野良猫クロク団のミュージカル
「ノラになったやつは、えさがもらえなくて、けがして、しんだらいいんじゃない?」
「えーかわいそうよ!」
「おうちに♪かえりたぁ〜い〜♪」
「ねぇ、かいぬしはきれいなおねえさん、おねーさんがいいでしょ!」
「おばさんだよ〜。」
「おじいちゃんじゃん?」
「えさが、もらえたら、かわれるにゃ〜♪」
何だこのぐっちゃぐっちゃ。
ロニーは、はぁ、と溜息を吐いた。
戒められていた手は、既に解かれている。椅子に座って、クロク達が攫った子供の親御さんとは、別のテーブルで、ほんのちょっとだけ軽食が出ている。
食べないという事はあり得ない。クロク達は、今までいつ食事が摂れるか不明だったので、どんな時でも食べられれば食べる。味がするかどうかは関係ない。どんなにアウェイで、身の置き所がなくてもである。
一応、第二騎士団のマシュ団員達が、食事をしているクロク達を見張っているので、親御さん達も、安心して、早い夕ご飯を食べている。
そのテーブルとテーブルの真ん中。
竜樹は靴を脱いで、ふかふかの敷物に大きな画板を置いて、これまた大きな紙に、子供達のあれやこれや、やんやヤイヤイを、ふんふん♪と合わせて鼻歌を歌いながら書き込んでいる。
何故こんな事に。
といえば、竜樹の、クロク達が償いをする為の案を、子供達に聞かせた事による。
「じゃあ、お話をさせてもらいますね。クロク達が、皆を攫った、それを、悪かったなぁ、何でそんな酷い事をしちゃったんだろう、ごめんなさい、って思うにはさ。足りない事があるの。」
「たりないの?おじちゃん。」
アノー少年が、竜樹のお膝にダラ〜ンと寄っかかって、ふんふん?としている。他の子達も、全部で12名、わやわや。竜樹のボサッとした髪をくしゃくしゃ触ったり、背中にくっ付いたり、手を握ったり。
いつもの、そう、いつもの新聞寮の、子供達塗れの竜樹、そのまんまに、床に座ったまま遊び場的になってしまった。
何故だか子供をリラックスさせる男、竜樹である。
子供達が竜樹の周りで寛ぎ始めてすぐ、お助け侍従のレテュが。乳糖不耐症の赤ちゃん、グランドールのパパで、今日、王宮の家族街での親御さん達の出店を纏めていた彼が、良い笑顔で、仲間の侍従と、ふかふかの敷物とクッションを沢山持ってきた。
竜樹と子供達を促し、心地よい靴脱ぎエリアを即席で作って、さささ、とテーブルにお茶も用意、親御さん達を座らせる。
「クロクのね、ピッド、って子はね。皆が怖かった、って分かんなかったんだって。親がいないから、お父さんやお母さんから離されて、知らない人のとこへ連れていかれるのが嫌な事なんだって、嫌なんだって。分かんなかったんだって。」
お友達を連れてきてね、親御さんのいない困ってる子をね、っていうつもりだった貴族のお家に頼まれたから、大切にしてくれるって知ってたから、ヤだったなんて、思わなかったんだって。
いやロニーは、それが悪い事だと知っていたが。が、確かに、あまり忌避感はなかった。贅沢に暮らせるんだし、貧乏そうな子を選んだし、親なんて、子を、困ったら捨てていくものだし。暫くすれば諦めるだろう、と、軽く、思った。
「それって、知らないからだよね。大事に育ててる、皆みたいな可愛い子供を、いなくしたらどんなに辛く悲しくて、耐えられないか。皆が、親から離されたら、どんなに、どんなに悲しくてお家が恋しいか。親もない。お家もない。失くす辛さが、分からない。知らないって、恐ろしい事なんだ。•••だから、おじさんは、クロク達の、親になって、お家を作って、心地よい所で、安心だよ、ってまず、教えてあげる事にしたんだ。」
ふぉ〜おぅ。
子供達が、うんうん、と頷いて納得する。
「しらないだったら、わかんないよね。」
「こわかったんだよ、おれ。」
「たつきおじちゃん、おやになったら、わかるね!」
「おとうさんいないだのに、ごはんどうするの?」
「クロクの皆は、どうやってまともに生きていくか、教えてくれる人はいなかった。お父さんが働く。お母さんも。2人でお家の事をする。子供の面倒をみる。それを、見てないし、知らないんだ。•••だから自分達で、悪い事をしながら、生きていくしかなかった。悪い事は、ダメだよね?でも、そうじゃないやり方を、教えてもあげないで、ダメ!って言うだけで、変わるかな?きっと、変わらないよね?」
「かわらなーいねぇ。」
「わるいの、ダメなんだよ。」
「わたち、おかあたんに、おこられるよ。」
「メッ、てすればいいとおもう!」
「そうだねぇ。」
子供達にくちゃくちゃにされながら、タハッと竜樹は笑った。手を握ってくる子の、あったかくて細い指をギュッとして、ゆらゆら、ぽんぽんする。
「メッしても、知らない、面倒もみてくれない人だったら、フン!うるせえな!ってなっちゃうかも?だからね、おじさんは、クロク達を、大事大事よ、して、それで、悪い事した時は、メッ!する事にしたの。」
うんうん。うんうん。
皆良く聞く良い子である。
「でもさ〜あ?それだけじゃあ、償い、ってやつには、ならないでしょう。皆は、怖い思いをして、お父さんお母さんは辛い思いをして、良い事一つもないじゃない。悪い事しちゃった時、謝るだけじゃなくて、お父さん達が、何か美味しい物をお詫びに持って行ったり、そういうの、見た事ない?」
美味しいもの、と言った時、わ、と子供達が盛り上がるのは。夕飯時が近付いているからでもあろうか。
「おれが、おとなりのこをぶっちゃったとき、おかあさんおわびに、もものパイもってってた。おれ、たべたかったのにぃ。」
「ぶっちゃ、ダメじゃん。」
「おれも、あやまったヨゥ。」
「パイおいしいよねぇ!」
「おなか、すいた〜。」
竜樹が目配せすれば、優秀なお助け侍従レテュは、頷いて夕飯の発注をしに行く。
「皆さん、これから話を聞いた後、家でご飯の支度はしんどいでしょう。是非、夕飯を食べて行って下さいな。」
「た、竜樹様。話は聞きます、聞きますよ。ですが、そんなに、俺らに気を使わないで下さい。なんていうか、何か、どう受け止めて良いか•••。お貴族様達って、人によったら、怪我をさせたとしても、悪かったな、とも言わなかったりするんですよ?」
アノーのお父さんが、竜樹が床なのに、テーブルに着いて座ってお茶を飲むのもソワソワ、強行姿勢でいたくても、それを上回る低姿勢ぶりに。
「そんな貴族はダメ貴族じゃないですか。」
「ウン、ダメ貴族だよな。」
竜樹が言って、別のテーブルでお茶を飲んでいるマルサ王弟が肯定する。ロテュス王子も、ウフンと目をパチンとさせて、コクコクする。
いや、いやいや、そうだけど。過分である。と、言いたいのである。
「まあまあ、俺は家事もしてきたんで、ご飯の支度が大変だとかは分かるんですよ。食べて行って下さいよ、王宮のご飯も美味しいですよ。腹が減っては何とやら、って言いますしね。」
わーい、ごはーん!
子供達はばんざーいのわあわあだ。
「でね、美味しい物も良いけど、こういう時、示談、って言ってね。悪い事をした人のお家が、お金や、価値のある物を、これだけ慰謝料として支払いますから、捕まえて牢屋とかに入れないで、お互いの話し合いで勘弁してくれませんか、っていうのがあって。人殺しや、取り返しのつかない悪い事なんかだと、示談て出来ないんだけど、今回、どうか、示談にしてくれませんか?っておじさんは頼みたくってね。」
「じだん。う〜ん、どうする?」
「もものパイくれたら、ゆるすかも〜。」
「おかね、あったらいいものかえるよ?」
「クロク、おかねもってるのぉ?」
クロク達は、お金なんか、持ってない。
竜樹は、キラリンと目を光らせた。
「クロク達は、これから、まともな大人になる為に、商会の人にお仕事貰って働いたりも、多分すると思うんだけど、そのお金は、きっと少しだと思うんだ。だって、まだちゃんと働いた事もないクロク達が、最初から、バリバリすごく働けるかな?お父さん達、言ってた事ない?見習い、ってのやってる子とかいない?最初は、見習いながら、少しのお金でだよね。•••でもそれじゃあ、いつまで経っても、皆のお家に、慰謝料が来ないじゃない?クロク達だって、自分が生きていくのにお金も必要だよ?」
ウンウン、お金ひつよう。
身に染みて分かっているらしき、平民の子供達である。今日はだって、出店で売り子?だってやったのだ。遊びながら、ちゃんと見てた。お父さんが働いて、お金を稼いでいたのを。
「だから俺は、思いました。半日、普通の暮らしや、普通の人たちのやり方を学んで、生きていく為に、商会で働く。もう半日は、クロク達が、仲間同士で力を合わせて、ミュージカル、っていう歌とお芝居を、練習して、謝罪公演したら良い、って。クロク達が、仲間で力を合わせれば、1人でやるより、力が出るかも?謝罪公演は、謝る、示談の話をした皆を招んで、精一杯に楽しい時間を過ごしてもらう。チケットも売って、それを慰謝料に充てる。•••そうしたら、おじさんがクロクの代わりにお金をぜーんぶ出して、ただ甘やかすより、ちゃんとお金稼ぐ、償いになりそうじゃない?」
「みゅーじかる?」
「げき?」
ハテナ?になってる子達に、見せる。スマホから、レテュ侍従が持ってきたタブレットに動画を移して、大きな画面で猫のミュージカル。
しなやか、夜のゴミ捨て場。野良達が、一匹一匹の猫達が、輝く、歌う、踊る、軽やかに。
〜♪
暫く画面に顔を集めて、見つめていた子供達は、歌になると身体を揺らしたり、キャッと鼻歌で合わせたり。ジィッと目は集中して、そう、良い物は子供でも分かるのだ。
にゃんこ!と嬉しそうなリビィ、銀髪の4歳女子に、ぴょんぴょん飛んで真似っこの男子達。
あー面白かった、と、ひとしきり見た後。
アノー少年、ポツンと。
「でもさぁ、クロクのにいちゃんたちは、ノラじゃないじゃん。かいねこになったじゃん。」
指をお鼻に、ちょんちょん当てて、コシコシしながら。
「なんか、ねこのみゅーじかる、よすぎて、あわなくね?」
ロニーは思った。
クロク達がやる前に、見本お手本のミュージカルを見せちゃって、それ以上に出来る訳もないのに。何考えてんだ、竜樹のオッサン!
ガキも何言い出してやがる!だったら、どうしろってんだよ!
本当、どうしろってんだよ•••。
しょんぼりと、頭を下げていたままのクロク達に、レテュ侍従は、椅子を持ってきて座らせ、テーブルにお茶を出した。
「良すぎて、合わないか。」
竜樹が、ん〜?とお膝のアノーと目を合わせて、面白そうに聞いた。
「ウン。それにさぁ、ノラをかいねこにすんの、たいへんなんだよ。おとなりの、ナルカおばちゃんが、ねこにえさやってかおうとしたときさぁ。ノミがいたから、あらおうとして、かゆかゆネコも、やなんじゃないっておもうのに、バカだよねぇ。」
おおあばれ!して、ひっかいて、とびだしてってね。でもエサたべには、くる。あらわれたの、おぼえてて、ちかづくと、フーッ!ていうんだよ!
アッハッハ、と笑う竜樹である。
「猫、大暴れか。確かに小暴れしたかな?ガルガルしてたかも?なぁロニー?」
知るか! プイ、と横向くロニー。クロク達は、ボスのロニーが、こんなに手のひらでコロコロされちゃう大人というのを、初めて見た。ほへ〜、としてしまうのだ。
「大事なお客様の、皆の意見は重要だなぁ。良すぎるんじゃあ、クロク達は、どういう劇にしよっか。ミュージカル、って歌と踊りとお芝居、猫だけど、ノラが、飼われたいなぁ、って話にする?」
キャキャ!とそこから、子供達が猫話を沢山教えてくれて。レテュ侍従、サッと画板と大きな紙、筆にインク。
渡された竜樹は、案外上手なイラスト含みで、サラサラ、と片っ端から書いてゆく。
「ノラのねこはさ、かわれたいとおもうんだよ!おうちに、すみたいじゃん!ごはん、たべたいじゃん!」
「えー、だけどさ、そとにでたがるよ、ウチのねこ。おとうちゃんが、じゆうをあいするんだ、ねこは!って。」
竜樹、徐に、ルル〜と歌い出す。
「俺は〜ノラ〜♪ノラは自由を愛するぜ〜♪ノラのプライドォ飼われたりなど、す、る、も、ん、かぁ〜♪」
ヤヤ〜♪と両手を広げて、わざとらしく。キャキャキャ〜!!と子供達、ノる。
「でもでもォ〜♪ほんとは、おウチがほしいヨォ〜♪」
「おデブなねこは、えさくれたらかわれるってゆうかもよ!」
「いろんなこ、いるー!」
「おウチがほしいこと、ノラで、ふふん、みたいなコとかぁ〜。」
「さっきの、だっこしてほしいよ〜♪のおうたは、かわれたいになるねぇ。」
「ごきんじょのネコは、いつもこねこのおとうさんが、ちがうんだって〜。そういう、すきもの、うっふんなネコもいる?」
あわわわわ、とその子のお父さんとお母さんが慌てている。ニヤニヤ笑ってしまうマルサ王弟をロテュス王子がペシ、と叩く。
「かわれたいけど、かわれたくない。なやんでさ、そしたら、かいぬしのおねえさんをすきな、らんぼうなやなおとこに、はこにつめこまれて、すてられちゃう!」
「はこに!つめられちゃう!」
魔道具の箱に詰められた子供達からの、反撃である。ロニー達に、猫になって箱に入れって!!
「何それ悪魔的に面白いじゃん。」
ムヒヒ、と笑う竜樹である。
結局。
野良猫のクロク達は、飼われたくて、飼われたくなくて、自由が好きで、でもお膝で抱っこしてほしくて。綺麗なお姉さんのお家でエサをもらったロニーは、ウチの子にならない?と撫でられ悩んで、仲間のソルに突き放される。俺は野良を貫くぜ!とソル。
エサがもらえればおウチの子になるよーと歌う猫、他にも、色んな家に回ってエサをもらう猫、皆で飼われたい飼われたくないと踊り歌う。
お姉さんは悪い男に狙われていて、ロニーは知って爪を立てる。箱に押し込められて、捨てられて、お家に帰りたい、お家の子になりたい〜♪と歌うロニー。微かな鳴き声に気付いて、それを助けてくれた気の良い男を連れて、ロニーはお姉さんの所へ。恋が始まる。
ロニーは飼われて、お姉さんのお膝で。自由がたまには恋しいけど〜俺は飼い猫、お家のねこ•••♪
ソルは、ケッ何だよと旅立つが、ちょっと羨ましそう。猫達はそれぞれご主人に会って、飼い猫になる•••。
「で、どうでしょう?」
ニコニコの竜樹に問われて、子供達。
「いいとおもう〜!!」
「いい〜!」
満場一致で、さんせーい!である。
それから、それをテレビで密着もするし。子供達の家には、竜樹とカスケード子爵家から、お詫びとクロク達の更生の経緯を見てもらう為に、テレビを贈ろうとなり。
アノー少年のお父さんは綿あめ屋だけど、お祭りじゃない時は建築業をやっていて、大道具に雇ってもらえたらとか。女の子のリビィのお父さんは仕立て屋で、衣装を担当とか。お母さんはクラージュ印の洗濯屋さんだから、何回か公演をやるかもしれない衣装を洗おう。
小道具、お花、カツラ、受付スタッフとして、諸々、諸々、お仕事も。
「音楽も演出も踊りも、テレビスタッフも若手に頼んで皆で白紙から作り上げましょう。劇場は•••音楽都市になるはずの、吟遊詩人ドゥアーの地元領地、エール子爵領に、ミュージカルって事で音楽繋がりで造っても良いのかな、なんて案を一つね。」
ロニーはもう、もう。
クロク達はもう、なす術もなく、そして、勝てっこない、と溜息だ。やるしかない。そうして、何故か聞いていて。嫌なだけの気分でもない。ハヤハヤする。早く動き出したい。明日からは、全てが変わる。
のかもしれないと、何故か思わせる。
「たつきおじちゃん、ナルカおばちゃんち、いま、こねこが4ひきいるんだけど、もらってくれない?すてるにすてられないしぃ〜こまったこまった、だれかもらって、ってナルカおばちゃんがさぁ。」
アノー少年、まだぶっ込む。
「じゃあ、新聞寮にはめんどりがいるから飼えないんで、クロク達のお家ができたら、貰おうかなぁ。猫の本物を見てたら、クロク達、演技も上手くなるかも?それに、大事に育てた宝物がどんなに大切か、分かる勉強にもなるかも。まだお乳飲んでるの?」
「うん、ふみふみ、チュッチュしてる!」
じゃあもう少し大きくなったら、貰うねぇ。
猫まで育てる事になり、クロク達には大仕事が待っている。
「皆さん、どうでしょうか。もし、もし、宜しければ、この竜樹の、示談の案に、お許しを願いたく•••。」
再び向き直り、子供達塗れになりながらも、伏した竜樹に、今度は親御さん達が、アワワワ、と慌てた。
ゴホン、と咳払い、アノーのお父さんが。
「竜樹様•••。私は、貴方様を、そのお力を、信じましょう。確かに、親のないクロク達に、ダメだと言っただけでは、何も分かってもらえない。次の犠牲者を出さないって事も、そして私達にも、ちゃんと得がある。クロクも誰かの子には違いないのに、こんな事になった。今は竜樹様の子です。成り行きを、見守らせて下さい。•••厚いご配慮、有り難く、受けたく思います。」
ウチも、私の家も、俺も、と口々に言ってくれる、そう、彼らも人の親。完全に許した訳ではないけれど、色々思う所はありながらも、未来を見据えて、クロク達に償いの道をくれた。
子供達は、キャ〜!と喜んで、摘んでいた夕飯を、さぁ、ちゃっちゃと食べちゃいなさい!ってお母さんやお父さんに捕まって、和やかに謝罪の場、夕飯時は流れて。
クロク達の胸を、何だかムムム、ムズムズさせるのだった。




