表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

583/692

躊躇いがない

ちょっと痛い感じの描写があります。

苦手な方ごめんなさい。


小指を斬ろうとすれば反発する。

そう聞いても、コープはやらない、とは言わなかった。

ヴァイスのNo.2、オーンブルは、イヤーな顔をして、すす、と下がって黙ってしまう。


「ごちゃごちゃウルセェんだよ!舐めてんじゃねぇ!お前らがやれっつったんだ、俺はビビんねーぞ!オーンブル、怖気付いたんだ、テメェは!」

コープは、自分の意気も高めるためか唾を飛ばしながら興奮と怒り、憎々しげに叫んでいる。


「あぁ。弱気は力のフォルセ神様もお嫌いだからな。コープなら呪われねーかもな。やってみれば。俺はボスじゃねぇし。」

半目のオーンブルは、ポケットに手を突っ込んで引いたままだ。


(あ、無責任よね。さっきまで仕切ってくれてたのに、オーンブル。)

まあ、こういう集団のヴァイスのNo.2に、責任感を持てというのもちょっと、違うのか。


恐々と。

さっきまで押さえつけ殴ったりしていた、ここでは弱者のクロクのロニーから身を遠ざけて、魔法の反発を警戒しているヴァイスの連中。

竜樹は突っ立つ沈黙の中を泳いで、自分の為に不利な状況で暴れてくれて、殴られて唇を切ったロニーのその顔、頭を。

まだ斬られていない小指のついた、大人の男だけれどもそれほどは大きくない掌で、さすって撫でて、くい、と自分の方へ寄せた。

ロニーをそのまま、後ろに移動させ、庇ってやった。


呆然とよたよた、寄ったロニーの鼻は赤い。息も荒い。瞳が興奮によってゆらゆら、きゅわあと大きく光っている。

守られている。守られている。

親に大切に思われて、それが自然に。

今更、ヤメロ、と苦々しく思うのに、ザラアと底の抜けた自分の腹に、胸に、熱いものが込み上げてくるのは何故だ。

ロニーは混乱して黙った。

そうして、必死に、何だか嫌だと思った結末、竜樹が痛みを得る事で裏切られる事はないのだ、と。

ストン、と落ちてきた。信じられた。


カメラを回しているロテュス王子と、マルサ王弟は、それを微笑んで見ている。


「俺はやる!やるったらやる!」

「はいはい、やってみて。それでもし小指が斬れたら、オーンブル。先程の交渉はイキという事で良いよね?」


「ああ、良いぜ。」

「俺はコープだ!何でオーンブルに言うんだ!」


うん、ヴァイスを纏めてるのは、多分コープじゃなくてオーンブルだからだね。と無言で竜樹達は目線を投げる。

きっと、サーカスに与太者のデテ元団長を送り込んで、魔道具の箱で子供を眠らせる指示を考えたのは、頭悪そうで場当たり的なヴァイスの他の連中なんかじゃなくて、オーンブルなのだろう。

だから、ここで押さえて話をしなきゃなのは、コープじゃなくてオーンブルだ。厄介なのも、きっと。


そんな見定めの視線に苛ついて、コープは弾かれて痺れている右手に左手を添えて、拾ったナイフを両手で上からグッと握り込んだ。

「オメェら、ギフトの奴を押さえとけ!無駄な抵抗すんなよ!」


押さえつける者は誰も居なかったけれど、そしてそれにコープは更に苛々と悪態を吐いて。

全くの自由のまま、竜樹は先程と同じく。腕を肘から先、ぺたりと汚れテーブルに付けて、小指を差し出して斬りやすくした。


「•••斬ったギフトの小指は、干してナイフにぶら下げてやんぜ!オゥらあ!!!!!」

真上から小指に刃先を当てて、振り上げて体重を乗せて両手で。


ドッ バキン!


「ギャ!」

「あぐ!」

「うワァァァァァア!!」


この位の攻撃、返すならこんなもんで良かろうってな程に。小さな魔法陣がパッと小指の上で光って。

その細やかな光に似合わず、ド派手にコープが弾かれて、ナイフごと吹っ飛んだ。仲間らを薙ぎ倒し、ベタベタしているもので汚れきった床に、転げ回る。

「ギャァアア!折れた!チクショ、ボキっていいやがったあ!」

右の手首を左で握って、指先はプランである。


それを見てヴァイス達は、暴力に慣れた彼等は、あ、コープでもこうなんだ。どうにもなんねーのかも、と。この、弱っちそうな奴に、敵わないんだと知った。


「•••弾かれちゃうんだねえ。エルフにはありがとうだけど、困ったなァ。俺、どうしてもヴァイスにはクロク達と手を切って欲しいし。」

竜樹が、うーんと悩み声を出す。


「クロクなんかいらねーわ。アンタ斬れねーのにケジメもねーよ。王弟もエルフも代わりにゃ重すぎるし、どうにもなんねぇ奴にこれ以上何しろっつんだ。もういい、儲け話で良いよ。」

はー。

オーンブルが、呆れて息を吐いたら、もうそれに反対する奴はいなかった。


「いやいや、何もないってのも、何か怖いじゃん。そうだ、爪は?爪は切れるよ、伸びたら。爪剥ぐ?俺が自分で剥ごうか?」

「イヤだから何でアンタ自分で痛い目に遭おうとすんだよ!俺は勘弁だぜ、エルフだかカルムだか運命神だか、手に負えねーよ!」


「爪剥げ!自分で剥げよ!!テメェも痛い目に遭え!!」

「コープ•••俺は言ってねぇからな。知らね。」


オーンブルがこんなにコープを冷ややかに見た事はない。床に転がって震えて叫ぶコープを、誰も助けない。


「分かった。自分で爪を剥ぐね。マルサ、ナイフ貸してくれる?浄化もしてくれると嬉しい。」

「あいよ。」


あぁああぁぁ〜怖い〜、と言いながら竜樹が、自分で自分の左の小指の爪に、ナイフの刃先を当てる。


「痛そうですよ。幾ら日常の痛みを感じた方が良いとはいえ、見てられませんから、痛みを麻痺させる魔法かけましょうね。はいっ!」

キラキラ!とカメラを持っていない方の手を振って、ロテュス王子が光を投げる。

その途端、ナイフの刃先で小指の爪を引っ掛けても、鈍い遠い感覚しか伝わらなくなった。


せーので びっ!

キラ! ピシャン


剥いだ。

薄いカーブの半透明な。

血がふわり、と浮いた途端に、キラッと指先が光る。

瞬時に爪が再生していた。


「あー、爪が無いと、日々痛いですもんねえ。お皿も洗ったりするのに大変だし。」

うんうん、と結果に納得のロテュス王子である。


竜樹は、素朴な綿のハンカチを出すと、それに剥いだ爪を包んで、オーンブルに差し出した。

「オーンブル、これは君に。良かったね、指より腐らないだろうし、爪。まあ、何に使えるってもんでもないけど。」

「アンタやっぱ、スゲーよ。躊躇いがねー。•••確かにケジメ、貰ったぜ。」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ