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最後のいたずら

「かあさま〜!」

ニリヤが何とも言えない甘え声を出して、足元の消えたその女性に、縋りついた。

ぎゅう、と抱きしめて、また離して顔を覗き込んで。そうして、ニリヤの手を取り、ぎゅぎゅっ、と握った。


すっ、と手を差し出し、オランネージュの手も取る。オランネージュも、大人しく、手を差し出すと、女性は導いてニリヤの手に重ねた。コクンと喉を震わせたネクターの手も、同じように取り、3人の手を重ね合わせて、ぎゅっぎゅとする。


「なかよし、ね!」

ニリヤが嬉しそうに言うと、ニコーッと笑ったリュビ妃は、そうリュビ妃は、3人をまとめて抱きしめた。


呆然と見守っていた大人達の中から、ふと竜樹に目をやり、生きている人ではない移動の仕方、すすーっと平行移動して、竜樹の手も握った。

ひんやりして、湿った、微かな感触。


ぎゅー、と両手で握ると、真剣に祈りを捧げる顔をして、目をつむり、どうか、どうかという風に頭を下げる。

竜樹には分かった。これは、ニリヤをどうか頼むと言っているのだと。

スーッ、また竜樹も導かれ、王子達3人の元へと連れられた。

ぎゅうと握った竜樹の手は、3人の王子に重ねられ、リュビ妃の切なる想いは伝えられる。どうか3人、仲良く、そしてそれを見守って。


竜樹はリュビを見つめて、うん、と頷く。分かったよ、任せてくれ。

リュビ妃は、また嬉しそうに笑った。


「リュビ•••!」


王様が声を震わせて、リュビ妃を呼んだ。

そちらへ振り向いたリュビ妃のお腹の辺りに、ポッ、と小さい光がまとわりつく。くるくると回るそれは、王子達や竜樹の周りも、くるーっと一周すると、王様の所へ行き、しばし胸のところで止まっていたが、またリュビ妃の側に戻った。


「リュビ、そなた•••!」


王様に、微笑んでリュビ妃はお辞儀をする。多分、お別れの挨拶なのだと、誰にも分かった。王様は、一歩、二歩、とリュビ妃に近づく。生きていない、頼りない感触を抱きしめた、王様の身体も、腕も、震えていた。


そうしていて、すっと離れると、王妃に向かって、頼みますといった顔でリュビ妃は頭を下げた。

王妃もまた、真剣な顔をして、リュビ妃にコクリと頷いた。


そこから。

リュビ妃は、くわっ、と顔を苦悶の表情に悶えさせ、恨めしく唇を噛み。

キャナリ側妃の方へ、スーッと手を上げて抱え込むように、ぞわわわわっと襲いかかっていった。

 

「 ッヒャーッ、ヤーッ!!! 」


ふうっ パタン。


叫び声を上げたキャナリ側妃は、失神して椅子に倒れた。

それを突き抜けて、後ろのオッターに、リュビ妃は手を伸ばす。首に手を、締め付けるようにぎゅうぎゅうとすると、オッターは、真っ赤な顔をして、グエエと喉から声を出した。


「ッグエ、何を平民風情が!ヒッ、は、離しなさい!!!私はただ、堕胎薬を手配しただけよ!あなたが勝手に死んだんじゃない!平民の穢らわしい血など、これ以上増えない方が、キャナリ様にも、グエエ!」


「お前•••!!」


王様が、ふおっと怒りで身体を震わせて、オッターを見下した。


スゥーッ、灯がついて、ふわっと、現れた時と同じように、リュビ妃は、周りをめぐる小さな光と共に、そして今度は上へ、天上へと消えていった。



椅子に座り込み、けほけほ、咳き込んでいたオッターは、鉄の顔を今度は、サッと青ざめさせて周りを見た。

「な、なにを、私は何も•••!」

「言い逃れはきかぬ!ミランが先程のお前の言葉を、映像に収めている!証拠は如何様にも出てこよう!お前がリュビに堕胎薬を飲ませたのだな!•••そしてリュビは、死んだ!」

この者を捕らえよ!


王の命令に、あっという間に兵達がオッターを拘束すると、私は何も、とか、あの女が、とか叫ぶのを無視して、ぐいぐいと連れて行った。


「この件では、キャナリも無罪放免とはいくまいよ。キャナリが指示したか、どうかはわからぬが、上に立つ者の責任がある。東の離宮に蟄居させよ!一歩たりとも外へ出すな!」

「はっ!」

女性騎士が駆け寄り、グッタリと倒れ込んだキャナリ側妃を抱え上げて連れ去った。


王様は、ふーっ、ふーっ、と息をしていたが、急にがくりと足を折って、ヨロヨロと椅子に戻り、どさりと座った。


「竜樹殿•••。」

「はい、何でしょう。」


「ネクターの事は、竜樹殿に頼みたい。リュビの切なる願い、3人の王子で仲良く育って欲しいという、その願いを、叶えてやりたい。侍女や侍従、その他必要な人材は、どのようにも使ってくれ。信用できる者を、ミラン、見繕ってくれるな。」

「お任せください。」

「承ります。リュビ妃からも、直々にお願いされましたし、元よりそのつもりですよ。」


ぱっ ひらりん。


「おはなだ。」


真っ赤で、大きな花が、一輪、竜樹の顔の横で咲いて、ひらひらと落ちた。

ニリヤがニコニコと拾う。


神様からの、いいね?


が何故ここで。


ぶるるる。

スマホが震える。

竜樹がスマホを見ると、「150いいね使いました。」「5000いいね、追加されました。」とのメッセージ。

ピロリン、と神々の庭にメッセージが届き、確認する。


ランセ

『やあ 恐怖の映画会

なかなか すごかった。

リュビが 顕現するのに

150いいね 使ったよ。

ちょっと お借りしました

だって。』


ルヴァンシュ

『我は 復讐の女神 ルヴァンシュ。

なかなか いい 復讐であったな!

我は 正しさと 真実を

明らかにする 復讐を 尊ぶ。

5000いいね 送っておいた。

これからも 精進せよ。』


竜樹

『いいね、ありがとうございます。

ちょこちょこ使ってたから、

嬉しいです。

どうぞよろしくお願いします。』


ランセ

『リュビは 借りた いいね

すぐ返せちゃったね。

ジャパニーズホラー? みて

やってみたい! って

言われたんだよ。

普通 亡くなった者は

現れる事が できないけど

いいね 前借りするって

いうから 力をかしちゃった。』


竜樹

『そうでしたか。』


ランセ

『上手いこと 編集して

これも 放送すると いいよ。

テレビ 放送 いつも

楽しみにしてるよ。

では またね。』


メッセージアプリを閉じて、竜樹は目をつむった。

そうして。


「ッハハハ!ニリヤ、お前の母様は、やっぱり面白い人だな!」


んむ?とわからない顔をしている王子3人と、そして、はたとこちらを見つめる王様に、メッセージの内容を見せてやる。どれどれ、と顔を寄せて見るメンバーの中に、王妃様も入っていた。


「ッは、ワハハハ!そうだ、リュビは、こんな風に、いたずら好きであったよ!ハハハ、ハハ、ハ•••。」

笑いながら、王様は涙を拭った。

恐怖の映画会は、妻と、そして、まだ見ぬ子との、お別れ会だった。

王妃様が、そっと寄り添っていた。

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