制圧せり?カスケード子爵邸
サーカスでは、公演が始まっていたけれど。
そそそと竜樹とマルサ、ロテュス王子が客席に向かえば、楽しんでいる気付きもしない夢中な取材っ子達。そしてそれを見守り同じく手を叩いて笑ったエタニテ母ちゃん、メール神様の眷属な白熊さんは、ふっ、と顔を横に向ける。
気配に気付いたのだ、観客に邪魔しないよう、経緯を聞きに転移で来た竜樹とマルサ、ロテュス王子に。
そして座席の横でこそこそしゃがむ3人に、顔を寄せ、拍手しながらニコニコ、歓声パチパチに負けず大きな声で。
「エンリ、ニリヤ殿下のファンの横入り女子と喧嘩だったダワヨ。女として引けない所、仕方ないダワ。怒らないであげて。そして2人、ううん、プリッカも、大丈夫ダワ!母ちゃには、悪い事にならないって、分かるダワヨ。むしろ、上手くいく事が、あるダワ。」
ポンポン、と。心配に眉を寄せて中腰、座席に寄った竜樹の肩を叩いて、安心を伝えた。
「上手くいく?具体的には、どんな事が?」
竜樹は問うたのだが。だって、分からないじゃ、安心は遠い。
「はっきり何があるかは、母ちゃにも分からないダワ。けど、バラバラな出来事が、それぞれ動いて、そうして上手く繋がるダワヨ。それには、皆が、皆、思うように、できる事をできるだけして、動くダワ。」
子供達は、テレビの取材、サーカスを楽しむ事。
ニリヤ殿下、エンリ、プリッカは、エタニテ母ちゃんには気配でここから運ばれた事くらいしか分からないけれど、サーカスに戻らず、その場所で出来事に対処する事。
第二騎士団は、取材っ子やニリヤ達を護り、攫われたかもしれない子供達を、助けようと任務を遂行する事。
そして、竜樹とマルサ王弟、ロテュス王子は、分からない事と事を繋げるために、人に話を聞いて、気がかりな所へ飛ぶ事。
「母ちゃは、子供達をみていて、サーカスを一緒に楽しんで、お祭りの楽しみを守ってるダワ。不安に思わずに、いつも通り胸に大っきく子供達を入れてあげたら、竜樹とーさは大丈夫ダワヨ!」
パチンー⭐︎ とウインクも貰って。
うん、ニリヤ、エンリちゃん。
無事なら良いんだ。怒ったりしないから、また、あの舌ったらずな喋りを、ニリヤとの、微笑ましいキャワキャワ仲良しを、見せておくれよ。
プリッカ少年も、きっと心配して2人に付いてくれたんだね。どうか無事で。
納得して客席を下がり始めた竜樹の腕を、グッと掴んだ者がいる。
虎侍女スープルである。
彼女は、喧嘩エンリを止められずワタワタと探して、すぐにバックヤードから第二騎士団員に排除されてしまった。エタニテ母ちゃんに、大人しくアルノワおにーたに付いてれば大丈夫ダワ、と慰められて、今もハラハラ、エンリを心配、サーカスを楽しめずにハンカチを揉んでいた所なのだ。
「竜樹様•••エンリ様は、エンリ様は、大丈夫でしょうか!?エタニテ様は、大丈夫って言うんですけど、どこに行かれたか、第二騎士団の人達に聞いても、静かにしているようにって、厳しく言われてしまって•••!」
涙ぐむスープルは、仕方がない、だってエンリ大事な、お世話に付いてなきゃいけない虎侍女なのだもの。ワイルドウルフのお家から、よくよく頼まれたお嬢様だのに、あのクリクリ柔らか髪の、可愛いエンリ様が、ここに、いないだなんて。
ぐし、ぐす、と涙、目の赤いスープル。竜樹は気の毒に思った。背中を叩いてやり。
「俺たちに任せて。どうなってるのか、詳しくは後で話します。事件があって動いてるんだけど、エタニテ母ちゃんが大丈夫って言うんだ、スープルさんは、子供達と待ってて。皆を心配にさせないように、泣かないで、気を強く持って、ふりでいいから、大丈夫だよーって顔をしてて。」
「わ、分かりました。竜樹様、どうかどうか、エンリ様をよろしくお願いします•••。」
サーカスに夢中な子供達と、泰然たるエタニテ母ちゃんと、虎侍女スープルと。起こった出来事への反応は、それぞれ受け止め方が立場で違う。スープルは訳も分からず不安だろうが、頑張って欲しい。
さて、神の眷属の声である。気を取り直して、先ずは護衛に残っていた第二騎士団員達を、サーカステントの外に1人連れ出して、ちょろ、と話を聞いた。大体サーカスで何があったのかは、神に属するお言葉の、色々端折ったものでなく、事実の詳細を客観的に耳に入れた。
ニリヤ、何で箱の蓋閉めちゃったカナァ。
トゥルルルル。
『マルサ王弟殿下!制圧しました!制圧というか、何というか•••ともかく、ニリヤ殿下方も我々も、誰も彼も無事です。竜樹様といらして下さい、話を聞いて頂きたく。』
おうよ、飛ぶぜ。
顔を見合わせ、うん、と一つ。
竜樹とマルサ王弟と、エルフのロテュス王子は、転移でニリヤの位置を辿って、びゅんと飛んだ。
「ニリヤ!エンリちゃん!」
「あ!ししょう!きてくれた〜!」
ニコニコしてる。ぴょんぴょん飛んで、ソファに座っていたのに立ち上がって、うわっ、と駆け寄り。竜樹はしゃがんで膝を折り、抱き合って。ぱふぱふと、頭から頸のくるんとなった毛を撫でて。
「心配したよ、ニリヤ。顔見せて。無事だった、よかった、良かった!」
ほっぺをつるり。いつも通り、くふくふと嬉しそうだ。
「箱の中、窮屈じゃなかったかい?それで•••えっと、エンリちゃんは?」
ソファの後ろで控えて、ホッとしているらしいルディが応える。
「粗相のお着替えです。カスケード子爵家に反抗の意思はないとみて、侍女に任せております。一応、第二騎士団からも団員を付けておりますので、ご心配なく。」
そっか、と応えて、ふ、と落ち着いて巡らす。
応接室である。
ソファに、ぽちゃ、なほっぺの男の子。
それから、びっくり顔、宵闇色の髪の、小さな男の子。
焼き菓子にお茶が出ている。
にこやかな老執事?が、部屋の隅に立って、手を前に組み、こちらを見ている。
「あ、あの。」
ぽちゃ、な男の子が、ニリヤと竜樹、ニッと笑ってニリヤの頭をポンポンしているマルサ王弟、ニコニコのロテュス王子を、ポポッと赤い顔で見上げている。
「に、ニリヤ殿下!ギ、ギフトの•••!」
「うん、クラフティ!ししょうは、ギフトのおんかたさま、だよ。あとねぇ、マルサおじさまと、ロテュスでんか。」
ししょう、クラフティとおともだち、なった!
キャ!と両手を上げて喜ぶニリヤの、背中をポンと押して。
「クラフティ君?カスケード子爵家の子かな?初めまして、竜樹って言います。ギフトのおじさんだよ。」
ソファに寄って、手を差し出せば、ふわぁ!と嬉しそうに小さな手を竜樹の手に乗せて。ギュ、ギュ。
「は、はじめまして!私、カスケード子爵家のクラフティといいます!うわぁ!テレビで見る人、たくさん!あ、あ、マルサ王弟殿下、初めまして!ロテュス王子殿下、初めまして!」
キョロキョロ、キラキラした瞳のクラフティは、素直に、そしてはやはやと焦って挨拶をした。
「おう、よろしくな、クラフティ。」
「初めまして、クラフティ君。」
「えっと、えっと、みなさん、座って、どうぞ、ムスティお茶をいれてさしあげて!あの、あの、どうか。」
「落ち着いて、クラフティ。俺たちは、お話を聞きに来たんだ。座るけれど、まずさ、子供達を攫った話はどうなったのか。話の分かる大人はいるかな?クラフティ、えーと、ムスティ執事?」
「はい、ギフトの御方様。攫われた子供達は、おりませんよ。そのお話を、致しましょう。第二騎士団が、今、子供を箱に詰めたクロク少年団をとっちめてますが。彼らが実行犯ですから、クラフティ坊ちゃまの意向を汲んで、指示を致しました私と、クロクのメンバーと、魔道具職人のシュテルと、第二騎士団と、ニリヤ殿下方も、全ての関係者を集めて、貴方様に。」
一本、筋を通したお話を。
海千山千。
何を企んでるのか、ムスティ執事。
ニリヤの護衛のルディは、胡散臭いなぁというジト目で彼を見たが、確かに全員を集めて話に整合性を求めて突き合わせれば、きっと。
このギフトの竜樹様は、良い考えを出してくれようから。
「う〜ん。名探偵、皆を集めてさてと言い、ってね。俺、探偵じゃないけど、確かに全員集めれば話が早そうです。ムスティ執事、ここの責任者は?」
「本当なら当主代理の、クラフティ坊ちゃまの叔父様であるムラング様でしょうが。」
ニコニコ笑っているが、何となく棘を感じる高等テクニックである。ムスティ執事は、ムラング様に、思う所があるらしい。
「ムラング様は、お祭りだっていうのに可愛い甥っ子を置いて、お仕事でおりませんで。私共は、次代の当主、クラフティ坊ちゃまの命を受け、坊ちゃまに良いように何事も動かさせていただきます。」
坊ちゃま、とムスティ執事が促す。
コクン、とクラフティは頷き。
「竜樹さま。私の家は、ムラングおじさまと、私しか家族がいないのです。私と、ムスティとで、せいいっぱいお話しますから、聞いてくださいませんか?」
「分かりました。では•••。」
と、話がまとまりかけた所で。
宵闇色髪の少年が、ふらふら、ふら、と夢見る瞳で、竜樹へと近づき。
バフン!ぼむ!
宵闇蛇に変化!
しゅるるる!と足から辿って、うわ、とタタラを踏む竜樹の首まで辿り着き、くるんと絡みついた。
「わっ、わわ!!」
『すごい!凄いこの人、夜闇のオプスキュリテ神様のお力、すごく感じちゃう!あったか、あったか、癒される、ほこほこするぅ!』
蛇の尻尾、くんくんと振られて、脱皮の服がフニャとソファに落ちた。
「プリッカ、ししょう、よるやみのおちから、かんじちゃうの?おっきくなれる、かなぁ?ヤッタネ!!」
ニリヤ、ばんざーい。
ドバン!とドアが開く。
「おきがえしたでつ!おズボン!かこいいしんし、エンリかこいいでつか?」
バーン、とツナギを着替えて、少年のシャツとズボン、赤いおリボンを襟元に蝶結びなエンリちゃん。
少年めいて凛々しくて、チマっと可愛いけど。
今じゃないだろ。
「ぼくとおなじ、おズボンだね!エンリちゃん!かっこいい!」
「くふ!わーいでつ!」
うん、2人はいつも通りだね。
「セ、セツメイを求めます•••。」
「だな。ムスティ、頼むぜ。」
ロテュス殿下、面白そうな事になってきたな、って顔しないの。
「はい、では、ここでは少し手狭ですから、食堂へ参りましょう。エンリ嬢、とってもカッコよくて素敵でらっしゃいますよ。」
「うん、エンリちゃん。私のお古だけど、気に入ったらもっていってね。」
クラフティとムスティ執事は、寄り添って主従、悪い事など全く考えてもない和やかな態度で。
「うん、クラフティ!きにいったでつ!」
ニコパッ、なエンリちゃんが懐いているし、エタニテ母ちゃんが言うように。悪いようには、ならないんだろう。
『あぁ•••うっとり。ポカポカ。』
この蛇さんも、きっと悪い子じゃない。
竜樹は、首元の、ひんやりすべすべした鱗を撫でると、はふ、と一つ、息を吐いた。
世間では3連休ですね!
私の休日は土曜日だけなのですが、せっかくなので、3連休更新しますね。
お休みの日って、見て下さる方も案外数がいかなかったりして、皆ちゃんと休んでるのかな、それとも休日ならではのまったりや用事とか?って思ったりもしますが、読んで下さる方がいたら嬉しいので。
良き休日を!




