なかまはおやをてにいれた
ロニーは、くぐもった唸り声で、竜樹に一歩詰め寄って、そして第二騎士団員に引っ張り戻されてヨタついた。
「俺たちが、稼いだ金を上納してるって•••何で知ってるんだよ!」
「知ってるよ。ちょっとばかりこの間、アダルト本やビデオカセットの仕事を、発案した事でね。面倒見てやってる街の悪戯っ子が俺にもいまして。ガーティっていうんだけどさ、電話してクロク団の事、聞いてみたんだ。」
ガーティ。
街に屯する、店からみかじめ料なんかを取って、そこそこ悪かったガーティ。
そもそもは竜樹からアダルトの仕事を発案されて、悪達に、悪いとばかりは言いきれない仕事が回るようになったのが面白くなくて。
「俺たちの事、分かったように言いやがって!」と難癖甘え苛立ちかまってかまっての意気がり尖り。
街中にいた、アンファン!お仕事検証中!の女子チームに絡んだ事で、結局出張った竜樹の経験値に言い負けて、何というか、舎弟みたくなったのだ。
「俺って昔、ヤンチャでねえ。」と、竜樹の小さな頃、お寺の御手水に放り込まれていたお賽銭めいたお金を、盗んだ武勇伝。ドギャン!神にそんなこと!とショックで、悪でも負けた。
そして。「昔ワルでも今はちゃんとお父さん、がかっこいいんだよ。」と言いくるめられて、携帯電話を渡されて。ワルの目になり街の様子やなんかもちょくちょく竜樹に報告したり。
世間話もしたり、アドバイスを受けて、結局口ではブーブー言いながらも懐いて、ギリギリ悪じゃないよ、に軌道修正したりしてる。今でもかまってちゃんな、しょうもない憎めない若者である。
「ガーティ、知ってるぜ。子分のポワンと、何か今もフラフラしてっけど、悪い事からは足を洗ったんだって。何やってんのかと思ったら、アンタの情報屋をやってんのかよ!」
驚きにクロクの連中は、ざわ、ざわ、とした。
ギフトの御方様、なんて言うじゃんか。偉い人の仲間じゃんか。だけど。俺らみたいな街のぶらつき達と、話が通じてんのか!
むふ、と笑う竜樹は、ガーティを従えた親分かもしれないが、それはそれとして、ただの子供達のお父さんである。クロクの皆、得体が知れない、なんて事は、ないんだヨ?
「まぁ、そんな訳でして、クロクの皆が、結局悪い中でも割とどうしようもない、ヴァイスの連中に首根っこ掴まれてんのは、知っています。実働部隊はクロクだけど、テデ元団長に繋ぎをつけたのなんかは、ヴァイスだったりするんじゃないの?」
今まで。
悪い入り口でもだもだして、殺人や強盗など凶悪にはなりきれないでいた、抑制の効いていたクロク団。それはボスのロニーが、小心であり頭も良く、戻れない所に行きたくないと悪い大人達の中を必死に泳ぎ、抗っていたからでもある。
クロク団のソルなどは、ロニーに従って、仲間がいて、初めて心安く安寧を感じたほどだ。1人で場末娼婦の母親に憎まれ邪魔にされながら、寂しく捨て置いていかれたからこそ、ロニーに統率されてこぼれ落ちずに済んだ。ソルはロニーの言う事なら、何でもきく。
ヴァイスに指示を受け金を上納しながらも、距離を置いてきたが。今回の誘拐未遂事件では、結局、ムスティ老執事にも、ヴァイスにも。周りの勝手な大人に、上手く使われた羽目になった。
「••••••何でも分かんのかよ•••。」
「何でもは分かんないよ。ロニー、クロクが生きる道は、一つだけある。このまま、第二騎士団に連れて行かれてしまえば、誘拐未遂とはいえ、罪を償うために、牢屋に入って、何年か強制的にキツイ労働刑になったりするんだろうね。死んだりはしないと思うけど、犯罪者に混ざって、もっともっと今より、君たち若い者にも環境が悪くて、後戻りできなくなるんだろうと思う。」
むぐ、とロニーは唇を噛む。
諦念、恨みの気持ち、大人は勝手だ、だけど、どこにも文句を言う事が出来ない。
「•••クロクが、仲間が、生きる道って。アンタの舎弟になるって事かよ。」
それしか、ないなら。
仲間の、ためなら。
何か悔しいけど。
だけど、竜樹はサラッと言うのだ。
「舎弟というかねえ。養子にする、親になるよ、俺。」
「バカか!!?イテッ、イテェよ!」
ロニーの叫びに、第二騎士団のマシュ団員がガツンとゲンコツをくれた。
「ごろつきのお前らを、有難くもギフトの御方様が面倒見てくれようってんだぞ!俺たち第二騎士団はすぐにでもお前らを牢屋にぶち込んでも良いんだ!なのに、この温情を分からんか!」
ううぅ!と唸るロニーに、周りのクロクの少年達は、殴るなよ!とか身を捩って抗い始める。
マルサ王弟は、頬杖ついて、フーゥ、と半目でため息、舎弟で良いんじゃねぇの、と言いたいが、竜樹の考えに口出しはすまいよ。お茶菓子うめぇなー。
「ししょうのようし、たのしいよ!ロニー、ぼくとあそぼうよ!」
「エンリもあそぶでつ!」
ぽりぽり、クッキーを食べながら、飽きてきているニリヤとエンリちゃんだけど、ちゃんとお話聞いているんだゾ。
クラフティも、小さく手を上げて。
「ロニー。私、私も、一緒に。」
子供達に憐れみ?を受けて、渋い顔をしているロニーは、俯いて爪先を見た。靴が擦れて、底が破れている。見た目はまだ履けそうでも、尖った小石が、時々刺さって痛い。
痛いんだよな、と思う。
「まあ、まあ、まあ。マシュ団員、クロク達にも突然の事だろうしね。ねえ、ロニー。ボスなんだから、俺の言う事、良く考えて仲間と相談してみて。」
竜樹は落ち着いて、一口お茶を飲んで口を湿らせる。隣に座った、エルフのロテュス王子が、優しい温かな顔をして、竜樹の手に、手を重ねて握った。ウンウン、クロク達、きっと竜樹様の子になれば、悪くならないよと思ったのだ。
「クロクは、ジェム達と違って、子供と大人の途中で、とても繊細な時期にあると思う。身体を動かして働けるだろうけど、事の善悪、何をして良くて、何をしたら悪いかの基準が、きっとワル寄りだろう。一人立ちするには、もっと基本的な事を注いでやってからになる。だけど、思春期で、親がウゼーって頃だろうね。1人になりたい事もあれば、仲間でつるんでいたくって、勝手な大人に振り回されて信用もないだろう。•••そして、正直に言うけど、新聞寮に連れて行ったら、多分、やっと癒されてきた小ちゃい子達に、真似っこワルで時期的に尖ってる影響が、多少あるだろうよね。」
竜樹はお父さんである。
可哀想だから、って簡単な同情で、クロクもジェム達も、安易に受けてはやれない。けれど見捨てないのだから、子供達、皆に良いように、親として現実的に判断しないといけないのだ。
「俺がしようとしている事はね。クロクはまず、俺の子にする。後見として、クロク達がやった悪い事の責任を、俺が負います。誘拐未遂の子達の親御さんに、クロク達と一緒に謝りに行って、俺が責任を持って面倒見ますから、どうか示談にして下さい、って頭を下げて頼みます。」
あく、とロニー達の口が開いた。
「クロク達は、新聞寮じゃなくて、サテリットのクレールじいちゃんに、託します。安めな宿屋でも借り上げてもらって、寮にする。3食、抜かずに規則正しく食べられて、安心する寝床があって。サテリット商会からの仕事を、大人達に混じって怒られたり褒められたりしながら。悪い事をしなくても、生きていくやり方を学んでもらいます。」
事後承諾だけど、クレールじいちゃんなら、人生経験も豊富だし、人手もあるしで、受けてくれるだろう。
「悪いヴァイスの連中には、もうクロクには手を出してくれるな、俺が身柄を引き受けて育てる、って仁義を通しに行きます。」
ニッコリ笑った。
ロニーの血の気がさあっと下がり、ファ、と何か言いかけて唾を飲み込んだ。
「俺も行くぜ。ヴァイスのとこには。」
マルサ王弟、ここは引けない。
「あーうん、お願いするね。まぁー、きっとごねられると思うんだけど、少し儲かる話と引き換えで、何とかならないかなぁ。」
「•••こ、殺されるぞ、アンタ。」
震える。そういう、ヤバいヤツらなのだ。ギフトだからと、自分らが上手く使っていたクロク達を、横から掻っ攫われて、大人しく諦めるようなヤツじゃない。
ヤクザの事務所に、属するチンピラを、のほほんと貰い受けに行くようなものなのだ。ギフトと王弟が揃って。
「うーん、うーん。まあいざとなれば、身体を張ってでもー。」
「竜樹が張るなよ。護衛に任せろっつの。」
マルサはそう言うけれど。
「怖いけど、行くよ。何とかする。俺はお父さんなんだからね。それで、ロニー達、どうする?俺の子になるかい?」
相談させてあげて、と拘束している第二騎士団に頼んで、一つ所に集めさせ、クロクはひそひそ。その間も竜樹は喋り続ける。
「サテリット商会の仕事は半日にして、午後はクロク達で集まってさ。劇の練習をやらせたいんだよねえ。」
「はぁ!?」
相談になんかなんないだろ!
何言い出すんだ!
「•••だってさ、誘拐未遂の子供達は、やな思いしただけで、損ばかりじゃない。謝罪の気持ちを形に、君たち一生懸命に、何か劇でもやって、謝罪公演しなよ。素人だってのは分かってるんだ。手助けはするよ。•••だけど、だけどさ。精一杯の気持ちを、自分たちが一から作って、表現する事も、学んでみなさいよ。•••それにね、劇団を作って、劇団員って、仲間で何かやるって、後々に誰かが病気で亡くなろうとも、録音した声だけで未来の劇に参加したり、一人立ちした後も何年か後に集まって何周年、って記念公演をやれたり、いつまでもいつまでも、良い距離で仲間でいられるんだよ。」
例え、家庭を作っても。
仕事は別の事をしていても。
「本当の仲間が集まれる、そんな仕組みを、まともにやったって、作れるんだよ、クロクの皆。」
どうする、とは、クロク達は、ボスのロニーに聞かなかった。けれど、つい、と視線を、躊躇いながらもロニーに集中させた。
ほんとうのなかま
いつまでも、なかま
俯いたロニーは、ギュッと目を瞑った。そうして、喉が閉まるように思い、飛び降りるくらいの気持ちで。
「•••ギフトのオッサン。俺たちの、お、親に、なってくれ•••さい。」
「ギフトの御方様、竜樹様だっつの。」
第二騎士団のマシュ団員が、しょうがねえなあ、って顔をしながらも口端ニヤけた。小突かれたロニーの頬は真っ赤で、目も潤んでいた。
「良いよ。今からクロクの皆は俺の子ね。よろしく、息子達。」




