婿においで
すぐにハルサ王様とマルグリット王妃様の席が用意されて、といっても、竜樹達の長机に折り畳み椅子を足しただけだが、慣れた様子でお二人とも、配膳の余っている夕食を自分で取りに行った。
あわあわ、と。拠ない事情で、お祭りの午後は竜樹のお付きが出来なかった、お助け侍従タカラが慌てて。ニコニコと待っているハルサ王様に、サンドイッチを取り分けた。鳥のローストも、中の栗やあんず、キノコなんかを綺麗に添って盛り付けて、お盆に美味しそうに。
「皆、先に食べていて良いのよ?」
マルグリット王妃様が、気にして笑ってくれるが、今日はお腹ぺこぺこな子が多くないので、まったり。
「まってるー!」
「いっしょたべよー、マルグリットおうひさまー!」
「あらあら、嬉しいわ。ありがとう、さ、もうお支度できたわよ!」
整って、子供達と皆で、いただきまーす!
タカラがテレビ電話を、食べながらちょうど良く見られるように、高さを調整してテーブルにのっけた。
相対して、モナーム家の皆さんに、エンリちゃんの無事をお伝えしたいので、竜樹、王様王妃様、アルノワおにーた、エンリちゃんにニリヤ、が一つの机にこちゃ、と集まっている。
「あちらも、準備が出来ているかどうか、繋げてみましょうね。」
先程、王様王妃様とほとんど同時に先触れにやってきたお助け侍従さんが、タカラと一緒にテレビ電話を操作して、ポチ、と繋げる。
トルトルトルトル♪ ふち
『うわぁええっと、あれ、これで良いのか?』
『マジエス様、落ち着かれて下さい、ポチっと押したら、お椅子に座っていて大丈夫ですよ!』
真っ暗な画面。ブワアと何か毛のようなものがごさごさっと映って、ガサガサ音がする。引いて引いて、虎耳の厳つくて優しいオジジ、マジエスがドアップから、目をくりくりさせてのしのし後退り。隠されていた、タハっとなってるシュシュお祖母ちゃんが、まだ近いジジの後ろ、食卓の椅子に座って映った。
「あ!まじぇすジジ!しゅしゅばあちゃ!」
サンドイッチを両手に持ったエンリちゃんが、パタパタ、とあんよを振った。
『おーおー!エンリ!本当に遠くのエンリと話せるのだなあ!アルノワも、元気そうだ、良かった良かった!』
またジワジワと寄ってきてしまうジジである。く、暗いよ。
『マジエス、見えないわよ!邪魔よ!』
『マジエス様、お席に着いて下されば、皆さんで画面にちゃんと映ってお話出来ますから、落ち着いて、落ち着いて!』
派遣された、ちゃんとした外交官の貴族と、テレビ電話の操作がバッチリなお助け侍従さんが、側に寄って、さ、さ、とジジを促す。
落ち着いて、座って、ね?
「モナーム・マジエス殿、シュシュ殿。本日はテレビ電話にて、お二方にご挨拶させていただく、パシフィストのハルサである。国王をやっておるよ。」
「マルグリットです、王妃であり、3人の王子の母でありますわ。」
『パシフィストのハルサ王様、マルグリット王妃様に、ご挨拶申し上げます。アルノワとエンリの祖父、モナームのマジエスです。』
『祖母のシュシュです。この度は、ウチの孫を招んで下さって、娘夫婦が今発情期なものですから、寂しくてしょんぼりしていた孫達もとてもお祭りを楽しんでいるようで。テレビを見ていても、顔が違いますもの。ありがとうございます。良くしていただいて•••。』
いやいや、なんの、おほほ、こちらこそ仲良くして下さって、しっかりしたご嫡男に、可愛らしいお嬢さんで、など大人のやり取りが続く。
そしてこちらが。
「えーと、俺もご挨拶していいのかな、ギフトの畠中竜樹と申します。アルノワ君とエンリちゃんのお祖父様、お祖母様、こちらは、ワイルドウルフの子達を預かっている、俺の家な王宮の新聞寮、ってとこになっていまして。沢山の俺の子供達と、仲良く今夕飯、って感じなんです。」
『あら、まあ。』
シュシュお祖母ちゃんが、まだまだ充分に瑞々しく美しい、その顔、口元に手を当てて。
『確かにエンリもアルノワも、子供達皆ご飯中ね。ゆっくりね、気にせず落ち着いて食べてちょうだいな。』
「はーぃもぐ。はく、ちゅなまよのさんど、エンリだーいすきでつ!」
ツナ、って事にしてる、似ている肉質の魚とマヨネーズと。きゃーい、真四角に小さくしたサンドイッチを、はむっと食べると歯のかたちにカーブ、抜き型にムフンと笑い、エンリちゃんは断面を見せる。
うん。見せるよね、子供って。食べてるものを。
ウンウンうん、と大人達は頷いてやる。
「たくさんたべよう、エンリちゃん!」
ハムとクリームチーズのサンドを、はぐ、じわ、とお口の中で味わって、唇の端がクリーム色。わんぱくなニリヤ、こちらは流石に片手に食べかけ、ムフ、と顔を向けて。
シュシュお祖母ちゃんが、その、仲良しなエンリちゃんとニリヤの様子を見て。ニコニコッと。
『テレビで今日の朝ごはん、2人仲良しな所を、吟遊詩人ノートさんのプロポーズの後に見ましたわ。チョコッと王子コーナー、ニリヤ殿下にお嫁さんが!?ってエンリ、出てたわね。』
今朝、そう、エンリちゃんが、ニリヤに。
「ニリヤでんか、ぷろぽず、するでつ!けこん、して、ください〜♪」
ブドウの粒を捧げながら、面白い節で歌ったのを、可愛いチョイス!して、編集してチョコッと王子コーナーで流したのであった。シュシュお祖母ちゃんも、マジエスジジも、ちゃーんとテレビで見たのだ。ギョ!としたが、その後、大爆笑した。
エンリ、やってくれる!パシフィストの第3王子をとっ捕まえるだなんて!
「およめ、んぐ、なるでつよ!エンリは、ニリヤでんかと、なかよちでつ!」
『まぁ〜良かったわねぇ〜。ニリヤ殿下、ウチのエンリ、お嫁さんにもらってくれるのかしら?』
これにはマジエスジジが、むむん!と厳つい顔を更に厳つくして。
『いや、何でお嫁は皆、もらわれなきゃいけないんだ!むしろ、ニリヤ殿下、ウチにお婿に来てくれまいか?ワイルドウルフは、色々な種族が、混じり合ってわいわい平和に生きていて、なかなか愉快な国ですぞ?ご興味ないかな?』
可愛いお孫、とられたくない。ジジは必死である。
ん?おむこ?と話を振られてニリヤ。ほうじ茶をコクンと飲んで。
「エンリちゃんのおじいちゃま、おむこにいっても、ししょうとテレビが、できますか?」
『ん?うん、うーん?ししょうとは?』
「あ、ニリヤは、俺の事をししょうと。ししょうは弟子を、どんな事があっても見捨てないのです。」
竜樹がパクんと鳥肉汁キノコと栗とを一緒に口に。
やっと落ち着いたマジエスジジは、お茶を飲みながら。
『ほぅう!そりゃあ良いですなあ!まあ、転移魔法陣ができましたから、大分、お互いの国が近くなりましたな。婿に来ても大丈夫ではないですかな!』
ジジはニッコリ圧である。




