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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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612/692

食堂にて、乙女男子達の願いを館長に


織物会館の地下、関係者以外お断りのバックヤードで、賑やかな声が聞こえてくる。

学芸員達も、織物会館のお披露目に気持ちが上がって、先ほどから交代で表に出て一般公開の様子を見たり。ガイドに雇っている腰の織リボンも美しい接客担当の、係員達に請われて、詳しいお客様に更に詳しい説明をしたりして。イベントを味わう気持ち満々、ニコニコだったのだが。


ここは職員のための食堂。

学芸員も、係員達も交代で食事にやってきて•••。


はぷ。

ホッカホカの肉まん。

新聞印刷工の娘、まだまだ少女のリーヴは、大胆にかっぷとかぶりついて、あちあちほち、とほふほふしながら何とか飲み込んだ。

「おい、おいひ!」


花街の見習いから助け出されたクーランも、小麦粉を蒸した生地の甘さをもぐもぐと味わい。

「ほんとらねー、ここで肉まん食べられると思わなかったね!」


カンパニューラ公爵家の猫目少女、マテリアは、別に平民の仲間の少女達の食べ方を咎める事もなく、自分はお淑やかに肉まんをちぎって、もむ、もむ、と美味しそうに口を動かしている。

「この細かい、おにくのおあじが、おいしいですわねぇ!」


隻腕の情報屋、モルトゥに養われていた、今は寮っ子少女スァランは、喋れないながら、機嫌も良く、肉まんを慎重に齧った後、お茶を啜っている。

「•••••!(ニコ)」


係員達、学芸員達は、男性も女性も老いも若きも。貸し出しのドレスを着たまま、食堂にやってきた少女達にニコニコである。仲良しにお喋りしてるのも、かわゆい。こーゆーの見たかった。大人のドレスも良いけど、少女、いいよねー。


獅子少年クリニエ、寮っ子プラン、織物会館館長モティフの息子トラムと、ドレスメーカーな貴族オリヴィエ達男子は、肉まん定食(小ぶりの肉まん2個、もやしとエビと菜っ葉のサラダ、シンプルなスープ、ちっちゃな蜜柑)は少し物足りないなぁ、と足してデッカいシュウマイを食べている。

オリヴィエは大人だから辛子をたっぷりと。クリニエ、プラン、トラムはほんのちょっと、お印程度に黄色をつけた。


「本当に美味しいわねぇ、お嬢さん達。竜樹様のレシピを頂いたのは、正解でしたわね。私も脂っこいお肉はもう、苦手なのだけど、お野菜と入っていて食べやすいわ。」

スフェール王太后様も、少女達の向かいに座って、ニッコニコでお食事である。モティフ館長とセルフ会長も、同じものを食べている。


かふ、かっぷり、とオリヴィエの隣で肉まんを食べている修繕師のリィアル。先ほど、乙女男子達のお人形を作り終えて、いざ王太后様の分も、となった所でお昼時間と相成った。


「ほぅひればさ、話があるんじゃにゃいの、トラム達は。館長に。」


忘れてないリィアルである。

乙女男子達は、あ、と人形に真剣になりすぎて、そもそも何故バックヤードに来たかを忘れていた。


「そうか、トラム。何か話があったのか。」

そういえば、何でそもそもトラムと一緒にプランと、そちらのクリニエ様とオリヴィエ様がバックヤードにいたのかな、って不思議に思っていたモティフ館長である。

リィアルの人形の事、聞きつけてきた訳だとしたら、オリヴィエだけで良い訳だから。

こくんとお茶で口の中を流して、息子トラムを見た。


「あのね、父さ、モティフ館長。」

トラムは改まって、ぎゅ、と姿勢を正してフォークを置いた。

クリニエも、ドキっとして、むぐ、とシュウマイの一口を飲み込む。

オリヴィエは優雅に、自分も話そうとお茶で口を清めて準備をし。

プランは、はぐはぐ、と肉を咀嚼して、ジッとトラムとモティフ館長を見ている。


「見習い学芸員のトラムから、ていあんが、あります!こっちの、クリニエ様とオリヴィエ様と話してて、男もドレス、手に取って、見たり着たりして楽しみたいな、って話になったんだ。女のひとたちの邪魔をしたいわけじゃないよ、でも、男だって、ドレスが好きな人は、沢山いると思うんだ。」


オリヴィエも助太刀する。

「モティフ館長、私のような、ドレスメーカーに勤める男性も多くいますよ。デザイナー、縫製や、小物を作ったりする男性も、ドレスを手に取れる機会があったら、ここにある、様々な時代の、沢山のドレスに触れられたら、どれだけ嬉しいか。着てみる、というのも、女性がどんな着心地で着ているのか、こんな時でもなければ体験する事ができないでしょう。毎日でなくて良いのです。特別に、そんな、男性のための日を。お祭りが終わって、落ち着いてからでよろしいですから、どうか。」


クリニエも、精一杯に。

「わ、私はかわいいものが、大好きなのです。モティフ館長。女の子になりたい訳じゃない。だけど、きれいですてきな、ドレスを着たら、どんな気持ちか、私のこころが求めるのです。似合わない、笑われる、って分かってます。変なやつ、って言われる、それも分かってます。それでも、好きなものは好き、です!」


プランも、はぐ、としながらお行儀悪くだけれども、クリニエの必死を笑ったりせずに。

「モティフ親父さん、クリニエ様はさ、別に毎日おんなのかっこがしたい、とかじゃないとおもうんだよ。特別に、ここで、なんだとおもう。おひめさまになりたいのは、女の子だけの特別、かもしれない。でも、時々でいいから、こころにおんなのこがいる、男の日もつくってほしいんだ。」


まあ!とスフェール王太后様がびっくりして、肉まんを千切る手が止まった。

ニニ、ニニン!と大きな口が、面白そうに笑む。


そこへ、容赦ない平民乙女、リーヴ、んーむむむむ?と唸って一言。


「男ばっかりドレスとくべつのひ、ってズルくない?女の子だって、ズボンはいてみたいわよ!」


「私のお母様、カメラにハマっていて、いつもズボンで撮影しますわよ。何だか仕事ができるってかんじ!で、かっこうよいのです!『アンファン!お仕事検証中!』の時の、スカート付きのツナギのズボンも、動きやすくてとってもすきよ!」

マテリアちゃんちのお母様、カンパニューラ公爵家ブリュム様は、バリバリに領地の記録撮影をしていて、気に入ってカーゴパンツに白シャツで、女性らしさを失わないながらも機動性のある格好で活躍している。


「私もズボンはいてみたいわ。男の子みたいに、さっそうと大胆に歩いてみたい、って思うもの。あと、スカートって、防御力が低いのよ。ズボンだったら、やらしいかんじの男の人に、ぺらぺらめくられそうにならなくて、何か安心かも、って思うかなぁ。」

クーランは花街での、何だか危なかった思い出から、ズボンに安心感を覚えるらしい。


スァランは、それらに一つ一つ、うんうん、うん、と頷いて同意している。


「そうねぇ、そうよねぇ。」

スフェール王太后様が、肉まんを皿に戻して、手をおしぼりで拭きながらコックリと深く頷いた。

「女性だって、男性の格好をしたいな、って思いますわよね。近衛の女性騎士なんて、とっても麗しいですもの!うふふ、憧れたものよ、私も。竜樹様によれば、かの世界では女性もズボンを穿くそうですし。」


うふふ!

一度着てみたいと思っていたの!

頬に手を当てて、老いて少女めいた美おばあさまが言えば、それはなかなかに説得力があるのだ。

モティフ館長とセルフ会長は、目を白黒である。


「良いわね良いわね、男女の装いを取り替えて、特別な逆転の日。一つ月に一度くらい、あっても良いのではなくって?」


これを聞いていた周りの係員達、学芸員達は、ひそひそくくく、と秘密の話。


(私もズボンはいてみたいな。お兄様を羨ましいなって、思っていたの。)


(ドレス•••着心地かぁ。うむ、体験として、興味深いじゃないか?)


(お前超似合うかも!)

(ふざけんなお前がだろ!)


(これもお祭りみたいなものよねぇ。)


(男女での身体の違いが、着るもので良く自覚できるかも。面白そう。)


ヒソソ。

((本当は私も、一度ドレスを着てみたいって思ってた!))


プランがお茶をんくんく飲んでから。

「女も男も、一回、やってみたら良いじゃんね!おれも、一回くらいならドレス着てもいいよ。」


これには何故か、リーヴ、クーラン、マテリア、スァランの4少女と。係員、学芸員のお姉様達が、きゃーあ!と黄色い声を挙げた。

「私たちがドレス、えらんであげるわよ!」

「髪も、きちんといたしましょうね!」

「プラン、似合うと思うわ!」

「•••!!•••!」コクンコクン。


どこか倒錯的とも言えるそんな日は•••モティフ館長?


周りの皆にジッと期待ワクワク見られて。モティフ館長は、自分の店、古布のプティフールに、そういえば女装が趣味の、秘密だけど、そんな貴族のお方が布を選びにやっていらしてたなー、と動じないのだ。

ふ、と息子トラムに目を遣り。


「トラム見習い学芸員、今はまだ少ない、男性のお客様が、もっといらして下さるだろうかな?」


「うん•••はい!モティフ館長!きっと、来にくかった人たちが、勇気を出してきてくれるとおもいます!」

ほっぺを赤々とさせて、興奮に目をキラキラさせたトラムは、ちゃんと見習いとはいえお仕事上の相談をしてもらえて、とっても嬉しいのだ。


モティフ館長は、スフェール王太后様にニッコリしてから、周りを見回して。


「やってみましょうか。王太后様のものは、お仕立てしてお写真を撮りませんか。きっと娘さん達が、その凛々しいお姿に、ポッとなりそうですね。よい記念になりそうです。」


きゃわわわ〜い!

女性達が歓声をあげ、クリニエとトラムとオリヴィエの中の、女の子と女性も、きゃわわ!とポワポワなった。


スフェール王太后様が、残りの肉まんを食べる間、男だけの日と女だけの日にするのか、それとも同日に逆転するのか、色々と皆で考えて話し合った。


「あたしもズボン、穿いてみたいと思ってたんだ〜。正装なんていいから、普通のでさ、修繕の時に着ててもよくなるんだったら、気分よく人形の件、オリヴィエ様にドーンと任せちゃってもいいかも!」

リィアルがお気楽にそんな事を言ったので。


「!採寸させて下さい、リィアル。私から、ピッタリ合って動きやすい、修繕の時のズボンとシャツを贈らせていただきます!」

ドレスメーカーの技術と意地をかけて、素晴らしくリィアルが人形を託したくなるような、着心地の良い服を。


「ええ、ええ、そうなさいな!オリヴィエ、良く言ったわ!」

パチパチ、と拍手するスフェール王太后。


「リィアル、作るとき足をガバッと開くから、たしかに、ズボンがいーかもしれねーな。」

プランの突っ込みに。


「それはダメよ。」

「ダメですわ。」

ズボンを穿いてても、スフェール王太后様とマテリアちゃん的には、股をガバリは許せないものらしかった。





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