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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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作りながら考える


作業机の上は、もうお人形、人形服と材料とで賑やかな状態だ。


「まぁ!素敵、素敵ね!この年代もののドレス、懐かしいわぁ!昔のばかりじゃなくて、最新のものも作ってあるのね!可愛らしい!どうやって新しいドレスの情報を仕入れているの?」


スフェール王太后様は人形服を気に入った人形に当てて、るふるんと指先で撫でては愛おしむ。

リィアル達を元いた椅子に座らせて、自分も身分の差などどこへやら、隣り合って近くに座っている。


「あ、それは修繕の時に、お代をまける代わりに見せて貰うんです。お、王太后様に気に入ってもらえたぁ。嬉しいね、へへ。」

リィアルは平民で、偉い貴族の人や王族の人と接するやり方なんか知ってはいないから、かえって態度を変えずにスフェール王太后様と対している。


ここにいるのは、とても嬉しそうなスフェール王太后様。


それから、織物会館の貴族担当会長、ジェアンテ前侯爵セルフ。

セルフは、美術館のキュレーター、ボンの、嫁に行った姉アンの義父である。

ボンの家族は美術好きだが、ジュアンテ侯爵家も美に理解があって。しかも地に着いて学術方面、経済とマルチな人材をもった家系であるので、その縁でセルフも織物会館の会長となったのだった。セルフは入婿で、元は繊維業を主とするオリヴィエの家、カヴァアール侯爵家から出た人なので、繊維、布の知識についても素養がある。

貴族は上の地位であればあるほど、辿ればどこも親戚筋になりがちである。


そのセルフも、椅子を寄せて、興味深そうに笑んでスフェール王太后様の触る人形の手元を見ている。グレーヘアのダンディな、若かりし頃は雄鹿の如くしなやかな筋肉であったろう、お髭おじじい様だ。


トラムの父さんモティフ館長は、目をしぱしぱさせて少し緊張しているけれど、立って、リィアルの仕事から外れた遊びを容認か、ふく、と口元は緩んで、別に厳しい顔はしていない。


スフェール王太后様のお付きの上品小さな老侍女もいるけれど、その方は控えて、部屋の入り口で。けれど、やはり人形にキラキラした瞳を向けている。


偉い大人達は、館長室で、織物会館一般公開室に仕掛けた神のカメラで賑わいの様子を見ていた。スフェール王太后様が一般公開室に今日行くと、警備上も、そして公開上も、支障が出るかとそうなったのである。

そうして暫く納得するまで確認できた後、モティフ館長が修繕のリィアルの技を見ていきませんか、とおずおず誘ったのだ。素晴らしい技ですよ、と。


入り口がちゃんと閉まっていなかったドアから、興味津々耳に入る人形話と恋話、オリヴィエは何となくモゴモゴと居心地悪い。せっかくリィアルに、自分なりに直感にのっとって告白めいた一当てをしたというに、何となく流されてしまった?


「小さな櫛もあるといいわね!子供がお人形の髪を遊べるような。あぁ、リィアル、器用ねえ。貴女、髪も結えるのね。」

「結えますよぉ。色んな家で、色んな人に教えてもらったんで、えへ。オリヴィエ様、こんな結い方でいっすか?服は自分でやります?人形の型紙いる?」


「うん、思った通りだよ。型紙要るよ、リィアル。無くても作れるけど、参考に、シンプルなワンピースのが欲しいかな。」

ちょっぴりしゅんとしているけれど、雰囲気と流れを壊さないオリヴィエは、青年であるが大人でもある。


机の下から今度は、沢山の手作り紙袋に仕分け入った型紙が。リィアルはどこで習ったものか文字読み書き計算ができるようで、数字に説明の文字、それからどんな服の型紙か絵で分かりやすく記してある。

中からサッと一つ、袋を選って、オリヴィエに差し出し、ふ、と。

黙ってしまったトラムとクリニエを見る。


「じゃあ次はクリニエの作ろうか。」


大人達は、次は王太后様のものを作りなさい、などと無粋な事は言わなかった。


「•••うん、こ、この身体と頭のお人形にする。」

心の少女のままに、幼さ、ちんまい素体を選んだクリニエに、髪の絹糸、お日様色を選ばせて。


「こうやってお人形を好みで作れるわけね。ねぇ、オリヴィエ。貴方、リィアルの相棒になって、商売の側を受け持つと言っていたけれど。リィアルも、良いかしら。あんまりにも素敵だから、私の考えも聞いてくれない?断っても、もちろん良いですから。」


スフェール王太后様が言えば、大体の応えはイエスしかないのだけれど、だからこそ慎重に。王族は何が欲しいこうしたい、と簡単には言わない。

それでも言う時は、そうするのが自分だけではなく、周りにも良いのでは、と案として思える時である。


トラム、クリニエ、プランは、話を聞く体勢になりつつも手を止めないリィアルをジッと見て、それからスフェール王太后様を見て。

それぞれ、何か、竜樹様が、竜樹とーさが、何かいい事考えたな、って時の顔とおんなじかも、とワクワクの王太后様に、ちょっぴりリラックスした。


「このお人形で遊ぶのは、ここには男の子ばかりだけれど、多くは女の子でしょうよね?女の子は大人の女性になるわ。大人になっても、少女をもっているものだけれど。だから、貴族も、平民も、大人も、子供も、女の子にはこのお人形、とっても楽しく遊んで貰えると思うのよ。」


リィアルはビシュ、ビシュ、とクリニエの少女人形の髪を植えながら。

「あ〜、あたしは作るから楽しいけど、大人の女ってのは、現実が忙しいから、こんなので遊んでらんない、って人も多いと思いますよ?」


「ええ、ええ。確かに自分を確立する時は、それどころじゃないかもしれないけれどもね。」

女同士の話だが、プランやトラム、クリニエ、オリヴィエには言ってる事が分かった。男子だって、遊んでいられない大人になる時、瞬間ってやつがあるのだ。


「女性っていうのはなかなか自分の自由がなくて、夫や子供に尽くして、家の中だけで終わってしまいがちだけれど。子供と一緒に遊ぶための事をして、それがお金になったら、少しは自由度が増えないかしら?あの子、マルグリット王妃の所へ、女性のお仕事を、ってパンセ伯爵家リオン夫人や、竜樹様の所のラフィネ母さんが動くための何かを探しているって聞いてるの。」


ラフィネかーさの率いる平民女性の働きチームは、この度の織物会館内のプティフール小物店へ、復刻布の小物加工で携わって色々やったりもしているのだが。


「リィアル、沢山の女性のために、女性の中の女の子のために、オリヴィエと一緒に力を貸してくれないかしら。」


貴族の女性達は、ドレスに一家言あるから、チームを作ってこんなのを売っていこうか、なんて欲しいデザインを話し合ったり出来るかも。

平民女性達だって、自分や自分の娘たちが欲しい人形は、自分でこうしたい!ってのがあるんじゃないか。

チーム分けして、オリヴィエ、リィアルに監修してもらって。

リィアルが提案する、とびっきりの人形があっても良いし。

オーダーメイドで、こんな風に自分だけの人形が手に入るのも素敵だ。


「縫い子に平民も貴族の女性も、得意な人がなっても良いし。」


「王太后様のドレスを着た、特別な、お人形を、限定で販売しても良いですなぁ。この織物会館で。」

「ええ、ええ、プティフールで扱えたら、きっと嬉しくお客様が買って下さるかも。」

織物会館の貴族担当会長、ジェアンテ前侯爵セルフとモティフ館長も、良き良きと入ってくる。

「そうしたらね、リィアル。織物会館の仕事になるから、仕事中にお人形の事が、堂々とやれるよ。」

モティフ館長は長年お店をやって、細々とでも布屋プティフールを存続させてきたのであるから、ただの布好きなだけでなく商才も、人付き合いの経験も、そりゃあある。のでリィアルが欲しい言葉が分かった。


むぐ、ぐ、ぐ、ぐ。

ビシュ、と髪を植えて。チョンチョンと鋏で整えて、素体をクリニエに返し、その人形に合うシンプルなワンピースの型紙をざんざんと探しながらリィアルは迷っていた。

「だ、騙されてないかな、あたし。話がうますぎる。」


「それだけ貴女の作るものが、魅力的って事ですよ。」

オリヴィエ、タハッとなる。

王太后様も本気なのだ。

断っても良いと言いつつ、逃す気はない。リィアルにも良きようにする事で、それは結実させるのだ。

ならばそれにのっかるのみである。


「大きい話は、上手く貴女の良きように制御しますから。とにかく1体、私と作ってみませんか?」


うーん!

「•••ワカンナイ!とりあえずアンタ達の心の乙女をちゃんと作り終わらせてから考える!いや、作りながら考える!」


「リィアル、修繕の仕事もしながら、安心に楽しくお人形できると良いよね。」

モティフ館長は、冒険の基地として、安心な生活の術をリィアルに残しておいてやりたいのだった。

あと単純にリィアルほど修繕できる子ってなかなかないので。


「順番は待ちますから、私のお人形も作って欲しいわ!」

スフェール王太后様に、うふ、とねだられて、リィアルはやっぱりバーンとなっちゃうのだ。


「よーし!王太后様のも作っちゃお、作りながら考えよ!皆、服は自分で作るんだよ!裸で持って帰るなんてかわいそうすぎるから、午後いっぱいで簡単に着せてあげるのそれぞれだよ!プランもだ!」


「はーい!」

「勿論お任せですよ。」

「•••できるかな。」

「え、おれも?」

「私も、久しぶりに縫い物をするわ!」


プラン、ん、ん〜と考えて。

ちょっと心に引っかかっている事が。


「あのさぁ、おれたち、女の子のツレがいるんだけど。」

よんできていーい?


ドレスを着て、多分もう男子など待たずに一般公開の部屋を巡っているのだろう女子達。リーヴ、クーラン、マテリア、スァラン。

彼女達を、こんな楽しそうな話に入れずにほったらかしといたら、マズイのではないか。

プランは危機回避できる男である。


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