閑話4 ちょっと未来のニリヤとエンリ
結婚式は神前で、厳かに誓い合った。「灰に残り火」の女達は、近親者に混ざって花嫁のお支度を手伝い、式の前から、ほろほろのグジュグジュだった。
幼く番定めをして、夢破れるのは何も女性だけにある事ではない。男性にもあって、そちらはそちらで、神の家「灰に種の火」と呼ばれて、修道士として地道に生活をして、日頃の技として、紳士物の洋服を仕立てたり、家具や小物を作ったり、畑仕事をしていたりする。
ニリヤとエンリちゃんは、5歳4歳の頃から「灰に残り火」の女達に、夢叶い結ばれていれば得られるかもしれなかった、小さな生き生きとした生命の代わりともなり、一緒に遊んでもらい、長じては細やかな相談なども受けたりして、愛しみ親しんできた。
「灰に種の火」の男達も、同じく2人を受け入れて、最初はこわごわと、壊してしまいやしないか、けれど来る日を心待ちに。
息子がいたならば。娘がいたならば。孫ができたならばと、夢の欠片が叶ったように、可愛がりどんな事でも力になろうと、力んで失敗しては2人を笑顔にさせてきた。
花婿のお支度は手伝えないが、お支度室に灰のおじちゃま、おじいちゃま達も来て、ニリヤの緊張をガハハとほぐしてくれた。
パシフィストとワイルドウルフ、2国にそれぞれ新居を用意したのだが、ワイルドウルフ側のお家の内装、家具は、「灰に種の火」の男手達に依頼され、張り切って用意がされたものだ。
新居を建てるにあたって、エンリちゃんのアジュールおとーた、いやいや、花嫁の父、アジュールお父さんが、「ヤダヤダ一緒に住むぅ!」とジタバタしたのだが、リュリュお母さんにパシッと叩かれて諦めた。
ニリヤはエンリの実家に婿入り同居でも良かったのだけれど、アルノワお兄ちゃんの結婚とかが色々あるので、最初から別にお家を建てた方が良いわよ、とはリュリュお母さんの意見である。
兄妹で、仲良しだし、同居も全く構わないと思っていたアルノワお兄ちゃんとエンリは、そんなもんかなぁ、とリュリュお母さんの意見を聞いておいた。
仲良しなので、ほんとに困ったりしたら、協力し合って一緒に住もうね、とニリヤも引き込んで約束している。
そうして。
ニリヤとエンリの披露宴は、パシフィストの王宮の1番人が入る大広間で、これから。
花婿21歳、花嫁は20歳。
5歳と4歳の出会いから、16年が経った。周りの皆は、あっという間に過ぎたねと、会場で新郎新婦の入場を待ちながら、笑い合う。
学園で共に学び、卒業して。ニリヤはテレビの仕事と、王族の外交よりももうちょっと踏み込んだ、実務的な、ギフトのししょうが発案したものを外国に普及させる場合のお手伝い仕事を、国内で、出張してあちこちで。
エンリは女性の視点を生かす為に、半分はニリヤの出張について行き。
あと半分は、竜樹の教会孤児院をワイルドウルフにも合う仕組みで広げ運営しようと、奮闘している。
2人とも、まだ仕事を始めたばかりだけれど、なるべく早く結婚して、家庭を落ち着かせて、自分達の生活、安心な基地を作りたかった。初々しく希望に満ちて、手を取り合って、拍手の中、大広間に、行く扉の前で。
「エンリちゃん。披露宴、お料理を食べる時間をとってもらってあるからね。長丁場だけど、ドレスキツくない?今ならまだ、調整してもらえるよ。お客様は、食べながら待てるんだから。」
「うん、ニリヤ殿下、大丈夫。お支度の侍女さん達が、良くしてくれたの。見栄えは良くても、キツくなく程よくの下着にしてくれたよ。」
補正下着というやつである。ブライダルインナー、と呼ばれるそれを、口にされて、ニリヤは自分からドレスの下の下着の締め付けを気にしたのだけれど、ボワ、と赤くなった。
ニシシシシ、と笑うエンリに、指先を掴んで、もう!と揺らす。
やってろ!と、扉の前に控えた侍従さんは、ニコニコしながら思った。
「さあ、大丈夫なら、行こうか。」
「うん、行こう、一緒に。」
一緒に行こう。
これから先の、人生も。
エスコートをして、入場する。
拍手の中、笑顔で彼方此方に目配せ挨拶しながら、ゆっくりと新郎新婦席に進む。




