで入ってコソコソ話している2人の枕元には、リィアルが作った幼い少女の人形、赤いリボンが首輪の編みぐるみ、猫ちゃんが、ちょこん、と座っている。
素材は違っても、可愛らしさは共通である。そこだけふわふわと、花咲き夢見な、柔らかな空間になっていた。
「かわいいねぇ、お人形。クリニエ様の、こころの女の子。おひさまいろの髪なんだね。獅子耳じゃないんだね?服は、クリニエ様が作ったんだねぇ。」
エフォールは、先ほどまで辛抱強く、クリニエのあっちこっちにいく、そして辿々しい話をニコニコと聞いていた。
その中の話が心の琴線に触れた所もあったのだろう。
お人形の、決して手慣れた職人気質のリィアルが作ったのではない、縫い目が大胆でガタガタな、けれど淡い薄物の(そう、薄い生地だなんて、普段、縫い物をしないクリニエには、よっぽど縫いにくかったろうに)オレンジ色の、ふわふわしたワンピースを、丁寧に、そっと撫でた。
「ウン、服は自分で作れ、ってリィアルが。うまくできなかったけど、このきれいな布は、気に入ってるんだ。これから、お人形が売られれば、もっと色々着せ替えの服も買えるはず。」
「楽しみだねぇ!」
ウン!
嬉しそうなクリニエである。
彼は、仲良くしたかったエフォールに、ピタッとくっ付いて話も聞いてもらえて、ホワホワと幸せな気持ちである。
リィアルに作ってもらったお人形は、結局、オリヴィエが商売と細々した事を請け負い。スフェール王太后様の発案通りに、マルグリット王妃様とエフォールの育てのお母さん、パンセ伯爵家リオン夫人、それからラフィネ母さん達に提案して、実際に色々な立場の女性、少女に良いように。
まずは王太后様が、マルグリット王妃様に話すべく、作ってもらったリィアルのお人形をほくほく持ち帰った所である。
「でもほんと、なぜか、私のこころのおんなのこは、獅子耳じゃないんだ。獅子耳だったら、お人形の頭に、お耳を植えなきゃだったね。パシフィストに、ワイルドウルフの女の子達も、買いにくるかな。そしたら、獣人の耳しっぽなお人形も、ほしいって思うかな。」
「ウン、きっとそれもかわいいね。ワイルドウルフでも、売れば良いのに。」
パシフィストで、まだ話が出た所なばかりなのに。ワイルドウルフには、来るとしたって色々と煩雑な事があるだろう。けれど。
「ワイルドウルフでも売れば、お母様やお祖母様にも、見ていただけるなぁ。」
お母様たちも、好きそうだよね。
くふふふ、とエフォール、笑う。
クリニエのお母様とお祖母様は、シュッと大人なデザイン好きだから、お人形など甘い味のものが好きかは、分からない。こういう、繊細なものを手に取るのが苦手なのは、女性獅子獣人も一緒であるし。
でも。
でも、もし、喜んでもらえたなら。
実は、クリニエがお祭りから帰った、ワイルドウルフの家で。
お母様とお祖母様、そしてお祖父様とお父様までも、この小さくて可愛らしい編みぐるみとお人形を、ふわ、ふわわわ!まぁ!まあぁぁぁ!と触りたいけど壊しそうで怖いのハフハフに。恐る恐る抱きしめては交代して、と、可愛いもの好きが遺伝であったと知れるのであるが、またそれは後。
「ウチだったら、マルムラード姉様も好きかも。あ、花嫁衣装を着せたお人形とか!贈ってあげたら、喜ぶかなぁ!姉様の着るやつとおんなじみたいなやつ。」
「はなよめ、衣装!」
ほわァ、と想像して興奮に鼻息がスーふとしてしまう2人である。
枕を胸に抱いて、コツンと肩をぶっつけ合って、今日会ったばかりのはずなのに、可愛いもの好き少年達は仲良くなるのに時間など関係ないのだ。
「そうだ!クリニエ様、クリニエ様がワイルドウルフでお店出して売れば?お人形。」
「えっ!?お店?」
エフォールは頬杖を布団についたと思えば、枕にパッふと上半身を投げ出した。
「私ね、将来、編み物のお店をやろうと思ってるの。あとね、お父様の後を継ぐ、アクシオンお兄様のお手伝いするんだけど、どっちも楽しそうでしょ?お店に、好きな編み物の作品とか、材料とか、こんなにしようか、あんなにしようか、って今から考えてるんだぁ。」
それをね、友達のフェリスィテ、えっと、フリーマーケットで仲良くなった、騎士になりたい子なんだけど、かわいいものが好きでね。ドールハウスとか作ったりもしてて、それで私の未来のお店をドールハウスで作ってくれるって言ってくれてね。
「出来上がったら、クリニエ様にも見せてあげるね!」
「う、うん。ドールハウス•••、ってなに?」
小さな、だけど、本物みたいに作った、お人形の大きさのお家だよ。
お店がそんな風に、小さな模型として現実に出来てきたら、どんなに素敵かしら。クリニエは、素敵なもの達の話を今日。たくさん聞いて、パッタパッタとお尻尾がお布団の中で振れた。
「ね、でも、本当、クリニエ様、お店やらない?お店なかまになろうよ。」
「お店なかま!うん、うん。私、将来、獅子獣人だし、身体を動かす仕事をやろうかな、って思ってたんだけど、お店もいいなー。」
両方ともやればよくない?
両方!そっか、そだね、できるかな?
「できるよ、クリニエ様。お店を工夫すれば良いんだよ。私はね、あんまりお店を大きくしないで、私が留守の時には、1人だけ店番やとって、こつこつやるつもり!長くかけて、お店を作っていくんだ!」
エフォールは、今から既存の手芸店などを訪れたりして、夢を現実の枠にちゃんと組み入れるため、ワクワクと子供なりに着実に考えを深めているのだった。
「ドレスも着れる日ができて、良かったね。」
エフォールに話そうかどうしようか、迷った織物会館の男女逆転日の事だけれど。おずおずと話をしたそれを、笑う事なく受け入れてもらえて、クリニエの心がふくふく笑っている。
「•••ウン。もしかしたら、お人形に着せたら、けっこう満足したのかもだけど、でも、1回だけは、着てみたい。触ってみたいな。」
「私は自分では着たいとは思わないけど、確かにどんな感じか、触ったりしてみたいなー。その時は一緒に行こうよ。プランも行くんだっけ?私も連れてってくれない?クリニエ様。」
クリニエは、大きく、大きく。
「ウン!」
笑って頷いた。
そうして、恥ずかしそうに、枕に手をもじもじののじ。
今日は、お人形の事ばかりで、一般公開は、見られなかったから。
「•••だから、明日、お祭りの3日目も、織物会館に行こうかな、って思ってるんだ。エフォール様、明日、織物会館に行くんだよね。そ、そしたら、そしたらさ。」
うくん、と唾を飲み込むクリニエが言いたい事は、エフォールには、オッケー!そりゃあ分かるよ、任せて!
「一緒に行こう!明日、織物会館。」
「!ウン!一緒に行きたい!ありがとう、エフォール様!」
たのしみ。
楽しみだね!
クフフふふ、と布団にもぐもぐと潜り込みながら笑い合う2人。
クリニエは、エフォールの指をキュむ、と握って。なかよし。
「エフォール様は、今日、どんなだったの?」
「私?私はね、えっとね•••ーーーーー。」
興味があって、スマホに文章読み上げアプリを入れてみました。
色々な読み方がある漢字を、文章の流れに合わせてちゃんと読むのって、難しいんだねえ。んむ?と聞いてて思う事よくある。
視覚障がいの方は、もっと良いアプリを使ったりしてるのかな。もし自分が歳をとって視覚が不自由になったとすると、って考えると、色々、歯がゆいとこがあります。
でも、音で聞くと頭に入る気がする。読み上げて調子の良い文章って、良いかもしれません。
次回から、エフォール達のお祭り2日目です!どうぞよろしくです。




