閑話6 ちょっと未来のニリヤとエンリ
長い披露宴も終わって、ニリヤとエンリは、会場の出口で1人1人と挨拶し、お帰りを見送っている。
ホテルなどのように、会場の貸し出し時間締めがある訳ではなく、片付けを急かされていない。
全てのゲストを見送るまでずっとそこ、では耐久レースすぎる。遠くから来ている人もいるし、王宮にお泊まりの人もいるから、程よくなったら、こちらから残ったテーブルへ、下がる挨拶をさせてもらいに行けば良い。
竜樹などは、またすぐ会えると、2人にお祝いを言ってニコニコとハグしたらサーっと帰って行った。長っ尻しない所は流石である。
久々に会う友達もいて、話が弾み、帰りに渡している引き出物のボンボニエールは漆器で、中身は竜樹が広めたチョコレートの上質なもの、指先で摘めるミルク、ダーク、ホワイトの小さな粒々である。金平糖も彩り、ちょいちょい混ざって美しい。
「エンリちゃん、今日は素敵な披露宴だったわ!お2人に相応しい、賑やかで親しみがあって、私もいっぱいテレビやラジオの人気者達と写真撮らせてもらっちゃった!」
オレンジががった黄色の、裾だけふわっとさせた上品なワンピースで着飾った。眼鏡の、穏やかで賢そうな羊獣人の女性が、帰り際、エンリの手を取って。嬉しそうに上気して、うふふふ、と女友達、握った手をゆ、ゆ、と振って仲良くお喋り。
「楽しんでもらえた?良かったぁ!レジカちゃん、紳士な方ともお話できた?」
このお友達、レジカは、学園で初恋を終わらせた後、勉強に熱心すぎてなかなかお相手を作らなかったのだけれど、最近心境が変化して、結婚もいいかな•••と思い始めたそうなのである。エンリちゃんは、仲良しな彼女を、変な男性には任せられない!と、色々考えてオススメを囁いていたのだ。
クスッと笑った羊獣人の女友達レジカは、ポッポとしながら、ひそ、とエンリちゃんに近づいて。
「うん!できたよ〜。エンリちゃんが、よく聞けばお話が面白いだろうから、派手な方ではないけれど、お話してみて、って言ってくれたから、ラペル様。最初は恥ずかしがってらして、嫌なのかな、って思ったけど、ゆっくり、諦めないで話をしてみたの。なかなか読書家らしくて、段々話が弾んでね。•••連絡先交換しちゃった!」
キャッ!とバッグで顔を隠す、こちらもおとなしやかなレジカに、花嫁のエンリは、ニカカカ!と嬉しそう。
「ふふ!奥手だけど、真面目な方だから、安心してレジカちゃんのペースで、ご連絡してみてね。」
虎耳をひこひこ!とすれば、素敵な髪に生花の花飾りが、チリンチリンと揺れる。
お色直しをしたので、あの芸術的なヴェール、ウェディングドレスは、既に洗浄係へ渡されている。明日から織物会館で、ご成婚特別展示が行われるのだ。
「ありがとう。私、学園の頃から、恥ずかしくって男性となかなかお話できなかったでしょう。エンリちゃんが、あの時、お妃目指すぞチームに入れてくれて、穏やかなニリヤ殿下とお話、慣れさせてくれた事、大人になってからも、本当に助かっているの。」
女友達たちは、学園での青い日々を思い出し、うふうふと肩を揺らす。
エンリは、16歳でパシフィストの学園に入った。
婚約者のニリヤが1学年上にいたし、未来の王子妃として同じ学舎で青春を過ごし、人脈も築こうという訳である。
だがしかし、懸念があった。
「ニリヤ殿下、めちゃモテらしい•••。」
エンリ以外に目を向けない、誠実なニリヤであるが、ハンサムとまではいかなくても、そこそこの顔。愛嬌があって民にも親しまれていて、何といっても今現在も旅シリーズで、長い休暇にはテレビの撮影をして、現役のアイドルみたいなもんである。周りの男子より、中身が大人びていて、頼り甲斐があるところも魅力的。
テレビに出てるし王子様だし、スターと仲良しだし、お金持ってそう、将来安泰そう。
となれば、純粋不純、合わせて沢山の女性達が寄ってくる、というものだ。
テレビ芸能関係の大人なお姉様は、同じくテレビに出演する事もあるエンリにとって、それほど脅威ではない。なんたってあちらにとっては遊びだから、身を滅ぼすほどの危険は犯さないのだ。
でも遊びも嫌なので、不埒なお姉様には、ストレートに。
「遊び程度で手を出さないで下さいね!持てる力の全てでガブします!」
とキッパリニッコリして、戦うのである。ギフトの竜樹ししょうの力も借りる。
何だかんだと女優さん達は、竜樹ししょうと話をするうちに、若いニリヤで遊ぶよりギフトの竜樹に本気になるのだ。
本気の恋というものは案外、臆病になるものだから、大人の、友達としてのお付き合いにスルーっと流れていく仕組みが出来ていた。
竜樹は狡い大人である。
そう、問題は学園である。
エンリという婚約者がいて、「灰に残り火」の番定めで夢破れた獣人女性達のテレビ番組も、エンリちゃんのために!と灰のおばちゃま、おばあちゃま達が出演してくれて。とても辛い思いをすると、周知されている。
2人の間に女性が入り、ニリヤとエンリが結ばれないという事は。
エンリが灰の女になるという事だ。
と、知っていても、若い乙女達は残酷に、恋に恋、アピールしまくっていた。
エンリが入学しても、同級生の女子の何割かはそうなるであろう。
うーむ、とエンリは考えた。
ニリヤに近づく女の子達に、全てガブしてきた訳ではない。灰のおばあちゃま達から話も聞いて、ニリヤ殿下にもあまり迷惑をかけたくなくて、程があるよな、と思う。エンリとも仲良くしてくれる、フラットな人とは懐に入れて、嬉しく仲良くしてきた。
そう。ライバルを。
「懐に入れて、正々堂々とやるべき。私は、裏工作は得意じゃない。」
グジュグジュした陰湿なやり方は、好きじゃない。そして、竜樹ししょうが言っていた。
「反対意見の人を、勝ちだけに拘る心底からのやりにくい敵にするより、認め合った気持ち良い関係で、きちんと競うべき。そうすれば、結果に納得ができる。」と。
エンリもそう思う。
虎コミュニティのリーダーな親を持つエンリは、元々大らかで天然なタイプではあったが、周りの影響も受けて、なかなか懐深い、女おやびんな女性になりつつあった。
入学して、暫くすると、チラホラとニリヤを意識している同級生などがいるのが分かる。
エンリとお昼ご飯を食べようと、学年は違うけれど、ニリヤはマメにクラスに迎えに来てくれる。その時にワッと親しく話しかける者、多数。エンリが立つより早く、取り囲んでしまって、肘で打たれて弾かれる、毎回。
ニリヤは愛想は良いが大事のエンリを蔑ろにはしない人なので、すぐに気付いて優先して助けてくれるが、ギン!と女子達の鋭い視線が刺さる。
エンリは機会を窺っていた。
そして、ついにその時がやってきた。
放課後、ちょっと話があります、と教室に残された。何が始まるんだ、と関係ない男子女子達も帰れない。
続々と集まる、美しい上級生、貴族の娘、平民の特待生女子、同級生女子達。囲まれて、エンリは言われたものだ。
「エンリさん、貴女、獣人の番定めをしたからといって、仕方なく婚約者にして頂いたのですわよね。振ったら可哀想だからと、優しい憐れみでニリヤ殿下を縛らないで欲しいの。ニリヤ殿下を解放して差し上げて!」
「貴女の我儘で、縛らないで!」
「そうよそうよ!」
やるか、やるんか!
今がやる時!である!
エンリは言ったものだ。
「私はニリヤ殿下の婚約者です。その立場に、皆さん、なりたいという訳ですね?ニリヤ殿下が好きなんですよね?結婚して、並んで人生を歩みたいと。」
え、え、え。
ええ、と照れながら頷く女子達である。中には憧れて、ただニリヤを見ていたい、ニリヤに良かれと集まった者もいて、結婚までは考えてなかったと、もじもじ。
その、もじもじの中に、レジカもいた。
「分かりました。」
コックリ、と頷いたエンリは、ニッカリ笑う。不敵である。
「正々堂々とやりましょう。私はニリヤ殿下を選びましたが、ニリヤ殿下も選ぶ権利があります。これから、私達は、お妃目指すぞチームとして、裏でこそこそする事なく、勉学、人脈、人柄、気配り、愛情、経験の全てをもって競いましょう。優れていたからといっても、誰が選ばれるかは分かりませんが、殿下にも好みがありますからね。精一杯競って、恨みっこなし、でやりましょうよ。ニリヤ殿下にも、現在婚約者として一歩リードし、直接やり取りができる私から、話を通しておきます。じゃあ、参加する人はこの紙に名前を書いて下さい。」
ぺらり。
用意良く準備した紙には。
『私達、お妃目指すぞチームは。
ニリヤ殿下にしつこくして迷惑をかけず、抜け駆けをせず、お互い助け合いながら切磋琢磨し。
人としての総合力を高め、ただ、好きな1人の人に選んでもらうために、乙女の誇りをもって、正々堂々と競います。
もし、選ばれなかったとしても、恨みを持つことなく、このチームで高めた事を大切にします。
上記全てを、ここに誓います。
モナーム・エンリ』
さあ、書くか、どうか。
ニシシシシ、と獰猛に笑ったエンリに、女子達は、たじ、と後ずさった。
覚悟が違う、と知るのは、まだこれからである。
名前を書く者、怖気付いて書かない者、それぞれいたが、エンリは拘らず。すぐに、ピルルル、とニリヤに電話をして呼び出した。
呼ばれたニリヤは、息を切らして教室に来たが、エンリに得意げに差し出されたその誓約書を見て、大笑いをしたので。女子達はポカンであった。
エンリちゃん、ボスをやるのだね。
むくくくく、と笑うニリヤである。
「お妃目指すぞチームかぁ。ではでは、皆さん、よろしくね。でも、今現在、婚約者はエンリちゃんだから、僕との連絡は、エンリちゃんを通してお願いするね。」
それは仕方ないか、と皆、しぶしぶだったりしながらも頷いた。
「それから、お妃ってなってるけど、将来、僕、王族として活動するかどうかも考え中だし、他の男子達と同じく将来はまだ分からないよ。」
ここで、え、と驚く女子何名か。
「やりたい事によっては、市井に降る事だってありうるよ。今の願望としては、テレビ関係の仕事はしていたいけど、それもお仕事を頂けるかは、視聴者に受け入れてもらえるかどうか、良い企画が立てられるか、それに使ってもらえるか、僕も勉強中だからね。運営の方に行く道も考えてるけど、力がつかなかったら、お飾りなんて、ししょうはぬるい事は許してくれなさそうだからなぁ。」
エンリは、ニコニコしている。
「相談しながらだけど、お相手の人にも家庭を守るだけじゃなくて、働いてほしいしね。親しんできた孤児院に還元できるよう、経済的に余裕を持たせたいし。僕は奥さんと、仕事でこんな事あったよ、って話をして、受け止めてもらうばっかりじゃなくて、実際的な意見を言ってもらいたいから。子供も欲しいし、子育て中は、僕が面倒をみて働かないで休む、とかもあるかもしれないし、そういう相談ができる、信頼できる、これからの人生を何があっても協力してやっていける人と結婚したいです。勿論、僕も努力するよ。要求ばかりなんて、烏滸がましいよね、お互いに。」
むぐ、と夢みてるばかりだった女子が唇を噛んだ。働かなきゃなのか•••と思う者何名か。
「それから、僕、正々堂々と競うのはいいけど、イジメになっちゃうと、大分嫌悪感があるから。裏で陰湿なやり取りとかは、お互いしないでくれると嬉しいな。そういう事があったら、エンリちゃんに言ってね。ガブしてくれるだろうし、僕も怒りに行くよ。そして嫌いになると思う。」
コクコクコク、と頷く女子達。
実行力はもたない、魔法はない誓約書だけれど、書いて失敗したかも•••と思う者、何名か。しんとする。
「では明日から、お昼は皆でニリヤ殿下を囲んで食べましょう。食堂だとテーブル占拠して迷惑かけちゃうから、中庭でお弁当よ。お弁当が用意できない人は、街で朝買うか、食堂で持ち帰りメニューを頼んで集まりましょ。何か意見のある人は?」
エンリが腕を組んで、威厳たっぷりに尻尾をパシンと振った。
レジカは、恥ずかしかったけれど、小さな声で、ハイ、と手を挙げた。
お弁当も食堂の持ち帰りも、ワイルドウルフからの特待生で実家が貧しいレジカには用意できない。お昼は抜いていたのだ。
貴女もニリヤ殿下、素敵と思っているでしょうと、同級生に強引に引っ張られて来たは良いけれど、経済的にお付き合いができない。お昼を抜いているのに、ニコニコ皆と一緒になんかいられない、惨めだ。
「お、おおお金が、た、足りなくて•••。」
ニリヤ殿下に知られたくなかった。レジカの憧れ、初恋、そんな人の前で16歳の女子に、お金がありませんと言うのは、あまりに酷だ。
「エンリさん、酷いわ!貴女がそうおっしゃるから、この貧しい方は恥をかいたじゃないの!」
上級生の美人な1人が、鬼の首を取ったように声を上げる。貧しい、とバチっと言われたレジカは、上級生も酷いよ、と、しょんぼりこ。
ふむ、とエンリは虎耳をはためかせ。
「レジカさんですよね、隣の鳥組の。レジカさんはワイルドウルフからの特待生、とても優秀な方だって聞いています。でしたら、同級生のチームメイト達に、自分の勉強の邪魔にならないくらいに、コツを教えてくれない?その代わりに、教えてもらう人でお弁当を負担しましょうよ。助け合うって言ったでしょ。色々な人がいるんだから、経済的に用意できない人は、他の人も言ってきてね。何か考えましょう。足の引っ張り合いはなしよ!」
それに、ニリヤ殿下とお昼にお話でもしないと、皆仲良くなれないでしょ、殿下と。
「ニリヤ殿下、仕事もしてるし、忙しいんだもの。触れ合いもせず、好きになってもらう、って、不可能よ。」
どうだ!とエンリ、ふす、と鼻息。
むぐぐ、と上級生は黙って、結局、エンリ主導で、チームは動く事になったのだ。
エンリは勉強、ほどほどだった。
美醜でいっても、もっと美しい者はいる。
女子力が高い者も。
気配りが出来る者も。
チームで動く事になり、放課後に勉強を教えあったり、調理室でお菓子を作ってみたり(ニリヤ殿下に手作りをあげるには!と盛り上がった乙女達だった)。
歌、美術、お裁縫、様々なもので競い合い、教え合って、精一杯に青春を謳歌した女子達は、そのうちに思い知った。
エンリ、どの方面でも、1番じゃない。
だけど。
お妃目指すぞチームの女子達と、他国王族の方とお話をしてみよう、と招んだ、パシフィストに留学していた事もあるマルミット国アルモニカ第二王妹。王位を譲ったマルミット先王のタンブール様もいらして、皆が、ガチガチになりながらお茶会をしたのだが。
「お嬢さん方、緊張しているね。ふふふ、お茶を飲んで、気を楽にして。そうだ、若いお嬢さん方に、助けてもらおうかなぁ。」
威圧感はないけれど、一癖あるかと深みを思わせる、素朴な山鳩色の瞳、そばかすが何か可愛い、笑い皺のある魅力的なおじじ様。マルミット、タンブール先王が、若い女子達の気持ちを解そうと、こんなことを言い出した。
「我が娘、アルモニカは、まだ未婚でねえ。お仕事大好きなんだよなぁ。どうしたら結婚に夢をみてくれると思う?父としては、孫をとか贅沢は言わないけれど、後々に頼りになる伴侶がいてくれたら、私が儚くなっても、安心なんだけれどもねぇ。」
「お父様、何をおっしゃいます!」
既に27歳となったアルモニカ王妹は、王族の女性としては、行き遅れである。父親なれば、結婚が全てではないけれど、安心をしたいものらしい。
位の高い、そして意見が食い違いそうな2人に、何を言ったものかと、乙女達は口が開かなかったのだが。
「タンブールおじ様。アルモニカ姉様は、分かりやすく結婚するばかりが幸せなのではないのじゃない?」
ズバッとエンリは言ったのだ。
「ほう?そうかな?」
タンブールは悪い気にもならず、朗らかに応える。うんうん、とアルモニカは深く頷く。
ひこひこ、と虎耳を揺らして。
「だって、アルモニカ姉様、エルフの救助をしてから、人道支援に熱心なのでしょう?どこかにお嫁にゆくより、王族でいたままの方が、活動しやすいと思うわ。ーーーすぐ側に、心から尽くしてくれる、お付きの侍従さんがいるらしいんだけど、その方と、結ばれなくても良いから、ずっと共に頑張りたい、って女心があるのですってよ?」
「エンリちゃん!?」
アルモニカ王妹が真っ赤になる。
「ほう、ほうぅう?」
タンブール、興味深く目をチラッと娘に送る。
エンリは続ける。
「侍従さんって、高位貴族ではないけど、貴族の出身の方よね。身分差はあるけれど、お支えする人として、権力があれば良いってもんじゃないわ。タンブールおじ様が、どうしても結婚して欲しいというなら、アルモニカ姉様は、お仕事を続けて王族に居続けてもらって、事実婚をしてね。女性にはマルミットは継承権がないから、子供が産まれたら、継承権は気にしなくても良いわ。先王孫としてだけど、アルモニカ姉様のお仕事を継いでも良いのじゃない?」
「ふむむ?エンリちゃんは、そう思うの?」
ムフンとおじじは良い笑顔である。
「思うわ。王族が少なすぎても、お国の仕事は回らないのだから、今のマルミットなら、特例です、って言ってしまっても良いのじゃないかな。アルモニカ姉様のお仕事、他の方に出来ないと思うし、だからマルミットのお国は、姉様をお嫁に出さなかった所もあるでしょ?」
「うーん、アルモニカが嫌がってねぇ。そっか、そっか、近くにそんな人がねえ。」
アルモニカは、手で顔を覆い。
「内緒だって言ったじゃない、エンリちゃん!」
叫んだ後、もう言葉もない。
エヘヘ、と笑うエンリは悪びれずに。
「ごめんね、姉様。だけど、私も、ニリヤ殿下をお支えしてね、って言われる事が割とあるから思うんだけど。お支えする人、って地位を、一歩下がっているからって、低いものとするのは、どうかな、って思うの。とっても誠実な人で、純粋な2人は、未だに近くいても汚れない仲なのよ、おじ様。アルモニカ姉様には、あの侍従さんが必要だわ。引き裂くのは簡単ですけど、そこをマルッとするのが、現在王様から引いて、長い目でみられる先王様のできる、素敵なお仕事じゃない?」
他国の王族にこんな口がきける。
乙女達はポカンであった。
アッハッハ、と笑ったマルミット先王様は、考えとくね〜、とお菓子を美味しく食べて帰っていって。
その日から1つ月後に、アルモニカ王妹が慎ましやかに、侍従さんと王族のまま結婚式を挙げた。テレビに映ったアルモニカは、晴々とした顔で。マルミットの王族達に囲まれて、緊張した優しげな顔の花婿と、腕を組んで。王族も、新郎の親族も皆、嬉しそうだった。
乙女達は、ほえーと、敵わないを感じ、エンリに一目置いた。
エンリは何にも、1番じゃない。
だけど、パシンと言うべき時は言う。
そして、皆、気付いた。
ニリヤ殿下といると、何でもテレビで言われちゃう。チームお妃目指すぞだって、テレビに追いかけられて、疲れて脱落した者も、割といた。
全て見られても、何ら恥じるべき事がない、パンと胸張って生きられる図太さがないと、やってゆけないのだ、って。
エンリはその点、ぶっとい心の虎であった。
チームお妃目指すぞは、段々と落ち着くべき所に落ち着いて、仲良く高めあい助け合い、そして恋心、ニリヤが卒業する時には、皆で平等に1人ずつ告白の時間をとってもらったりして、正しく恋心にピリオドを打った。
レジカも、エンリと仲良くなりながら、そしてエンリとニリヤの仲良しを段々と嬉しくなるようになって。そう、婚約者を裏切らない、優しいニリヤが好きだったから•••複雑な心をそのまま、しどろもどろに精一杯告白をして。
ニリヤに、僕とエンリちゃんを、好きになってくれて、ありがとうね、と笑ってもらって。
ちゃんと終わりをつけて、残り1年の学園を、楽しくエンリと過ごせたのだった。
そんなチームお妃目指すぞの女子達は、披露宴に来て、ある者は婚活し、ある者は夫に土産話をと楽しみ、ある者は純粋に宴を楽しみ。そしてある者は子供が小さかったり妊娠していたりして、テレビでお祝いの拍手、ほわぁと喜んでいた。
因みに、ニリヤが言っていた、頼んでないのにエンリ以外と仲良くさせようとした男友達の呼ぶ女性は、チームお妃目指すぞには入っていなくて。正々堂々と競う気もない、ある意味ズルくて卑怯な者達だったから、ニリヤに一言刺された訳である。
披露宴の番組が終わって、テレビの画面は、おめでとう、ニリヤ殿下、エンリ王子妃、とメッセージが出て。
神前で誓い合った、あのヴェールの、伏せた目の、初々しいエンリとニリヤで止め写真が長く映ったから。
それを見ていた、もうヨボヨボで、安楽椅子に座って膝掛けをかけて、ゆらゆら揺れていたおばあちゃま2人。
「灰に残り火」の。
白のネージュ、黒のアンクレは。
「エンリちゃ。」
「エンリちゃ、きれ。」
ふこ、ふこふこ、ふがふが、と笑っていた。
「白のネージュ様、黒のアンクレ様、良かったわねぇ。今日はお2人とも、夜更かしですねえ。よっぽどテレビ見たかったのね。さ、今夜は寝ましょう?明日は、ワイルドウルフで、お2人のパレードですって。またテレビに映りますでしょ。楽しみにね。」
寝かしつけられて、次の日2人とも、もう二度と、起きなかった。
仲良しの2人は、娘たるエンリの結婚披露宴を見られて、この世に満足したものらしい。夜中、前後して、眠ったまま天の国へ旅立ったのである。




