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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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ヴァイスのボスと会いましょう


竜樹、マルサ王弟、カメラを抱えたエルフのロテュス王子、そしてクロクのロニーは、下街のごちゃついた、空いたワインの瓶や壊れかけた箱が表に出て散らかっている、猥雑な飲み屋街へやってきた。この時間から酒瓶抱えて道に転がってる呑助、あからさまに値踏みする視線、ギラギラと痛いほど。

こんな場所に、お仕立ての良い服で、整えられた身なりでやってきた。いかにもなカモ。それが竜樹達だ。


攫った子供達と親御さんへ、先ずはの謝罪を終えて。他のクロク達は、王宮の一室で、第二騎士団のマシュ団員達に一応まだ監視されながら、こちらの様子をカメラ越しに見ているはずだ。


「なぁ、本当に行くのかよ•••。こういうのって、何か下の奴にやらせたりすんじゃねぇの?何でアンタが、直接ヴァイスの連中に•••。」


マルサ王弟が身体を鍛えているのは分かるが、竜樹はそれほど身体も大きくなければ、ショボついた雰囲気も穏やかで地味に優しげであり、いかにも荒事は不向きな感じがする。

面白がってカメラを回して付いてくる、エルフのロテュス王子だって。ウッカリすれば、うっとり溜息を吐きたくなるほどの、線の細い美少年であって、あんな下衆な連中の集まりに連れて行って、無事でいられるものか、とロニーは眉を顰める。


「ロニー達が使われて、困ってた悪い大人達だろ、ヴァイスって。そういう、危険な所に、難しい交渉に、自分の子供の事なのに他人に任せる、ってちょっと俺の選択肢にはないなぁ。」

竜樹は穏やかに微笑んでいる。


「笑ってる場合じゃねんだよ•••!マジで人とか殺したりもしてる、悪い奴らなんだぜ!ヴァイスの頭のコープは人を痛めつけるのなんか、何とも思っちゃいねーんだ!俺らも集団で、どんだけ殴られたと思う!?話なんか通じるかよ!」

焦るロニーは、握り拳をグッと爪立て、もどかしく聞き分けのない大人達ーーー親になった竜樹に主に、思いとどまるよう何度も何度も。


ポンポン。

ロニーの頭を、同じくらいの背丈の竜樹が、優しく触れる。

「ありがとうな、心配してくれて。ロニー、君らの世界で、君臨している悪い大人なんて、大した事ないーーーな〜んて、軽く思っている訳じゃないよ。確かに、ロニー達が痛めつけられて、脅されて、お金を上納させられ、上手い事使われて•••圧倒的な暴力って、本当に恐ろしくて、抗えないものなんだろう。ヴァイスは血を流す事にも、躊躇いはしないんだろう。そんな連中に目をつけられていたのに、良く、悪に染まりきらずに一線を守ってこれたよ、ロニー。これは君の才覚だ、誇って良い。」

「褒めて欲しいんじゃねーよ!!だから、行くの止めろっつってんだ!俺らは俺らで、何とかすっから•••!」


竜樹の目は、ニコ、と細くなって、短い睫毛が縁取るそれは、深い森の奥の色、しっとりとした潤いを含む、優しい闇色。どこまでも穏やかなそれが、ロニーには腹立たしい。苛立たしい。その目が、ヴァイスのコープおやじに酷薄に嬲られて•••ロニーを、差し出してしまう、とは思いたくない。きっとコイツは、抵抗するんだろう。


捨てれば良いのに。

親って子供を捨てたりするだろ。自分の身可愛さに。仕方ない、なんて言いながら。なのに、コイツは。

きっと諦めずに酷い目に遭う、と何故かロニーに確信させた。

それかもしかして、やっぱり。

嫌だ。嫌だ。


「ヴァイスの連中に、話をつけておかなければ、もうクロク達に手出しはしない、って諦めてもらわなけりゃ、皆、安心できないだろう?クロクの為ばかりじゃなくて、こっちには小さい子供達だって、普通の大人達だっているんだからさ。ああいう感じの人らって、周りを痛めて迷惑をかけさせて、こっちを切り崩してくる、疲弊させて諦めさせて、良いようにさせて、ってしてくる。何せあっちは仕事で一日中そんな事やってられるんだからさ。他に仕事があったり、まともに生活してる方は、たまったもんじゃない、そうだろ?」


分かってるなら、退けよ!

んんんんん!んもう!とジタジタしたい気持ちが、柔らかく髪を撫でられ宥められ、逃げてゆく。それがもどかしくて、居心地悪いし、恥ずかしいし。ヤバい、ってハラハラしてんのに。

「舐められたら終わりなんだよ、ああいう人ら。だけど、普通に暮らすのだって、覚悟が必要なんだよ?ロニー。いつか一度、話をつけておかなきゃいけない。俺の子に、変な搾取の手を付けてはおけないし、悪い道へ誘導して引き摺り込む大人とは、縁を切っておかなきゃね。」


す、と真面目な顔をする。

舐められたら終わりなのは、親もそうだ。子供にはどこか甘く見られていても良い。だけど、子供達を害する者に、付け入る隙は許さない、と。


「まぁそんな悲観すんなって。俺もついてるし。俺、腐っても王弟よ?騎士団特別顧問よ?何かあったら、国単位でお仕置きされると思っていいんだ。ヴァイスが幾ら悪でも、それくらい頭が回るだろ?」


「分かってねぇ!」

ガル、とロニーは唸る。

「あのコープって奴は、心底腐ってやがるんだ。イカレてんだよ!」

ギ、と思い出す。あの容赦ない制裁を。つう、と背中に冷や汗。コープは決して許さないだろう。自分の手を噛む、俺らなど。そして、王弟だろうが、自分を僅かでも損ねる奴を、ただ許した事はない連中である。分かりやすい損得で動いているなら、話が通じるだろう。けれど、コープは。


「そんな奴らにとっ捕まってたなんて、やっぱりお前ら、良くやってきたよ。そして運が良い。」

今、竜樹が、ここにいるって事が。

どれだけ幸運で、有難い事であるか。


話が通じないって、どうしてこんなに。

「•••ああ、もう!」

いざとなったら、コイツらを置いて逃げる。ああ、でも。ロニーは、逃げる?逃げてどうする?また街で?逃げたくない。ならどうする?

ひや、と頭の中が冷静になってゆく。

そうだ、今までだってヴァイスのやり方を、何とかいなしながら付き合ってきた。俺らが。俺が。ヴァイスに付き合いさえすれば。


す、と真顔になり。大人しくなったロニーに、竜樹は微笑むばかりだ。



1軒の飲み屋、相当荒れている外観のそれに、ロニーは竜樹達を案内した。

歩くたび、床がギシギシ鳴っている。店内まで酒瓶が転がり、何かの液体で床が濡れ、食べ物がチラチラと溢れ、テーブルクロスだったものは破れてずり落ち、汚らしい。

いかにも悪い事してそうな、身なりの崩れた男どもが、ニヤニヤ店の中、酒を飲みながら、竜樹達を見てゆらり、取り囲んでくる。

その中の1人が、ロニーに。


「おうおうロニー、金じゃなくて金ヅルを連れて来たんかよ。良くやったぜ。」

ぐび、と瓶から直接酒を飲んで、ケハハと笑った。合わせて他の男達も、ヒヒヒ、ハハ、と嫌な笑いだ。


「コープオヤジいるか。」

「ボスに会いテェとはよほど太ぇ金ヅルなんだな?ロニー。」


「コープオヤジいるか。」

ツン、と同じ口調で冷たく繰り返すロニーに、あぁん!?と男は一歩近寄る。

殴られるかもしれない。

目が、キュと細くなる。恐れている。拳が震える。だけど、腹の底はひんやり冷たくなっている。


「子供達を攫って金を貰うはずだった件は、バレてダメになった。俺が制裁を受ける。他のクロクと、この人達には手をーーーー。」「こんにちは。俺、畠中竜樹って言います。ギフトの人です。この度、ロニー達クロクの親になりました。ついては。」


何言い出す!

ロニーが必死の思いで守ろうと。

ギッ、と睨んだ先の、その、親な竜樹は、やっぱりショボっとした気の抜ける感じで言葉を被せてきて。


「ヴァイスの皆さん。俺、クロクを貰いに来ました。今後一切、皆さんはクロクに関わらないと、悪の道へ誘わないと、そう約束して欲しくて。一応見返り的な事も用意しておりますよ。継続的に俺は関わったりしないけど、ちょっとした案ですね。そこそこ儲かると思うから、損はないですよ?」


はぁ!?

「ギフトのやつがこんなとこにくっかよ!」

「ふざけてんなら一発かますぞコラァ!」

肩を揺らして凄んでくる。


「本当にギフトの竜樹ですよ。ほら、ギフトのお印。」

マントのエメラルドの、留め具が、大きくキラリと美しい。全く竜樹には不似合いな豪華さだが、この緑色は、合わなくもねーのかな、と不思議と焦っているはずなのに、ロニーは留め具をジッと見てそんな事を思った。


「あぁ、ロニーが俺に何だって?」


少しはマシな身なりの、ヴァイスの中心メンバーに囲まれて、ボスのコープが店の奥から出てきたら、さぁ!一気に店の中、ピリついた雰囲気になる。


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